著者
相崎 守弘 隅田 茜
出版者
社団法人 環境科学会
雑誌
環境科学会誌 (ISSN:09150048)
巻号頁・発行日
vol.18, no.5, pp.535-540, 2005-09-30 (Released:2010-06-28)
参考文献数
6
被引用文献数
1

木枠と遮水シートを組み合わせて作った水槽を使い,薄層緑化に対応する湿地型屋上緑化を施工した。1つの水槽面積は4.5m2とし4つの水槽を使って水位変化と水温変化を測定した。水位変化から蒸発速度と蒸発散速度を求めた。2つの水槽は植物を入れずに雨水だけとし,1つには水生植物を他の1つには陸生植物をゼオライト水耕法で植栽した。2003年夏期における平均蒸発速度は4 .5mmd-1で,水生植物を入れた水槽では7.2mmd-1,陸生植物を入れた水槽では6.Ommd-1であった。日最高水温は植物を入れない水槽ではしばしば40。C を超え60。Cに達する日も見られた。そのような日でも水生植物を入れた水槽では30。Cをわずかに上回る程度までしか水温は上昇せず,顕著な温度制御効果がみられた。陸生植物を植栽した水槽では水生植物ほどの顕著な水温制御効果はみられなかったが無植栽水槽に比べ水温変化は少なかった。1日の最高水温と最低水温の差も,水生植物を入れた水槽では5~10。C と植物を入れない水槽の15~20。C の変化に比べて著しく小さかった。
著者
室山 勝彦 大口 宗範 林 卓也 林 順一
出版者
社団法人 環境科学会
雑誌
環境科学会誌 (ISSN:09150048)
巻号頁・発行日
vol.14, no.2, pp.189-197, 2001-03-30 (Released:2010-06-28)
参考文献数
17
被引用文献数
1

本研究では,ビール工場において原料から製品に至る一連の工程に対して投入される電力ガス水道水等のユーティリティ,排出される有機廃水,ビールかす等の固形副産物などのエミッションに関して,ライフサイクルアセスメント・インベントリー解析に基づき,累積CO2排出原単位を指標として環境影響を評価した。すなわち,ビール工場で排出される有機廃液をメタン発酵処理し,バイオガスを回収しこれより燃料電池により電力を得て工程に還元するとき,また,副産物であるビール粕を,焼却,メタン発酵,乾燥などの処理を行った場合の,製品ビールにかかる累積CO2排出原単位への影響を検討し,より好ましい廃棄物処理法採用のための指針を得ることを目的とし,LCAインベントリー解析を行った。 あるビール工場において,廃液のメタン発酵によって回収されるメタンを燃料電池によって電力に変換して工程に還元する場合,全工程に投入される電力の9.74%が節減されることが分かった。また製品ビールへの累積CO2排出原単位の48.3%が水道,電力,ガス,灯油などの工程ユーティリティに由来することが明らかになった。これらから,廃液および廃棄物からエネルギーを回収して外部からのエネルギーの投入を低減することがCO2排出の削減に重要であるとわかる。しかし,製品ビールへの累積CO2排出原単位への節減は2.30%にとどまった。これは,製品ビールの相当の割合がアルミ缶でパッケージングされているため製品ビールへの累積CO2排出原単位を押し上げていることにも原因がある。もしアルミ缶の代わりにガラス瓶がパッケージングに使用されれば,さらなる累積CO2排出原単位の削減になることがわかった。またビール粕の乾燥を伴わない飼料化,コンポスト化,および焼却は実質的なCO2の排出につながらないと判断された。さらに,ビール粕をメタン発酵してバイオガスを回収し,排水処理のバイオガスも含めて燃料電池によって電力を得ることができれば,電力の59.8%が還元されることが分かった。
著者
西上 泰子 柳沢 幸雄
出版者
社団法人 環境科学会
雑誌
環境科学会誌 (ISSN:09150048)
巻号頁・発行日
vol.8, no.2, pp.129-138, 1995-05-31 (Released:2010-06-28)
参考文献数
21

人口増加と食肉需要の増大に伴い,牛の飼育頭数は急激に増加した。かつて牛は草や農作物残滓を食べて,牛肉や牛乳,皮革を人類に提供し,役畜として働き,その排泄物は肥料にも燃料にもなった。現在は大量の牛の飼育のために放牧地の植生が劣化し,熱帯林が草地へ転換されている。特に先進国では穀物飼育を行い,畜産排泄物は淡水資源を汚染する。これら畜産による地球環境負荷を考察した。さらに温室効果ガス(GHG)の地球規模の排出に,牛が関与する割合を計算した。 牛の飼育とGHGの関係には,GHG発生量の増加と,吸収量の減少の二つの側面がある。放出されるGHGとして,牛のルーメンから発生するメタン,呼吸によるCO2,飼料用穀物の生産のために発生するCO2などがある。他方,過放牧のために植生が減少したり,また草地を作るために森林が開拓されて,大気からのCO2の吸収量が減少する。また化学肥料の使用によって亜酸化窒素(N20)も空気中に放出される。これらの植生劣化まで含めて計算した結果,人為的GHG総排出量に対して,牛が関与する割合はCO2で25%,メタンで19%,N20では不確実性を伴うものの18%となった。メタンについては比較的短い寿命のために,大気中濃度安定化のための削減必要レベルは人為メタン総排出量の10%と小さく,牛の存在がなければメタンの問題は解決し,牛の関与分は大きいと言える。他方,CO2とN20については削減必要レベルはそれぞれ60%以上,70~80%と大きく,世界中で牛の飼育を全部削減したとしても,地球温暖化問題を解決するほどではない。
著者
小山 里奈
出版者
社団法人 環境科学会
雑誌
環境科学会誌 (ISSN:09150048)
巻号頁・発行日
vol.17, no.3, pp.205-210, 2004-05-31 (Released:2011-10-21)
参考文献数
15

窒素は植物にとっての必須元素の一つであり,大部分の植物は土壌中の無機態窒素を窒素源として利用している。植物が利用している土壌中の無機態窒素には,アンモニア態窒素と硝酸態窒素の二つの形態がある。植物が二つの異なる形態の窒素を吸収した場合,その後の同化過程は大きく異なる。アンモニア態窒素は直接有機態窒素へと同化されるのに対し,硝酸態窒素は酵素の働きによる還元過程を経て有機態窒素へと同化される。硝酸態窒素同化の第一段階は硝酸還元酵素による硝酸態窒素の亜硝酸態窒素への還元であり,この段階が硝酸態窒素同化全体の律速段階となっている。硝酸還元酵素は基質誘導性の酵素であり,この酵素を生成し硝酸態窒素を利用する能力は植物の種によって大きく異なる。硝酸態窒素は土壌粒子に吸着されず,系から流亡しやすいため,植物による硝酸態窒素吸収は系からの窒素流亡を防ぐ役割を果たし,系を構成する種の窒素利用に関する特性は窒素循環においても重要な意味を持つと言える。様々な量の硝酸態窒素を供給する実験:により,1)植物の硝酸還元酵素活性(NRA)は硝酸態窒素の供給量の増加に伴って上昇する,2)植物のNRAはある一定以上の硝酸態窒素の供給を受けると飽和に到達するが,NRAが飽和に至るのに必要な窒素供給量は種によって異なる,3)飽和に到達した時点のNRAの最大値も種によって異なる,ということが明らかにされた。これらの結果は,植物の窒素利用に関する種の特性を表すためには,窒素源としての硝酸態窒素に対する依存性と反応性が重要であることを示している。しかし,実験的に窒素の供給を受けた環境が,自然条件における土壌窒素養分条件と比較してどの程度であるのかを評価した研究は少ない。実験的研究と野外調査との比較を行い,窒素養分条件の変化に対する自然生態系の反応を解明するためにも,実験設定自体の定量的評価が今後の課題の一つであると言える。
著者
蒲生 昌志 岡 敏弘 中西 準子
出版者
社団法人 環境科学会
雑誌
環境科学会誌 (ISSN:09150048)
巻号頁・発行日
vol.9, no.1, pp.1-8, 1996-02-29 (Released:2010-06-28)
参考文献数
9
被引用文献数
1

発がん性物質を含む化学物質への曝露によるリスクの尺度として,損失余命を提案した。損失余命を用いることの利点は,曝露や影響の年齢を考慮できる点,および,がん以外の影響についても推定が可能な点である。ここでは,10-5という生涯発がんリスク(生涯曝露すると10万人に1人がその曝露により過剰に発がんするリスク)を,生命表を用いて損失余命に換算する手法を説明し,推定値を求めた。発がん性物質への曝露と過剰ながん死亡との関係について,放射線発がんのデータを基にしたモデルを基準モデルとし,モデルの検証の意味で,仮定を一部変更したモデルも検討じた。10-5の発がんリスクに相当する曝露レベルに生涯曝露することの損失寿命は66分と推定された。また,同様なレベルの曝露が存在する労働に20歳から49歳の間従事することによる損失寿命は12分と推定された。さらに,平均的な日本人が1年間曝露した場合の曝露年齢での損失余命は0.83分と推定された。
著者
碓井 健寛 田崎 智宏
出版者
社団法人 環境科学会
雑誌
環境科学会誌 (ISSN:09150048)
巻号頁・発行日
vol.29, no.4, pp.191-200, 2016-07-29 (Released:2016-12-23)
参考文献数
24

容器包装の削減(リデュース)の取組はどのように評価されているのだろうか。事業者のリデュースの対策について統計分析が包括的に行われてきたことはなかった。そこで本研究は,小売業者が独自に行っている容器包装削減の取組がどれだけ有効であるのか確かめるために,小売業者の容器包装使用量に関してパネルデータ分析を行った。具体的にはコンビニエンスストアとスーパーマーケットの5 年間の事業者別の容器包装使用量データを用いて,減量化対策の効果を検証した。その結果「有償化」だけが有意な減量効果を持つことがわかった。しかしそれ以外の取組は有意な減量効果があるとは認められなかった。
著者
遠藤 稔
出版者
社団法人 環境科学会
雑誌
環境科学会誌 (ISSN:09150048)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.1-10, 2003-01-31 (Released:2011-10-21)
参考文献数
28

日本各地でマツの大量枯死,いわゆる「松枯れ」が顕在化して久しい。しかし,松くい虫対策を実施しても一向に終息していない。いまだに,そのメカニズムが解明されているとは言い難い。最近,松枯れと大気汚染(酸性雨・酸性霧,酸性降下物,粒子状物質等)との相関関係が指摘されてきている。そこで,静岡県沼津市及びその周辺を調査域として,松枯れが多く交通量の激しい道路沿いと,松枯れがさほど見られない交通量の少ない道路沿いのクロマツの葉をそれぞれ採取し,気孔の閉塞状況の観察とその閉塞物質を特定した。その結果,交通量の多い道路沿いの松葉の気孔は形態的にも異常をきたし,しかも気孔の前腔が粒子状物質で閉塞している場合が多かった。この粒子状物質にはジベンゾアントラセン,ベンゾピレン等が含まれていた。これらが原因となって,マツが衰弱し,殺虫効果のあるとされるマツの心材に含まれているスチルベン類(ピノシルビン)の分泌が減少するため,マツへのマツノザイセンチュウの侵入が容易になる機構を提案した。
著者
張 允鍾 青木 誠治 河合 慎一郎 早瀬 光司
出版者
社団法人 環境科学会
雑誌
環境科学会誌 (ISSN:09150048)
巻号頁・発行日
vol.15, no.1, pp.59-66, 2002-01-31 (Released:2010-06-28)
参考文献数
11
被引用文献数
1

本研究では散乱ごみやごみの分別問題の現状を定量的に把握し,有効なごみ捨て行動のコントロール策を探るため,ごみ箱の位置,有無,種類などの効果について考察を行った。東広島市内の西条中央公園を系として3カ月にわたり,ごみ箱を系内に均等に分散させる均等分散型,人の滞留場所に配置する滞留場所型,公園の出入口に配置する出入口型の3種について,散乱ごみとごみ箱内のごみの組成分析を行った。缶びんの散乱率は均等分散型の時最も低く,滞留場所型配置の時は均等分散型の4倍以上であった。不燃ごみにおいても,滞留,出入口型配置より,均等分散型配置の時散乱率が最も低い結果となった。出入口型の時,ごみ全体の散乱率が最も高い結果となった。全てのごみに関して,滞留場所型や出入口型といった場所に配置するより,均等分散型配置の時散乱率が最も低く,散乱ごみ抑制で一番有効であることが分かった。ごみ箱を撤去した期間にごみの総量が最も低い値をとり,また家庭ごみも減る結果となった。分別型ごみ箱を設置すると缶びんごみの分別率は高いが,不燃ごみの分別率は低く,この分別率を高くさせる方策が必要である。
著者
平岡 喜代典 高橋 和徳 中原 敏雄 寺脇 利信 岡田 光正
出版者
社団法人 環境科学会
雑誌
環境科学会誌 (ISSN:09150048)
巻号頁・発行日
vol.13, no.3, pp.391-396, 2000-08-31 (Released:2010-06-28)
参考文献数
17
被引用文献数
5

岩国飛行場地先において,アマモ場内の裸地(水深0,1,2m)にアマモ草体を移植することにより,アマモの生育制限要因を検討した。水深0mのアマモ場対照地では,株密度は春から夏の高波浪時に減少し,水深1,2mと異なる季節変化を示した。水深2m(アマモの分布下限付近)の水中光量は,年間平均で3E/m2 /dayと推定され,光量がアマモの生育制限要因と考えられた。水深0mの移植株は,台風襲来後波浪による攪乱によって消失したが,水深1,2mでは株密度は対照地とほぼ同水準で推移し,移植後致命的な攪乱がなかったことを示した。また,アマモ場の生育地と近接する裸地は,底質が同様であっても底質内部の貝殻の出現状況に違いがあった。これらの結果から,波浪による攪乱,水中光量及び底質中の物理的性質がアマモの分布に影響する主要な要因と考えられた。
著者
吉田 稔 赤木 洋勝
出版者
社団法人 環境科学会
雑誌
環境科学会誌 (ISSN:09150048)
巻号頁・発行日
vol.17, no.3, pp.181-189, 2004-05-31 (Released:2011-10-21)
参考文献数
21

発展途上国での金採掘は小規模で,金の抽出に大量の水銀が使用される。この金属水銀が環境中に放出され大気や河川を汚染し,さらに水中で無機水銀からメチル水銀へ転換され食物連鎖を通じて魚介類への蓄積が生じる。金採掘に携わる作業者だけでなく,このメチル水銀による汚染が食糧源を魚介類に依存する住民に対し健康被害をもたらすと懸念されている地域もある。本稿では世界各地で行われているこのような金採掘とそれに伴う環境汚染や環境破壊の実態と問題点を明らかにする。
著者
田熊 保彦 加藤 茂 小島 紀徳
出版者
社団法人 環境科学会
雑誌
環境科学会誌 (ISSN:09150048)
巻号頁・発行日
vol.18, no.2, pp.85-92, 2005-03-31 (Released:2010-06-28)
参考文献数
34
被引用文献数
1

1970年頃まで使用されていた強力な毒性を有する有機リン系農薬は使用を禁止されたが,一部の農家などで未使用のまま保持され続けている。本研究ではパラチオン等の有機リン系農薬5種類をアルカリにより分解した。2種については室温でも十分速い分解速度が得られた。他の3種類については反応速度論的検討を行った結果,有機リン系農薬とアルカリとの反応は,それぞれに対して一次の二次反応であることがわかった。二次反応速度定数を決定し,さらにその温度依存性を定式化した。これにより,おのおのの農薬を十分分解するための条件を定量的に与えることができた。また,分子構造の違いが反応性に大きな影響を与えていることが確認できた。さらに,分解により生成した物質についてGC-MSを用いて定性分析を行ったところ,いずれも毒性が認められない分解生成物であった。以上のことから,アルカリによる分解は有機リン系農薬の無害化に有効な手段の一つであるといえる。
著者
横畠 徳太 高橋 潔 江守 正多 仁科 一哉 田中 克政 井芹 慶彦 本田 靖 木口 雅司 鼎 信次郎 岡本 章子 岩崎 茜 前田 和 沖 大幹
出版者
社団法人 環境科学会
雑誌
環境科学会誌 (ISSN:09150048)
巻号頁・発行日
vol.34, no.5, pp.214-230, 2021-09-30 (Released:2021-09-30)
参考文献数
45
被引用文献数
1

パリ協定における目標を達成するために脱炭素社会を実現し,今後も変化する気候に社会が適応するためには,多くの人々が気候変動のリスクに関して理解を深めることが重要な課題である。このため我々の研究グループは,これまでに気候変動リスク連鎖を包括的に分かりやすく可視化する手法の開発を行った。本論文では,我々が開発した手法によって得られた,水資源・食料・エネルギー・産業とインフラ・自然生態系・災害と安全保障・健康の7つの分野に関連するリスク連鎖の可視化結果(ネットワーク図・フローチャート)について議論することにより,気候リスク連鎖の全体像を明らかにする。また,可視化結果を利用して行った市民対話イベントの実例を紹介することにより,我々の開発したネットワーク図・フローチャートの有用性や,気候リスクに関する市民対話の重要性について論じる。さらに,日本における気候変動リスク評価の概要について紹介し,気候変動リスク連鎖を評価するための今後の課題について議論する。
著者
中村 洋
出版者
社団法人 環境科学会
雑誌
環境科学会誌 (ISSN:09150048)
巻号頁・発行日
vol.32, no.5, pp.153-163, 2019

<p>モンゴルでは冬から春にかけて,寒さや積雪などの複合的な要因により,家畜が大量死する自然災害"ゾド"が発生する。ゾドは牧民の生業であり,モンゴル国の基幹産業でもある遊牧に悪影響をもたらす。先行研究から,ゾド後,ウランバートルへの人口移動が起こったことや,ゾドにより家畜を失い,遊牧から離れ,転職できなかった世帯では,ドメスティック・バイオレンスなどの問題が起こったことが明らかにされている。しかしゾド後,遊牧から離れ,転職した世帯の特徴を定量的に明らかにした研究は,十分ではない。本研究は,ゾド発生後の牧民の転職要因を定量的に明らかにすることを目指した。調査は,モンゴル国で2010年に発生したゾドにより,最も家畜頭数が減少したドンドゴビ県内にあるサインツァガーン郡の牧民148世帯を対象に行った。ゾド後,148世帯のうち45世帯が家畜の大部分を失うか,家畜を他の世帯に預け,放牧地を離れ,都市に移動していた。そのうち年金生活に入った10世帯を除く35世帯のうち,15世帯が転職し,20世帯が転職していなかった。転職した15世帯と,転職しなかった20世帯の違いや,転職の有無と世帯の属性などの相関を分析した。その結果,転職した世帯は牧民が若く,多くがインフォーマルセクターに従事していた。一方,転職していない世帯は,年齢が高く,健康的な問題などがあった。それに加え,2012年当時は国が鉱山開発で得た収入を全国民に配分しており,無職であってもゾド前より所得は増えていたため,世帯主が転職の意思を強く持たなかった。しかし将来に向けて,社会的弱者のゾド後の生活を安定化させるための社会保障の充実や就業機会の創出が必要である。</p>
著者
中村 洋
出版者
社団法人 環境科学会
雑誌
環境科学会誌 (ISSN:09150048)
巻号頁・発行日
vol.32, no.6, pp.193-203, 2019

<p>モンゴルでは冬から春にかけて,寒さや積雪などの複合的な要因により,家畜が大量死する自然災害"ゾド"が発生する。ゾドは牧民の生業であり,モンゴル国の基幹産業でもある遊牧に悪影響をもたらす。先行研究から出張放牧"オトル"は,ゾドによる頭数減少を緩和する効果を有することが明らかになっている。オトルをする世帯には,頭数が多いなどの特徴があることも分かっている。ただし,都市の存在は牧民の放牧地利用を変えるほどの影響力があり,オトルにも影響を与えていることが仮定されるものの,オトルと都市の関係を明らかにした実証的な研究は十分とは言えない。本研究は,有効な牧民の災害回避行動であるオトルの実施と,都市との関係を明らかにすることを目指した。調査は,モンゴル国で2010年に発生したゾドにより,最も家畜頭数が減少したドンドゴビ県内にあり,県内最大の都市"マンダルゴビ"のあるサインツァガーン郡の牧民148世帯を対象に行った。分析の結果,県外にまで出るような長距離のオトルは,夏から秋,冬から春ともに家畜頭数の減少を緩和していた。ただし,マンダルゴビの学校に通う子どもがいる世帯は,ゾド前の夏から秋にかけて,県外に出るような長距離のオトルをしていなかった。子どもの食生活の嗜好の変化や,より進学に有利な環境を望む親の意向により,マンダルゴビ周辺に留まったものと考えられる。ゾド発生時の冬から春のオトルに関しては,労働力が不足し,遊牧経験の短い世帯は長距離のオトルをしていなかった。労働力は移動をしにくくし,遊牧経験が短いことで,寒さをしのぐ畜舎などをオトル先で借りるための調整に課題があった可能性がある。有効な災害回避行動であるオトルを,県を越えるような長い距離でできるように,夏から秋のオトルでは,社会の変化に合わせた教育環境の整備と,冬から春のオトルでは,行政等による畜舎などを借りやすくする調整が必要と考えられる。</p>
著者
青柳 みどり 兜 真徳
出版者
社団法人 環境科学会
雑誌
環境科学会誌 (ISSN:09150048)
巻号頁・発行日
vol.19, no.2, pp.167-175, 2006-03-31 (Released:2011-03-01)
参考文献数
3
被引用文献数
1

本論文では,一般の人々の電磁波問題に関するリスク認識認知や態度形成について,社会的なガバナンスの観点から議論を行う。電磁波問題は,新しく出現したリスクの典型である。それは,熱による影響以外の,特に超低周波(Extremely Low Frequency:ELF)の健康影響については,専門家の間での科学的評価が未だ合意に至っていない問題であるためである。暴露の周波数によって異なる健康影響がもたらされるのであるが,それがどの周波数の場合はどのような影響なのか,不確定なのである。このような状況下で,我々は,「予防的方策・予防原則」が社会的なガバナンスを考える上で重要な原則となると考えた。そして,この予防的方策・予防原則についての支持をみるために,インターネット調査を全国5000人の一般の人々を対象として実施した。この予防的方策・予防原則の支持についての要因をロジット回帰分析によって抽出したところ,予防的方策・予防原則を支持する有意な要因として,携帯電話への依存指数(常に携帯電話を使っているなど携帯電話への依存度を表す指数),携帯電話不安指数(携帯電話がないと不安,等不安度を表す指数)があがったが,送電線への不安は有意な変数としてはあがらなかった。これは,携帯電話については個人の使用状態を制御することでリスクの制御が可能であるが,送電線については個人ではまったく制御不可能であるためであると考えられた。
著者
多田 満
出版者
社団法人 環境科学会
雑誌
環境科学会誌 (ISSN:09150048)
巻号頁・発行日
vol.31, no.5, pp.207-216, 2018-09-30 (Released:2018-09-30)
参考文献数
19
被引用文献数
2

社会対話の実践「環境カフェ」を学内や公共のカフェにおいて,2015年4月から2018年3月までに合計56回,のべ305人(平均5.4人/回)の参加で開催した。「第2回環境カフェ駒場」開催後の参加者の感想では,6名以内の開催が適当であるとされた。また「環境カフェ」は専門的な知識に対する参加者の理解に加え専門家も含め市民相互の共感をえること(共感の場)を目的とする。「環境カフェ本郷」(2016年度に5回)開催後のアンケートの結果,理解と共感について「できた」の回答が,各回の参加者全体の平均で68%(30~100%)と58%(30~67%),「ある程度できた」が32%(0~40%)と42%(33~70%)で,「できなかった」はすべて0%であった。また,高校生(のべ12人),大学生(16人),社会人(2人)の理解については,「できた」と「ある程度できた」の回答が,それぞれ75, 56, 0%と25, 44, 100%,共感については,それぞれ67, 50, 0%と33, 50, 100%であった。
著者
棟居 洋介 増井 利彦
出版者
社団法人 環境科学会
雑誌
環境科学会誌 (ISSN:09150048)
巻号頁・発行日
vol.25, no.3, pp.167-183, 2012 (Released:2013-06-11)
参考文献数
27

地球温暖化対策や循環型社会の構築を目的として,石油化学プラスチックを植物由来のバイオマスプラスチックへ代替していく動きが始まっているが,バイオマスプラスチックの主原料はトウモロコシやサトウキビなどの食用作物であり,その普及は途上国の食料不安を増大させる可能性がある。そこで,本研究では国際応用システム分析研究所(IIASA)の修正SRESシナリオにもとづいて,2050年までのバイオマスプラスチックの普及と原料作物需要の関係を分析し,途上国の食料不安に及ぼす影響の評価を行った。バイオマスプラスチックの普及率はBREWプロジェクトの予測から想定し,原料作物についてはサトウキビおよびトウモロコシの実,葉茎を想定した。本研究から以下のことが明らかになった。1)世界全体のプラスチック需要量は,2009年には2億3,000万トンであったが,2050年にはA2r,B1,B2の3つのシナリオで,各々8億3,100万トン,12億1,100万トン,10億7,000万トンまで増加する。需要の増加のほぼ全てはアジアを中心とする途上国で起きる。2)バイオマスプラスチックの普及率が2050年に8%から62%に達すると想定すると,原料としてトウモロコシが1億1,200万トンから11億100万トン,サトウキビが4億1,600万トンから40億9,500万トン必要になる。これらの原料需要の最大値は,同年のトウモロコシとサトウキビの食用生産見込み,9億5,900万トン,19億6,600万トンを上回る。3)途上国の食料不安の主因は貧困であり,バイオマスプラスチックの普及率が低いシナリオでも,その需要の増加は食料価格の上昇を通して低所得国の食料不安を増大させる可能性が高い。4)バイオマスプラスチックについてもバイオ燃料と同様に,その利用に関する持続可能性基準の策定が必要である。
著者
青島 一平 内田 圭 丑丸 敦史 佐藤 真行
出版者
社団法人 環境科学会
雑誌
環境科学会誌 (ISSN:09150048)
巻号頁・発行日
vol.30, no.4, pp.238-249, 2017-07-31 (Released:2017-07-31)
参考文献数
36

都市緑地は都市域における重要な生態系サービス源であり,都市住民の生活満足にも貢献している。しかしながら,都市部における人口増加に伴って,緑地が提供する生態系サービスが十分に考慮されずに都市開発が進められている。都市部の緑地が軽視されてしまう理由として,生態系サービスが可視化されていないことが挙げられる。市街地に点在する都市緑地が果たす役割は生態系サービスの中でも文化的サービスによるところが大きく,その価値は一般的な市場では取引できない性質のものである。本研究では,こうした非市場価値を貨幣評価するためにLife Satisfaction Approach(LSA)を適用する。この手法を用いることで,人々の主観的な生活満足度が緑地から受けている影響を貨幣単位で評価し,それを緑地の価値として認識することができる。本研究は兵庫県の六甲山系を含む阪神間地域を事例に,GIS(地理情報システム)を利用して地理データを独自に構築した。都市緑地については学校林,社寺林,公園緑地を特定した。その上で,同地域で社会調査を実施し,それらデータを合成して緑地の価値評価を行った。その結果,生活満足度をベースにしたときに,都市緑地は森林の6倍程度の価値を有することが示された。さらに本研究では心理学分野で使われるK6指標を採用することで,緑地が近隣住民の精神的健全性に与える影響についても分析した。結果として,都市緑被率の高いところに居住する人ほど,精神的健全性が良好な状態にある傾向を示した。さらに都市緑地の中でも社寺林が精神的健全性に与える影響が顕著であることを示した。本研究では,LSAを適用して森林と都市緑地の価値を区別して推定した。それによって都市緑地は近隣住民の主観的福利に大きく貢献していることが明らかとなり,主観的福利の観点から都市緑地の評価を行う必要性が示された。一方で森林については,LSAでは価値の過小評価につながってしまう可能性が示唆された。
著者
近藤 敏仁 北島 信行
出版者
SOCIETY OF ENVIRONMENTAL SCIENCE, JAPAN
雑誌
環境科学会誌 = Environmental science (ISSN:09150048)
巻号頁・発行日
vol.20, no.5, pp.399-407, 2007-09-28
参考文献数
28

土壌汚染対策法の施行(平成15年2月)をきっかけとして土壌汚染の調査事例件数が大きく増加し,これに伴って環境基準超過事例の件数も年々増えてきている。多様化する汚染サイトの諸条件にあわせて,浄化手法の選択肢も多岐にわたることが望ましい。我々は,低コスト・低環境負荷型の土壌汚染浄化の1手法として,ファイトレメディエーションに注目し,技術開発と実汚染サイトへの適用に取り組んでいる。重金属による汚染土壌には,汚染物質を植物に吸収,蓄積させて,蓄積させた後の植物体を収穫することにより土壌を浄化するファイトエクストラクションが有効である。 平成18年11月に発表された環境省の調査結果によると,ヒ素はわが国において基準超過件数が鉛についで多い元素である(累積)。また自然由来の汚染事例が多く報告されており,ファイトレメディエーションの適用が期待される汚染物質である。 2001年にイノモトソウ科のシダ植物であるモエジマシダについて,ヒ素を吸収・蓄積する能力があることが報告された。筆者らは,室内試験実サイトでの栽培試験により,モエジマシダがヒ素浄化用の植物として有望であるものと判断した。 モエジマシダの持つヒ素汚染除去能力は極めて高いものであるが,実汚染サイトにおける浄化効率は土壌条件,とりわけ汚染土壌に含まれるヒ素の化学形態に大きく左右されると考えられることから,トリータビリティ試験の検討も進めている。 本報告では,モエジマシダを用いたヒ素汚染土壌のファイトレメディエーションに対する筆者らの取り組みを紹介し,今後の展望を述べる。
著者
谷本 能文 泉 俊輔 古田 耕一 鈴木 友恵 藤原 好恒 平田 敏文 山田 外史 伊藤 喜久男
出版者
社団法人 環境科学会
雑誌
環境科学会誌 (ISSN:09150048)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.61-67, 2000-02-29 (Released:2011-03-01)
参考文献数
19

ミドリムシに対する強磁場の影響について研究した。生きているミドリムシは,水平方向の勾配強磁場(380T2m-1)中では,高磁場方向に移動する(正の走磁性)。一方,EDTAで殺したミドリムシは,低磁場側に集まった。8Tの均一磁場では走磁性は見られなかった。強磁場中のミドリムシの顕微鏡観察の結果,ミドリムシは磁場とほぼ垂直方向に配向して泳ぎ,また殺したミドリムシも磁場配向していた。ミドリムシの正の走磁性は,ミドリムシの磁場配向とミドリムシにかかる不均一な磁気力の2つを考慮することにより説明された。