著者
澤井 祐紀
出版者
一般社団法人 日本地質学会
雑誌
地質学雑誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.123, no.10, pp.819-830, 2017-10-15 (Released:2018-01-25)
参考文献数
73
被引用文献数
8 9

本論は東北地方太平洋沿岸で行われた古津波堆積物に関する研究について総括する.東北地方における古津波痕跡に関する地質調査は,1980年代の日本海側で始まった.その後,津波堆積物に関する調査は太平洋側で行われ,1611年慶長津波,1454年享徳津波,869年貞観津波の痕跡が見つかっている.1611年慶長津波については,三陸海岸沖に波源を想定する一方で,千島海溝の巨大地震によるものという説もあり,未だ決着がついていない.1454年享徳津波および869年貞観津波については,日本海溝中部に波源があると考えられ,その規模はM8クラスである.1454年および869年の津波より前には,幾つかの古津波の痕跡が見つかっているが,その波源についてはまだ明らかになっていない.
著者
澤井 祐紀
出版者
The Geological Society of Japan
雑誌
地質学雑誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.118, no.9, pp.535-558, 2012
被引用文献数
1 34

2011年に発生した東北地方太平洋沖地震による津波以降,過去に発生した未知の超巨大津波の痕跡を研究する要望が高まってきた.本論では,新たに津波堆積物に従事する研究者や事業者を意識し,これまでに行われてきた古津波堆積物に関する研究を総括する.古津波堆積物の候補となる地層は,静穏な環境に堆積する泥炭層や泥層の中に見られることが多い.古津波堆積物の候補となったイベント堆積物は,層厚や粒度の変化,化石類,環境変化の同時性などによって総合的に評価され,津波堆積物であるかどうかを判断される.認定された津波堆積物の年代測定は,放射性炭素年代測定,過剰Pb-210法,Cs-137法,光ルミネッセンス法などによって行われる.特に放射性炭素年代測定では,測定物試料に十分注意しなければならない.例えば,津波堆積物の直上や直下から得られた大型植物化石や昆虫化石は信頼性の高い値を示すが,所謂bulk sampleでは信頼性の高い年代値は得られない.このような過去の津波堆積物の分布を平面的に追うことで,当時の最小限の浸水範囲を知ることができる.ただし,浸水域の復元には当時の海岸線の位置を考慮する必要がある.
著者
竹田 大輔 藤野 滋弘 澤井 祐紀 松本 弾 高田 圭太
出版者
日本堆積学会
雑誌
堆積学研究 (ISSN:1342310X)
巻号頁・発行日
vol.81, no.1-2, pp.3-17, 2023-02-28 (Released:2023-06-17)
参考文献数
37

津波堆積物を河川の氾濫など他のイベントで形成された層と区別するためには堆積物から遡上流・戻り流れを識別することが重要である.過去の津波の古流向を復元するため,Takada et al.(2016)が報告した礫質津波堆積物のX線CT画像を対象にして統計的仮説検定を用いた粒子インブリケーション解析を行なった.解析はTakada et al.(2016)のTSd1に相当する層(S1)に対して行い,2地点で採取した3本のコアを使用した.解析の結果をローズダイアグラムで示し,さらに得られた長軸方向角度データが従う分布型や,長軸方向角度データが統計学的に有意な集中を持つかを調べるために統計学的仮説検定を行った.その結果,S1層には遡上流と戻り流れのユニットが存在することが示された.S1層の中において遡上流のユニットは戻り流れのユニットよりも厚く,より頻繁に観察された.