著者
須磨 一彦
出版者
中央大学人文科学研究所
雑誌
人文研紀要 (ISSN:02873877)
巻号頁・発行日
no.88, pp.279-308, 2017

イタリア人器楽作曲家として、死後は名前も作品も音楽史から消滅してしまうという宿命の代表者に甘んじていたボッケリーニも、スペイン時代については比較的早期に生活の実態が明らかにされたものの、イタリア時代の青年期については同国人の研究が進む今世紀初めまで白紙状態だった。しかし、伝記的な流れはここに要約できないので本文に譲り、第二の問題として、青年期の終わりごろに作曲されて彼の作品として最も親しまれたチェロコンチェルトG 482が、実はドイツ人グリュッツマッハーによる一九〜二〇世紀転換ころの編曲だったということが判明して、ボッケリーニへの音楽熱はどうなったであろうか。譜面を手にしがたい一般愛好家の一人として、譜面を対比してこの曲の編曲による虚構を実感したいというのが、この稿を起こすことになったそもそもの動機である。

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