- 著者
-
吉村 浩一
- 出版者
- 法政大学文学部
- 雑誌
- 法政大学文学部紀要 = Bulletin of Faculty of Letters, Hosei University (ISSN:04412486)
- 巻号頁・発行日
- no.77, pp.63-75, 2018
第1章では,実写映画の動きの知覚をめぐる心理主義から物理レベルにまで広がるいくつかの説明理論を紹介し,現時点では定説を得るに至っていないことを指摘した。ただし,毎秒16枚以上でわずかずつ変化する静止画を変化させて提示する実写映画は滑らかな動きとして知覚されることに異論を唱えるものはいない。後半では,それを踏まえて,アニメーションの動きは実写映画の動きとは性質が異なることを主張した。実写映画とさまざまなタイプのアニメーションの動きの違いを捉えるには,1970年にロボット工学者森政弘が提案した「不気味の谷」の図式を用いることで見通しが得られる。毎秒24コマの画像シークエンス(1コマ打ち)で構成される実写映画を,アニメーションと同様に2コマ打ちや3コマ打ちに変えると,動きの劣化が明確になってしまうのは「不気味の谷」に落ちるためである。それに対し,2Dセル・アニメーションでは,1コマ打ちと2・3コマ打ちのあいだに「不気味の谷」が存在しないため,動きの劣化はほとんど感じられない。