- 著者
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飯島 滋明
- 出版者
- 名古屋学院大学総合研究所
- 雑誌
- 名古屋学院大学論集. 社会科学篇 = Journal of Nagoya Gakuin University (ISSN:03850048)
- 巻号頁・発行日
- vol.57, no.2, pp.1-22, 2020
新型コロナウイルス対策として,安倍首相などの自民党政治家たちは憲法改正の必要性を主張する。しかしドイツやフランスなどでは憲法上の緊急事態条項を発動せず,法律などでコロナ感染に対応している。新型コロナウイルス対応のために憲法改正は必要ない。「憲法改正による緊急事態条項の導入が必要」というのであれば,憲法を改正しなければ対応できないことは何なのか,具体例を挙げるべきだ。 また,一部の政治家やメディアは新型インフルエンザ等特別措置法の改正,とりわけ罰則の導入を主張する。その論拠として外国の例が紹介されることが少なくない。ただ,外国では十分な補償がなされていること,政府の行為に対して国会や裁判所の統制が機能している。たとえばフランスでは「コンセイユ・デタ」が政府の対応を違法としたり,「憲法院」が「公衆衛生緊急事態法」(la loi d'état d'urgence sanitaire)を延長する2020年5月11日法の一部を違憲と判示するなど,裁判的統制が機能している。補償もせずに外出禁止や休業要請に罰則をつける法改正は,生存権(憲法25条)の自由権的側面の侵害し,正当な補償(憲法29条3項)をしない等,憲法違反の問題が生じる。