著者
植田 直美
出版者
宝石学会(日本)
雑誌
宝石学会(日本)講演会要旨
巻号頁・発行日
vol.25, pp.3, 2003

琥珀は数少ない有機物を起源とする宝石の一種である。その産出地も限られており最も有名なものにバルト海沿岸のものがある。日本でも少量産地は北海道から九州まで散在しているが主な産地は久慈市、いわき市、銚子市など数えるほどしかない。また、生成年代も世界各地の産地ごとに異なり白亜紀から新生代まで幅広く分布する。中には虫や植物の一部が包括されている場合もあり地質学・有機化学・生物学・植物学・考古学・文化財科学など様々な分野の専門家が興味を抱く対象となる。琥珀は古代から装飾品として使用されてきた。日本では今までの発掘結果から、旧石器時代までその使用がさかのぼることがわかっている。その後は縄文時代から古墳時代まで(弥生時代にはほとんど見かけられないが)主に首飾りなどの装身具として様々な形の玉に加工されたものや加工の途中の未製品も各地の遺跡から数多く発掘されている。以前は土の中に隠れてしまい検出できないものも多かったが最近の発掘技術の進歩により、多くの出土琥珀製品が見つけられるようになって研究が進んで来た。しかし、中世から近世の発掘報告では他の材質の玉類も同様であるが琥珀製品はほとんど発掘されることはなくなる。その後さらに時代が進み近代から現代になって出土品ではないが、再び装飾品として登場することとなる。その間、発掘品では琥珀は数珠などの仏具としての用途に限られ、その他は正倉院に伝世している装飾具に限られるようになる。 古代の人々の装飾品に対する思想は現在のものとは異なり、装身具の対象はほとんどが死者で哀悼の念を表現する装身具であるといわれている。そのため古代人が生きている間にどのような装身具を身に着けていたかを推測するのは非常に難しく、琥珀が宝石の中でどのような位置づけをもっていたか、おそらく時代によっても異なると思われるが非常に興味が持たれる。 一方、発掘された琥珀は、そのほとんど全てが琥珀本来の輝きを失い非常に脆く崩壊しているものが多い。琥珀の劣化状態を調べることは文化財である琥珀製品を後世にまで長く残すための保存技術を開発する上でも重要である。さらに、現在装飾品として使用されている琥珀の劣化についても同様な研究が役に立つと考える。琥珀の劣化要因についての研究は進んでおり、劣化を防ぐ手段についてもさらに研究は進むと思われる。 最近まで国内で行なわれていた分析はほとんど赤外分光分析(FT-IR)のみであった。この分析法は産地ごとに異なったスペクトルが得られることが特徴で標準の琥珀のスペクトルから産地を推定する手段として最もポピュラーな分析法であった。そのような中で古代の琥珀製装飾品は保存科学的あるいは考古学的な研究を進めるため科学分析が行なわれてきた。保存科学的には琥珀であるかどうかの判断および劣化状態を把握するため、また考古学的には古代の交易を探る手がかりのひとつとなる出土琥珀の産地を推定する手段として実施されてきた。近年、核磁気共鳴(NMR)法や熱分析法による分析法が開発され実施されるようになった。これらの分析法は赤外分光分析だけでは判断することが難しかった劣化した琥珀の産地推定や構造解析への応用の可能性を持っている。現在まだ、完全に適用できるデータを揃えていないため今後の研究に期待がかかる。また各種の分析結果を総合して結論を導くことはより信頼のある結果を得るためには必要なことであると考える。 琥珀は長い年月の間に様々な樹木から流れ出た樹脂が高分子化したもので国外の琥珀については様々な分析方法を総合し、構造が解明されているが国内の琥珀については今のところ構造解析は進んでいない。これについては今後前記以外の分析方法を用いることにより国内の主産地琥珀の比較や国外の琥珀との比較を行い、分子構造を決定することができるようになると期待する。以上のように琥珀全般にわたり、現在国外および国内で行なわれている研究や現状を紹介する。

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