著者
田口 一雄
出版者
The Japanese Association for Petroleum Technology
雑誌
石油技術協会誌 (ISSN:03709868)
巻号頁・発行日
vol.46, no.1, pp.1-13, 1981
被引用文献数
1

現在における石油の第1次移動に関する論争は,もっぱら石油のケロジェン根源説支持者間での論争である。対立は大きく水媒体移動説と油相移動説の2つに分れている。論争点の第1は,移動に利用し得られる水が存在するかどうかの問題である。圧密水,鉱物層間水の利用は多くの人々から否定される。天水の利用は特殊の場合のみに考慮されることがある。最大の論争は,地下深部の比較的温度の高いところ(〉300°C)での鉱物結晶水の利用の可能性をめぐって行なわれている。しかし全般的傾向としては,油相移動説支持者が圧倒的に多くなりつつある。ある地下深度のケージェンからの石油発生(液状石油の体積増加)と秩序水(structured water)の形成作用が相乗的に働き,孔隙間での飽和率が増加すると,石油は水とは独立的に単一液相として移動しうるとするのが多くの一致した見解である。<br>上記の諸点をふまえて,日本の新第三紀油田の第1次移動機構を考えると2つの可能な場合が存在する。<br>1つは,秩序水の形成がおよそ40%孔隙率程度で油相移動を可能にする場合である。この場合ケージェン起原の石油は対象とならないが,場所により1次ビチューメン中の炭化水素の移動が可能となろう。新潟油田の場合約1,300m,秋田油田の場合約800~900m深度で移動が可能となる。<br>今1つは,石油根源岩としての諸性質を考慮した場合で,女川,船川下部相当層中でのケージェン起原石油の油相移動である。特に女川相当層に存在するケロジェンラミナを通じての油相移動が重要視される。移動通路としては,マイクロフラクチュア,断層を通じての垂直移動,同一層準地層の岩相変化によって生じた層位トラップへの平行移動が考えられる。<br>上記2つの第1次移動は2者択一的なものではなく,地質条件に従って両者の機構による移動が行なわれたものと考えているが,大部分の石油プールは後者によって形成された公算が大である。

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