著者
唐木 英明
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.130, no.4, pp.275-280, 2007 (Released:2007-10-12)
参考文献数
19

知識人の趣味であった科学が,19世紀以後,社会の問題解決という目的を持つようになり,研究者の数が増えて科学者集団が生まれ,集団内の成功が社会における成功につながった.これは必然的に科学の不正につながり,その社会的影響が無視できなくなった.これに加えて,国立大学の法人化と産学連携の推進により,これまでは主に企業研究者の問題であった利益相反も多くの研究者の問題になりつつある.不正の発見はピアレビューと追試による検証で行われるが,ピアレビューは性善説に準拠するために,意図的な不正を見抜く力はない.また検証はその結果が出るまでには長い時間がかかり,その間に他の研究者や社会が損失を被ることがある.内部告発も有効ではあるが,慎重な取り扱いが必要である.科学の不正は,一般社会における不正と同じく,いつでも起こりうる.不正を防止するためには科学者集団が科学の品質を保証するシステムを構築するとともに,研究者が功利主義ではなく義務論に基づいて行動し,一般社会に通用する透明性と説明責任を果たすことが何より重要であり,そのために一般道徳に加えて科学者倫理の教育を強化することが必要である.
著者
渡辺 恭良
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.129, no.2, pp.94-98, 2007 (Released:2007-02-14)
参考文献数
8
被引用文献数
2 4

疲労感・倦怠感は,我々が日常的に経験している感覚であり,発熱,痛みとともに,身体のホメオスタシス(恒常性)の乱れを知らせる三大アラーム機構の1つである.疲労は,万人にとって非常に身近な問題であり,ストレス過多の現代社会に生きる私たちの中で慢性疲労に悩んでいるヒトが40%近くを占めるにもかかわらず,科学的・医学的研究はこれまで断片的であった.我々は,ストレスの過重蓄積によって陥る状態を疲労と定義している.ここ数年で,生活習慣病をはじめとする疾患の予防医療・予知医療の発展とともに,このような前病状態(未病ともいわれる)に如何に対処するかという気運が高まり,「疲労の科学」に目を向けられるに至った.多忙なスケジュールに振り回されている状況を回避することが困難な我々21世紀の住人にとって,如何に疲労に対処し回復策を探り過労に陥らないように知恵を絞るかが求められている.文部科学省・科学技術振興調整費による疲労研究班[生活者ニーズ対応研究「疲労および疲労感の分子・神経メカニズムとその防御に関する研究」(平成11-16年度,研究代表者:渡辺恭良)]では,これまでに知られてきた断片的な疲労の分子・神経メカニズムの研究結果を統合し,脳機能イメージングや遺伝子解析などの新しい方法論も取り入れて「疲労」と「疲労回復・予防」についての研究を深めてきた.ここでは,ストレスの人体への影響と大きな関連性を持つ「疲労の神経メカニズム」についての研究の現状についての情報を提供したい.また,2004年夏からは,文部科学省の21世紀COEプログラム革新的学術分野に我々大阪市立大学が申請した「疲労克服研究教育拠点の形成」が採択された(拠点リーダー:渡辺恭良).現在,COE拠点を挙げて,疲労の基礎・臨床研究と抗疲労食薬・環境開発プロジェクトを進めており,現時点での成果についても述べたい.
著者
田中 十志也
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.128, no.4, pp.225-230, 2006 (Released:2006-10-13)
参考文献数
21

肥満,インスリン抵抗性,高脂血症,高血圧といった動脈硬化のリスクファクターが一個人に集積するメタボリックシンドロームを呈する患者が急増している.とりわけ肥満に伴う脂肪細胞の機能異常がメタボリックシンドロームの発症に深く関わっていることから,適度な運動やカロリー摂取制限が有効な治療法の一つである.我々は,持続的な運動時あるいはカロリー摂取制限時に骨格筋で誘導される転写因子に着目して研究している中で,リガンド依存的に遺伝子発現を制御する核内受容体の一つperoxisome proliferator-activated receptorδ(PPARδ)が誘導されることを見いだした.そこで,PPARδの合成アゴニストGW501516を用いてDNAマイクロアレイ解析による標的遺伝子の同定を行ったところ,PPARδは骨格筋の脂肪酸取り込み,輸送,酸化,および脱共役タンパクといった脂肪酸代謝を調節する因子であることが明らかとなった.また,PPARδアゴニストは高脂肪食負荷および遺伝的に肥満を呈するマウスモデルにおいて抗肥満およびインスリン抵抗性改善効果を発揮することが明らかとなった.さらに,PPARδアゴニストは肥満動物の脂肪組織においてNADPHオキシダーゼ経路による酸化ストレスの産生を抑制することによってTNFαやIL-6といった末梢組織のインスリン抵抗性を惹起するアディポサイトカインの産生異常を改善することが明らかとなった.以上のことから,PPARδアゴニストは単剤で肥満,インスリン抵抗性,および高脂血症に対して治療効果を発揮する画期的なメタボリックシンドローム治療薬として期待される.
著者
唐木 英明
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 : FOLIA PHARMACOLOGICA JAPONICA (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.130, no.4, pp.275-280, 2007-10-01
参考文献数
19

知識人の趣味であった科学が,19世紀以後,社会の問題解決という目的を持つようになり,研究者の数が増えて科学者集団が生まれ,集団内の成功が社会における成功につながった.これは必然的に科学の不正につながり,その社会的影響が無視できなくなった.これに加えて,国立大学の法人化と産学連携の推進により,これまでは主に企業研究者の問題であった利益相反も多くの研究者の問題になりつつある.不正の発見はピアレビューと追試による検証で行われるが,ピアレビューは性善説に準拠するために,意図的な不正を見抜く力はない.また検証はその結果が出るまでには長い時間がかかり,その間に他の研究者や社会が損失を被ることがある.内部告発も有効ではあるが,慎重な取り扱いが必要である.科学の不正は,一般社会における不正と同じく,いつでも起こりうる.不正を防止するためには科学者集団が科学の品質を保証するシステムを構築するとともに,研究者が功利主義ではなく義務論に基づいて行動し,一般社会に通用する透明性と説明責任を果たすことが何より重要であり,そのために一般道徳に加えて科学者倫理の教育を強化することが必要である.<br>
著者
山本 経之
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.130, no.2, pp.135-140, 2007 (Released:2007-08-10)
参考文献数
40
被引用文献数
2

1980年代末に,カンナビノイドが特異的に結合する受容体が脳内に存在することが明らかにされ,主に中枢神経系にCB1受容体また末梢神経系にCB2受容体の2つのサブタイプが同定された.また内在性カンナビノイドとしてアナンダミドや2-AGが相次いで発見された.カンナビノイドCB受容体は,グルタミン酸,GABA,アセチルコリン(ACh)等の神経シナプス前膜に存在し,神経シナプス後膜から遊離さる内在性カンナビノイドを介して各種伝達物質の遊離を抑制する事が知られている.ここではカンナビノイドCB1受容体ならびにその内在性カンナビノイドが中枢神経系の機能としての食欲・記憶・痛覚・脳内報酬系における役割について述べた.食欲はCB1受容体の活性化により亢進し,逆に不活性化によって抑制される.“食欲抑制物質”レプチンとの相互作用が示唆されている.記憶・学習に重要な役割を演じている脳部位にCB1受容体が高密度に分布し,その活性化によって記憶障害(“忘却”)が誘発される.その作用はACh神経からのACh遊離の抑制に基因する可能性が示唆されている.また内在性カンナビノイドには鎮痛や痛覚過敏の緩和作用があり,末梢神経系のCB2受容体やバニロイドVR1受容体との関連性が今後の課題である.一方,大麻が多幸感を起こす事から,脳内カンナビノイドは脳内報酬系との関与が強く示唆され,それを支持する知見もある.脳内カンナビノイドシステムの変容は,意欲や多幸感・満足感を創生する脳内報酬系の破綻をきたし,精神疾患を誘引している可能性がある.近年,統合失調症を初めとした精神疾患とCB1受容体および内在性カンナビノイドとの関連性が指摘され,その是非は今後の研究に委ねられている.いずれにしても脳内オピオイドの発見の歴史を彷彿させる脳内“大麻様物質”の存在は,脳の多彩な機能の解明の新たな礎となることに疑いの余地はない.
著者
田中 祥貴 青木 郁夫 石根 貴章 John J. Renger Christopher J. Winrow 久田 智
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.148, no.1, pp.46-56, 2016 (Released:2016-07-13)
参考文献数
31
被引用文献数
1

オレキシンは視床下部外側部の神経細胞で産生されるニューロペプチドで,動物の覚醒状態維持に重要な働きをしている.スボレキサントはヒトのオレキシン受容体(OX1R及びOX2R)に対する強力で選択性の高いアンタゴニストで,不眠症の経口治療薬として開発された.スボレキサントのヒトOX1R及びOX2Rに対する結合親和性は高かった(Ki値はそれぞれの受容体で0.55 nM及び0.35 nM).各種動物(マウス,ラット,ウサギ,イヌ及びアカゲザル)のOX1R及びOX2Rに対してもヒトと同程度の結合親和性を示した.ラットにスボレキサントの10,30及び100 mg/kgを投与すると,用量依存的に覚醒が減少し,同時にデルタ睡眠とレム睡眠が増加した.同様な覚醒の減少とノンレム睡眠及びレム睡眠の増加は,イヌにスボレキサントを1及び3 mg/kg経口投与したとき,及びサルにスボレキサントの10 mg/kgを経口投与したときにも認められた.臨床薬理試験の結果から,スボレキサント40 mgを非日本人健康非高齢被験者に単回経口投与した際のTmaxは約2時間で,終末相半減期は12.2時間であった.また,1日1回反復投与した際,投与3日目までに定常状態に達し,AUC及びCmaxの累積係数の推定値は1.2~1.6であった.スボレキサントを空腹時単回投与した際の薬物動態は,日本人健康男性被験者と非日本人健康男性被験者で大きな差はみられなかった.また,後期第Ⅱ相及び第Ⅲ相試験での不眠症患者の薬物動態より,非高齢者にスボレキサント20 mgを投与した際のAUC0-24h及びCmaxは,高齢者にスボレキサント15 mgを投与した際と同程度であった.臨床試験の結果から,スボレキサントは睡眠維持及び入眠のいずれの症状改善にも効果を有し,長期間投与で薬剤耐性もみられない.また,おおむね良好な忍容性が認められ,翌日への持越し効果も許容可能な程度であり,臨床上懸念される,投与中止による退薬症候や反跳性不眠は認められない.したがって,本剤は,不眠症の新たな治療選択肢の一つとなると考える.
著者
藤原 道弘
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.117, no.1, pp.35-41, 2001 (Released:2002-09-27)
参考文献数
36
被引用文献数
3 5

大麻(Δ9-tetrahydrocannabinol:THC)は身体依存, 精神依存, 耐性を形成するとされているが, 他の乱用薬物より比較的弱い.このことは動物実験においても同様である.むしろ大麻の危険性は薬物依存より急性効果の酩酊作用, 認知障害, 攻撃性の増大(被刺激性の増大)が重要である.カタレプシー様不動状態の発現には側坐核や扁桃体のドパミン(DA)神経の他にセロトニン(5-HT)神経の機能低下が密接に関与しており大麻精神病の症状の緊張性や無動機症候群に類似している.この症状はTHCの連用によって軽度ではあるが耐性を形成し, THCの退薬後はカタレプシー様不動状態は直ちに消失する.一方, 攻撃行動の発現はTHC慢性投与の15日後に発現し, 退薬時は直ちに消失することなく20日間かけて徐々に消失する.これはヒトにおけるTHCの退薬症候の過程に類似している.THCによる異常行動の発現にはカンナビノイド(CB1)受容体を介したDAや5-HTの遊離が関わっており初期2週間はCB1受容体によるDA, 5-HTの遊離抑制が関与している.これに対し慢性投与になると, シナプス前膜のCB1受容体の脱感作によるDAや5-HTの遊離とシナプス後膜の感受性増大が同時に発現することが主な原因として考えられる.空間認知記憶障害は, 作業記憶障害であり, その発現にはCB1受容体を介し, 海馬へ投射しているACh神経においてCB1受容体を介したAChの遊離阻害が重要な役割を果たしている.これらの作用は報酬系や依存の形成の解明に役立つものと考えられる.
著者
宮崎 忠昭
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.140, no.2, pp.62-65, 2012 (Released:2012-08-10)
参考文献数
11
被引用文献数
1 1

毎年,季節性インフルエンザが流行し,高齢者,乳幼児,妊婦,および慢性疾患患者がインフルエンザを発症した場合は,急性脳症や肺炎などを合併し死亡するケースも報告されている.さらに,今後,病原性の高いインフルエンザウイルスや薬剤耐性ウイルスが出現し,それらの感染拡大の可能性があるため,効果的なワクチンや治療薬を早急に開発する必要がある.生体で産生されるインターフェロンは抗ウイルス効果を有するが,我々は,これまでに,インフルエンザAウイルスのRNAポリメラーゼがIPS-1(interferon-beta promoter stimulator 1)に直接会合し,インターフェロンの産生誘導を阻害すること,また,RNAポリメラーゼのサブユニットであるPB2にSiva-1というアポトーシス誘導分子が会合し,カスパーゼの活性化を介してウイルスの増殖を制御することを明らかにした.今回,インフルエンザウイルスの増殖を阻害する物質を探索した結果,漢方薬である銀翹散(ぎんぎょうさん)と麻黄湯(まおうとう)の成分がインフルエンザウイルスのプラーク形成阻害作用を示し,“新型ウイルス”と報道されたA/Narita/1/2009株やA/Kadoma/2/2006株に対しても高い阻害効果を示すことを確認した.そこで,銀翹散のエチルアセテート抽出物をさらにメタノール/クロロホルムで抽出した後,シリカゲルカラムで分画した結果,非常に高いプラーク形成阻害活性を有する画分が認められた.また,麻黄湯に関しては,メタノール残渣成分に高い阻害活性が確認されたため,現在,活性成分の分画を進めている.今後,これらの分画成分に含まれる活性物質を分離精製しその構造と薬理活性を明らかにすれば,インフルエンザ治療薬の候補物質となる可能性がある.
著者
平井 圭介 加藤 浩紀 西川 久夫 行弘 信仁 西山 啓次 宮本 政臣
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.136, no.1, pp.51-60, 2010 (Released:2010-07-09)
参考文献数
30
被引用文献数
3

既存の睡眠薬は,GABAA受容体に作用して睡眠を誘発する.GABAA受容体は,脳幹毛様体,辺縁系,海馬,小脳,脊髄,大脳皮質辺縁系など広範囲に存在し,種々の神経伝達物質を含有する神経に対して, Cl−イオンの細胞内流入を介して抑制的に作用する.そのため,睡眠誘発作用は示すものの,その睡眠は自然睡眠とは異なり,筋弛緩作用,前向性健忘,反跳性不眠,依存性などの種々の有害作用を惹起する.これに対してラメルテオン(Ramelteon,TAK-375,商品名Rozerem®)は,主に視床下部視交叉上核に存在するメラトニン受容体(MT1/MT2受容体)にアゴニストとして作用してcAMP産生系を抑制し,サルおよびネコで強力な睡眠誘発作用を示した.その睡眠パターンは自然睡眠に極めて近いものであった.また,既存薬で見られる学習記憶障害,運動障害,依存性などは見られなかった.ラメルテオンは入眠障害を特徴とする睡眠障害患者における臨床試験において,入眠までの時間を短縮するとともに総睡眠時間を増やした.ヒトにおいても記憶障害や運動障害などの有害作用は極めて少なく,依存性も見られず,反復投与においても耐性や反跳性不眠も認められなかった.ラメルテオンは,ヒトの睡眠覚醒サイクルを司る視交叉上核に作用する新規作用機序を有し,副作用が少なく生理的な睡眠をもたらす不眠症治療薬として期待される.
著者
田ヶ谷 浩邦
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 : FOLIA PHARMACOLOGICA JAPONICA (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.129, no.1, pp.42-46, 2007-01-01
被引用文献数
1 3

不眠はありふれた訴えであるが,その原因はさまざまで,睡眠薬以外の治療法が適切な不眠や,睡眠薬により悪化する睡眠障害があるため,薬物療法開始前に十分な鑑別が必要である.催眠作用をもつ薬物として,バルビツール酸系睡眠薬,非バルビツール系睡眠薬,ベンゾジアゼピン系睡眠薬,非ベンゾジアゼピン系睡眠薬,抗ヒスタミン作用をもつ薬剤がある.慢性の非器質性不眠症に対して効果・安全性とも優れているのはベンゾジアゼピン系睡眠薬,非ベンゾジアゼピン系睡眠薬である.健忘,転倒などの副作用や常用量依存の防止のため,1)治療目標を控えめに設定する,2)少量を毎日服用する,3)エタノールと併用しない,4)患者の自己判断で用量を変更しない,など服薬指導を行う.不眠への不安・恐怖感を緩和し,不眠を悪化させる習慣を是正するため,「眠くないのに無理に布団の中で過ごさない」など認知行動療法の併用が有効である.<br>
著者
田中 喜秀 脇田 慎一
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.137, no.4, pp.185-188, 2011 (Released:2011-04-11)
参考文献数
13
被引用文献数
2 3

ストレス適応障害,うつ病,慢性疲労症候群など,精神的ストレスに起因する疾病が社会問題化している.ストレス診断やメンタルヘルス対策では,問診や質問表という心理面からのストレス評価が中心であり,ストレスや疲労の定量化・指標化が強く求められている.ストレス研究の歴史は古いが,ヒトを対象とした被験者実験の多くは,急性の精神的ストレスを対象に実施されてきた.慢性ストレスや精神的疲労の研究が精力的に行われるようになったのは最近のことであり,ストレスと疲労のバイオマーカーとして確証が得られたものはまだ存在しない.そこで,ストレス評価法の現状を紹介するとともに,指標として期待されるバイオマーカー候補を紹介する.
著者
北本 直美 山嵜 将司
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.144, no.4, pp.167-171, 2014 (Released:2014-10-10)
参考文献数
35

Toll - like receptor(TLR)4 は当初,グラム陰性菌のリポ多糖(lipopolysaccharide)を認識し自然免疫系を活性化する受容体として発見された.しかし,このような感染防御を担う自然免疫反応のみならず,①関節リウマチなどの自己免疫疾患において産生される各種内因性のリガンドをも認識すること,②自己免疫疾患の病変部においてTLR4 の発現が亢進していること,③ TLR4 遺伝子欠損マウスや変異マウスにおいて,あるいはTLR4 阻害薬の処置により各種自己免疫疾患モデル動物での病態の発症や進行が著明に抑制されることが,近年報告されている.さらに④自己免疫疾患で中心的な役割を担う各種細胞の活性化にも関与することが明らかにされている.これらのことから,TLR4 は各種自己免疫疾患の発症や病態において重要な役割を担っていることが示唆されるに至り,自己免疫疾患の新規創薬ターゲットのひとつとしてTLR4 がクローズアップされている.
著者
中西 展大 橋本 敏夫 浜田 知久馬
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.144, no.4, pp.185-191, 2014 (Released:2014-10-10)
参考文献数
13

薬効薬理試験では,試験目的に対応した適切な統計解析手法を選択することが重要である.対照群と試験薬の低用量群,中用量群,高用量群など複数用量を比較する用量反応試験では,対照群と各用量群の検定を繰り返すため,検定の多重性を考慮した手法が必要であり,様々な方法が提案されている.Williams 多重比較検定はそのひとつの手法であり用量反応に単調性が想定された状況において,検出力の高い有効な手法である.しかし,例数不揃い時に対する拡張性の困難さや,実施可能な統計解析パッケージの少なさなどから,他の手法に比べて利用頻度が少ないのが現状である.本稿では,例数不揃い時におけるWilliams 多重比較検定の妥当性を示し,次に他の手法に対する検出力の高さや,結論の導きやすさなどの有用性を評価し,Williams 多重比較検定が多くの薬理試験において第一選択になりうることを示す.

9 0 0 0 OA 抗原性試験

著者
佐久間 庄三
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.130, no.3, pp.216-219, 2007 (Released:2007-09-14)
参考文献数
3

抗原性試験は,薬物により誘発されるアレルギー反応を予測することを目的で実施する安全性試験である.薬物アレルギー反応はアナフィラキシーショックのような急性で重篤なものから,皮疹のような可視的なものまで色々とある.これらの反応を理解するには免疫学的な知識が不可欠である.各種アレルギー反応の簡単な解説を記載するとともに,我々が実施してきたいくつかの抗原性試験の方法を簡単に紹介する.近年,これまで行われてきた抗原性試験がヒトでの外挿性が低いことより,医薬品の承認要件よりはずれる傾向にはあるが,臨床試験や市販後のヒトへの投与においては抗原性に関する細心の注意が払われる必要があり,予測性の高い試験系の確立が望まれている.
著者
黒澤 努
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.125, no.6, pp.330-334, 2005 (Released:2005-08-01)

バイオメディカルサイエンスの進展に動物実験は欠かせない.これは近代になって人体実験が倫理的に許されないとする一方,新薬の開発,新規治療法の開発,またそれらを支える学問の進展を待ち望む多くの病める人たちが存在するからである.われわれの不断の努力にもかかわらず,難病は存在し続けている.これらの社会的弱者とも言われる患者のために動物実験の必要性はますます増している.その一方,動物実験に反対する人々が存在する.彼らは動物実験を動物に対する生体実験だとして,動物虐待であるから反対するとして,多くの動物愛護家の支持をとりつけ広汎な活動を展開している.しかし,その根底にある活動は実験動物解放などという,とても動物愛護に基づいた行動とは思われない動物虐待行為が行われ,逆にこれは社会の弱者の救済の道を閉ざす活動と思われる.これとは別に健全な動物愛護運動を展開する人々も存在する.彼らは真に動物が可愛い存在だと認識し,その上で弱者も救済しなければならないので動物実験は必要であるができるだけ動物の苦痛を少なく動物実験を行うよう求めるのである.動物実験を行う我々はこの2者を明確に区別し,動物権利論に基づく動物実験反対運動は断固として否定し,健全な動物愛護運動団体とともに歩むべきである.そのためには3Rsと呼ばれる,Reduction, Replacement & Refinementに代表される動物実験代替法の推進をなお一層活性化すべきである.多くの先進国で制定されている動物愛護法の遵守,さらには法に基づく種々の規約を制定遵守するだけでなく,国際的な動向に適合した,節度ある動物実験を行うべきである.こうした活動により多くの国民の信を得て,バイオメディカルサイエンスのますますの発展に寄与しなければならない.そのためには,動物愛護に基づく実験動物福祉の考え方と,動物実験反対運動を混同してはならない.
著者
樋口 宗史 椎谷 友博 村瀬 真一
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.137, no.4, pp.166-171, 2011 (Released:2011-04-11)
参考文献数
27
被引用文献数
1 1

ニューロペプチドY(NPY)を含む視床下部神経ペプチド群は中枢性摂食制御に重要な役割を持ち,そのうちNPYが最も強い摂食誘導作用を持っている.NPYは末梢からの情報を入力する弓状核(ARC)に存在するNPY神経で主に合成され,その神経の多くは同様の摂食誘導作用を持つAgRPと共存し,視床下部室傍核(PVN)などに線維連絡している.ARCからの神経投射を受けるPVNではY1,Y2,Y4,Y5受容体を含み,摂食の統合中枢として知られている.しかし,これまでのNPYノックアウト,Y1,Y5受容体ノックアウトマウスの発現系では摂食行動,体重に変化がないか,逆に肥満が発症するので,何らかの代償機構が存在していた.この機構がノックアウトマウスによる発育障害の可能性を除くために,NPY,Y1-Y5受容体mRNAを成体脳内で長期にノックダウンするsiRNAベクターを用い,視床下部神経核(特にARCとPVN)でのNPY,Y受容体サブクラス(Y1,Y2,Y4,Y5)の生理的機能を確かめた.siRNAベクターは脳内1回投与で1週間以上,局所でのY受容体サブタイプmRNAとその発現タンパク質を著しく減少させた.NPY siRNAベクターはARCに注入した時のみ,摂食行動と体重を著しく減少させたが,RVNでは症状を示さなかった.一方,NPY Y1あるいはY5受容体ノックダウン用siRNAベクターは逆にPVNに注入した時のみ,有意な摂食行動と体重の減少を生じた.Y1およびY5受容体siRNAベクターは併用すると相加効果が得られた.Y2,Y4受容体siRNAベクターは神経下部諸核では症状を示さなかった.このように,成熟マウス脳内ではPVNのY1とY5受容体がNPYの摂食誘導作用に主たる働きを示しており,Y受容体サブクラスの摂食行動への作用の部位選択性と成体脳での代償機構の存在が示された.
著者
吉田 隆雄 幸田 健一 中尾 進太郎 大山 行也
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.146, no.2, pp.106-114, 2015 (Released:2015-08-10)
参考文献数
23
被引用文献数
1

ニボルマブ(遺伝子組換え)[商品名:オプジーボ®点滴静注20 mg,100 mg,以下ニボルマブ]は,ヒト型抗ヒトPD-1モノクローナル抗体であり,「根治切除不能な悪性黒色腫」を効能・効果として,2014年9月より世界に先駆けて日本で発売された新たな免疫チェックポイント阻害薬である.非臨床試験において,ニボルマブは,ヒトPD-1の細胞外領域に特異的に結合し,PD-1とPD-1リガンド(PD-L1およびPD-L2)との結合を阻害した.また,ニボルマブは抗原刺激によるヒトT細胞の増殖およびIFN-γ産生を増強し,悪性黒色腫患者T細胞を用いた悪性黒色腫抗原ペプチド再刺激系においては,腫瘍抗原特異的CD8陽性T細胞およびIFN-γ産生細胞を増加させ,ヒト悪性黒色腫細胞に対するCD8陽性T細胞の細胞傷害活性を増強した.さらに,ニボルマブは各種抗原を接種したサルの細胞性および液性免疫応答を増強し,抗マウスPD-1抗体4H2は,マウス同系担がんモデルにおいて腫瘍組織中の免疫関連遺伝子の発現量を増加させ,抗腫瘍効果を示した.このようにニボルマブは,PD-1とPD-1リガンドとの結合を阻害し,抗原特異的なT細胞の増殖,活性化およびがん細胞に対する細胞傷害活性を増強することで抗腫瘍効果を示すことから,悪性腫瘍に対する新たな治療薬になると考えた.臨床試験において,悪性黒色腫患者を対象とした国内第Ⅱ相試験にて有効性,安全性および忍容性が確認されたことから,ニボルマブは悪性黒色腫の有用な治療薬となりえることが示された.本試験結果を踏まえ,2013年12月に製造販売承認申請を行い,2014年7月にニボルマブは世界初の抗PD-1抗体として製造販売承認を取得した.現在,様々ながん腫に対するニボルマブの臨床試験が実施されており,今後ニボルマブが,がん治療の選択肢を広げるものと期待される.
著者
富永 真琴
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.127, no.3, pp.128-132, 2006 (Released:2006-05-01)
参考文献数
27
被引用文献数
2 2

TRPチャネルは6回の膜貫通領域を有する陽イオンチャネルであり,4量体として機能すると考えられている.また,大きなスーパーファミリーを形成し,哺乳類では6つのサブファミリーに分かれている.カプサイシン受容体TRPV1は1997年にクローニングされ,感覚神経特異的に発現し,カプサイシンのみならず私達の身体に痛みをもたらすプロトン,熱によっても活性化される多刺激痛み受容体として機能することが,TRPV1発現細胞やTRPV1遺伝子欠損マウスを用いた解析から明らかにされた.さらに,TRPV1は炎症関連メディエイター存在下でPKCによるリン酸化によってその活性化温度閾値が体温以下に低下し,体温で活性化されて痛みを惹起しうることが分かった.このTRPV1の機能制御機構は急性炎症性疼痛発生の分子機構の1つと考えられている.カプサイシンは逆説的に鎮痛薬としても使われているが,その作用メカニズムの一つとしてTRPV1の脱感作機構が考えられている.痛みを惹起する刺激(温度刺激,機械刺激,化学刺激)のうち,温度刺激による痛みはおよそ43度以上あるいは15度以下で起こるとされている.TRPV1は初めて分子実体の明らかになった温度受容体であり,現在までに8つの温度感受性TRPチャネルが報告されている.侵害刺激となる温度によって活性化するTRPV1,TRPV2,TRPA1は侵害温度刺激受容に関与するものと思われる.感覚神経に発現する他の温度感受性あるいは機械刺激感受性TRPチャネルも侵害刺激受容に関わる可能性が考えられている.これらの侵害刺激受容TRPチャネルは,新たな鎮痛薬開発のターゲットとして注目される.
著者
白井 宏樹 小堀 正人
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.129, no.1, pp.51-55, 2007 (Released:2007-01-12)
参考文献数
8

バイオインフォマティクスは,各種生物情報を情報科学的手法によって整理や解析をすることで,生物学上の重要な知見を抽出したり,またそれを促進させる研究分野である.様々な生物情報がフリーで入手可能な今日,バイオインフォマティクスは分子生物学研究や創薬において重要な役割を担っている.本稿では,創薬におけるバイオインフォマティクスの現状と問題点,および将来への展望を記述した.とくにバイオインフォマティクスによる仮説立案の役割について,研究2例を紹介し,その重要性と問題点を記述した.
著者
橋本 道男
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.151, no.1, pp.27-33, 2018 (Released:2018-01-10)
参考文献数
40
被引用文献数
3

n-3系脂肪酸の機能性は,心・血管系や脂質代謝系など,多岐にわたることがよく知られている.特に,n-3系脂肪酸のなかでも脳に多く含まれるドコサヘキサエン酸(DHA)は胎児期から老年期にいたるまで脳機能維持には必須である.その摂取不足は,脳の発達障害,うつ病,アルツハイマー病などの精神・神経疾患の発症と深く関連する.DHAは主に,神経新生,シナプス形成,神経細胞分化,神経突起伸張,膜流動性の維持,抗炎症作用,抗酸化作用などに関与し,脳機能維持に重要な役割を担っている.その作用機序は,1)細胞膜構成成分として膜流動性を変えてイオンチャネルや膜結合型受容体・酵素へ作用し,2)細胞膜から切り出された遊離型DHAが直接的に,あるいはさらに代謝されてプロテクチンD1などに変換されて,間接的に核や各種タンパク質に作用してその機能性を発揮する.今後の展開しだいでは,DHAなどn-3系脂肪酸の補充は,脳機能の低下を抑制し,様々な精神・神経疾患の発症とその進行を遅延し,さらには改善する可能性が期待される.