著者
鈴木 尚子
出版者
徳島大学大学開放実践センター
雑誌
徳島大学大学開放実践センター紀要 (ISSN:09158685)
巻号頁・発行日
vol.28, pp.1-23, 2019-03

本稿は,米国イリノイ州にある公共図書館地区の一つが介護施設で実施している認知症高齢者を主たる対象にした教育プログラムを取り上げ,現地調査及び資料分析を通じてその特徴と課題を明らかにすることを目的とする。米国では,今後数十年間に急増する高齢者を見据え,様々な分野において高齢化に関わる議論や取組が存在する。とりわけ認知症の問題は,当事者だけでなく,それにまつわる社会コストや介護者への負担の大きさ等から深刻な影響が懸念されており,図書館もその対策に積極的に関わっている。米国の公共図書館の中には,認知症者の症状に見合った図書館資料を慎重に吟味し,それらを効果的に活用した教育プログラムの提供により,認知症高齢者の認知機能や社交性,介護者との関係性,介護者の認知症者に対する意識等に肯定的変容をもたらしうる事例があることが判明した。今後の課題として,より良い成果に向けたプログラム内容・方法の再検討,実施者の持つべき専門性に関する熟慮,認知症者にとっての学習及び図書館資料の持つ意味の概念整理と学術的追究,図書館の独自性と本事業に関わる意義の整理等があることが抽出された。米国よりはるかに高齢化の進行する我が国では,既に図書館内で認知症をめぐる問題が顕在化しており,米国のようにきめ細かなプログラムの開発やその実践は容易ではない。とはいえ,図書館資料の注意深い吟味とその効果的活用,認知症事業へのボランティアの積極的活用等,対応が考えられ得るものもある。諸外国の事例にも学びながら,多様な人々を包摂する社会の実現に向け,図書館の持つ潜在機能をより精緻に追究する姿勢が望まれる。

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