著者
雪村 まゆみ
出版者
関西大学社会学部
雑誌
関西大学社会学部紀要 = Bulletin of the Faculty of Sociology, Kansai University (ISSN:02876817)
巻号頁・発行日
vol.51, no.2, pp.1-15, 2020-03

近代国家成立とともに、各国の文化的生産物は、文化財として国内法あるいは慣習によって保護されてきた。本稿では、世界遺産条約といった国際的な文化財保護制度の枠組みが浸透するなかで、それらがいかに変化するのか、また、新たな批准国の参画は、世界遺産条約にいかなるインパクトをもたらすのか、という問題について考察することを目的とする。そのために、まず、2節では、日本が世界遺産条約に批准するプロセスについて、国会議事録等を資料として考察する。次に、3項では、日本が世界遺産条約に批准してすぐに開催された「木造建築」のオーセンティシティを議論する「奈良会議」に至る経緯と、そこで議論された文化財のオーセンティシティの解釈について考察する。また、4項では広島の原爆ドームが世界遺産に登録されるプロセスを分析し、日本国内の文化財保護行政の変更点を示す。さいごに第5項では旧閑谷学校の世界遺産登録運動のプロセスを分析することで、戦略的に文化財のカテゴリー変更が推し進められる実態を明らかにする。以上のことより、国際的な文化財保護の制度化は、他者の文化との交流を促すため、不可避的に各文化の価値基準の変化を引き起こすことが明らかとなった。本稿は、2018年度-2019年度科学研究費助成事業・研究活動スタート支援「世界遺産制度が地域の文化財保護におよぼす影響」(研究代表者:雪村まゆみ、課題番号 : 19K20933)による研究成果の一部である。

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