著者
永野 新太 加藤 太一 井部 賢吾 川越 潤一 安井 清彦 矢野 幸彦
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.Bb1409-Bb1409, 2012

【はじめに、目的】 自己身体部位失認についてFrederiks(1985)は「身体図式」の異常に起因すると報告した.しかし,身体部位失認という多義的で曖昧な概念に対しては,呼称の障害であるのか,空間定位の障害であるのか,あるいは他者身体各部位の呼称・空間定位障害も含めた障害であるのかについて依然多くの論議がなされている.鶴谷・大東(2007)は,失語症を伴わない自己身体失認症例に対し詳細な評価を行った結果,自己中心座標系を利用してターゲットとなる部位の位置をオンラインで処理する過程の問題として理解可能であるとした.今回,失語症を伴った左頭頂葉・側頭葉出血の症例に対し,身体部位失認様の症状を認めたため評価を行った.その方法と結果を報告する.【方法】 50歳代左利き.画像所見ではCT上で左頭頂葉・側頭葉に出血を認めた.JCS1-1,Brunnstrom Stage右上肢2・手指2・下肢3レベルで座位保持可能,立位保持は非麻痺側優位であり,麻痺側踵部は床面から浮いた状態であった.触覚については「触っているのは何となくわかる」とのことであったが,その他の感覚については右上下肢とも重度鈍麻,感覚全般において中枢部より遠位部に強く障害されていた.高次脳機能障害としては,流暢性失語を認め,聴理解は良好だがジャルゴン様の発話を認めた.自画像描写課題では身体像の欠落を認め,保続や失算,失書,左右失認,手指失認症状を呈した.トイレ動作では非麻痺側上肢にて手すりを把持し立位保持できるものの,麻痺側足底の接地位置不良,下衣の上げ下げに介助を要した.評価として,身体部位14か所(頭・首・胸・腹・左右の肩・左右の肘・左右の腰・左右の膝・左右の手)を刺激としたPointing課題(鶴谷・大東、2007)を行った.Pointingについては1)言語提示,開眼・自己身体条件2)言語提示,閉眼・自己身体条件3)言語提示,開眼・他者身体条件4)視覚提示,自己身体条件5)視覚提示,他者身体条件6)触覚提示,閉眼条件を設定条件とし,正答率と誤反応(近接エラー,概念エラー)について検討した.【倫理的配慮、説明と同意】 ヘルシンキ宣言に基づき患者,家族に症例報告より評価の妥当性について第47回全国理学療法学術大会にて報告することを説明し,同意を得た.【結果】 部位別では,頭・首・左肩・胸・左膝で正答率100%,右肩・腹・右腰・右膝で正答率83%,左腰で正答率66%,右手で正答率50%,右肘・左肘・左手で正答率33%であった.設定別では,1)正答率64%,誤反応概念エラー2)正答率57%,誤反応近接エラー3)正答率87%,その他エラー4)正答率79%,誤反応近接エラー5)正答率71%,誤反応近接エラー6)正答率93%,誤反応近接エラーであった.また,左右の身体部位における正答率は両側共に66.4%であり左右差を認めなかった.モダリティー別の正答率は,言語69%視覚75%触覚93%であった.【考察】 両側性の身体失認について大東(1983)は,身体中央部よりも外側部においてより強いと報告している.臨床所見に加え,左右の身体部位における正答率に差を認めなかったこと,部位別の正答率が身体遠位で優位に低下していたことから本症例は両側性の身体失認を呈していると判断した.部位の位置・範囲等・身体一般の構造的知識である視空間性表象(視覚提示条件),部位名・機能的定義等の命題的知識である意味性表象(言語提示条件)が低下していたのに対し,現在の姿勢・外空間と身体の位置関係のオンライン処理である動的身体表象(閉眼での触覚提示条件)は比較的良好であった.失語症の影響のみで意味性表象が低下していると考えるならば,部位別の正答率は一様に低下するはずである.同様に,誤反応は概念エラーではなく近接エラーが多く観察されたことから,本症例においては失語症の影響のみによる身体部位失認の可能性は低いことが示唆されたが,鶴谷・大東(2007)が報告した自己身体に限定された空間定位の病態とは一致しなかった.したがって,自己身体部位失認の病態については,自己身体における空間定位の障害に加えて,視空間性表象・意味性表象での処理過程と動的身体表象での処理過程の双方をつなぐシステムに何らかの障害が発生していることが示唆された.【理学療法学研究としての意義】 自己身体部位失認については症候論的理解にとどまることが多く,その病態についての定義は依然確立されていない.今回の評価結果を踏まえ,今後は,簡素な評価法の確立・アプローチ方法の検討を行っていきたい.

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こんな論文どうですか? 自己身体部位失認の病態に関する一考察(永野 新太ほか),2012 https://t.co/5OkRgF22bb 【はじめに、目的】 自己身体部位失認についてFrederiks(1985)は「身体図式」の異常に起因すると報告…
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