著者
久原 恵子 波多野 誼余夫
出版者
The Japanese Association of Educational Psychology
雑誌
教育心理学研究
巻号頁・発行日
vol.16, no.2, pp.65-71,121, 1968

1次元上の値により定義される概念の学習過程において, 子どもの知的発達の程度により, 不適切次元の数, 適切次元の直観性がどのような影響をもつかを調べるために2実験を行なった。<BR>主な結果は次のとおりである。<BR>1) 不適切次元数の効果不適切次元数が増えると課題は困難になる, という結果が得られた。この抑制的効果は, この実験で扱った被験者の範囲では, 知的発達の程度 (MA) と関係なく認められた。すなわち, Oslerらの仮説は否定された。<BR>この効果が小さいのは, 適切次元の直観性が高く, かつ学習者が直観的印象の集積にもとついて適切手がかりを発見する場合であろうという予想も支持されていない。しかし, この点については, あらかじめ全変化次元を教えない事態であらためて検討する必要があろう。<BR>2) 適切次元の直観性の効果適切次元を直観的にとらえられやすいものにした場合には課題は容易になる。この効果は, 学習前に変化次元のすべてに気づかせる手続きをとった場合にも生ずる。この効果が小さいのは, 体系的に仮説を吟味していく学習者 (形式的操作期の子どもであればこの条件を十分充たすであろう) すなわち, 知的発達の程度 (MA) が相対的に高い場合であると思われる。これは実験I, II で, ともに支持された。<BR>Brunerほか (1956) のいうような方略は, すべて仮説が等価なものであるときにのみ適用可能であることを考えれば, この結果のもつインプリケーションはあきらかであろう。形式的操作期の子どもにとっては, 刺激のそれぞれの手がかりは, 一種の命題的性格を与えられる結果, 等価とみてなされており一おとなの実験者にとっもそうなのであるが一, したがっていったん適切でないとわかった手がかりに固執することはない。しかし, 知的発達の低い段階においては, 仮説の選択を順次行なっていく能力が欠けているばかりでなく, 各次元が等価でないため, 検証一棄却の論理的手続きも不能となるのである6<BR>3) 不適切次元数と適切次元の直観性の交互作用<BR>不適切次元数がふえるほど, 適切次元の直観性の寄与が大となる, という予想は, 今回の実験からは, 実験II の小4を除いて統計的には確かめられなかった。<BR>なおさらに, これと, 知能との交互作用すなわち, 適切次元の直観性が高いときには, 不適切次元数の増加がもつ抑制的効果は知能の高いものにおいて大きいが, 直観性が低いときには知能の低いものにおいて大きい, という傾向が実験IIにおいてみられたことは注目してよかろう。

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