- 著者
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小木田 敏彦
- 出版者
- 拓殖大学教職課程運営委員会
- 雑誌
- 拓殖大学教職課程年報 = Annual report on teacher-training course in Takushoku University (ISSN:24344249)
- 巻号頁・発行日
- no.1, pp.61-76, 2018-10-20
欧米が「マルサス的制約」を脱し、「高賃金経済」を実現したのに対して、日本は「低賃金経済」に甘んじていた。この結果、双方で独自の「風土」が生まれた。戦後の所得倍増計画により、日本経済は「低賃金経済」から「高賃金経済」へと転換したが、この転換には地域差があったため、歴史地理学は「裏日本」論を誕生させた。しかし、「高賃金経済」への全国的な転換により「風土」も大きく様変わりした。「低賃金経済」の「風土」の下、日本では「脱落や落伍」を強調する社会ダーウィニズムの物語が浸透した。このため、環境決定論に対する批判は気候的要因を説明因子にしたことのみに向けられ、被説明因子である植民地主義的な空間認識という本質的な問題を共有していた。また、計量地理学的な「空間的拡散」論も「風土」を考察の対象外としつつ、植民地主義的な空間認識を受け継いでいた。「脱落や落伍」という社会ダーウィニズムの物語により、日本の地理学では環境可能論が自然的優位性の議論に矮小化され、自然への働きかけの中で「風土」が形成されることも忘却されるに至った。そして、「裏日本」論も「脱落や落伍」の物語を踏襲することとなった。しかし、新たな「風土」の誕生とともに、「脱落や落伍」の物語は既に現実味を失っている。このため、新たな「裏日本」論が待望されている。