著者
成田 爽子 牧野 美里
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2012, pp.48100262-48100262, 2013

【はじめに、目的】厚生労働省の平成22 年の国民生活基礎調査によると、12 歳以上の者(入院者は除く)について、日常生活での悩みやストレスの有無別構成割合をみると「ある」46.5%となっている。運動とストレスの関係について論文検索をしたところ、運動によりストレス軽減効果が得られるとしている文献が多数みられた。その評価指標として、主観的指標を用いているものが多く、客観的指標を用いているものは比較的少なかった。そこで、今回の研究では運動によりストレスの改善ができるかどうかを客観的に評価することを目的とした。【方法】健常男子学生16 名(年齢:21.5 ± 2.27 歳、身長:175.13 ± 3.93cm、体重:68.69 ± 9.41kg) を対象とした。主観的指標として日本語版Profile of Mood States短縮版(以下POMS短縮版)、客観的指標として心拍変動周波数成分(LF/HF:交感神経活動指標、HF:副交感神経活動指標)の2 分間の平均と唾液アミラーゼ活性を用いた。対象者はPOLAR社製スポーツ心拍計RS800<sub>CX</sub>(以下:心拍計)を装着し、安静閉眼座位にて10 分間の休憩を取った。自転車エルゴメーターにて20 分間の運動と1 分間のクールダウンを行い、運動前後で、上記の評価を行った。尚、運動強度は、50%HRmax、50 回/分を目安として快適に運動を続けることができる負荷量を事前に決定した(52.5 ± 14.76W)。周波数解析は付属のソフトを用いて行い、統計処理にはStatcel3 を用い、対応のあるt検定(抑うつ−落ち込み、怒り−敵意、唾液アミラーゼ活性、LF/HF)及びWillcoxon符号付順位和検定(緊張−不安、活気、疲労、混乱、HF)により行った。有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】全ての被験者には事前に本研究の目的や方法、参加への同意・撤回の自由、プライバシー保護の徹底について説明を行い、書面にて同意を得た。【結果】POMS短縮版の各項目において運動前後で有意差は見られなかったが、緊張−不安(前43.44±9.68点、後40.69±7.28点)、抑うつ−落ち込み(前45.44 ± 8.55 点、後44.19 ± 7.84 点)、怒り−敵意(前41.88 ± 7.85 点、後40.5 ± 5.92 点)、混乱(前46.19 ± 5.39 点、後44.31 ± 4.67 点)の項目のT得点の減少が見られ、活気(前42.06 ± 14.27 点、後44.50 ± 14.42 点)の項目でT得点の上昇が見られた。唾液アミラーゼ活性(前40.88 ± 41.97KU/L、後20.25 ± 24.06 KU/L)においても、運動前後で有意差は見られなかったが、数値の減少が見られた。つまり、これらの項目ではストレスを改善する傾向がみられた。また、有意差は見られなかったが、POMS短縮版の疲労(前44.88 ± 10.36 点、後47.56 ± 9.99 点)の項目のT得点が増加した。副交感神経の指標であるHF成分(前447.99 ± 429.42ms <sup>2 </sup>、後195.53 ± 184.97ms <sup>2 </sup>)において有意に減少し、交感神経の指標であるLF/HF(前570.14 ± 1248.07、後499.84 ± 317.05)は、ほぼ変化はなかった。【考察】本研究では、運動によりストレスの改善ができるかどうかを客観的に評価することを目的として実験を行った。「リラクセーション状態=ストレスのない状態」と解釈され、心身のリラクセーションの評価法については未だに十分に整理されているとは言い難いとされており、ストレスの評価法についても同様であると考えられる。本研究においても、主観的評価や唾液アミラーゼ活性ではストレス改善傾向を示しているが、有意差は見られていない。また、副交感神経の指標であるHFの減少に関しても、運動によって副交感神経活動が減少することは既に示されている。今回は運動直後のHFを解析したためにHFが有意に低下したと考えられ、それ以降のHFの推移を追っていくことが重要だったのではないかと思われる。また、50 〜80%HRの運動によってストレス軽減効果が得られるとされているが、乳酸性作業閾値以上の運動によりストレスホルモンである副腎皮質刺激ホルモンが亢進し、交感神経系が亢進すると言われているため、低負荷の運動でもストレス軽減効果が見られるか等、運動強度についても再検討する必要があると考えられる。これらのことから、客観的にストレスを評価できたとは言い難いが、運動強度や評価指標、評価を行うタイミング等の実験方法を再検討することで、ストレスを客観的に評価することができる可能性があると考えられる。【理学療法学研究としての意義】現代ではストレスを抱える人が多く、運動療法を行うことによって身体的な障害のみでなく精神的なストレスを改善することができるならば、QOLの向上につながると考える。そのためには、運動とストレスの関連を把握し、ストレスを評価する指標が必要であり、本研究はその一助となると思われる。更に、運動強度や評価指標など、実験方法を再検討することで、患者への臨床応用も可能となると考えるため、理学療法学研究として意義があると思われる。

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