著者
豊岡 めぐみ
出版者
拓殖大学人文科学研究所
雑誌
人文・自然・人間科学研究 (ISSN:13446622)
巻号頁・発行日
no.45, pp.25-44, 2021-03

諸外国で安楽死や自殺幇助の合法化が加速している。従来,安楽死や自殺幇助を希望するのは耐え難い肉体的苦痛が主な要因であったが,近年,その理由が変化しており,肉体的苦痛から精神的な苦痛,尊厳の保持,生きる意味の喪失まで多種多様であり,複雑な要素が絡み合っている。そこで,本稿では2001年4月に世界で初めて安楽死を合法化したオランダに着目し,精神的な苦痛による安楽死や自殺幇助の事例を中心に,痛みに悶え苦しみながら病に侵された身体を伴ってなぜ生きるのかという生への意味を問いただす終末期の在り方や多様化する価値観の中での生命終結に関する自己決定の在り方を考察した。第一章では,オランダの事例を考察し,安楽死法の成立までの背景と経緯を追った。第二章では,精神状態および精神的苦痛・認知症による安楽死について取り上げ,オランダの安楽死の現状や課題を探った。第三章では,実存的苦悩による安楽死の実態を明らかにし,その是非を検討した。以上,生命終結に関わる諸問題およびそれについてのわれわれの自己決定の在り方を倫理的観点から考察することを通じて,オランダにおける精神的苦痛や実存的理由による安楽死容認の流れに対する問題点を指摘した。

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