著者
坂川 昌隆
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2010, pp.EdPF1055-EdPF1055, 2011

【目的】<BR>施設入所者において, 転倒・転落は骨折などといった重篤な障害を引き起こす要因となり, 身体機能の低下など日常生活に多大な影響を及ぼす. 転倒・転落に影響を及ぼす因子として身体機能や, 注意機能などといった高次脳機能などが挙げられている. しかしこれまで施設入所者を対象とし, 転倒・転落と身体機能との関係は検討されているものの, 注意機能などといった高次脳機能との検討はあまり行われていない. しかし施設入所者を対象に注意機能の検査を行う場合, 認知機能の低下をきたした利用者が多く, 机上の注意機能の検査が実施できないことが多く存在する. そこで, 本研究ではリハビリテーション時の行動から注意機能が評価できるBehavioral Assessment of Attentional Disturbance (以下, BAAD)によって注意機能を評価し, BAADの転倒・転落の評価指標としての予測妥当性を検討することを目的とする.<BR>【方法】<BR>対象は当介護老人保健施設に平成22年6月から平成22年9月の間に継続して入所されていた要介護高齢者124名(男性40名, 女性84名, 年齢85.5±7.6歳, 要介護度3.0±1.2). 方法として, まずBAADの評価を, 担当セラフィストにBAADの評価方法の説明後に行った. BAADの行動観察の内容は6項目(1. 活気がなくボーっとしている2. 訓練中じっとしていられない, 多動で落ち着きがない3. 訓練(動作)に集中できず, 容易に他のものに注意がそれる4. 動作のスピードが遅い5. 同じことを2回以上指摘, 同じ誤りを2回以上犯す6. 動作の安全性への配慮が不足,安全確保ができていないのに動作を開始する)からなる. この6項目についてそれぞれ出現頻度で重みづけした点数(0点:全く見られない~3点:常にみられる)を合計してBAADの点数とした. BAAD評価後, 転倒・転落の件数の前向きな調査を行った. 調査期間は平成22年度6月から平成22年度9月までの4ヶ月間とし, 事故報告書をもとに調査した. この転倒・転落件数をもとに対象者を, 4ヶ月間に1回以上転倒したもの(以下, 転倒群)と転倒しなかったもの(以下, 非転倒群)の2群に対象者を群分けした. 統計学的検討として, 転倒群と非転倒群の, BAADの成績の差をMann WhitneyのU検定を用いて分析した. <BR>【説明と同意】<BR>対象者の家族に対して, 入所時にデータを使用することを説明し, 同意をいただいている. <BR>【結果】<BR>全対象者のBAADの点数の中央値は7点であった. また調査期間中の転倒件数は68件であった. 全対象者124名のうち, 転倒群は37名(年齢86.7±7.2歳, 要介護度3.1±1.2), 非転倒群は87名(年齢85.3±7.6歳, 要介護度3.0±1.2)であった. BAADの点数の中央値は転倒群において10点, 非転倒群において5点であり, 転倒群と非転倒群のBAADの点数の間には有意な差が認められた(p<0.05). <BR>【考察】<BR>本研究の結果から, 施設入所者において, 注意機能が転倒・転落に関係することが明らかとなった. またリハビリテーション時の行動から注意機能を評価するBAADの, 転倒・転落への予測妥当性が明らかとなった. 本研究の対象は既存の介護老人保健施設の入所者である. しかし, 今後は新規の入所者を対象とした検討が必要と考える. また転倒・転落は注意機能などといった高次脳機能以外に, 身体機能などとの関係もあることが多数報告されている. このことから, BAADと注意機能以外の身体機能などといった他の要素と, 転倒との関連についての検討も必要と考える. <BR>【理学療法学研究としての意義】<BR>本研究は施設入所者を対象として, 注意機能の評価法であるBAADの転倒・転落の予測妥当性を明らかとするものであり, 転倒・転落の要因を明らかとし, 転倒・転落を防止していくうえで意義のあることと考える.

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こんな論文どうですか? 施設入所者を対象としたBAADの転倒・転落の評価指標としての予測妥当性(坂川 昌隆),2011 https://t.co/dNy4GjmmIH
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