- 著者
-
黒原 正人
- 出版者
- JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
- 雑誌
- 日本理学療法学術大会
- 巻号頁・発行日
- vol.2008, pp.E3P1252-E3P1252, 2009
【はじめに】<BR> 「食べる」ことは生命活動の根幹であり、生きていくために不可欠な行動として日常生活の中で行われている.しかし、高齢者は様々な理由で、咀嚼能力の低下や嚥下障害を起こすことが多い.そのため、咀嚼に問題がある場合は軟らかい素材の選択や、すりつぶして噛まずに飲み込めるような工夫を行う.このように、質の高い食生活を送るには、安全で適切な食形態を選択することが必要となる.食形態は噛むことを包括した口腔機能を反映するとされる.従来、口腔機能と全身状態との関係には何らかの関連があることが指摘され、全身状態の低下に伴い食形態が変化することは臨床でもよく経験する.そこで本研究は、全身状態の指標としてADL能力に着目し、食形態とADL能力の関係を調べる目的で行った.<BR><BR>【対象・方法】<BR> 対象は、2006年4月から2008年4月までに当院の回復期リハビリテーション病棟から退棟した症例のうち、再発症例や状態悪化等で転院・転科した症例及び嚥下障害の認められる症例を除いた129例を対象とした.方法は、食形態の評価は摂食機能と食形態に応じて3区分(並食群・軟食群・粥食群)に分類、ADL能力についてはFIMを用いた.統計処理は、食形態とFIM得点の関係にSteel-Dwass検定を用いた.統計解析にはR Ver2.7.0を用い、統計学的有意水準は5%未満及び1%未満とした.なお、本研究は当院倫理委員会での承認を得て行った.<BR><BR>【結果】<BR> 食形態とFIM得点(合計点)の関係において、並食群と粥食群の間に有意差(p<0.05)が認められた.なお、食形態別のFIM得点(合計点)の中央値は、並食群=106.5点、軟食群=96.5点、粥食群=93.0点であった.<BR><BR>【考察】<BR> 食形態が軟らかくなるにしたがって、ADL能力が低下する傾向が認められた.したがって、食形態とADL能力には何らかの因果関係があり、食形態はADL能力に影響を与える可能性があると考えた.しかし、臨床場面において口腔機能とADL能力との関連性を検討する場合には、口腔機能がADL能力へ影響を与えるのか、逆にADL能力が口腔機能へ影響を与えるのか、さらには他の要因なのかを患者個々に考察する必要がある.したがって、食形態だけで全てが決定されるわけではなく、種々の周辺症状に影響されることにも注意が必要である.多くの高齢者は、食事は一番の楽しみであり、より快適により安全なものにする必要がある.しかし、食形態の選択は、口腔機能を考慮しない安易な選択が多いのが現状で、食べさせてみた結果から判断しているのが大部分であると思われる.しかしながら、本研究で食形態はADL能力に影響を与える可能性があると考えたように、食形態の適切な選択は非常に責任あることであり、患者一人ひとりの特徴と状態を理解し、それぞれに合った選択が必要である.