著者
長谷川 悠乃 松嵜 くみ子
出版者
跡見学園女子大学
雑誌
跡見学園女子大学文学部臨床心理学科紀要 (ISSN:21877343)
巻号頁・発行日
no.1, pp.85-105, 2013-03

本研究では,社会変動性のない,主観的な自分の認識する性別が他者の認識する社会的な自分の性別と一致するという感覚をジェンダー・アイデンティティとして捉えるジェンダー・アイデンティティ尺度(以後,GIS ; 佐々木,2007)を用い,性別の3要素(心の性別・社会的な性別・身体の性別)という観点から,ジェンダー・アイデンティティと自己肯定意識の状態との関連を検討した。ジェンダー・アイデンティティは自己概念の1つと考えられる。自己概念の形成には,他者からの評価や承認による気づきが影響要因と示唆される。多くの人は生まれたときに割り当てられた性別を疑いなく自分の性別と認識するが,生まれたときに割り当てられた性別に疑問を抱く人もいる。彼らはトランスジェンダーと呼ばれ,本研究で取り上げる性別の3要素は一致していないと考えられる。マイノリティの自尊心は,低い場合と高い場合が考えられるため,トランスジェンダーの自己肯定意識の状態を検討した。 性別の3要素が一致していると考えられる大学生(一般群:168名)と一致していないと考えられるトランスジェンダー(TG群:10名)を対象に質問紙調査を行い,比較検討した。使用尺度は,GIS,自己肯定意識尺度(平石,1990)である。 ジェンダー・アイデンティティの感覚は,総合的に一般群のほうがトランスジェンダー群(TG群)より高いことが示された。しかし,自己肯定意識は(特に,自己を肯定的に捉えることについて),TG群が有意に高い得点を示した部分が明らかになった。 総合的な心の性別の状態が影響を及ぼしているのではなく,(過去の心の性別の状態は関係なく)現在の心の性別の状態が安定していることが影響していることが推察された。

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