著者
小木田 敏彦
出版者
拓殖大学教職課程運営委員会
雑誌
拓殖大学教職課程年報 = Annual report on teacher-training course in Takushoku University (ISSN:24344249)
巻号頁・発行日
no.2, pp.59-73, 2019-10-20

アメリカの文化人類学者クリフォード・ギアツは、自身の代表的著作のひとつである『インボリューション』の冒頭において、地理学の方法論批判を行っている。批判の矛先は環境決定論や環境可能論のみならず、経済立地論にも及んでおり、その日的は自らが「生態系」と呼ぶ独自の社会システム論的な分析の優位性を論証することにあった。このため、特に環境決定論批判に関しては、日本の人文地理学の見解と大きな隔たりがあった。他方で、フランスの人文地理学者オギュスタン・ベルクは、独自の風土論により環境可能論の可能性を押し広げてきた。ベルク風土論の核心部分は「通態性」という概念にあり、自然と文化、客観と主観、個人と社会という3点における二項対立図式を解体しようとするものであった。この観点から見た場合、ギアツのインボリューション論は近代化論のイデオロギーにより、主観と客観、個人と社会の「通態性」に欠けていた。ギアツとベルクの唯一の接点は自然と文化という二項対立図式における「通態性」にあり、この「通態性」はジャワ島(インドネシア)における棚田の風景美の産物であった。「インボリューション」という概念は、もともと審芙的な文化現象を分析するための概念であった。したがって、この概念を「伝統一近代」という近代化論的な二項対立図式から解放することで、ギアツとベルクの間にある垣根を取り払うことが可能となる。

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