著者
坂本 辰馬 奥地 進
出版者
園藝學會
雑誌
園芸学会雑誌 (ISSN:00137626)
巻号頁・発行日
vol.39, no.2, pp.107-114, 1970
被引用文献数
2

1. 温州ミカン果汁の酸の変化, とくに集積, 稀しやく, 減少に及ぼす夏秋季の土壌乾湿の影響を解析するため, 早生温州ミカン幼木についてポット試験をおこなつた。<br>2. 結果量が多かつた4年生樹についての8~9月の土壌乾湿実験では, この期間における20日ないし30日間の乾燥によつて, 果肉の肥大生長が抑えられ, 果汁の酸濃度は高くなり, 果肉中の酸含量は減少した。9月10日ごろまでの乾燥では, 乾燥直後の5日間の灌水によつて果肉中の水分が急増し, これにともなつて酸濃度が急減したが, 逆に果肉中の酸含量は増加した。しかし, 9月20日すぎまでの乾燥では, 以上の傾向があまり認められなかつた。<br>3. 果汁の酸濃度は8月中旬にはすでに減少の過程にあるが, 果肉中の酸含量は9月20日ごろから下旬にかけて最高になつた。この時期を前後にして, 生成および分解からみた酸の変化が, 集積と減少の過程に区別できた。<br>4. 上述の乾燥直後の灌水による酸濃度の減少および酸含量の増加に, 時期による著しい差があつたのは, それぞれの時期が酸の集積過程と減少過程とにあつた違いのためとみられ, この時期を境いにして, 果肉の生長, 果肉内の物質代謝に大きな変化があると推察された。<br>5. 結果量が少なかつた5年生樹についての9~10月の土壌乾湿実験では, 多湿のときに10月になつても果実の肥大生長が著しく, やはり果汁の酸濃度が低くなつた。収穫前約1か月間の酸の変化をしらべると, 乾燥のときに酸の減少量 (実質的な消失量, または分解量と生成量との差) が多くなり, 多湿のときに稀しやくが著しく多くなつた。<br>6. 夏秋季の土壌水分の多少の影響に関して, 収穫時の温州ミカン果汁の酸および可溶性固形物濃度の高低は, とくに9月中~下旬以降の多湿または乾燥とに密接に関係し, とくに多湿の場合には果肉中の水分増加による稀しやくの強い影響があるのをあきらかにした。

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