著者
荻原 清治
出版者
社団法人 日本蚕糸学会
雑誌
日本蚕糸学雑誌 (ISSN:00372455)
巻号頁・発行日
vol.13, no.6, pp.265-277, 1942

セリシンのみから成る繊維を吐糸せしめ此れを試料として實驗し次の如き結果を得た。<BR>1) 纎維の斷面は正常繭糸と著しく異り甚だしく圓形に近くなり充實度に於て最大99.5%に達し最小のものでも50%を下らない。<BR>2) 同一繭の同一部分に於ての断面積の偏差極めて大である。<BR>3) 吐糸に融合して極めて太き形を示ずものもあるが此の接着部は明かに認めることが出來ない。<BR>4) 繭層は融合をして恰も一枚の膜状を呈する。<BR>5) 膨潤度に於て繊維相の方向には極めて低いが其れと直角方向には極めて大なる膨潤を示す。此れはセリシン粒子の配列が縦の方向に緊密にして横方向に粗なるものと推定する。又膨潤度は生成された繊維の状態、處理後變性を起したるもの等により異り又浸液の性質によりて異る。吐糸直後のものでは最小膨潤度に於て480-220%のものを得た。又乾熱處理したものは150%を得た。此等の最小膨潤點は如何なる試料を問はずpH=40-4.5附近にあつた。此れは從來の研究者によるセリシンの等電圏内にあることが考へられる。<BR>6) 扁光色に於て無扁光のものより微黄色のもの迄得た。最も多く現はれたのは微灰色-灰色程度である。無扁光部は纎構の處々にある瘤状部であつた。此れより見てセリシンも牽引された儘乾固することによりて粒子の配列を起すことが明かとなり松永博士、小原博士、清水正徳弐等によりて認められたセリシン粒子の結晶性を一層明かにすることが出來た。<BR>7) 以上の如き扁光色は其の膨潤により次第に低下し消失して來る。而して其の浩失膨潤度は如何なる纎維を問はず大體500-900%の膨潤點にあることを認めた。此の附近に達するとセリシンは過剰なる水会を吸着して散亂状態を呈して來るものと考へられる。<BR>8) 以上の結果によりて天然セリシンに於ては吐糸に常つて膠状の儘外界に出て牽引された儘乾固する時は粒子の配列を起し膠状の牽引が緩められる時は瘤状となりて配列度を低下することが明かであり正常繭糸にあるものが小原博士の述べる如く灰色迄を現はすとすれば此の場合に於てセリシンにも牽引が行はれてゐることが認められ第7報の推定を明かにするものである。又腺内にある間は膠状であるために吐糸孔の形に影響されることが少なく吐糸されて後、大部分が圓形に近づくと云ふことは第7報に推定せしセリシンの吐糸過程を一層明確にするものである。<BR>9) セリシンの研究に常つて試料の採取方法が其の結果に極めて大きな影響のあることを指摘して將來の此の方面の研究上の參考とした。<BR>10) ブイブロインの膠潤度はセリシンの其れに比較して極めて低い。

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