- 著者
-
アーナンディ S
- 出版者
- ジェンダー史学会
- 雑誌
- ジェンダー史学 (ISSN:18804357)
- 巻号頁・発行日
- vol.4, pp.5-16, 2008
近代的自己を定義するに際して、インド人男性の手による自伝は、公的な自己を特権化するのみならず、合理的で啓蒙されたものとしてマスキュリンな自己を分節化することによって公的・政治的なるものの境界を画定してきた。マスキュリンな自己とは、欲望、情愛、身体の偶発性を超越するものである。一方、女性の自己は、モダニティの文脈においては特に、私的・ドメスティックな情感的領域に属する、身体化され非-近代的他者とされてきた。<BR>他方、女たちの自伝はオルターナティブな近代的自己を想像することによって、対抗的な公的言説を提示する。同言説は、女たちの主体性を、近代的な公共領域における政治的主体として再構成することによって、マスキュリニティとモダニティを同視することに挑戦する。モダニティのジェンダー化された経験を叙述するに際して、女たちの自伝は、「自伝的マニフェスト」として知られる形式を採用してきた。マニフェストという形式は、女たちが抑圧と公共領域からの排除という自らの経験を叙述することを可能とし、新たな政治的集団性への呼びかけを行い、近代的自己への未来の可能性を想像した。<BR>本論考は、イギリス植民地期タミルナードゥ(南インド)に生まれたミドル・クラス出身のフェミニスト、S.ムットゥラクシュミ・レッディ(1886-1968)による自伝的マニフェストの分析を試みるものである。ムットゥラクシュミ・レッディは、マドラス管区では女性としては最初の医大卒業生(1912年)であり、英領インドの立法議会における初めての女性議員(1926年)となり、女性運動の活動家・指導者として活躍した。また彼女は、熱心なガンディー主義者でもあり、デーヴァダーシー制度と幼児婚に対して精力的に反対運動を推進し、女性たちに対する多岐にわたる福祉政策を実現させた。<BR>本論考は自伝的マニフェストという形式と、ラディカルな政治においてモダニティが内包する限界を批判的に論ずる。