著者
堤 直行 長田 秀夫 荒井 伸彦 小島 正三 氏家 新生
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.101, no.6, pp.385-391, 1993
被引用文献数
1

ラット胎仔大腿骨を用いてタンパク質分解酵素阻害剤あるいはタンパク質合成阻害剤の骨吸収におよぼす作用を検討した.システインプロテアーゼ,アスパルティックプロテアーゼ,金属プロテアーゼの代表的な阻害剤であるE-64(10<SUP>-6</SUP>~10<SUP>-4</SUP>M),ペプスタチンA(10<SUP>-7</SUP>~10<SUP>-5</SUP>M),ホスホラミドン(10<SUP>-6</SUP>~10<SUP>-4</SUP>M),アマスタチン(10<SUP>-6</SUP>~10<SUP>-4</SUP>M),ベスタチン(10<SUP>-6</SUP>~10<SUP>-4</SUP>M),foroxymithine(10<SUP>-6</SUP>~10<SUP>-4</SUP>M)は明らかな骨吸収におよぼす作用を示さなかった.しかし,セリンプロテアーゼの阻害剤であるフェニルメチルスルホニルフルオリド(PMSF),1-クロロ-3-トシルアミノ-7-アミノ-2-ヘプタン(TLCK),L-1-トシルアミノ-2-フェニルエチルクロロメチルケトン(TPCK),エラスタチナールは10<SUP>-5</SUP>~10<SUP>-4</SUP>Mで骨吸収を抑制した.TPCK(10<SUP>-4</SUP>M)を添加してラット胎仔大腿骨の軟骨組織を培養し,そこからTPCKを除去した培養上清は骨吸収促進作用を示した.タンパク質合成阻害剤のシクロヘキシミド(0.1~10μg/ml),ピュロマイシン(0.3~30μg/ml)は軟骨組織による骨吸収の促進現象を濃度依存的に抑制した.シクロヘキシミド(3μg/ml)による骨吸収の抑制作用は薬物が存在しないと次第に消失した.また,シクロヘキシミド(3μg/ml)を添加して軟骨組織を培養し,そこからシクロヘキシミドを除去した培養上清は骨吸収の促進作用を示さなかった.これらの結果から,ラット胎仔大腿骨の軟骨組織はタンパク質を一成分とする骨吸収促進物質を産生しているが,この物質は,(1)骨吸収促進作用を有するセリンプロテアーゼの一種である,あるいは,(2)始めは生理的に不活性な物質として産生され,更にある種のセリンプロテアーゼによって骨吸収促進作用を有する物質に変換されてその生理作用を示している可能性が示唆された.

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