- 著者
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小出 良吉
- 出版者
- THE JAPANESE FORESTRY SOCIETY
- 雑誌
- 日本林學會誌 (ISSN:0021485X)
- 巻号頁・発行日
- vol.24, no.7, pp.356-368, 1942
一般に樹冠大なれば,大なる程,林木の直徑生長は大なるも,此の當然と思はるゝ法則にも相當數の例外ありて例外を例外として放置し得ず,樹冠小にして特に樹冠長小にして生長良好なる林木の天然に併も相當數存在する事は無節用材育成上看過し得ざるも,數的に樹冠と生長との間の關係を示めす概論的の數値も之れ無き今日,本報に於ては先づ樹冠と生長との一般關係を數的に示めすべく上賀茂試驗地ヒノキ枝打試驗區(植栽當初hr當り3,000本程度現在(調査當時)立木本數1,000本程度)に於て1939年(皇紀2599年調査當時林齡26年生)及び1942年(皇紀2602年調査當時林齡29年生)の毎木調査結果より,生長不良林木並生長良好林木の樹冠状態の差異及び林木生育經過中に於ける樹冠の變遷に就き2cmのAbrundungcmによる直徑級別平均數値より概論的に,樹冠の大きさを構成する樹冠長,樹冠半徑,樹冠占領面積並に樹冠容量と胸高直徑生長との一般的關係を示めしたるものである。<br> (1) 上賀茂試驗地一齊同齡林ヒノキ26年生時及び29年生時の調査結果よりすれば,2cmのAbrundungによる直徑級を一級上昇せしむる即ち胸高直徑2cmを増大せしめるに必要なる樹冠構成要素及び樹冠容量の差,次の如く85cmの總樹冠長 (Gesamtkronenlänge), (林内木の總樹冠長の差は98cm~107cmにして85cmなる數値は林内木,林縁木を通じての數値なり)23cmの樹冠半徑 (Radien bei der grötfton Kronen-breite), 2.8m<sup>2</sup>の樹冠占領面積 (Schirmfläche), 即ち12.7m<sup>3</sup>の總樹冠容量 (Gesamtkronenraum) の差にて胸高直徑2cmの差を生ずる事となる。<br> (2) 上賀茂試驗地一齊同齡林林内木の樹高,胸高直徑並に樹冠状態の標準木たるnr. 77(調査當時樹高9.80m,胸高直徑9.7cm,總樹冠長7.08m)の過去幼齡時より現在までの樹冠長の増大經過は,大約一年間に24.3cm程度にて又胸高直徑生長經過は大約4年間にて2cmを増大し居るを以て,胸高2cmを増大するに必要なる總樹冠長の増大數値は24.3cm×4=97.2cmとなり,此の數値は上述 (1) よりの一齊林林内木に於ける胸高直徑2cmを増大せしむるに必要なる樹冠長の差98cm~107cmと非常に近似す。<br> (3) 以上よりして上賀茂試驗地ヒノキ枝打試驗區に於ては幼齡時(7年生)より現在(29年生)までの間に於ては,2cmの胸高直徑を増大せしむるには大約1m程度の總樹冠長の増大の必要なるを示めす。<br> 以上之等の數値は,筆者の枝打に關する研究に參考となる諸種の意味を含む爲此處に枝打に關する研究第五報として載げたのである。