- 著者
-
三村 健
- 出版者
- JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
- 雑誌
- 日本理学療法学術大会
- 巻号頁・発行日
- vol.2009, pp.E4P2264-E4P2264, 2010
【目的】2002年、大田により提唱された高齢者における終末期リハビリテーション(以下、終末期リハ)は、その重要性が叫ばれているにも関わらず、その概念がリハビリテーションの領域で十分認知されているとは未だ言えない。高齢者における終末期リハは癌患者等に用いられるターミナルケアとは異なる意味あいで用いられるが、過去5年の本学術大会においても終末期という用語は癌患者やALSにおけるターミナルケアの意味で用いられるのみで、高齢者における終末期リハをキーワードとしている演題は皆無に等しい。大田は終末期リハの具体的目標として八つの項目を挙げているが、中でも関節可動域(以下、ROM)の維持は、他の目標に影響を与えるという意味でも、また、最期まで人間らしい身体の状態が維持されるためにも重要である。在宅高齢者における終末期リハ、特に関節可動域の維持の重要性について検証を行うことが本研究の目的である。<BR>【方法】高齢者における終末期リハに関し、訪問リハビリテーション(以下、訪問リハ)を行っている2例について報告を行う。<BR>【説明と同意】紹介する2ケースに関しては、ヘルシンキ宣言に基づきコミュニケーション困難なご本人に代わり、ご家族に対して研究に関する説明を行い同意を得た。<BR>【結果】ケース1:76歳男性。平成11年脳梗塞発症。1年半の入院を経てADL全介助の状態にて在宅を開始。以降、妻による献身的な介護、訪問看護、通所介護等の在宅サービスにより、肺炎、胃瘻造設目的などによる短期の入院以外、在宅を継続してきたが、その間に徐々に四肢の拘縮が進行。現在、persistent vegetative stateにて要介護5。平成20年12月より訪問リハ開始し、四肢のROM ex施行。両手指の重度屈曲拘縮に対しては主治医と協議の上、手指屈筋群の腱切り術が施行される。両膝の屈曲拘縮により、車いす座位の際に脚をさらしで固定する必要がある、右踵部と臀部の接触による褥創の危険性がある、左側臥位が取れない、等の問題がある。本ケースは退院直後よりROM維持を目的としたアプローチが何らかの形で継続して行われていれば、現状のような拘縮の進行はなかったのではないかと思われる。 今後も拘縮の進行の予防を目的として週1回、2単位の訪問リハを継続予定である。<BR>ケース2:85歳、女性。要介護5。平成17年9月に脳梗塞を発症。同年11月よりご家族の介護による在宅療養を開始し、同時に訪問リハを開始。現在まで週1回の訪問リハを継続。訪問時はROM ex、リクライニング式車いすに全介助にて移乗。1時間ほど車いす上でテレビを見て過ごされる。部分的には拘縮が認められるが、全体としては著しい拘縮を生じることなく経過されている。日によって変動はするが、追視やわずかながら会釈や笑顔が見られる等、コミュニケーションも保たれている。ご家族での春のお花見を現在も継続されている。<BR>【考察】高齢者の終末期には、在宅に限らず特養等の施設においても全てのケースに対してリハビリテーションの知識、技術を踏まえたケアが継続的に行われるべきである。理学療法士が必ずしも直接ROM exを行わずとも、家族や他職種による協力により拘縮の進行を防げるケースもあると思われるが、まずは我々理学療法士が在宅、施設、病院、いずれの場においても、終末期のケースにこれまで以上に関わりを持ち、尊厳ある終末を迎えるにはどのような支援が必要とされるのか、検討すべきである。急性期、回復期、維持期に続く終末期のリハは一連のリハビリテーションの帰結ともいえる。リハビリテーションのどのステージにおいても他職種との連携の必要性は常に謳われているところであるが、最後の連携は、きれいなご遺体を納棺師(おくりびと)に引き継ぐことではないかと考える。<BR>【理学療法学研究としての意義】超高齢社会を迎えたわが国において、まずは理学療法士自身が終末期への関心を高め、その研究を行うことにより、国民が安楽で尊厳ある終末を迎える支援を行うことが可能となると考える。