- 著者
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米本 竜馬
浅香 結実子
冨岡 詔子
- 出版者
- JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
- 雑誌
- 日本理学療法学術大会
- 巻号頁・発行日
- vol.2012, pp.48100924-48100924, 2013
【はじめに】発展途上国における青年海外協力隊(以下協力隊とする)としての理学療法士隊員の実践活動は、リハビリテーションの基盤となる職種間連携の考え方や必要な職種そのものが存在しないこともあって、日本での考え方や理学療法の手法を導入することは大きな制約を受けることが常である。現在まで大洋州にて4回の「広域研修」を継続してきた。そのうち、研修会の手法とテーマに「他職種連携・チームワーク」と国際的なリハビリテーションの共通言語である「ICF」を意図的に導入した過去2回の研修会を振り返り、その有用性と参加者の反応を検討したので報告する。なお、「広域研修」とは、通常は隊員自身の自主的な企画運営により、複数国に派遣中の隊員とそのカウンターパートを対象とするJICA(国際協力機構)主催の研修会を指す。【方法】今回の調査対象とした第3回および第4回の大洋州リハビリテーション領域広域研修の概要と実施手法を以下に述べる。第3回 (テーマ:他職種とのチームワークによる問題解決アプローチ;2010年11月22日-26日;ソロモン諸島のホニアラ)では、総数27名(隊員は9名)が4カ国(ソロモン・フィジー・パラオ・PNG)から参加した。第4回(テーマ:包括的なアプローチが出来るジェネラリストを目指して;2011年10月31日-11月4日;PNGのココポ・ラバウル)では、総数37名(隊員は11名)が3カ国(PNG・ソロモン・サモア)から参加した。参加隊員の職種は理学療法士・作業療法士・言語聴覚士・看護師・養護教員であり、各国からの参加者には、理学療法士・CBRワーカー・看護師・現地NGOスタッフ・政府関係者などが含まれた。現地JICA事務所のスタッフや協力隊技術顧問は適宜必要な支援をした。研修会の構成は、参加型の問題解決手法を中心に組み立てた。最初の3日間で各国のリハビリテーション状況の情報共有、活動報告、施設見学、技術的なワークショップなどを行い、残り2日で実際の症例を用いた症例検討を行った。報告内容は事前に共通の枠組みを提示し、ワークショップは、各職種が得意な領域や技術などその特性を生かしたものとした。症例検討は4人の当事者とその家族の協力を得て、4組(4-7職種からなる7-9人構成)に分かれて、ICFモデルに沿った評価を行い、ゴール設定、治療プログラムの作成までを検討し、発表を行った。研修終了時にアンケートを実施し、研修の満足度、ICFの活動先での有用性、活動先でジェネラリストであることは必要か、などを回答してもらった。また、研修参加後1年から2年の活動先での成果を可能な範囲で参加者にインタビューした。【説明と同意】アンケートは無記名とし、研修時に今後日本で発表することがあると説明し同意を得た。JICAに発表の趣旨と内容を説明し、許可を得た。【結果】技術的なワークショップは好評だった。症例検討では、症例の全体像を偏りなく捉えられていた。アンケート結果として「研修の満足度」は「満足」が64%、「ふつう」が28%「不満足」は0%「無回答」は2%だった。「ICFの有用性」は「ある」が60%「ない」が32%、「わからない、無回答」が8%だった。「ジェネラリストは必要か」は「はい」が80%、「いいえ」が4%「わからない、無回答」が16%だった。研修終了後の成果として、活動先の病院で他職種を交えた症例検討を企画実行したなどが報告された。【考察】参加者は症例の全体像を偏りなく捉えられていた。これはICFを活用し、グループディスカッションにて他職種の視点を共有できたからだと考えられる。研修に対しての満足度は高かった。これは、参加者の活動現場では物や人だけではなく、教育の機会も不足しており、卒後教育のシステムは皆無に等しいからだと考える。「ICFの有用性」も多くの参加者が「ある」とした。参加者の多くは活動先での人材不足を感じていたが、ICFを活用することで、他職種との連携や包括的な視点での理解が進み、その結果、限られた人材を有効に活用できるようになると参加者が理解したからだと考えられる。「ジェネラリストの必要性」も多くの参加者が「ある」とした。他職種の役割や特徴を理解することによって、参加者は広い視野を持つことの有用性を理解したと考えられる。上記全てにおいて、職種や言語などの違いをバリアとしにくいICFの特徴とグループワークが有効だったと考える。【理学療法学研究としての意義】ICFを用いて他職種との連携やリハビリテーションの包括的視点を体験的に理解していく試みを報告した。チーム医療の重要性が高まっている中で、理学療法士によるICFの活用がその促進の一助となる可能性が示唆された。また、広域研修会の企画・実施運営は理学療法士のマネジメント能力の開発に資する面が大きいと思われる。