著者
吉田 三知
出版者
一般社団法人 日本内分泌学会
雑誌
日本内分泌学会雑誌 (ISSN:00290661)
巻号頁・発行日
vol.47, no.10, pp.631-647,620, 1972

従来, ウサギのような反射性排卵動物において外側視索前野は交尾に伴う電気活動の変化やこの部位のgonadotropinの分泌とそれに伴う排卵現象についての役割に就いて知見がない.そこで, ウサギを用い交尾直後の電気活動, 性ホルモン投与後の電気活動, この部位の電気刺激実験, 卵巣におけるステロイド生合成能を調べ排卵の有無も調べ, 外側視索前野の卵巣機能に及ぼす影響を追究した.その為脳各部位にMUA記録電極及び刺激電極を慢性的にウサギに植込んだ.その結果1) 正常ウサギの交尾後申脳部網様体, 外側視索前野のMUAが著明に上昇し, 内側視索前野基底部, 視床下部腹内側よりの弓状核ではMUAの積分値が交尾後軽度上昇したが, 内側視索前野の内側部, 中央隆起部よりの弓状核ではMUAが軽度下降した.2) estradio12日処置後progesterone投与にて, 約3時間目から数時間に亘り外側視索前野, 内側視索前野基底部, 視床下部腹内側核よりの弓状核のMUAは軽度の上昇を呈した.内側視索前野内側部はprogesterone投与後2~5時間目に, 視床下部の中央隆起部よりの弓状核では30分~4時目頃迄MUAは軽度下降した.3) 卵巣摘出後estradio12日間progesterone処置後, 交尾をさせた場合, 外側視索前野のMUAの積分値は交尾直後から一過性の著明な上昇を示した.内側視索前野の内側部と腹内側核よりの弓状核では交尾後軽度の上昇を認めたが, 内側視索前野基底部は交尾後下降をし, 中央隆起部よりの弓状核では交尾後変化が認められなかつた.4) 卵巣摘出ウサギで, 外側視索前野ではestradiol (lmg) 投与後3時間目よりMUAが軽度下降したが, progesterone (10mg), PMS (400u) HCG (400u) 投与で殆んど変化しなかつた.内側視索前野基底部ではestradiol投与後2時間目にMUAが軽度の下降を示し, HCG投与後2時間目に軽度の下降を示したが, progesterone, PMS投与で変化しなかつた視床下部申央隆起部よりの弓状核ではestradio1投与によtり3時間目にMUAの軽度上昇が認められ, progesterone投与で軽度の下降が認められたが, HCG, PMS投与にて殆んど変化しなかつた.5) 正常ウサギで子宮頸部刺激にて排卵は認められなかつたが, 外側視索前野のMUAは交尾後と同様の上昇傾向を示した.6) 外側視索前野の電気刺激で11例中6例に排卵が誘起され, 11例中5例は排卵疑陽性であつた.いずれの場合でも, 卵巣に於けるacetate-1-<SUP>14</SUP>Cからの1<SUP>14</SUP>のprogestinへの取り込みは対照に比し有意に増加した.一方, 内側視索前野内側部の電気刺激で排卵は陰性で, 卵巣に於けるprogestin生合成能は対照に比し変化しなかつた.7) 外側視索前野の電気刺激で排卵陽性の場合, この電気刺激後視床下部中央隆起部よりの弓状核のMUAは3時間内で下降, 上昇, 下降と著明な変化を示したのに反し, 内側視索前野の電気刺激で排卵陰性の場合, この部位の電気刺激後視床下部の中央隆起部よりの弓状核のMUAは軽度の上昇傾向がi数時間認められた.<BR>以上の諸事実よりウサギにおいて, 外側視索前野は交尾行動を駆動させる為に必要な部位であるとともに, この外側視索前野の交尾による神経活動の上昇は下垂体のgonadotropinとそれに伴う排卵及び卵巣性ステロイド分泌に何らか重要な役割を演じているものと推定される.

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