- 著者
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筧 重和
- 出版者
- JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
- 雑誌
- 日本理学療法学術大会
- 巻号頁・発行日
- vol.2010, pp.GbPI1477-GbPI1477, 2011
【目的】性同一性障害とは,医学的な疾患名である.性同一性障害の定義は,生物学的には完全に正常であり,しかも自分の肉体がどちらの性に所属しているかをはっきり認知していながら,その反面で人格的には自分が別の性に属していると確信している状態,とされている.治療としては,第1段階(精神療法),第2段階(ホルモン療法),第3段階(手術療法)の順で行なわれる.精神療法では,これまでの経過や今後の人生において,どちらの性別で暮らすのが良いのかを検討する.精神療法は,ホルモン療法や手術療法の前,あるいは継続中,終了したあとにも引き続き行なわれる.第2段階のホルモン療法は,十分な精神療法が行われた後に行なわれる.身体的,精神的な安定感を得るためにはホルモン療法が必要と判断された場合は,ホルモン療法を行なう.男性が女性性を望む時は女性ホルモンを,女性が男性を望むときは男性ホルモンが投与される.第3段階の手術療法は,外性器形成,乳房・内性器切除が必要とされた時に行なわれる.今回,入学試験合格通知後,性同一性障害である事の報告を受け対応を行なったので報告する.<BR><BR>【方法】平成15年秋より大学病院にて,3~6ヶ月毎に精神科医師との面談治療を受け,並行して染色体検査や心理検査などを受けていた.翌年春より,院外の美容形成外科にてホルモン治療を開始した.ホルモン治療は,2週間隔で筋肉注射を行っていた.同年夏,同病院にて美容形成手術を行った.改名については,家庭裁判所へ申し立てを行い受理されていた.その後,理学療法士を志し平成16年入学試験受験に至った.入学後,戸籍変更を行うために性別再判定手術を受け,その後書類を家庭裁判所へ提出・受理を経て戸籍変更が認められた.<BR><BR>【説明と同意】第45回日本理学療法士学術大会で発表を行うにあたり,本人の同意を得ている.<BR><BR>【結果】入学に際し,厚生労働省(以下厚労省)に確認を行った.確認内容は,入学時の戸籍の性別と卒業時の戸籍の性別が変わる可能性があり,このような場合においても国家試験受験資格および国家資格取得に問題は生じないか、という点である.厚労省より,学校が入学を認めれば特に問題はないが文部科学省(以下文科省)にも確認をして欲しい,との返答であった.文科省に確認した所、厚労省との返答と同じであり,学校が入学を許可すれば問題ない,との事であった.問い合わせ,返答についてはすべて電話で行なった.厚労省,文科省の返答後,入学を希望する受験生と現在の状況確認を行なった.受験生よりの希望は,次の2点であった.戸籍上の性別ではないトイレの使用,更衣室の利用,であった.この点に関して,学校で協議し使用の許可を認めた.<BR>学校より受験生には,カリキュラムの中で体表解剖学実習や徒手筋力検査の演習講義があり,学生同士でも体に触れる事がある事を伝えた.この点に関しては,受験生より戸籍上の性別ではない学生とペアを組ませて欲しい,との要望があった。この点に関しては,教員がペアの組み合わせを配慮する事により,特に問題なく演習講義を受講することができた.入学後,特に大きな問題は起きず卒業している.<BR><BR><BR>【考察】今回,性同一性障害により,入学後戸籍が変わることは国家試験受験資格,国家資格取得に際して何の問題もなかった.学内の対応としては,教員が学生の状況を把握し,教員と学生が綿密に対応を検討する事で学内生活に支障をきたさないようにすることができた.養成施設として受入を行う際には,本人と綿密な打ち合わせを行い,入学後問題が起きないように対応することが重要であると考える.<BR><BR>【理学療法学研究としての意義】さまざまな疾患や障害がある中でも,理学療法士を志す者は少なくない.理学療法士が医療技術者の一員として,またリハビリテーションに携わる中では,これらの者に対し門戸を開いていく必要がある.養成施設として入学を許可していく中では,理学療法士資格取得までの対応を今後更に検討する必要があると考える.