著者
田村 龍太郎 工藤 忍 山口 雅弘 水戸川 彩 大橋 亜弥 汐谷 祥子 瀬戸 優美子 松島 由美 正木 文子
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.Db0560-Db0560, 2012

【はじめに、目的】 呼気、発声機能の評価判定に使用される最大発声持続時間(Maximum Phonation Time:MPT)の測定結果を判断する基準値は、正常値の分布の棄却限界の下限から、男性15秒以上、女性10秒以上を正常値と定められている。この基準値は50歳未満でなおかつ正常若年者をメインの対象とされた調査結果であり、その正常値を採択したものである。現在の臨床においても同基準値が採択されており、急性期の脳血管疾患患者の平均値を算出したものは見当たらない。そこで本調査では、初回評価時の男女別MPTの平均値を算出し、脳血管疾患患者におけるMPT基準値を算出することに着目した。【方法】 対象は2009年5月から2010年12月の間に当院に救急搬送され、理学療法を実施した脳血管疾患患者79例(脳梗塞:56例、脳出血:23例 男性:42名 女性:37名 男性:62.6±14.8歳、女性:69.1±14.9歳 初回測定:発症より6.3日)である。重度の意識障害を呈し検査困難である場合、その他の理由により研究協力依頼の趣旨を理解し、承諾の意思が確認できない場合、検査指示の理解が困難なものは除外した。測定項目最大発声持続時間 Maximum Phonation Time:MPT 正常値:男性15秒以上 女性10秒以上 平均値:男性約30秒 女性約20秒発声時平均呼気流率 Phonation Quotient:PQ PQ値 = 努力性肺活量(Forced Vital Capacity ; FVC)/MPT220ml/sec以上:声門閉鎖不全等の発声機能障害を判断80ml/sec以下:声門の過緊張による過緊張性発声障害や呼気能力低下を判断肺活量測定(チェスト社製 CHESTGRAPHJr.HI-101の電子スパイロメーターを使用)脳卒中機能障害評価法 Stroke Impairment Assessment Set:SIAS統計学的処理男女別でのMPTの値は、Shapiro-Wilk testを用いての正規性の検定を実施し、正規分布に従わないものであった (p=0.04)。よって、平均値と標準偏差に対数変換を行い、その値を逆変換することで値を算出した。標準偏差は逆対数変換(eのべき乗)を行い、その棄却限界の下限を採択し、下限値未満を異常値とした。【倫理的配慮、説明と同意】 被検者全員に研究趣旨を説明し理解していただいた。プライバシーが侵害されることがないことを説明した。リスク管理のうえ検査を実施し、救急の対応も可能であることを説明した。以上の説明により、同意と理解を得られた後に測定を行った。【結果】 MPTの平均値と棄却限界の下限 男性MPTの平均値は17.2秒であり、下限値は7.34秒であった。よって、9.86秒が男性の脳血管疾患患者の棄却限界の下限となる。女性MPTの平均値は18.3秒であり、下限値は6.86秒であった。よって、11.4秒が女性の脳血管疾患患者の棄却限界の下限となる。PQ値の測定結果 220ml/sec以上の値を示す男性は21.4%、女性は8.1%であった。80ml/sec以下の値を示す男性は該当者なし、女性は35.1%であった。 SIASの測定結果 男性は初期評価時にSIAS2の腹筋力低下を69%(29/42名)に認めた。女性では56.7%(21/37名)に認めた。【考察】 1 過去において、脳血管疾患患者のMPTの平均値と棄却限界の下限値を算出し、基準化した値は見当たらない。2 MPT が短縮する要因として、肺活量の減少、発声を持続するための呼吸・喉頭調整運動の中枢神経レベルにおける異常、声門閉鎖不全が挙げられる。脳血管疾患を有する患者は疾患器質上、低下の要因の多くを有することが確認された。3 PQ値を算出することで声門閉鎖不全の有無、声門過緊張による過緊張性発声障害の有無の確認できた。4 男性における脳血管疾患患者の呼吸・発声機能では、現行の基準値では高値であることが示唆された。女性においては、現行基準値と大差は認めなかったが、過緊張性発声障害を疑う努力性の呼気を呈することが示唆された。5 高齢者の音響的特徴を踏まえたうえで、脳血管疾患患者の呼吸特性を見ると、男性では経年変化による声門閉鎖不全と運動麻痺による言語発声能の障害が影響したことがMPT低下の要因であることが推察された。女性では経年変化の影響は少なく、体幹保持能が保たれていたため、発声機能に影響を与えにくかったことが、MPTの現行下限値と大差を示さなかった要因と推察される。一方で過緊張性発声障害を認める結果から、努力性に発声していることを認めた。【理学療法学研究としての意義】 脳血管疾患患者の呼吸機能と空気力学的検査法についての研究は散見される程度であり、今後機能回復面との関連を検討していく分野である。MPTは測定環境を選ばず、また特別な測定機器を使用しない簡便で安価な評価方法である。さらにPQ値を算出することでき、喉頭調整運動能を評価することも可能であり、脳血管疾患患者の呼吸・発声動態を知るうえで重要である。

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こんな論文どうですか? 脳血管疾患患者の最大発声持続時間についての検討:─空気力学的検査法を指標として─(田村 龍太郎ほか),2012 https://t.co/XeeaOGTEtf 【はじめに、目的】 呼気、発声機能の評価判定に使用される最大発声…
こんな論文どうですか? 脳血管疾患患者の最大発声持続時間についての検討:─空気力学的検査法を指標として─(田村 龍太郎ほか),2012 https://t.co/hB5Uh0F07s
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