- 著者
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西上 泰子
柳沢 幸雄
- 出版者
- 社団法人 環境科学会
- 雑誌
- 環境科学会誌 (ISSN:09150048)
- 巻号頁・発行日
- vol.8, no.2, pp.129-138, 1995
人口増加と食肉需要の増大に伴い,牛の飼育頭数は急激に増加した。かつて牛は草や農作物残滓を食べて,牛肉や牛乳,皮革を人類に提供し,役畜として働き,その排泄物は肥料にも燃料にもなった。現在は大量の牛の飼育のために放牧地の植生が劣化し,熱帯林が草地へ転換されている。特に先進国では穀物飼育を行い,畜産排泄物は淡水資源を汚染する。これら畜産による地球環境負荷を考察した。さらに温室効果ガス(GHG)の地球規模の排出に,牛が関与する割合を計算した。 牛の飼育とGHGの関係には,GHG発生量の増加と,吸収量の減少の二つの側面がある。放出されるGHGとして,牛のルーメンから発生するメタン,呼吸によるCO<SUB>2</SUB>,飼料用穀物の生産のために発生するCO<SUB>2</SUB>などがある。他方,過放牧のために植生が減少したり,また草地を作るために森林が開拓されて,大気からのCO<SUB>2</SUB>の吸収量が減少する。また化学肥料の使用によって亜酸化窒素(N20)も空気中に放出される。これらの植生劣化まで含めて計算した結果,人為的GHG総排出量に対して,牛が関与する割合はCO<SUB>2</SUB>で25%,メタンで19%,N<SUB>2</SUB>0では不確実性を伴うものの18%となった。メタンについては比較的短い寿命のために,大気中濃度安定化のための削減必要レベルは人為メタン総排出量の10%と小さく,牛の存在がなければメタンの問題は解決し,牛の関与分は大きいと言える。他方,CO<SUB>2</SUB>とN<SUB>2</SUB>0については削減必要レベルはそれぞれ60%以上,70~80%と大きく,世界中で牛の飼育を全部削減したとしても,地球温暖化問題を解決するほどではない。