著者
松井 陽佑 奥山 拓朗 市川 勝 安部 記子 渡邉 和裕 吉野 靖
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.Ea1028-Ea1028, 2012

【はじめに、目的】 転倒予防対策の方略としては,対象者個々の転倒リスクの評価に基づき転倒の内的・外的要因を解消させるための取り組みを行うべきであるが,簡便且つ客観的な評価方法は未だ統一されていないのが現状である.特に通所系サービスでは利用初日から送迎や移動を伴うため,初回利用日までに転倒リスクを判定し,結果を関連職種で共有しておくことが望ましく,またケアマネジャーをはじめ関連職種との情報共有にも配慮することが必要である.そこで本研究では,当院通所リハセンター利用者の転倒に関するデータを収集・解析し,転倒状況から転倒と関連のある項目を抽出することを目的とした.【方法】 要介護高齢者の転倒要因については,関連文献(Karenら 2001, 他)から抽出するとともに,全国回復期リハ病棟連絡協議会が作成した『転倒リスクアセスメントシート(以下,アセスメントシート)』の項目を準用した.このアセスメントシートは,【a.転倒歴,b.中枢神経麻痺,c.視覚障害,d.感覚障害,e.尿失禁,f.中枢神経作用薬,g.移動手段,h.認知障害】の全8項目からなり,各項目の有無により0~2点を与え,合計点からリスク1(0~3点,転倒の可能性がある),リスク2(4~6点,転倒を起こしやすい),リスク3(7~10点,転倒をよく起こす)の3グループに分類するものである.これらを合わせた全38項目を取り入れた追跡記録用紙を作成し,当通所リハセンターの看護師・介護福祉士・PT・OTにより,プロジェクト開始時以降3ヶ月ごと,および転倒時に記録された.対象者は,平成23年4月1日時点で当院通所リハを利用中の要介護者107名(男61名,女46名,平均73.3±9.0歳,要介護度1:18名,2:32名,3:26名,4:25名,5:6名)で,それぞれプロジェクト開始日から前向きに追跡調査された.3ヶ月間収集したデータについては統計学的検討を行い,非転倒者と転倒者との比較において転倒と有意な関連性のある項目の抽出を試みた.【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は当院倫理委員会の承認を得て実施している.【結果】 観察期間中の転倒発生件数は24件(22%)であった.107名のうち16名(15%)が1回以上の転倒を経験し,6名(6%)が複数回転倒者であった.転倒場所は居室が最も多く(46%),転倒の96%が日中に発生していた.転倒時の外傷状況として,10件の転倒では外傷はみられず,14件(58%)にて打撲・切創・擦創がみられた.大腿骨頚部骨折や頭部外傷等の重篤な外傷はみられなかった.また,臨床データと転倒の有無をクロス集計にて整理しχ2適合度検定の結果,臨床データと転倒の有無に有意な差を認めた項目は,「中枢神経麻痺の有無」,「中枢神経作用薬の使用」,「過去1年の転倒歴」,「背中が丸くなった」,「1人で動こうとする」,「つまづくことがある」であった(p<0.05).【考察】 通所系サービスでは,利用初日から送迎や移動を伴うため,初回利用日までに転倒リスクを判定し,結果を関連職種で共有しておくことが望ましい.その意味で,本研究は簡便かつ客観的に評価できるアセスメントシートを作成するためのデータ収集の端緒となりうるものと考えられた.また,在宅ケアには様々な職種が関わるため,複雑な判定基準を要するアセスメントは使いにくい.本研究における評価には,PT・OTだけではなく看護師や介護福祉士も加わっており,今回の評価項目が多職種協働のツールとなり,ひいては情報共有の一助になる可能性が示唆された.本研究の転倒群・非転倒群の比較では6項目において有意差を認めたが,調査期間が短いことから今後は症例数を増やして調査を継続していく必要がある.なお,将来的には症例数や調査期間を再調整したうえで,転倒関連項目の統計学的抽出を行い,通所リハで活用できる簡便な転倒リスクアセスメントシートの作成につなげていく予定である.【理学療法学研究としての意義】 高齢者が要介護状態となった様々な要因を踏まえて転倒リスクを判定することは,転倒予防に有用である可能性がある.将来的に,本研究の結果に基づいた簡便に判定できるアセスメントを作成する予定であり,在宅支援に関わる専門職種間での情報共有を図る端緒として有意義である.

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こんな論文どうですか? 通所リハビリテーションセンターにおける要介護者の転倒要因と転倒状況:─多職種で活用できる簡便なアセスメントシートの開発に向けての検討─(松井 陽佑ほか),2012 http://t.co/hVofNBXDL1

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