著者
笹井 宣昌 縣 信秀 宮津 真寿美 早川 公英 河上 敬介
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2007, pp.A0458-A0458, 2008

【目的】負荷運動により骨格筋が肥大して、筋力が増強される。運動中、収縮力に対抗する力学的負荷(張力)が筋に働く。その張力が加わることが、筋肥大に重要であると考えられる。しかし、その分子メカニズムは十分に解明されていない。これまでに我々は、培養骨格筋細胞の伸張刺激による肥大に、自己・傍分泌を介して PI3K/Akt/TOR 経路が働くことを支持する結果を得た。そこで今回は、伸張刺激による自己・傍分泌が、伸張刺激による肥大に十分であるかどうかを調べた。<BR><BR>【方法】ニワトリ胚胸筋由来の筋芽細胞を、 collagen type I をコートした薄いシリコン膜上に初代培養した。筋線維様に成長した筋管(筋細胞)が一定方向に並ぶように工夫した。培養 5 日目の筋管に、その長軸方向の周期的伸張刺激(周期 1/6 Hz、伸張率 10%)を、 72 時間加えて伸張群とした。伸張群と同じチャンバー内で、非伸張の細胞(同チャンバー非伸張群)と、それらと別のチャンバー内で、非伸張とした細胞(別チャンバー非伸張群)を実験対照として用いた。各群における筋管の太さ(直径)を、次の手順で計測した。 4% パラフォルムアルデヒドで固定した細胞の位相差顕微鏡像を、デジタルカメラで、シリコン膜全域に亘り任意に撮影した。画像解析ソフト Scion Image を用いて、筋管の直径を計測した。尚、本研究は、名古屋大学における動物実験に関する規定・指針に従って行われた。<BR><BR>【結果】筋管の太さ (mean ± SD) は、別チャンバー非伸張群 20.9 ± 9.7 μm (n = 215)、同チャンバー非伸張群 21.5 ± 11.6 μm (n = 91) に対して、伸張群 34.1 ± 18.2 μm (n = 103) であり、伸張群の筋管が有意に肥大した (p < 0.01)。なお、別チャンバー非伸張群の mean + 1SD を超える太さの筋管が占める割合は、同群 15.8% に対して、同チャンバー非伸張群 26.2%、伸張群 48.6% であり、伸張群のみならず、同チャンバー非伸張群にも太い筋管が増えていた。<BR><BR>【考察】同チャンバー非伸張群で、十分な肥大が見られなかった。よって、自己・傍分泌を介した PI3K/Akt/TOR 経路の活性化は、本系の肥大に十分ではない。しかし、その PI3K/Akt/TOR 経路を阻害すると、伸張群の肥大が顕著に抑制されることは分かっている。これらの点から、同経路は、この伸張刺激による肥大に関連するが、その働きは、主に自己・傍分泌とは別に調節されていることが考えられた。<BR><BR>【略称】PI3K: phosphatidylinositol 3-kinase, TOR: target of rapamycin

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