著者
関 裕也 関 貴子 黒沢 明子
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.B3O1059-B3O1059, 2010

【目的】脳卒中片麻痺の麻痺側下肢筋力を対象とした研究では、大腿四頭筋のみを指標としているものが多い。しかし、脳卒中片麻痺の下肢筋力と他の因子との関係を調べる上で、大腿四頭筋のみの指標で十分なのだろうか。日々の臨床では、麻痺側大腿四頭筋を重点的に強化しても能力が改善しない例を多く経験するため、大腿四頭筋以外に重視すべき筋があるのではないかと疑問に感じている。そこで今回、ハンドヘルドダイナモメーター(以下、HHD)を用いて脳卒中片麻痺患者の大腿四頭筋を含む複数の下肢筋力を測定し、バランス・歩行・ADLとの相関を検討した。<BR>【方法】対象は、歩行能力が監視レベル以上の脳卒中片麻痺患者22名(男性14名、女性8名、平均年齢61.9±8.8歳、平均罹患期間66.2±70.1ヶ月)である。HHD(μTasF-1:アニマ社製)を用いた麻痺側下肢の筋力測定は、前脛骨筋、下腿三頭筋、大腿四頭筋、ハムストリングス、股関節屈筋、伸筋、内転筋、外転筋を対象に行った。測定は、最大努力の等尺性収縮を5秒間行わせた。1回の練習後、30秒以上の間隔をあけ2回測定し、最大値を採用した。そして得られた値(N)に、関節からセンサーまでの距離(m)を乗じてトルク値を求め、さらにデータを標準化するためにトルク値を対象者の体重(kg)で除して筋力値(Nm/kg)とした。バランスおよび歩行指標はFunctional Reach Test(以下、FRT)、10m歩行速度(以下、歩行速度)、Timed U p & Go Test(以下、TUG)を計測した。歩行速度とTUGはいずれも最速歩行で計測した。ADL指標はFIMを用いた。統計学的解析は、各筋力値とFRT、歩行速度、TUG、FIMの間で、Pearsonの相関係数検定を実施した。<BR>【説明と同意】本研究は、ヘルシンキ宣言に沿って計画した。対象者には本研究についての説明を行い、同意を得た上で計測を行った。<BR>【結果】前脛骨筋、大腿四頭筋、股関節内転筋、外転筋においてFRT(r=0.44, 0.45, 0.65, 0.64)、歩行速度(r=0.52, 0.51, 0.68, 0.70)、TUG(r=-0.45, -0.49, -0.64, -0.71)、FIM(r=0.45, 0.46, 0.65, 0.58)の全指標と相関が認められた(前脛骨筋と大腿四頭筋はp<0.05、股関節内転筋と外転筋はp<0.01)。また、股関節伸筋はいずれの指標とも相関が認められなかった。その他の筋に関しては、部分的な相関しか認められなかった。<BR>【考察】結果より、バランス・歩行・ADLと相関の認められた筋は、前頸骨筋、大腿四頭筋、股関節内転筋、外転筋であった。特に股関節内転筋と外転筋は前2者に比して高い相関が認められた。股関節内転筋が全指標と相関するのは仮説に反していたが、股関節外転筋との同時収縮で骨盤の側方安定性を得るために重要な役割を果たしていると解釈できる。以上より、脳卒中片麻痺の能力との関係を調べる際、大腿四頭筋だけでなく骨盤の側方安定性に関与する股関節内・外転筋群も指標として用いる方が、より的確に関係性を捉えることができると考える。<BR>【理学療法学研究としての意義】脳卒中片麻痺の麻痺側下肢筋力を対象とした先行研究の多くは大腿四頭筋のみを指標としているが、本研究結果から股関節内・外転筋群の方が指標として適している可能性が示唆された。さらに、麻痺側股関節内・外転筋群を強化し、同時収縮を促すことで、脳卒中片麻痺の能力が向上する可能性も示唆された。この点については、今後検討を重ねていきたい。

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