著者
行徳 健助 寺島 正一
出版者
財団法人 日本消化器病学会
雑誌
實驗消化器病學
巻号頁・発行日
vol.2, no.8, pp.925-935, 1927

吾人ハ甞テ人間ノ胃「リパーゼ」ニ就テ、其至適反應チ檢セル際、從來ノ多クノ學者ト同様P<sub>H</sub>=5.6-6.5前後ナルヲ報ゼシガ、其後胃液中ノモノヲ其マ、測定スレバP<sub>H</sub>=4.5附近ニテ最ヨク作用スル事ヲ知レリ。同一「リパーゼ」ニシテ何故ニ斯ル相違ヲ呈スルカニ就テ檢索セシニ、普通ノ如ク胃液中ニアルモノハ、最多量ノ不純物ト結合シ(又ハ混在シ)其結果トシテ酸ニモ抵抗強ク又P<sub>H</sub>=4.5ノ如キ強酸性ノ所ニテ尤ヨク働キ得レドモ、此「リパーゼ」ヲ「アセトン」又ハ「エーテル」等ニテ脱水シ一旦乾燥セシムレバ其結合物質ノ一部ハ失ハル、ヲ以テP<sub>H</sub>=6.0附近ヲ至適反應トスルニ至リ更ニ此物ヲ精製スレバ膵又ハ肝「リバーゼ」ト同様P<sub>H</sub>=7.6-7.8ヲ至適反應トスル様漸次變化スルモノナルヲ知レリ。<br>吾人ハ胃「リパーゼ」が其存在スル周圍ノ「メヂウム」ニヨリテ其性質ヲ異ニスルヲ知レリ。即チ自然的適合作用チリ。然ラバ永ク持續セル胃酸缺乏症ト胃酸過多症トノ場合ニ於テハ胃「リバーゼ」ノ至適反應ニ相違ヲ認ムルナキヤヲ檢査セシモ其結果ハ然ラズシテ胃液酸度ノ大小ニ論ナク胃液中ノマ、ニテハP<sub>H</sub>=4.5附近ニテ最ヨク作用スルモノナルヲ知レリ。<br>「ペプシン」ニ就テモ從來人類ノモノト犬ナドノ如キ動物ニ於テハ其至適反應ニ僅カノ相違アリト信ゼラレタリ。若シ此事ニシテ眞ナラバ犬ノ場合ノ如ク酸度高キ人類ノ胃過酸症ニテハ強酸度ノ所ヲ其至適反應トシ胃酸缺乏症或ハ常ニ「アルカリ」性ノ胃液ヲ有スル豚ドニテハ比較的弱酸性ノ所ヲ至適反應トスルニ非ズヤト考ヘタレドモ、事實ハ然ラズシテ「ペプシン」ハ其源ヲ人間ニ有スルト犬又ハ豚ノ如キ動物ニ由來スルトニ論ナク、又胃液酸度ノ如何ニ論ナク常ニ全ク同一ノ水素「イオン」濃度ヲ其至適反應トシテ有スル事ヲ知レリ。(自抄)

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