著者
林 元英
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.73, no.2, pp.205-214, 1977
被引用文献数
2 33

生薬紫根の薬理学的研究の一環として,その代表的製剤である紫雲膏の炎症反応に対する影響を,紫根ならびに当帰工一テルエキス軟膏の局所適用と比較検討した.紫根エキスはhistamine, bromelain, bradykininおよび抗ラット・ウサギ血清によって惹起した血管透過性充進を明らかに抑制した.抗ラット・ウサギ血清および熱刺激による浮腫に対しても有意な抑制作用を示し,紫外線照射ならびに熱刺激による局所皮膚温の上昇をも抑制した.創傷治癒に対しては創傷部の牽引法および面積法の両方法において明らかな治癒促進効果を示した.紫根エキスによるこれらの作用は0.2~0.1%濃度が最も強力で,それより上下の濃度になるにつれて効果は減弱した.当帰エキスは血管透過性充進を軽度抑制し,濃度の高い程作用も強く,急性浮腫に対しては0.04%濃度軟膏のみに抑制作用が認められた.しかし炎症性皮膚温の上昇や創傷治癒に対しては何ら影響しなかった.紫雲膏は紫根および当帰成分をそれぞれ0.2%,および0.04%含有し,両者が最も強力な効果を示す理想的な濃度を含有することが認められた.そして紫雲膏は紫根エキスと同様な作用を示し,当帰配合による有意差は認められなかったものの,紫根単独より多少強力な効果を呈した.それ故紫雲膏は炎症性の腫張ならびに発赤,発熱を抑制し,創傷治癒を促進すると共に紫根には抗菌作用があると言われるので外傷などの治療薬として好ましい製剤であることが認められた.

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