著者
大西 伸悟 足立 昌夫
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.Bb1413-Bb1413, 2012

【はじめに】 抗NMDA受容体抗体脳炎は、Dalmau(2007年Ann Neurol)らによって卵巣奇形腫に関連した傍腫瘍性抗NMDAR脳炎として12例が紹介された。本邦では、若年女性に好発する非ヘルペス性急性脳炎として報告されているが、病態について明確ではない。これまで本邦において、本疾患における理学療法の介入報告はなかった。今回我々は、13歳の抗NMDA受容体抗体脳炎症例への理学療法の介入を病期に分けて検討し若干の考察を加えて報告する。【方法】 症例は13歳女性。既往歴に特記事項なし。入院2~3日前から不穏、軽い健忘、不安感や悲観的な感情失禁、幻聴などあり、精神科病院を受診し頭部CT施行するが明らかな異常所見はなし。その後不穏状態が悪化し鎮静された状態で脳炎及び脳症などの精査目的で当院小児科へ紹介入院となった。入院直後の、MRI、脳血流SPECT、髄液検査(細胞数、蛋白)などの検査では異常所見は認めず。第24病日の髄液及び血清中の抗NMDA受容体抗体が陽性と判明し本疾患の診断に至った。本症例に行った理学療法の介入を、飯塚ら(2008年、BRAIN and NERVE)が提唱する臨床病期分類に沿って後方視的に検討した。【説明と同意】 本研究はヘルシンキ宣言の倫理規程に準拠し、症例の発表について、本人と家族にその目的を説明し同意を得た。【結果】 前駆期と精神病期は当院入院2~3日前からみられたが、明らかな先行感染症状はなく、統合失調症様症状を呈した。無反応期では第11病日に呼吸抑制と意識障害が出現、ICU病棟にて気管内挿管下での呼吸管理が行われた。不随意運動期は第12病日から52病日にみられ、筋強直など多彩な不随意運動と血圧や心拍変動など自律神経症状が頻発し理学療法は処方されたが施行困難であった。第39病日不随意運動にて挿管管理が困難となり気管切開術を施行。緩徐回復期は第52病日以降でみられ、初期には意識障害が強く、呼びかけや感覚刺激への反応は乏しかった。しかし、不随意運動が始まると徒手的な抑制は困難となり投薬での鎮静が行われた。車椅子座位では10分程度で不随意運動が出現した。第150病日以降では覚醒時間が徐々に増え口頭指示にも反応を示した。車椅子上では30分~1時間程度座位可能となった。しかし覚醒レベルは低く、立位練習を試みるが両下肢の支持性は得られなかった。後期に入ると、発語が増え車椅子やベッド上での座位活動時間が増加。第270病日には病室にて腋窩介助での自動様歩行が出現したが、歩行練習では廃用性筋萎縮による不安定性と股関節を起因とした失調様の跛行がみられた。症例にセラピストの肩を把持させ、骨盤または腋窩を介助することで下肢への荷重量の軽減および骨盤の動揺が軽減でき以後の練習が進んだ。発症より第360日で独歩を獲得し、第400病日には家族の監視下にてADL自立となり退院となった。退院と同時に理学療法も終了となったが、記憶障害と軽度の失語症が残存し、元の学校の特別支援学級への復学となった。【考察】 本症例は飯塚らの報告とほぼ同様の臨床経過となったため、その病期分類に沿って検討した。本症例への理学療法の介入は不随意運動期からであった。不随意運動期には多彩な不随意運動と血圧や心拍変動など自律神経症状がみられ積極的な介入や練習課題の変更は困難であった。一方、緩徐回復期では、薬物による不随意運動の調整が徐々に可能となったが意識障害の残存期間が長く、理学療法を積極的に進めたが離床が困難で歩行獲得には時間を要した。その原因については、庄司ら(2009年国際医療福祉大学紀要)の症例と同様、下肢の廃用性筋委縮、記憶・注意障害などが影響を与えたと思われた。本疾患の予後についてDalmauらは、完全回復とほぼ回復が75%、重度後遺症が18%、死亡が7%、脳炎再発率は15%とし、比較的良好としている。しかし、記憶・注意障害については回復までに時間を要し、残存例も多い。本症例の復学状況もそれに類似していた。以上のことより本症例における理学療法は、前駆期から不随意運動期での介入は困難であったが、緩徐回復期では積極的に介入できたと考える。一方で、離床開始時期や立位歩行練習の開始時期については、不穏並びに意識障害や失語症などが正確な評価を困難にした。そのため、緩徐回復期移行後の不随意運動と失調様歩行に留意した介入方法などについて検討が必要と考えられた。【理学療法学研究としての意義】 抗NMDA受容体抗体脳炎は病態について明確な報告はされていない。また、予後に関する報告は散見されるが理学療法の介入に関して検索し得た範囲では皆無であった。本疾患における理学療法の介入では、精神症状や不随意運動、呼吸管理など多彩な症状に対して適切な対応が求められる。今回の報告が、本疾患に対する理学療法の関わりについて一助になると考える。
著者
長田 悠 檀辻 雅広
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.Bf0856-Bf0856, 2012

【はじめに】 重度な意識障害を呈した両側片麻痺患者に対し意識レベルの向上を目的とした言語刺激入力,関節可動域(以下ROM)運動,端座位練習を行ったが意識レベルに変化は得られなかった。そこで,意識の調節を司る脳幹網様体への入力をさらに増加させるため,長下肢装具(以下LLB)を装着した立位で積極的な抗重力刺激や体性感覚入力を行った。その結果,意識レベルが向上し,表情や手の動きによる非言語的な意思表出が可能となった。また頚部・体幹や股関節周囲筋が賦活されたことで車椅子座位保持が可能となり,家族ニーズが達成されたので報告する。【症例紹介】 症例は80歳代,男性。右視床出血発症後,保存療法を経て49病日目に当院回復期病棟へ入院となった。出血巣はCT上直径2.5cm大で視床から内外側に伸展し,内包後脚,中脳に及んでいた。また,両側脳室,第3脳室に穿破していた。既往は4年前に左被殻梗塞があるが,後遺症なくADLは自立であった。前院理学療法(以下PT)ではROM運動,端座位練習を実施され,わずかに頷きや手の動きを認めていたが,反応には日内・日差変動が見られていた。家族ニーズは意志疎通を図りたい,車椅子で移動可能となりたいであった。【説明と同意】 家族に口頭で説明し同意を得ている。【経過】 初期評価(49病日目)時は意識レベルJCS II-20,GCS E3V1M6であり,コミュニケーションは理解表出共に困難であった。Brunnstrom Stageは左上・下肢,手指共にI,右上・下肢,手指共にIV,ADLは全介助,食事は経鼻経管栄養,排泄は膀胱留置カテーテルであった。 PT開始当初は言語刺激入力,ROM運動,端座位練習を行い,意識レベルの改善を試みたが,血圧や血中酸素飽和度などの全身状態に変動を認めた。PT開始30日頃より徐々に全身状態が安定したため,起立テーブルを用いた立位訓練による抗重力刺激入力を開始したが,意識レベルに変化はみられなかった。また,標準型車椅子座位姿勢は頚部・体幹が大きく崩れるため保持不可であった。 そこでPT開始75日目から,より豊富な体性感覚を入力するために左下肢にLLB,右下肢に膝装具を装着した腰掛立位を行なったところ,開眼持続可能となるなど覚醒レベルの改善が見られ始めた。立位練習開始当初は介助量が多く,立位保持だけに留まっていたが,徐々に体幹・下肢の抗重力筋の活動がみられ,右下肢の支持性が向上した。開始100日目より,自動介助にて右下肢ステップ練習,右上肢のリーチ練習,左下肢を軸にして方向転換をする移動練習などを取り入れ,より積極的に体性感覚入力を継続して行った。その結果,PT開始143日頃に標準型車椅子座位姿勢の崩れが軽減し自力での保持が可能となった。意識レベルは日内変動がなくなり,JCS I-3,GCS E4V1M6となった。また,問い掛けに対して表情変化や頷き,手の動きで応答することが可能となり,さらに鼻を掻く,ピースサインを出すなどの目的を持った右上肢の動作がみられるようになった。【考察】 Magounらの提唱した上行性網様体賦活系は,中脳から延髄にわたる網様構造をした神経組織である脳幹網様体の興奮を視床の非特殊核を中継し,大脳皮質に広く投射することで意識の保持に関与すると考えられている。また,意識障害は大脳皮質の広範な障害による活動低下か脳幹網様体の障害によって生じるといわれており,本症例は広範な出血により中脳も損傷されたため脳幹網様体の機能低下を生じ,重度意識障害を呈したと考えられる。 意識障害に対するPTは端座位や立位などの抗重力位をとることが有効であるとされている。当初は本症例にも同様に実施したが,意識レベルに著明な変化は得られなかった。そこで,抗重力位でより積極的な体性感覚による感覚刺激入力を行なった結果,意識レベルが向上し日内変動が見られなくなった。これは脳幹を上行する感覚の求心性路は脳幹網様体に側枝を出すと言われていることから,本症例に対し積極的に体性感覚入力を行ったことが上行性網様体賦活系の活性化に繋がり,意識レベルが向上したと考えられる。また,意識は注意・行為・言語などの高位機能の基盤であるといわれていることから,本症例が意思表出可能となったのは意識レベルが向上した結果であると考えられる。【理学療法研究としての意義】 重度意識障害の症例に対して,積極的に体性感覚入力を行うことで意識レベルの向上が得られた。理学療法士として運動機能の回復のみならず,意識レベルを向上させることでコミュニケーション能力の回復にも寄与することが出来ることを学んだ。
著者
木村 勝志 藤島 涼子 中村 美香
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2004, pp.E0163-E0163, 2005

【目的】運動習慣形成には運動の大切さの認識と運動している事を自覚することが必要である。行動変容段階モデルの無関心期、関心期から準備期、実行期に移行してもらう動機付けとして運動教室を開催し、歩数とQOLの変化から効果的な支援方法を検討した。<BR>【方法】教室は2004年9月と10月に週1回を連続8回約7週間続けて開催した。対象者は40代50代を広報紙にて募集し、継続参加した44名とした。内訳は男性1名、女性33名、平均年齢52.3±4.4歳であった。1回平均参加人数33.5±7.8人、1人の平均参加回数6.1±1.4回であった。内容は、一回と八回に「運動」「栄養」の講話を行い、二回から七回の計6回は実際に運動を行った。二回以降の内容は「ストレッチ&リズム体操」「ダンベル体操」「ウォーキング」「体力テスト」「ソフトバレー」「山登り」とした。教室日以外でも運動が自覚されるように毎日の歩数を万歩計で計り日誌に記録することを義務付けた。健康関連QOLの評価にはSF-36を用い、初回と終了回の2回記入してもらった。<BR>【結果】運動習慣有り(以下有群)と無し(以下無群)に分けて検討した。有群30人(52.8±4.4歳)、無群14人(51.4±4.5歳)であった。7週間の平均歩数は有群9,293.3±2,889.1歩、無群8,213.3±3,491.7歩であり約1,000歩の差があった。各週の平均歩数は五週と七週以外は有群が無群より多かった。また、一週目の歩数を基準とし以降の週との歩数差を増加歩数として比較した。平均増加歩数は有群783.5±716.2歩、無群1,727.0±871.7歩であった。無群は有群より約1,000歩多く増加していた。SF-36の8の下位尺度の点数は、各群初回より終了回が高くなっていた。「活力」と「心の健康」は有群が初回終了回ともに高く、「身体機能」は無群が初回終了回ともに高く、「社会生活機能」「身体の痛み」「日常役割機能(精神)」は初回有群が高く終了回は無群が高くなっていた。<BR>【考察とまとめ】健康日本21の目標で健康的な目標歩数は現状プラス1,000歩で男性9,200歩以上、女性8,300歩以上とされている。女性の目標値と比較した場合、7週間の平均歩数で有群は目標数を約1,000歩上回り、無群は約100歩下回っていた。有群の一週目は平均8,719.7歩と既に目標数を超えており、以降の週の増加歩数は平均783.5歩であった。無群の一週目は平均6,942.0歩で、日本人女性1日平均7,282歩を下回っていたが一週目以降の増加歩数は平均1,727.0歩であった。QOL尺度からは、無群の「身体機能」は有群より低くなく、教室参加を機会に歩数が多く増加したとみられる。また、歩数増加が日常生活に取り込まれ「社会生活機能」「身体の痛み」「日常役割機能(精神)」を有群より高くしたと考えられた。有群は日常の運動習慣に加えて教室に参加することで「活力」が高まり、「心の健康」も得られたのではないかと考えられた。
著者
光村 実香
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2012, pp.48101822-48101822, 2013

【はじめに、目的】訪問リハビリテーション(以下、訪問リハ)は、利用者の生活を基盤としたリハビリテーション(以下、リハビリ)を展開することが重要である。そのためにリハビリ専門職である理学療法士(以下、PT)、作業療法士、言語聴覚士らは訪問リハを行う上で自らの職業専門性を発揮することが必要だと考える。しかし現在、訪問リハにPTが携わることの意義や効果については不明確である。そこで本研究では、訪問リハにおいてPTがどのような関わりや場面で理学療法の専門性を意識し、実践しているかのプロセスを明らかにすることを目的に行った。【方法】対象者はスノーボールサンプリング法により抽出された訪問リハ経験年数1~12年のPTp9名(女性6名、男性3名)である。調査期間は2012年3月6日~2012年11月7日であった。まず訪問リハ業務で理学療法の専門性が役に立った(役に立っている)経験や他職種と関わりの中でのPTとしての役目などについての質問項目をインタビューガイドとして作成し、それをもとに半構造化面接を行った。面接時間は60~90分、インタビュー内容は録音し、インタビュー終了後逐語録におこした。分析は、修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチ(M-GTA)を用いて、概念やカテゴリーを生成し結果図を作成した。【倫理的配慮、説明と同意】研究説明書を用いて研究手順や個人情報の保護等について説明を行い、同意書の署名をもって研究参加の承諾とした。内容は1)調査結果は連結可能匿名化を行い、個人が特定されないようにすること2)調査結果は厳重に保管し、研究以外の目的で使用されないこと3)研究への参加は自由意志で調査の途中でも参加を拒否することができ、それによって不利益を生じないこと4)本研究への協力に関する謝金の支払いがないことである。【結果】【カテゴリー】3、〈サブカテゴリー〉2、「概念」11を抽出した。PTが訪問リハにおいて理学療法の専門性を意識し、実践するプロセスは、他職種や家族との協業を通して利用者の生活動作をより良いものに創作するためにPTの専門的知識技術を再認識し、役割を見出していくことであった。以下に【カテゴリー】、〈サブカテゴリー〉、「概念」を用いてストーリーラインを示す。訪問に従事するPTはまず、利用者が「生活の中でしたいこと」を聞き出し、叶えようと努める。また維持期に入り大きな機能変化が望めない場合でも現状の「在宅生活を成り立たせるために」身体・精神的関わりを探り、安心して生活できるようにする。一方で利用者や家族、他職種には「リハビリに対する絶対的病院イメージ」があるため病院で行うリハビリを期待され、PTが考える生活を基盤としたアプローチとの間に相違が生じる。こうした要因の中でPTは【訪問でPT関わる意味を模索】し、悩む。しかし「限られたサービス時間・頻度」や利用者の生活全般を支えるのが「家族やヘルパーが介護の主体」であることから、訪問時の直接的アプローチだけではなく【他職種や家族との協業で成し得ること】を基盤にアプローチの幅を広げていく。すると他職種との関わりの中で【PTの専門性を意識した関わり】として「生活を見据えた身体機能評価」や「安全に動きやすくすること」、「動作から現象を説明すること」が〈PTだからこそ言えること、できること〉だと認識し、「情報発信伝達役」、「生活環境課題発見役」、「生活動作評価役」など動作からみて考えること、それを他者へ伝えることで他職種との差別化を図り〈PTが関わることの役割を見出す〉。【考察】在宅という特性から活動や参加を意識したアプローチが必要であり、そのために利用者以外にも家族や他職種など様々な背景や立場を持った人々と協業関係を構築しながらアプローチを展開しなければならない。この関わりを通して訪問に従事するPTは、病院でのリハビリとの差異を感じながら、訪問業務における理学療法の専門性について意識し考えるようになり、PTが関わることの意義を見出そうとしていると考えられる。【理学療法学研究としての意義】訪問リハでのPTの役割を明確化する一助となる。それにより他職種との連携が図りやすくなり、利用者に質の高い理学療法を提供することができる。
著者
槌野 正裕 荒川 広宣 石井 郁江 西尾 幸博 高野 正太 山田 一隆 高野 正博
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2010, pp.AcOF1012-AcOF1012, 2011

【背景】アブラハム・マズローは、人間の基本的欲求を低次元から、1.生理的欲求、2.安全欲求、3.愛情欲求、4.承認欲求、5.自己実現欲求と5段階に分類している。生きていくうえで欠かすことの出来ない生理的欲求には、食欲、性欲、睡眠欲、排泄欲などが含まれている。リハビリテーション医療分野では、排泄欲に対する機能訓練は皆無である。排泄に関する問題は、個人だけではなく、その家族や介護者にとっても社会参加の阻害因子となり、Quality of Life(QOL)の重要な要素となる。我々は、大腸肛門病の専門病院として第43回当学会から継続して、排便に関する研究を行ってきた。今回、排便時の動態を調査することを目的として、排便姿勢の違いにより、直腸肛門角(anorectal angle:ARA)がどのように変化し、また、排出量に及ぼす影響について、排便造影検査(Defecography)を用いて検討したので以下に報告する。【方法】対象は、2010年1月~6月にDefecographyを行った160例とし、以下の3項目について検討した。1.排出時(strain)での伸展姿勢と前屈姿勢を撮影できた59例(男性21例、女性38例、62.2±18.7歳)を対象としてARAを比較した。2.大腿骨頭を頂点とし、仙骨上端(岬角)と尾骨先端との為す角(α)を計測できた23例(男性13例、女性10例、60.1±25.1歳)を対象として、排便姿勢の違いによる仙骨の傾きを比較した。3.排便困難を主訴とした症例の中で、排便姿勢を変えて排出量の測定が可能であった20例(男性7例、女性13例、64.6±13.7歳)では、伸展姿勢と前屈姿勢での排出量の差を比較した。Defecographyは、小麦粉と粉末バリウムを混ぜ合わせた疑似便(1回量225g)を直腸内に注入し、安静時(rest)、肛門収縮時(squeeze)、排出時(strain)の3動態と一連の動きを動画で撮影する。撮影された画像は、放射線技師が電子ファイル上で計測を行った。検定は、関連あるT検定と相関係数を用いて、有意水準5%未満を有意と判断した。【説明と同意】当院倫理委員会の許可を得て、臨床当研究に取り組んだ。【結果】59例の主訴の内訳は、便秘(排便困難含む)22例、便失禁(尿失禁含む)9例、脱出12例、肛門痛17例、その他21例(重複あり)であった。1.StrainでのARAは、伸展姿勢で114.1°±21.0°、前屈姿勢で134.6°±16.8°となり、前屈姿勢で有意に鈍角であった。また、相関係数は、0.716と高い正の相関を示した。2.α角は、伸展姿勢で84.9°±10.8°、前屈姿勢で92.4°±10.7°となり、前屈姿勢で有意に鈍角であり、仙骨はうなずいていた。相関係数は、0.826と高い正の相関を示した。3.排出量は、伸展姿勢で90.1g±18.3g、前屈姿勢で140.7g±20.9gであり、前屈姿勢で有意に排出量が増大した。【考察】今回、Defecographyを用いて、排便姿勢の違いはARAにどのような変化をもたらすのかを検討した。ARAに関する報告は多数存在するが、排便姿勢の違いによる報告は見当たらない。臨床場面での経験から、排便困難症例では、息めば息むほど背筋を伸ばした伸展姿勢となる症例が多く存在する。そのような症例に対して、排便姿勢の指導を行うことで排便困難が改善する症例もみられていた。今回の研究結果から、排便時は前屈姿勢の方がARAは鈍化し、排出量が増大する結果となり、姿勢指導の方法が妥当であったと考えられる。排便に関しては、まず、便意の出現が重要であることは言うまでもないが、その他の要素として、前屈姿勢になることで骨盤帯は後傾方向への動きとなる。骨盤が後傾することで仙骨は前方へ倒れ、うなずき運動を伴う。直腸は、仙骨前面の彎曲と一致することから、仙骨が前方へうなずくと、骨盤底の後方ゾーンで重要とされる肛門挙筋が緊張し、直腸を後上方へ引き上げるためARAは鈍化したと考えられる。【理学療法学研究としての意義】生きていく上で、また、在宅生活を遂行する上で、排泄は大きな課題となる。日常生活動作に直結する排泄動作に関して、理学療法士が排便の仕組みを知ることで、適切なアドバイスが提供できるようになると考えられる。それは、例えば、介護分野で数年前から言われている、「寝たままのオムツでの排泄ではなく、トイレでの排泄を介助する。」ことの根拠となり、また、運動学的知識が豊富な理学療法士が、骨盤周囲の運動機能の評価・治療を行うことで、排便を行いやすくできる可能性があると考えられる。
著者
濱田 輝一 岡田 裕隆 福留 英明 山本 広信
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2008, pp.G3P3564-G3P3564, 2009

【目的】<BR> 今回初めて学生を実習に送り出し、また実習開始前までの学習成績結果であるGPA( grade point average)が集積できたことから、入学直後のアパシー傾向得点との関係を知ることで、今後の学生指導に有用ではとの観点からこの関係について検討したので報告する.<BR><BR>【方法】<BR> 1.データの得点は、それぞれの得点は以下の通りとした.1)アパシー傾向:鉄島らのアパシー傾向尺度31項目.尚、検討の前段階として集団としての均一化の為現役のみとし、かつ各尺度への回答の信頼性保持の為の社会的望ましさ尺度で不適当と判断されたものは除外した.また、全体傾向の把握を本位とすることから、男女差がないことを確認し検討を行った.2)GPA:大学において世界標準的に学生評価として用いられているもので、本学で運用されてきた成績評価とした.各科目の評点は、A(80~100点)を4点、B(70~79点)を3点、C(60~69点)を2点、再試合格者D(60点)を1点、F(59点以下)を0点の5段階とした.この評点を基に、全科目を合計し、登録履修した科目数で除し、GPA(スコア)とした.<BR> 2.検討課題: 前記2者の全体傾向の把握を主体とし、加えて専門科目のみのGPAとアパシーとの関係や、実習履修が可能となった群とそうでない群との関係も検討した.尚、対象となったのは、57名で、内訳は実習履修可群47名、否群12名であった.<BR><BR>【結果】<BR> アパシーGPAの関係は以下の通りとなった.1) 全員でみた場合:全科目、専門科目共に、r=0.32、0.33で関係は見られなかった.2)実習可能群と不可群での比較(1)群間の差異;統計的に優位な差は見られなかった.(2)全科目での関係;P<0.01、r=-0.50となった.(3)専門科目での関係;P<0.01、r=-0.52となった.<BR><BR>【考察】<BR> 以上の結果から、アパシー傾向の高い程GPA得点が低くなり、一方アパシー傾向が低い程GPA得点が高くなることが、全履修科目や専門科目でも言えることから、入学時のアパシー得点からその後の学業成績も予測でき、学生指導の一助となることがわかった.今後は、未終了の実習成績が得られた後、さらに検討していきたい.
著者
大森 圭貢 熊切 博美 小野 順也 立石 真純 笠原 酉介 武市 梨絵 横山 有里 岩崎 さやか 多田 実加 最上谷 拓磨 笹 益雄 飯島 節
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.Ab1089-Ab1089, 2012

【はじめに、目的】 両側松葉杖での一側下肢完全免荷歩行(以下,松葉杖免荷歩行)は,下肢の免荷を必要とする際の有効な移動手段であるが、その獲得に難渋することは少なくない.松葉杖免荷歩行には,肩甲帯下制筋,肘伸展筋,肩内転筋,手指屈筋などの筋が関与し,それぞれ徒手筋力検査法でgood以上の筋力が必要とされている.しかし,徒手筋力検査法による筋力評価は客観性が低いことが指摘されており,臨床での指標としては不十分な面がある.松葉杖免荷歩行の獲得に必要な上肢筋力を客観的な尺度で明らかにすることができれば,トレーニング内容や期間などを考える際の有用な情報になると考えられる.本研究の目的は,松葉杖免荷歩行獲得の可否と等尺性上肢筋力の関連を検討し,松葉杖免荷歩行獲得に必要な上肢筋力を明らかにすることである.【方法】 対象者は松葉杖免荷歩行練習の指示があった者のうち,20歳以上,上肢に骨関節疾患の既往がない,評価に必要な指示に従える,研究に同意が得られる,の全ての条件を満たす者とした.前向きコホートデザインを用い,年齢,身長,Body Mass Index,性別,松葉杖歩行の経験,松葉杖免荷歩行獲得の可否,上下肢筋力を評価,測定した.松葉杖免荷歩行が可能か否かは,200m以上の安全な歩行の可否で判断した.理学療法開始日から毎回の実施日に3名の理学療法士が確認し,2名以上が一致した評価を採用した.そして理学療法開始日に歩行可能な者を歩行自立群,理学療法開始から1週間以内に歩行可能になった者を獲得群,歩行可能にならなかった者を不獲得群に分類した.理学療法開始日に,握力,肘伸展筋力,肩伸展筋力,肩内転筋力,肩甲帯下制筋力,膝伸展筋力を測定した.測定には,油圧式握力計と徒手筋力計を用い,上肢筋力は左右それぞれの最大値の平均,膝伸展筋力は非免荷側の最大値を求め,それぞれ体重比を算出した.松葉杖免荷歩行と上下肢筋力の評価は,それぞれ異なる理学療法士が行い,さらにお互いに得られた結果を伏せるようにし,測定者バイアスを排除した.分析は,松葉杖免荷歩行獲得に関連する変数を検討するために,獲得群と不獲得群間の各変数をχ2乗検定とMann-WhitneyのU検定で比較した.次に有意差のあった筋力の変数が,獲得群と不獲得群を判別できるかをReceiver Operating Characteristic(ROC)曲線の曲線下面積から検討した.統計的有意水準は危険率5%未満とした.【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は聖マリアンナ医科大学横浜市西部病院臨床試験委員会の承認を受け(受付番号第244号),対象者には十分な説明を行い,書面による同意を得て実施した.【結果】 対象者32名のうち,歩行自立群13名を除いた19名を分析対象とした.単変量解析の結果,獲得群(6名)/不獲得群(13名)の中央値は,身長168.5/161.0(cm),握力0.64/0.46(kgf/kg),肘伸展筋力0.24/0.19(kgf/kg),肩伸展筋力0.14/0.11(kgf/kg),肩内転筋力0.21/0.13(kgf/kg)であり,いずれも獲得群の方が有意に高値であった.その他の変数は,いずれも有意差がなかった.ROC曲線の曲線下面積は握力が0.95であり,獲得群を判別できる有意な指標であった.さらに握力0.57kgf/kgでは,感度83%,偽陽性度8%の精度で獲得群を判別できた.同様に肘伸展,肩伸展,肩内転のそれぞれの筋力の曲線下面積は,順に0.87,0.85,0.89であり,それぞれの筋力(kgf/kg)が,0.23,0.13,0.17では,感度80%以上,偽陽性度25%以下で獲得群を判別できた.【考察】 理学療法開始日に松葉杖免荷歩行が可能な者は半数以下であり,1週間の訓練後にも松葉杖免荷歩行獲得が困難な者が少なくなかった.獲得群と不獲得群間では身長,握力,肘伸展筋力,肩伸展筋力,肩内転筋力で有意差があったことから,理学療法開始1週程度の間に松葉杖免荷歩行を獲得できるか否かには,これらの因子が関連すると考えられた.さらに握力0.57 kgf/kg,肘伸展筋力0.23 kgf/kg,肩伸展筋力0.13 kgf/kg,肩内転筋力0.17 kgf/kgでは,それぞれ高い精度で獲得群を判別できたことから,これらの上肢筋力を上回った者では,1週間程度の理学療法によって松葉杖免荷歩行獲得が見込まれると考えられた.【理学療法学研究としての意義】 松葉杖免荷歩行の獲得が容易ではないこと,そして歩行ができない者が1週間内に獲得できるか否かを理学療法開始時の評価によって予測できる可能性を示した研究であり,理学療法評価及び予後予測において有用である.
著者
中尾 聡志 西上 智彦 渡辺 晃久 榎 勇人 石田 健司
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.C4P2161-C4P2161, 2010

【目的】<BR> バスケットボール選手において、80%以上の選手に足関節内反捻挫(以下、内反捻挫)の既往があり、内反捻挫は受傷頻度の高い外傷である。内反捻挫の受傷機転は接触時と非接触時に分けられるが、非接触時の内反捻挫の受傷頻度としてジャンプからの着地(以下、着地)時が最も多い。内反捻挫の既往がある症例の中には、動作時に自覚的不安定感を訴え、パフォーマンスや競技能力が低下する症例もいる。これまでに、動作時に自覚的不安定感を訴える症例に対して、擬似的に足関節内反ストレスを加えた際に、長腓骨筋や前脛骨筋の筋活動開始時間の遅延が報告されている。しかし、擬似的に足関節内反ストレスを加える手法は他選手の足の上に乗ったとき(接触時)が想定されており、着地動作時のような非接触時の筋活動開始時間が遅延するかは未だ明らかではない。また、我々は臨床において、着地時に不安定感を訴える症例では着地時の足趾伸展が不十分であることを経験する。本研究の目的は、これらの2点をふまえて着地時において不安定感を訴える選手に対し、腓骨筋と長趾伸筋の筋活動動態を検討し、理学療法プログラムの一助とすることである。<BR><BR>【方法】<BR> 対象は某大学女子バスケットボール部員11名(21.0±1.7歳)、11肢とした。11名全員に足関節内反捻挫の既往があり、うち8名は競技中および着地時の自覚的足関節不安定感が無く(以下、不安定感なし群)、3名は不安定感が存在(以下、選手A・B・C)した。測定課題は左右方向に引かれた30cm間隔の2本のライン上を20回連続で左右にジャンプするものとした。解析対象は外側方向へのジャンプ5回とした。なお、被検者にはできるだけ高く速く跳ぶように指示をした。<BR> 評価筋は長腓骨筋・長趾伸筋の2筋とし、表面電極をPerotto及びReynardらの報告を参考に電極間距離10mmにて貼付した。表面筋電図の測定には多用途テレメーターシステム(三栄社製)を用い、サンプリング周波数は1kHzにてデータを収集した。筋活動開始時間の同定方法として、安静立位時の筋電波形を基準とし、その波形を超えた点を活動開始時間とした。また、着地の同定として母趾球に圧センサーを貼付し圧センサーの波形より着地点を同定した。筋活動開始時間は着地点より前に筋活動が開始したものをマイナス、後に開始したものをプラスと定義した。データ解析として、まず、得られた5回分の筋活動開始時間のうち、最小・最大値を省いた3回のデータを平均し、加えて不安定感なし群8名の平均値の95%信頼水準を求め、その値と選手A・B・Cの平均値を比較した。<BR><BR>【説明と同意】<BR> 本研究実施にあたり十分な説明と試技を実施し、同意の得られた者のみを研究対象とした。<BR><BR>【結果】<BR> 各筋の筋活動開始時間の平均値は、長腓骨筋において、不安定感なし群;-32.0±33.0msec(95%信頼区間;-58.9~-5.0msec)・選手A;-28.3msec・選手B;44.3msec・選手C;-43.3msecであった。長趾伸筋において、不安定感なし群;-225.5±64.5msec(95%信頼区間;-278.1~-172.8msec)・選手A;-99.3msec・選手B;48.6msec・選手C;-145.3msecであり、3選手全ての長趾伸筋の筋活動開始時間が、不安定感なし群の95%信頼区間を外れており、筋活動時間が遅延する傾向を示した。また、選手Bは着地時に疼痛を有しており、長腓骨筋・長趾伸筋ともに着地後に筋活動が開始する傾向にあった。<BR><BR>【考察】<BR> 自覚的不安定感がある3選手の共通点として、長趾伸筋の筋活動開始時間が遅延傾向にあった。長趾伸筋の筋活動開始時間が遅延することより、着地時の足趾伸展運動が遅延し、適切なタイミングにてウインドラス機構が機能しない可能性がある。着地時にウインドラス機構の機能不全により、前足部・中足部を中心とした足部剛性が低下し、不安定感を助長する一要因となっているかもしれない。また、疼痛を有する選手Bでは長腓骨筋、長趾伸筋ともに筋活動開始時間が特に遅延していた。先行研究より、疼痛は筋活動開始時間を遅延させることが明らかとなっており、選手Bにおいても疼痛が筋活動開始時間を特に遅延させた可能性がある。<BR><BR>【理学療法学研究としての意義】<BR> 着地動作時の不安定感に長趾伸筋の筋活動開始時間の遅延が関与している可能性が示唆された。これまで、内反捻挫後の理学療法として、タオルギャザーなどの足趾屈曲運動が重要視されていたが、本研究結果より、足趾の伸展を考慮した理学療法の必要性が示唆された。
著者
水野 紗也子 荒木 郁聖 加洲 みさ 静木 恵利華 駄田井 千夏 朴 玲奈 松本 大輔
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2012, pp.48101159-48101159, 2013

【はじめに、目的】 妊娠中、出産後の女性は、身体的にも精神的にも問題が起こりやすい時期であり、身体的な問題としては、肩こりや腰痛、妊娠高血圧症候群、妊娠糖尿病などが挙げられる。妊娠高血圧症候群においては、約10%の妊婦が発症すると言われている。精神的な問題では産後うつ病などがあり、2002年のわが国の産後うつ病発症率は8%と言われていたが、2005年には12.8%と増加傾向にある。このような身体的および精神的な問題に対して、継続した運動が効果的であることは以前からも言われているが、妊娠中、出産後の運動はさまざまなリスクが伴い、個人の判断で運動を実施することが困難な場合もある。そのため、アメリカでは米国産婦人科学会が運動のガイドラインを示しており、妊娠中や出産後の運動が確立されているが、日本では、未だ確立された運動のガイドライン等はなく、この時期の運動の確立には至っていない。 そこで、本研究の目的は出産後の運動習慣がその後の骨密度やうつ傾向にどのように影響しているのかを明らかにすることとした。【方法】 対象は初回測定時に産後6ヶ月以内の女性18名(34.2±4.2歳)とした。対象者の体組成(体組成計:TANITA社製)、骨密度(超音波骨密度測定装置:GE healthcare社製)を測定し、同時に妊娠前、妊娠中、出産後、それぞれにおける運動習慣、健康状態、精神状態についてのアンケートと、エジンバラ産後うつ評価質問紙票(以下EPDS)を用いた産後うつのチェックテストを行った。 測定とアンケートを6ヶ月の期間をあけて2回(産後前期、産後後期)行い、6ヶ月間の変化を分析した。また、産後前期のアンケート結果より、産後前期に運動を行っていた者を運動実施群とし、全く行っていなかった者を運動非実施群として、2群間の骨密度およびEPDS得点を比較した。 統計解析は、6ヶ月間の比較は対応のあるt検定、2群間の比較は対応のないt検定、およびχ2検定で行った。統計ソフトはSPSS20.0Jを用い、有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究はヘルシンキ宣言に基づき、すべての対象者に本研究の趣旨を説明し参加の同意を得た。【結果】 産後前期から産後後期にかけての全体的な変化をみた結果、骨密度の指標となるステフィネス値(以下SI値)では、産後前期には98.6±18.5だったのに対し、産後後期には89.2±17.5と有意な減少が認められた(P<0.01)。EPDS得点においては産後前期から産後後期にかけて有意な差は認められなかった。 また、運動実施群と運動非実施群の2群間で骨密度およびEPDS得点を比較した結果、骨密度においては、SI値の変化率(産後後期SI値/産後前期SI値)が運動非実施群では87.1±5.0%だったのに対して、運動実施群では94.0±7.4%と、運動実施群において骨密度の減少が有意に抑制されていた(P<0.05)。EPDS得点では、運動非実施群では5.4±3.8点だったのに対して、運動実施群では2.6±2.4点と減少傾向にあった(P=0.07)。そして、産後前期から後期にかけてのEPDS得点の改善率は、運動非実施群では11%だったのに対して、運動実施群では89%であった(P<0.05)。【考察】 骨密度においては、産後前期から産後後期にかけて全体的に減少し、また、その中でも運動実施群において、骨密度の減少が抑制されていた。この産後前期から産後後期にかけての骨密度の有意な減少は授乳期であったことが大きく影響していたと考えられ、また、その中でも運動を行うことで骨形成に必要な運動負荷が骨へ与えられたため、運動実施群では骨密度の減少が抑制されたことが考えられる。 EPDSにおいては、運動実施群では非実施群に比べ得点が低い傾向にあり、また、改善率に差が認められた。これは、うつ病患者に対する運動療法では、投薬治療と同等の効果が得られることや、理学療法士の介入による運動療法が産後うつ病の発症リスクを減少させることから、運動療法が一般的なうつ病患者に治療効果があるのと同様に産後うつ病においても運動療法の効果がみられたことが考えられる。【理学療法学研究としての意義】 本研究より、産後女性に対する運動療法は骨粗鬆症や産後うつ病の予防につながることが示唆された。現在日本では産後女性に対する理学療法士の介入はほとんどない。しかし、理学療法士の専門性の観点から考えると、妊娠中・出産後に対して、精神的・身体的問題の改善や、運動機能の維持、ハイリスク妊娠の方への運動療法が行える可能性があると考えられる。今後、この産科領域は理学療法士が大いに介入できる分野だと考えられる一方で、介入に向けて適切な運動開始時期、運動量、頻度を明確にしていく必要があるといえる。
著者
鶴田 猛 富崎 崇 酒向 俊治 太田 清人 田上 裕記 南谷 さつき 杉浦 弘通 江西 浩一郎
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.E4P3193-E4P3193, 2010

【目的】我々は、日常生活における活動場面において、その活動目的や趣味、嗜好に合わせ履物を選択し使用している。仕事で使う安全靴やスポーツ活動で使用する運動靴、外見の美しさを追求するパンプスなど、履物の種類は多種多様である。様々な活動に必要な姿勢変化や動作が安定して行われるためには、足底と床とが十分に接し、足部にて荷重を適切に受け止める必要がある。歩行による、骨・関節、軟部組織など足部の機能変化は、支持基底面や足部支持性に影響を及ぼし、安定した立位や歩行などの能力改善をもたらすものと考える。これまで、履物と歩行との関連に関する研究は多数報告されているが、足部機能等の評価法の一つである「足底圧」との関連を報告した例は少ない。本研究は、歩行時における履物の違いによる重心の軌跡の変化を捉えることにより、履物が足部機能に与える影響を明らかにすることを目的とする。<BR><BR>【方法】対象は健康な若年成人女性6名(年齢18~32歳)とし、使用した履物は、一般靴及びパンプス、サイズはすべて23.5cmとした。歩行にはトレッドミルを用い、速度4km/h、勾配3%に設定し、裸足、一般靴、パンプスを着用し、1分間の慣らし歩行の後、30秒間(各靴3回測定)の足圧測定を行った。足圧測定には、足圧分布測定システム・F―スキャン(ニッタ株式会社製)を使用し、裸足、スニーカー、パンプス着用時の重心(圧力中心)の移動軌跡長を比較検証した。実験より得られた足圧分布図において、重心点の開始位置(始点・踵部)及び終了位置(終点・踏み付け部)を算出し、(1)始点(2)終点(3)重心の長さの3項目について、それぞれの全足長に対する割合を求め、裸足、一般靴、パンプスにおけるそれぞれの値を対応のあるt検定にて比較検討した。<BR><BR>【説明と同意】被験者には、本研究の趣旨、内容、個人情報保護や潜在するリスクなどを書面にて十分に説明し、同意を得て実験を行った。<BR><BR>【結果】始点において、裸足は一般靴及びパンプスとの比較で有意に値が小さく、パンプスは一般靴よりも有意に大きな値が認められた。終点において、裸足はパンプスとの比較で有意に小さな値が、パンプスは一般靴よりも有意に大きな値が認められた。裸足と一般靴との間に有意差は認められなかった。重心の長さにおいて、裸足は一般靴及びパンプスとの比較で有意に大きな値が認められた。一般靴とパンプスとの間に有意差は認められなかった。<BR> 始点は、裸足、一般靴、パンプスの順で裸足が最後方(踵部)に最も近く、終点は、一般靴、裸足、パンプスの順でパンプスが最後方(踵部)から最も遠く、重心の長さは、パンプス、一般靴、裸足の順でパンプスが最も短かった。<BR><BR>【考察】裸足歩行では、一般靴及びパンプスを着用した歩行に比べて重心の長さが顕著に長く、始点が最も後方に位置していることから、踵部でしっかりと荷重を受けた後、踏み付け部に重心が至るまで、足底全体を使って歩行していることが分かった。また、足圧分布図の重心軌跡を見てみると、重心線の重なりが少なく、履物を着用した歩行の重心軌跡に比べて、足部内外側へのばらつきが大きいことが見られたことから、履物を着用することにより、足関節及び足部関節の運動が制限され、結果的に重心の移動範囲が限定される傾向があることが示唆された。 <BR> パンプスを着用した歩行では、始点・終点ともに最も前方に位置していることから、本来、踵部で受けるべき荷重の一部が前足部に分散し、前足部における荷重ストレスが増強していることが推測される。更に、踵離地における荷重が踏み付け部前方もしくは足趾においてなされている傾向があり、蹴り出しに必要な足趾の運動が制限されるなど、足部が正常に機能していない可能性がある。また、重心の軌跡が最も短いことから、足部の限局した部位を使用した歩行であることが示唆された。このような足部の偏った動きが、将来足部病変をもたらす可能性につながると思われる。<BR><BR><BR>【理学療法学研究としての意義】我々は、ライフスタイルや職業の違いにより、様々な履物を着用して活動しているが、外反母趾や扁平足、足部の痛みや異常を訴えるケースは非常に多い。歩行時における履物の違いが足部に与える影響を理学療法学的に検証することで、より安全で機能的な履物の開発の一翼を担うことができ、国民の健康増進に寄与できるものと考える。
著者
上原 信太郎 水口 暢章 山本 真史 廣瀬 智士 内藤 栄一
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2012, pp.48101864-48101864, 2013

【はじめに、目的】2 つの運動をランダムな順序で練習する方法(ランダム練習)は、効率的に2 つの運動記憶を獲得でき、これはそれぞれの運動を決まった順序で練習する方法では難しいことが示されている(Osu et al., 2004)。これは、練習方法によって異なる様式で記憶形成がされているためであると考えられる。本研究では、ランダム練習で二種類の運動記憶を獲得した場合、各運動をまとめて練習する場合(ブロック練習)と異なり、それぞれの運動記憶が独立して蓄えられると考え、その仮説を検証した。2 つの運動記憶に重複がある場合、これらの運動を連続して行うと、前の運動の履歴が後ろの運動を実行する妨げになり、後に行う運動の遂行が阻害されることが知られている(Cothros et al., 2006)。したがって、もし、それぞれの練習方法で獲得される2 つの運動記憶の重なりが異なるならば、その違いは2 つの運動を連続して再現する時の後ろの運動のパフォーマンスに影響することが推測される。【方法】27 名の右利き健常成人が、連続する2 日間の実験に参加した。各参加者は、1 日目に左手を使用した二種類の異なる系列指タッピング運動(環指-示指-小指-中指-環指、及び、示指-環指-中指-小指-示指)を学習し、2 日目には両系列運動を再現した。各運動試行では、参加者は16 秒の間にできるだけ早く、かつ正確に、指示された指系列で連続タッピング(ボタン押し)を行った。連続する5 つの指タッピング(= 系列)を16 秒間で何回正しく繰り返せたか(正答数)を記録し、その試行の運動パフォーマンスの指標とした。参加者をランダム練習群(13 名)とブロック練習群(14 名)の2 群に分け、1 日目の運動学習時、各群にはそれぞれ異なる練習法を適用した。ランダム練習群は、全部で36 試行(6 試行× 6 セット)実施する中で、各セット内で2 つの系列運動をランダムな順序で3 試行ずつ練習した。どちらの運動を行うかは、試行開始直前にモニタ上に呈示される数字で示された。一方のブロック練習群は、前半の18 試行(6 試行× 3 セット)では一方の系列運動を、後半の18 試行(6 試行× 3 セット)ではもう一方の系列運動を練習した。両群共に、1 セット(6 試行)完了ごとに60 秒の小休憩を挟んだ。2 日目には、一方の系列運動を3 試行実施したあと、もう一方の系列運動を3 試行実施してもらった。ブロック練習群における系列運動の練習順序、及び、両群における再現時の系列運動の実施順序については、参加者間でカウンターバランスが取られた。各系列運動を再現した時の後ろの運動のパフォーマンスの様子を調査するため、2 日目の前半3試行で実行した系列を第1系列、後半3試行で実行した系列を第2系列とし、それぞれの系列運動の運動パフォーマンスを比較した。系列ごとの難易度の影響を除外するため、比較には、1 日目の運動パフォーマンス(最後の3 試行の平均)を含めた二元配置分散分析[系列(第1 系列、第2 系列)×日(1 日目、2 日目)]を、各群から得られたデータに対して適用した。【倫理的配慮、説明と同意】本研究は、情報通信研究機構倫理委員会の承認を受けて実施された。参加者には実験内容を十分に説明し、本人の同意を得た上で実験が行われた。【結果】ランダム練習群では、第1 系列(1 日目:11.4 ± 2.4、2 日目:12.1 ± 2.8)、第2 系列(1 日目:11.4 ± 2.7、2 日目:12.0 ± 3.0)ともに、1 日目の最後の3 試行に比べて、2 日目の3 試行では正答数の増加が見られた。一方のブロック練習群では、第1 系列(1 日目:10.9 ± 2.3、2 日目:12.0 ± 2.7)ではランダム練習群と同様に正答数の増加がみられたが、第2 系列(1 日目:11.2 ± 2.2、2 日目:11.5 ± 2.5)ではわずかな増加しか見られなかった。分散分析の結果、ランダム練習群では日の要因に有意な主効果が見られ(p < 0.05)、有意な交互作用は見られなかったのに対して、ブロック練習群では、日の要因の主効果(p < 0.05)に加え、両要因の交互作用(p < 0.05)が有意であった。【考察】本研究の結果から、ブロック練習により2 つの運動記憶を学習した場合には、運動を連続して再現する時に後に行う運動が阻害されることから、獲得された2 つの運動記憶は重複して形成されていることが示唆された。一方で、ランダム練習で運動を学習した場合には、相互干渉するような類似した運動も、両者の運動記憶の重複を減らし、それぞれを分離した形で獲得されていることが示唆された。【理学療法学研究としての意義】本研究は、学習時の練習方法に応じて獲得される運動記憶の様式が異なり、ランダム練習で獲得された運動記憶は運動干渉に対する耐性が高いことを示した。この結果は、運動療法を立案する際に、獲得した運動記憶が使用される状況に応じて、練習方法を適切に設定することの重要性を示唆している。
著者
板倉 尚子 柴田 雅貴
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2005, pp.C0301-C0301, 2006

【目的】N女子体育大学某運動部(以下B部)は平成14年度より新監督が就任し競技成績向上をめざす方針のもと指導が開始された。チーム編成はA軍およびB軍(競技活動主体に活動)とレフリーブロック(審判活動を主体に活動、以下R軍)としているが、これまではセレクションによりチームへの振り分けをしていたが、A軍のみセレクションとし、B軍以下は学生の希望を優先しチーム編成をすることとなった。このようなチーム運営の結果、平成11年度から平成13年度新規利用者年間平均35件(合計105件)と比較し、平成14年度47件(134.2%)、平成15年度64件(182.9%)、平成16年度76件(217.1%)となり新規利用者数の増加がした。今回、平成14年度以降の外傷発生状況を報告する。<BR>【新規利用状況】平成14年度から平成16年度までの学生の延べ数は388名、ブロック構成数はA軍49名、B軍140名、R軍199名であった。3年間のB部の新規利用者数は187件(A軍68件、B軍97件、R軍22件)であった。部位別内訳では最も多いのは膝関節70件(37.4%)、次いで足関節43件(23.0%)であった。この膝関節と足関節について受傷時の学年および所属ブロック別に分類し、新規利用者件数を各ブロック構成数で除した発生率で示した。膝関節ではA軍は1年生14.3%、2年生12.2%、3年生10.2%、4年生4.1%であった。B軍は1年生15.7%、2年生5.7%、3年生2.9%、4年生1.4%であった。R軍は1年生3.0%、2年生1.5%、3年生2.5%、4年生0%であった。足関節ではA軍は1年生6.1%、2年生8.2%、3年生2.0%、4年生14.3%であった。B軍は1年生9.3%、2年生3.6%、3年生2.1%、4年生0.7%であった。R軍は1年生2.0%、2年生0.5%、3年生0.5%、4年生0%であった。R軍に比べA軍およびB軍の下級生に利用件数が多い結果が得られた。<BR>【考察】平成14年度からのチーム編成方法の変更により、技術が乏しい学生も競技活動を主体とするB軍への所属が可能になった。チームは競技成績向上を目指して活動しており、そのためA軍とB軍では練習強度が増加、技術力が乏しい学生には許容量を超えた練習内容となったため外傷が多発したと予想される。特にB軍1年生で膝関節および足関節の外傷が多発しており、新入部員への対応は個々の体力や技術力、また入学前に生じた外傷の後遺症などへ配慮し指導を行う必要があることが示された。A軍およびB軍の膝関節外傷は上級生になるほど新規利用件数の低下がみられた。B部に対してスキルエクササイズを指導し運動部活動中に実施させている。今回の結果は体力や技術向上が外傷発生を防止できる可能性を示していると思われた。しかし足関節外傷についてはその競技特性のため不可抗力が原因で外傷が生じることがあり、上級生が低下する結果とはならなかった。<BR>
著者
竜田 庸平 福本 礼 橋本 俊顕 岩本 浩二 宮内 良浩 小川 哲史 藤元 麻衣子
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.A4P3012-A4P3012, 2010

【目的】<BR> 広汎性発達障害の原因説にはミラーニューロン(以下MN)障害説があり,MNは模倣と運動学習に関連している.今回,MNの存在する44野付近の運動模倣中の賦活状態を計測することを目的に光トポグラフィー(以下NIRS)を用いて測定し,広汎性発達障害児と健常児との間に差があるか検証したので報告する.<BR>【方法】<BR> 広汎性発達障害児群は20名(11.7±3.53歳) 障害別内訳(高機能自閉症10名・アスペルガー症候群10名)男児19名,女児1名であった.健常児群は,健常児10名(12.3±2.95歳),男児8名,女児2名であった.なお,対象は全員右利きであった.NIRSの測定は近赤外光イメージング装置OMM-3000シリーズ;島津製作所を使用した.測定は,Czより11cm側方3cm前方の44野付近を測定した.NIRSのプローペパッドを2枚用意し両側に貼り付けた. 課題には田中の改訂版随意運動発達検査を用いた. 30秒×3を1セット,合計2セット行った.1番目,3番目の30秒は休憩,2つ目の30秒は課題を行った.課題は健常成人の右手のb-4,b-5,b-6を動画撮影し,PC画面に呈示した.対象には動画上の運動を模倣してもらった.分析方法として,ビデオによる行動分析と,ピーク振幅を求めU検定を行った.加えて, 44野付近の平均加算を2群それぞれグラフ化し,目視にて分析を行った. <BR>【説明と同意】<BR> 対象者には十分に説明を行い,同意を得た後測定した.なお,本研究は当校倫理委員会の承認を得た.<BR>【結果】<BR> 広汎性発達障害児群には何らかの異常な模倣行動が認められ,健常児群には認められなかった. 異常な模倣行動の内訳として,課題施行中の集中力低下8例・鏡像模倣1例・左右逆模倣4例・鏡像模倣だが鏡になっていない模倣5例・動画と非同調な模倣13例であった.U検定の結果,課題の1セット目では,24個中10個のチャンネル(以下CH)で,2セット目では24個中8個のCHで広汎性発達障害児群が健常児に比べ有意に低かった. 中でも,健常児群と比較して広汎性発達障害児群は44野付近の12CHと23CHが1セット目2セット目にわたり,有意に低下していた. 44野付近の平均加算の結果,健常児群と比較して広汎性発達障害児群は,平坦なグラフとなり,44野付近の活動が確認できなかった.健常児群では課題施行中にoxy-Hbが上昇するグラフとなり,44野付近の活動が確認できた.<BR>【考察】<BR> 模倣は6歳前半に完成するとされている.模倣には身体図式が関係しているため,広汎性発達障害児群も身体図式に障害があったのではと考える.人が身体図式を利用するにはMNが関係し,広汎性発達障害児の場合,MNに障害があるために身体図式を用いたdirect matchingがうまく機能していないことが考えられた.実際に広汎性発達障害児群は,44野付近のCHで有意差が見られ,平均加算データも,健常児群と比較して平坦になっていた.このことはdirect matchingの機能をうまくコントロールできていない状態をリアルタイムに採取できたと考える.運動学習は3段階に分けられ,このなかでも初期の認知段階では教示・示唆・運動見本の提示が重要となる.この初期の認知段階には模倣を必要とし,模倣を行うことによって運動学習の見本を自己にインプットする.Meltzoff(1989)によると模倣行動は新生児より出現するとの報告があり,新生児の時期からの模倣行動の重要性が伺える.しかし,これら模倣に関連した44野を含むMNシステムに障害があるとされる広汎性発達障害児において,運動学習には不利な状況であることが今回の研究により考えられた.<BR>【理学療法学研究としての意義】<BR> 模倣とコミュニケーション能力,模倣とMNの研究,模倣と身体図式等,いろいろな方面から模倣に対する研究が盛んに行われており,模倣を理解することは,運動学習を教示する立場である私たちにとって有益なものになると考える.
著者
横地 雅和 高山 茂之
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.C3O1135-C3O1135, 2010

【目的】人工膝関節置換術(以下TKA)は関節リウマチ(以下RA)や変形性膝関節症(以下膝OA)患者の除痛効果が得られ、ADLやQOLの向上につながり、近年広く施行されている手術法である。当院においてもTKAは多く施行されているが、その術後の特徴として膝関節屈曲時に大腿内側部痛を訴える症例が圧倒的に多い。今回、TKA術後の大腿内側部痛の解釈とその運動療法について考察したため報告する。<BR><BR>【方法】当院で平成21年4月から9月までにRA又は膝OAと診断され、TKAを施行し、演者が理学療法を担当した12例13膝について検討した。RAは4例5膝(両側TKA例1例)、膝OAは8例8膝であった。年齢は38歳から85歳(平均年齢71歳)で、性別は男性2例、女性11例であった。TKAは全例でDepuy社製P.F.Cシグマ人工膝関節システムを用い、進入法はmid vastus法にて展開した。検討内容としては膝関節屈曲時に大腿内側部痛の割合について検討を行った。また、大腿内側部痛を訴えた症例については1,疼痛の発現時期2,知覚・感覚鈍麻の有無3,圧痛所見の有無4,股関節の肢位における膝関節屈曲可動域と疼痛の変化5,運動療法の効果についても検討を行った。<BR><BR>【説明と同意】本研究を行うにあたり対象者に研究の主旨を説明し、同意を得た。<BR><BR>【結果】TKA術後に大腿内側部痛を訴えた症例は13例中10例(76,9%)に認めた。疼痛の発現時期は全例が術直後よりみられ、膝関節屈曲時に疼痛は増強し、VASで7~9と耐え難い疼痛を認めた。知覚・感覚鈍麻を認めた症例は10例中9例であり、膝関節内側から下腿の内側部に知覚鈍麻を認めた。また、圧痛所見としては、内側広筋に全例に認め、内転筋結節には9例認め、そのうち7例は大腿内側に鋭い疼痛を訴え、大腿から下腿の内側にかけて広範囲に放散痛を認めた。股関節の肢位における膝関節屈曲可動域の変化は全例に股関節内転位にて屈曲可動域の増大を認めた。また、股関節内転位にて疼痛が軽減し、外転位にて疼痛が増強するものは9例に認めた。運動療法は大腿内側部痛を訴えた群には浮腫除去や内側広筋のリラクゼーション、大内転筋のストレッチング、伏在神経の滑走訓練を重点的に行い、その後、膝関節可動域訓練を実施した。その結果、退院時(術後3週)における大腿内側部痛は全例に軽減(VAS0 ~3)を認め、そのうち6例は消失した。<BR><BR>【考察】TKA術後は炎症による疼痛や可動域制限を認め、苦痛を伴うことも稀ではない。当院でのTKA術後の膝関節屈曲時痛は圧倒的に大腿内側部に多く、その割合は76,9%と多くの症例に認め、安静時にも疼痛を認めることもある。また、膝関節から下腿の内側にかけてしびれや感覚鈍麻を合併していることが多いことから、疼痛の原因としては伏在神経が関与していると推察した。伏在神経は膝関節内側から下腿の内側の皮膚神経支配をしている。走行としては大腿神経から分枝し、大腿内側を走行し、内転筋管を通過して下腿内側を走行するといった解剖学的特徴をもっており、股関節外転、膝関節屈曲にて伸長される。股関節外転位での膝関節屈曲時に疼痛が増強し、内転位にて疼痛が軽減することからも膝関節屈曲時痛は伏在神経が関与していると考えられた。石井によると伏在神経は内転筋管での絞扼神経障害が生じやすいとしている。TKAの進入法はmedial parapatella法やsubvastus法、midvastus法で展開されることが多く、当院でのTKAの進入法はmidvastus法を用いている。midvastus法は大腿四頭筋腱の付着部まで展開し、内側広筋の筋線維に沿って筋膜を展開する方法で他の進入法に比べて内転筋管の近くにまで侵襲が及ぶ進入法である。術後には浮腫や腫脹により内圧が高い状態に加え、内側広筋やその周囲へと炎症が波及することで伏在神経の絞扼障害と滑走障害が生じていると考えた。運動療法については伏在神経の絞扼・滑走障害を起こしている因子を一つずつ改善することを目的に浮腫除去や内側広筋のリラクゼーション、大内転筋のストレッチング、伏在神経の滑走訓練を実施した。その結果、膝関節屈曲時における大腿内側部痛の軽減・消失し、改善したと考えた。<BR><BR>【理学療法学研究としての意義】当院におけるTKA術後の膝関節屈曲時痛について検討した。疼痛の誘発と軽減する条件や圧痛所見などから伏在神経が関与していると推察した。疼痛因子を把握することは運動療法を進めていくには重要であり、ROM制限因子ともなりうる。今回の検討によって膝関節屈曲可動域訓練時における過分な疼痛を軽減することができたと推察される。進入法を考慮した運動療法を展開することで、疼痛軽減につながる経験を得たことは、理学療法学研究として意義があると考える。
著者
沖住 省吾 竹内 文夫 土屋 幸代
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2005, pp.E1155-E1155, 2006

【はじめに】当通所リハビリテーションでは個別療法導入後、過半数の症例において日常生活自立度の維持・改善を認めたが、社会参加の向上には至らなかった事を第40回全国理学療法学術大会で報告した。そこで今回、屋外造園作業(以後、造園活動とする)を療法の選択肢として導入し、活動能力や社会参加におよぼした影響を検討したので報告する。<BR>【造園活動について】造園は利用者を交えながら、介助・監視下で種々の活動を実施するものである。活動の内容は、1、庭園整備:デザイン・造園、草むしり、芝刈り、枯れ草集め、石拾い、花壇作りなど。2、畑作業:菜園収穫、園芸、水撒き、木実の収穫など。3、生き物飼育。4、運動:庭園散策による歩行耐久性、不整地歩行、運動会などである。<BR>【対象および方法】追跡期間は、平成15年4月から平成17年4月までの約24ヶ月間であり、造園企画は平成15年11月に発足した。対象は通所リハビリテーション利用者のうち、個別療法を併用し且つ追跡できた75例である。この75症例中造園活動が併用できた症例は47名であった。活動能力の指標はBarthel index(以下BIと略)と老研式活動能力指標(以下活動指標と略)を用いた。活動指標は「自治会や老人会への参加」と「生きがいあるいは宗教」の2項目を加え15項目で評価し、BIと比較しやすいように百分率で表した。新たな療法が選択でき、期待される内容も変化したのでニーズの変化も合わせて調査した。<BR>【結果】75例のBIは改善27名36%、26名35%が維持され、21名28%が低下していた。屋外造園活動を併用した47名の内BIが低下した例は13%であり、その他は維持・改善の経過をたどった。更に造園活動併用者の内BI改善群を抽出するとBI平均79点から93点へと有意に向上し、活動指標も29%から38%に向上した。一方、ニーズ変化では次の特徴を示していた。造園活動前は活動性に関するニーズは皆無であり、シビレや除痛、麻痺肢の回復などの機能的ニーズが多くを占めていた。しかし、造園活動導入後は、屋外活動や趣味・余暇活動などが全ニーズの24%を占めるようになった。興味深いのは、造園活動の有無に関わらず、立ち上りや移動手段が全ニーズの30%以上を占め最も多かった事である。<BR>【考察】造園活動は、活動能力に加えて社会参加の向上、生きがい作りとしても好影響をもたらした。造園活動を開始する前は、室内の限られた環境での活動がほとんどであったが、活動範囲の拡大により運動量の増加と感情抑揚や動くことに対するモチベーションに変化をもたらしたものと考える。また、以前は環境安全面などに障壁があり、趣味や余暇活動をあきらめざるを得なかった境遇の人たちが多かったが、今回のアプローチ導入によって、これまで成しえなかった事が安全な環境と適切な介助量のもとで実行できるようになり、生活意欲や趣味・余暇活動に対する更なる動機付けに結びついたものと思われる。
著者
米田 浩久 實光 遼 松本 明彦 岩崎 裕斗 金子 飛鳥 守道 祐人 鈴木 俊明
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2012, pp.48101928-48101928, 2013

【はじめに】課題指向型の運動学習条件としてpart method(分習法)とwhole method(全習法)がある(Sheaら,1993)。このうち分習法は獲得する動作を構成する運動要素に区分して別々に練習する方法であり、全習法は獲得する動作をひとまとめに練習する方法である。全習法は分習法と比較して学習効果が高く、運動学習の達成度は早い。これに対して分習法は学習した運動の転移が可能なことから難易度の高い運動に有用であるが、獲得から転移の過程を経るため全習法よりも時間を要する。一方、理学療法では早期の動作再獲得を図るため障害された動作の中核を構成する運動を選択的かつ集中的にトレーニングする分習法を採用することが多く、1 回あたりの治療成績は全習法よりもむしろ分習法の方が良好であり、早期に改善する印象がある。そこで今回、分習法による早期学習効果の検討を目的にバルーン上座位保持(バルーン座位)による下手投げの投球課題を用いて全習法と分習法による運動学習効果を比較検討した。【方法】対象者は健常大学生24 名(男子19 名、女子5 名、平均年齢20.4 ± 0.4 歳)とした。検定課題は以下とした。両足部を離床した状態でバルーン(直径64cm)上座位を保持させ、2m前方にある目標の中心に当てるように指示し、お手玉を非利き手で下手投げに投球させた。バルーン上座位は投球前後に各5 秒間の保持を要求し、学習課題前後に各1 回ずつ実施した。目標から完全にお手玉が外れた場合と検定課題中にバルーン座位が保持できなかった場合は無得点とした。目標は大きさの異なる3 つの同心円(直径20cm、40cm、60cm)を描き、中心からの16 本の放射線で分割した64 分画のダーツ状の的とした。検定課題では最内側の円周から40 点、30 点、20 点、10 点と順次点数付けし、その得点をもって結果とした。学習課題は3 種類の方法を設定し、それぞれA〜C群として無作為に対象者を均等配置した。全群の1 セットあたりの練習回数は5 回、セット間の休憩時間は1 分とした。A群では検定課題と同様の方法でバルーン上座位保持による投球をおこなわせた。実施回数は主観的疲労を感じない回数として12 セット実施した。B群は、まず椅座位での投球を6 セット実施した後、バルーン上座位を6 セット実施した。C群では椅座位での投球とバルーン座位を交互に6 セットずつ実施した。学習課題ではお手玉が当たった分画の中央の座標を1 試行ずつ記録し、中心からの距離と方向とした。得られた結果から、検定課題では学習前後での得点の比較をおこない、学習課題では各群の成功例を基に投球結果座標による中心からの平均距離を標準偏差で除した変動係数とセット間の平均距離の比の自然対数を基にした変動率による比較をおこなった。統計学的手法は、検定課題では学習前後の結果比較に対応のあるt検定を用い、A〜C群の比較として検定・学習課題ともにKruskal-Wallis検定とBonferroni多重比較法を実施した。有意水準は5%とした。【倫理的配慮】対象者には本研究の趣旨と方法を説明のうえ同意を書面で得た。本研究は関西医療大学倫理審査委員会の承認(番号07-12)を得ている。【結果】学習課題前後の検定課題の平均得点(学習前/学習後)は、A群11.3 ± 16.4/26.3 ± 15.1 点、B群6.3 ± 9.2/33.8 ± 7.4点、C群10.0 ± 15.1 点/18.8 ± 16.4 点であり、B群で有意な学習効果を認めた(p<0.01)。学習課題中の投球結果の変動係数はA群19.67 ± 1.06、B群8.42 ± 0.49、C群13.50 ± 1.24 で、A群に対してB群で有意な減少を認めた(p<0.05)。また、学習中の投球結果の変動率は群間で有意差は認められなかったものの、他群に対してB群で安定する傾向を認めた。【考察】Winstein(1991)は、分習法はスキルや運動の構成成分を順序付ける過程の学習であるとしており、運動全体の文脈的な継続性を考慮して動作を学習させる必要があるとしている。本研究ではB群によって検定・学習課題とも他群に比べて良好な結果を得た。B群では分習法により投球とバルーン上座位を各々別に集中して学習したが、運動学習中の変動係数の減少と変動率の安定化を認めたことから、バルーン上座位での投球の重要な要素である動的姿勢を集中的に獲得できたことが全習法に対して効果が得られた成因であることが示唆された。【理学療法学研究としての意義】本研究の結果から運動学習課題の設定によっては、全習法よりも学習効果が得られる事が示唆された。特に運動時の姿勢の改善を目的とする学習課題を分習法に組み込むことによって学習効果が向上する可能性があり、理学療法への分習法の応用に有用であると考えられる。
著者
戸渡 敏之 久野 雅彦
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2004, pp.D0692-D0692, 2005

【はじめに】糖尿病(以下DM)患者の運動療法においてwalkingを指導する機会は多い。当院では8日間の入院DM教室において、理学療法士が1回の講義と5回の運動療法の一種目としてwalkingを実施している。講義内容は運動療法の目的、注意点に加え、脈拍触診法、自覚的運動強度の説明などであり、運動強度の処方は個別に換気性作業閾値(VT)もしくはKarvonen法により算出した脈拍数の80~100%として設定している。またwalkingは病院敷地内に1周450mのコースを作成しており、カロリーカウンターを装着して実際に25分程度運動を体験してもらっている。そこで今回、今後の参考とする目的で、walking実施状況に関する実態調査を行い、若干の知見を得たので報告する。<BR>【対象と方法】平成12年5月~平成16年4月までのDM教室にてwalkingに3回以上参加し、コースを3周(1,350m)以上可能であった者136名(男性96名、女性40名、年齢55.1±12.6歳;以下平均±SD)を対象とした。調査方法はPT実施記録よりretrospectiveにデータを調べた。統計処理は、解析ソフトDr SPSS II for Windowsを使用し、有意水準は5%未満とした。<BR>【結果】対象者の入院時HbA1cは、10.8±2.4%であり、DM発症から6.4±6.8年経過していた。合併症については、網膜症:35名(25.7%)、腎症:23名(16.9%)、神経障害:25名(18.4%)にみられた。walking実施回数は4.8±1.6回であり、歩行距離は1831.5±239.9mで、歩数は3075.7±423.4歩となっていた。また運動時間は27.3±4.1分であり、消費カロリーは102±26.7kcalであった。さらにwalking指導中に低血糖や胸痛発作はなかった。脈拍触診法については、可能97名(71.3%)、不能39名(28.7%)であり、触診可能群と不能群との比較では、年齢:可能群52.4±12歳、不能群61.9±11.6歳(p<.001)、発症からの期間:可能群5.3±6年、不能群8.9±8.1年(p<.05)、性別:可能群(男性74名、女性23名)、不能群(男性22名、女性17名)(p<.05)で有意差を認めた。そして処方脈拍数と実施脈拍数の差は、処方範囲内115名(84.6%)、超えた者15名(11%)、下回った者6名(4.4%)となっており、3群の比較で統計学的有意差はなかった。<BR>【考察】参加者に脈拍触診法を指導しているが、自己で触診できる者は約7割程度であり、残りの3割は脈拍により運動強度を判断することができなかった。触診ができないケースの特徴として、年齢が高く、罹患期間が長く、女性に多い傾向がみられており、触診能力を早期より把握し不能な場合、自覚的運動強度の指導を積極的に行う必要性が再認識された。また処方脈拍数との差異については、処方範囲内が約85%となっており、残りの約15%は適切な運動強度に達していないと考えられ、運動強度の指導方法を再検討する必要性が示唆された。
著者
塚越 累 大畑 光司 福元 喜啓 沖田 祐介 高木 優衣 佐久間 香 高橋 秀明 木村 みさか 市橋 則明
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2012, pp.48101012-48101012, 2013

【はじめに、目的】Honda製リズム歩行アシスト装置(以下,歩行アシスト)は,歩行時の股関節の屈曲伸展運動を補助するトルクを負荷することによって歩行障害者の歩行の改善を目指すものである。これまでの我々の研究から,歩行アシスト使用中は下肢関節の角度範囲の増加や関節モーメントの増加が認められているが(日本臨床バイオメカニクス学会:2012),歩行アシストの効果が使用後に残存するか否かは明らかではない。本研究の目的は,若年者および高齢者における歩行アシスト使用後の歩行変化を動作解析および下肢筋活動分析の側面から検証することである。【方法】若年者17名(平均年齢25.1±3.8歳,男性9名)および日常生活と外出が自立している高齢者13名(平均年齢76.9±4.3歳,男性7名)を対象とし,歩行アシスト使用前および使用直後の自由歩行時の三次元動作解析と筋電図解析を行った。歩行アシストが発生させる股関節へのアシストトルクは,屈曲・伸展方向とも6Nmとし,使用時間は3分間とした。三次元動作解析装置および床反力計を使用し,歩行時の下肢関節角度,内的モーメントおよびパワーを測定した。筋電図解析の対象筋は右側の大殿筋,中殿筋,大腿直筋,外側広筋,大腿二頭筋,前脛骨筋,ヒラメ筋とした。得られた筋電図生波形を全波整流し50msのRoot mean squareを求めた後,最大等尺性収縮を100%として正規化し,それぞれ立脚期と遊脚期の平均値を算出した。歩行課題は各3回測定し,分析には3回の平均値を使用した。各測定項目について,測定時点(使用前,使用後)と群(若年群と高齢群)を2要因とした二元配置分散分析を行った後,交互作用が認められた場合には群内での比較を行った。【倫理的配慮、説明と同意】本研究計画は本学倫理委員会にて承認されており,対象者には研究実施前に研究内容について十分に説明し,書面にて同意を得た。【結果】歩行アシスト使用後に歩行速度は有意に増加した(全体;使用前1.19±0.15m/s,使用後1.27±0.13m/s)。ステップ長には有意な交互作用がみられ,高齢群のみ使用後に有意な増加が認められた(若年群;前0.64±0.06m,後0.65±0.05m,高齢群;前0.58±0.06m,後0.63±0.06m)。歩行率には有意な変化は見られなかったものの,若年群において増加する傾向にあった(若年群;前118±7steps/min,後121±9steps/min,高齢群;前116±11steps/min,後115±12steps/min)。歩行アシスト使用後は,使用前に比べて初期接地時の股関節屈曲角度,立脚後期の股関節最大伸展角度(全体;前12.6±7.2度,後14.6±8.4度)および遊脚期の股関節最大屈曲角度が有意に増大した。また,荷重応答期における股関節伸展モーメントと股関節伸展筋求心性パワーはアシスト使用後に有意に増加したが,立脚後期の股関節屈曲筋遠心性パワーの増加は高齢群のみに認められた。膝関節では,荷重応答期の屈曲角度および伸展モーメントの増加が認められ,遊脚中期の最大屈曲角度も使用後に増大した。一方,遊脚後期の膝関節屈曲モーメントは高齢群のみ有意な増加がみられた。足関節の角度にはアシスト使用前後における有意な変化は無かった。筋電図解析では,立脚期の大殿筋の筋活動が使用後に有意に増加していた。また,立脚期の大腿直筋に有意な交互作用が認められ,高齢群のみ有意な活動増加を示した。【考察】本研究の結果から,歩行アシストは使用直後の歩行速度の増加に対して効果的であることが明らかとなった。統計的に有意ではなかったものの若年者では歩行率が上昇する傾向にあり(p=0.07),高齢者ではステップ長の有意な増加が認められた。このことから,若年者では歩行率,高齢者ではステップ長の増加が歩行速度上昇の主な要因と考えられた。運動学的・運動力学的変化としては,立脚後期の股関節最大伸展角度や荷重応答期の股関節伸展モーメントおよび股関節伸展筋求心性パワーがアシスト使用後に増加していることから,これらが歩行速度の向上に大きく影響した可能性がある。この股関節伸展モーメントの変化と関連する筋活動変化として,大殿筋筋活動が増加したと考えられた。これに加えて,高齢者では立脚後期の股関節屈曲筋遠心性パワーが有意に増加しており,高齢者のみにみられたステップ長の延長に寄与していると思われた。歩行アシスト使用後に歩行動作の変化が見られたことは,この歩行補助装置の有用性の一側面を明らかにしたものと考えられる。【理学療法学研究としての意義】近年,研究開発や臨床応用がすすめられているロボティクスリハビリテーションは,将来的には理学療法の重要な手段となる可能性がある。本研究の結果は,歩行補助ロボットが高齢者や有疾患者の歩行能力の改善を促進させる可能性を示しており,理学療法の発展に寄与すると思われる。
著者
川井田 豊 福留 清博 上嶋 明 西 智洋 松下 寿史
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2008, pp.B3P1321-B3P1321, 2009

【目的】<BR> 2007年任天堂からビデオゲーム機Nintendo WiiのコントローラーであるバランスWiiボード(以下Wiiボード)が発売された.端に4つの高性能ストレインゲージ式フォースセンサを内蔵したこのWiiボードは、重心動揺計として機能することが期待できる.臨床の場で重心動揺計は、身体の静的・動的バランスの客観的評価を可能とする.しかしながら、機器が高価であるため、われわれ理学療法士が客観的評価に重心動揺計を用いることは少ない.そこで、低価格なWiiボードをパーソナルコンピューター(以下PC)のMicrosoft Excelから利用できるか、そして重心動揺計として機能するか検討した.<BR><BR>【方法】<BR> PCにBluetoothで接続したWiiボードの制御は、公開されているWiimoteLibを利用し、Excelのシートに質量と足圧中心座標値を直接記録できるようにプログラミングした.Wiiボードを重心動揺計として利用できるかを検討するために、AMTI社製BIOMECHANICS PLATFORM BP400600-2000(以下床反力計)を用い、その上にWiiボードを設置し、さらにその上に人(健常成人一名33歳、167cm、78kg)が立ち、床反力計・Wiiボードの両方から重心動揺データを50Hzでサンプリングした.その後、両データに相関があるかを調べた.なお、Wiiボードの出力を、15kg、30kg、45kg、60kg、70kgの重錘を用い床反力計を基準として較正した.この研究は鹿児島大学医学部疫学・臨床研究等倫理委員会の承認を得て実施した.<BR><BR>【結果】<BR> ExcelからWiiボードを制御できることを確認した.こうして得たWiiボード出力と床反力計出力(質量)との間には相関係数0.999を得た.重心動揺では、前後方向座標値、左右方向座標値の相関係数が共に0.989であり、回帰直線の傾きはバランスWiiボードに対して前後方向が0.996、左右方向が0.987、と傾きはほぼ1であった.<BR><BR>【考察】<BR> 今回の結果より、Wiiボードと床反力計両者の足圧中心座標値の相関関係は前後方向左右方向共に0.989と線形性を前提とした回帰分析を許すことがわかった.さらに、回帰直線の方程式も、足圧中心座標値は前後方向の傾きが0.996、左右方向は0.987と、両座標値はわずか1%の差しかなく、よく一致していることがわかる.以上の結果から、Wiiボードは重心動揺計と同じ機能を有するといえる.それにもかかわらず、Wiiボードは実売価格9000円程度と安価であり、数百万円する床反力計と同じ測定結果が得られたことは、理学療法における重心動揺計を利用した客観的評価の観点から普及・利用が期待できる.
著者
新岡 大和 成尾 豊 山口 大輔 若井 陽香 上野 貴大 荻野 雅史 鈴木 英二
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2012, pp.48101399-48101399, 2013

【はじめに、目的】ボツリヌス療法(botulinum toxin therapy;以下、BTX)は筋弛緩作用のあるボツリヌス毒素を痙縮筋へ直接注射することにより筋緊張の緩和を図る治療法である。脳卒中治療ガイドライン2009では痙縮に対する治療として推奨グレードAとされており、標的筋への直接投与による局限的効果とその手技の簡易さ、副作用の少なさから現在広く普及し始めている。しかしながら効果は可逆性で、個人差はあるものの薬剤効果は3ヶ月程度とされていることから、痙縮抑制効果の持続のためには反復投与が必要といった側面がある。木村らはBTXのみによる痙縮改善効果を報告しているが、一方でイギリスの内科医師ガイドラインではBTXはリハビリテーションプログラムの一部であるとされ、中馬はBTXと併せたリハビリテーションの重要性を指摘している。しかし、海外においてはBrinらがBTX後の適切なリハビリテーションの実施による薬剤効果の長期化を報告しているものの、国内では継続したリハビリテーションによる効果報告が少ない状況である。当院では維持期脳卒中患者へBTXを実施した後、薬剤効果の消失期限とされている3ヶ月間にかけて、理学療法を継続して併用介入しながら効果判定を行っている。今回、その効果判定結果より若干の知見が得られたので報告する。【方法】対象は2012年6月より2012年11月の間に、当院で脳卒中後の下肢痙縮に対してBTXを実施した43名のうち9名(男性7名、女性2名、平均年齢60.4±9.4歳)であった。対象者の下肢痙縮筋(腓腹筋、ヒラメ筋、後脛骨筋)にGlaxo Smithkline社製のボトックス(R)を投与した。注射単位数は対象者の痙縮の程度によって医師とともに判断した。投与後より3ヶ月間、週1~2回、各40分程度の理学療法を外来通院にて行った。理学療法プログラムは各種物理療法(電気刺激療法、温熱療法)、関節可動域練習、筋力強化、歩行練習などを実施した。また、対象者に対してBTX施行前、1週間後、1ヶ月後、3ヶ月後にそれぞれ理学療法評価を行った。評価項目は足関節底屈筋群の筋緊張検査としてModified Ashworth Scale(以下、MAS)、足関節背屈の関節可動域検査としてROM検査(以下、ROM)、歩行能力検査として10m歩行時間とした。統計学的手法にはSPSS for Windows10.0を用い、Friedman検定、wilcoxon検定を行い、有意水準を5%とした。【倫理的配慮、説明と同意】調査にあたって対象者に対して本研究の目的及び内容を説明し、研究参加への同意を得た。【結果】対象者の疾患内訳は脳出血7名、脳梗塞2名であり、発症からBTXまでの経過年数は8.3±4.0年であった。MAS、ROMに関しては、施行前と比較して、1週間後に有意な改善を認め、以後1ヶ月後、3か月後では有意な差を認めなかった。歩行時間に関しては、施行前、1週間後、1ヶ月後、3ヶ月後の順に有意に改善が認められた。【考察】BTX施行1週間後では、施行前と比べて全ての評価結果の向上を認めた。BTXによる効果は1週間程度で最大となるといわれており、この改善は主にBTXによる効果と考えられた。その後、1ヵ月後、3ヶ月後の評価においては、筋緊張、関節可動域はBTX施行1週後の状態が維持されており、歩行能力に関してはこの間も経時的に改善を認めていた。これはBTXの後療法としての理学療法の併用と継続介入の有用性を示唆していると考える。理学療法介入効果について検討すると、筋緊張に関しては、姿勢や動作の改善、拮抗筋の活動性向上といった筋緊張亢進を抑制する因子に介入できたことが推察された。関節可動域に関しては、筋緊張が改善された状態を維持したことに加え、継続した介入により筋の柔軟性向上が促されたことが推察された。歩行能力に関しては、筋緊張と関節可動域が改善している状況下での動作練習により、運動学習が促され、ADL上の動作能力改善に繋がったことで3ヶ月間改善し続けたものと考えられた。これらの効果が維持期脳卒中患者において得られたことは有意義といえる。今回の研究では理学療法の継続介入が効果的であることは示唆できたが、理学療法の介入手段までは詳細に規定できていない。よって、今後はどのような理学療法の介入手段が有用なのか、また歩行動作がどのように変化するのか検証していくことが必要だと考えられる。【理学療法学研究としての意義】本研究は我が国ではまだ報告の少ない維持期脳卒中患者の下肢痙縮に対するBTXの後療法としての理学療法の併用、及びその継続介入の有用性を示唆できたことに意義があると考える。