著者
澤井 祐紀
出版者
The Geological Society of Japan
雑誌
地質学雑誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.118, no.9, pp.535-558, 2012
被引用文献数
1 34

2011年に発生した東北地方太平洋沖地震による津波以降,過去に発生した未知の超巨大津波の痕跡を研究する要望が高まってきた.本論では,新たに津波堆積物に従事する研究者や事業者を意識し,これまでに行われてきた古津波堆積物に関する研究を総括する.古津波堆積物の候補となる地層は,静穏な環境に堆積する泥炭層や泥層の中に見られることが多い.古津波堆積物の候補となったイベント堆積物は,層厚や粒度の変化,化石類,環境変化の同時性などによって総合的に評価され,津波堆積物であるかどうかを判断される.認定された津波堆積物の年代測定は,放射性炭素年代測定,過剰Pb-210法,Cs-137法,光ルミネッセンス法などによって行われる.特に放射性炭素年代測定では,測定物試料に十分注意しなければならない.例えば,津波堆積物の直上や直下から得られた大型植物化石や昆虫化石は信頼性の高い値を示すが,所謂bulk sampleでは信頼性の高い年代値は得られない.このような過去の津波堆積物の分布を平面的に追うことで,当時の最小限の浸水範囲を知ることができる.ただし,浸水域の復元には当時の海岸線の位置を考慮する必要がある.

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