著者
福田 千紘 宮﨑 智彦 Lee Bo-Hyun
出版者
宝石学会(日本)
巻号頁・発行日
pp.6, 2014 (Released:2014-10-01)

エチオピアからは 1994 年ごろにオパール の 産 出 が 報 告 さ れ て い る (KoivulaJ.I.,et al 1994).2008 年前半には Wollo地区において豊穣な鉱床がみつかり,多量のカット石が市場に供給されている(Rondeu.,et al 2010).また 2013年初め頃に原石のままでの輸出が禁止されたと報じられた(Addis Fortune Jan. 2013).これらは主に色調が無色∼白色から淡黄色∼褐色を呈し,半透明∼不透明まである.オーストラリア産オパールにみられる強い青白色の紫外線蛍光や燐光はほとんど認められず弱い青白色の蛍光が認められる.ほかの産地のオパールに比べて多孔質で日常の取り扱いで重量が変化しやすい個体が多く見受けられる. 2013年初めごろから暗黒色不透明なエチオピア産オパールとされるブラックオパールに似たオパールが流通し始めた.これらは売り手の情報によると処理を施してあり,酸と有機物を用いて黒色化しているとのことである.価格も処理を施されていない同産地のオパールよりも割高で明らかにブラックオパールを模して製造されていると推定される.外観はオーストラリア産ブラックオパールとは異なる独特の鮮やかな遊色とわずかに褐色を帯びた漆黒の地色を呈し,従来から知られている砂糖液処理やスモーク処理の処理オパールとも異なる.またあまり小さなカット石は存在せず数カラット以上の比較的大きく厚みのあるルースのみ存在する点も特徴的と思われる.透過光では暗赤色を呈する試料が多く,拡大検査にてスクラッチ状または斑点状の黒色の色だまりがみられる個体が多い.試料を切断したところ内部まで黒色で外形に沿った色の濃淡が認められた.これは内部まで処理の効果が及んでいることと原石のまま処理するのではなくカットして完成品に近い形状に仕上げた後に処理を施し表面を再研磨していることを示唆すると考えられる.色の起源に関してはアモルファスカーボンが原因との報告があり(Williams 2012),本研究でもアモルファスカーボンの存在を追認した. さらに今年に入ってから様々な色調に着色されたエチオピア産とされるオパールが流通し始めた.これらはファイアオパールに似せた黄色∼オレンジ色系のものと天然には存在しない地色が青色系,ピンク色系を確認した.これらは有色樹脂の含浸が疑われたが近赤外分光分析の結果,樹脂は検出されず色素を用いた着色処理であることが判明した. 本研究では黒色の処理オパールとそのほかの色の着色オパールの鑑別上の諸特徴を報告するとともに処理の再現実験の途中経過と暫定的な結果も報告する.
著者
岡本 信一 平岡 英一 辻井 幸雄 古田 純一郎
出版者
宝石学会(日本)
雑誌
宝石学会誌 (ISSN:03855090)
巻号頁・発行日
vol.10, no.3, pp.59-65, 1983-12-15 (Released:2017-01-16)

Neutron radiography was used for examination of the inner parts of a pearl as one of non-destructive methods. The neutron radiography is similar to the radiography by X-rays and gamma-rays from the radio-isotopes such as Co-60, Ir-192, and Yb-169. Thermal neutrons are used for neutron radiography. The mass absorption coefficients of water and organic materials for thermal neutrons are extremely larger than those of other pearl materials (CaCO_3, MnCO_3, ……). The neutron radiographs of blue and black pearls are compared with their X-rays and gamma-rays radiographs. The former are better and sharper than the latters. The exposure methods for photographic detection of neutron imaging are described in this paper.
著者
北脇 裕士 堀川 洋一 小豆川 勝見 野川 憲夫
出版者
宝石学会(日本)
雑誌
宝石学会誌 (ISSN:03855090)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.17-19, 2014

Two slightly orangy pink morganites with residual radioactivity were studied. The dose rate of the samples, measured by a scintillation survey meter, ranged from 0.15 to 0.35 μSv/h. Although this radioactivity was likely not hazardous, it was above the recommended exposure limit set forth in 1990 by the International Commission on Radiological Protection. To identify the radionuclides, gamma rays from the samples were measured using a Ge(Li) semiconductor detector. The activation products ^<134>Cs, ^<54>Mn, and ^<65>Zn were detected, proving that the samples had been artificially irradiated with neutrons.
著者
林 政彦 酒見 昌伸 安井 万奈 山﨑 淳司 堤 貞夫
出版者
宝石学会(日本)
雑誌
宝石学会誌 (ISSN:03855090)
巻号頁・発行日
vol.32, no.1, pp.3-16, 2016

縄文時代の6千年前頃から首飾り等に使われていたヒスイ(翡翠,ヒスイ輝石(Jadeite))は,主に新潟県糸魚川市~富山県朝日町周辺で産出したとされている.わが国では,新潟県以外にも鳥取県若桜町,岡山県新見市,兵庫県養父市あるいは長崎県長崎市などからも産することが報告されている。さらに外国では,ミャンマー,アメリカ,グアテマラ,ロシアなどが知られている。今回入手した各地の試料を調べた結果,輝石族の鉱物名分類(Morimotoら,1988)1)に従うと,ほとんどのものはヒスイ輝石であったが,いくつかの産地のものはオンファス輝石(Omphacite)と呼んだ方がよいものであった。
著者
下村 道子
出版者
宝石学会(日本)
雑誌
宝石学会(日本)講演会要旨
巻号頁・発行日
vol.34, 2012

美しく輝く宝石は古代から人々を魅了し続けている。古代ギリシアの哲学者は宝石の成因や性質の違いについて思索したが、1世紀のプリニウスは『博物誌』のなかで宝石の色や性質や産地のほかに、様々な伝説や効能や神秘的な力を記述した。その後、中世ヨーロッパでは宝石の美しさよりも神秘的な力や効能が増幅され、魔力や薬効を列挙した「鉱物誌」と呼ばれる文学のジャンルの書物が広く流布した。16世紀になると、現在では「鉱物学の父」と呼ばれているドイツのゲオルグ・アグリコラが、科学的な観察に基いて『鉱物の性質について』を著わした。しかし「鉱物誌」の神秘的な力や薬効が完全に払拭されたわけではなかった。そしてその後、科学の発展によって18世紀ころから近代的な鉱物や宝石に関する著作が次々に出版されるようになり、19世紀末にイギリスで宝石学の教育が始まった。<br>こうした宝石学の歴史のなかで、16世紀のイギリスのエリザベス1世の宮廷肖像画家の一人であり金細工師でもあった画家ニコラス・ヒリヤード(1546/7-1619)が著わした文書は注目に値する。彼は宝石の熱処理、各種宝石の色変種、ダイヤモンドの輝きとカット、ダイヤモンドと類似石の識別方法など現代の宝石学に通ずる情報を自分の経験に基いて詳細に記述しているのである。また16世紀のイタリアの彫刻家であり金細工師であったチェッリーニや、17世紀初期のイギリスの金細工師による著述と比較・検討することも興味深い。
著者
高 興和 古屋 正貴 畠 健一
出版者
宝石学会(日本)
雑誌
宝石学会(日本)講演会要旨
巻号頁・発行日
vol.37, 2015

紫色の美しい花、ジャマランカが咲き誇るタンザニアの大地の地下1000メートルに美しい紫味を帯びたタンザナイトが眠っている。ジャマランカの花言葉は「栄光」と「名誉」。1960年後半に発見されたタンザニアを代表する新しい宝石タンザナイトにいまだ正式な宝石言葉はない。20世紀を代表する宝石の1つになったタンザナイトの宝石言葉に、「栄光」と「名誉」を贈りたい。タンザナイトの命名通り、現在タンザナイトはタンザニアのみ産出し、詳しくはアルーシャ地方のメラニヒルズのみが確認されている。1971年タンザニア政府によりメラニヒルズ鉱山は一旦国有化されたが、1990年、政府系、民間系の4つのブロックに分けられ、現在各ブロックごとに採掘が稼働している。<br> Aブロック) 政府系 Kirimanjaro Mines Limited<br> Bブロック) 民間系 小規模業者 オーナー数約200名<br> Cブロック) 政府系 Tanzanait one<br> Dブロック) 民間系 オーナー数 約300名<br> 今回、BブロックのELISARIA MSUYA MAININNG社の協力のもと地下500メートルの採掘現場より入手した原石を中心に研磨、インクルージョン観察、その後、3時間ずつ、100&deg;C、200&deg;C、300&deg;C、350&deg;C、400&deg;C、450&deg;C、500&deg;Cの加熱処理を実施、分光スペクトルの処理前、処理後の検査結果を得た。今回の現地調査の目的は、通常低温加熱されているタンザナイトについて、確かなサンプル原石を入手すること。そして、今回はBブロックに絞り、品質をジェム・クオリティ、ジュエリー・クオリティ、アクセサリー・クオリティの3段階に分け、出現率を調査することである。宝石の価格相場は宝石の品質を評価し、その出現率と需要で決まる。<br> 今回、タンザナイトのBブロックに絞り込み、鉱山の現地調査を実施。その原産地状況を報告する。
著者
阿依 アヒマディ 郷津 知太郎 蜷川 隆
出版者
宝石学会(日本)
巻号頁・発行日
pp.12-12, 2010 (Released:2011-03-03)

オリンピック・サンストーンと称されている赤色アンデシンの色の起源に世界から関心が寄せられている中で、多くのジェモロジストは当該色が銅による拡散加熱処理によるものではないかと疑っている。その真偽を突き止める為に、中国のチベットと内モンゴル自治区の鉱山を調査した。その結果、チベットでは赤色(稀に緑色)のアンデシンが実際に産出され、内モンゴル自治区の固阳県の鉱山では淡黄色のみのアンデシンしか産出されていないことが確認できた。また、大量に生産された内モンゴル産アンデシンは拡散加熱処理(人為的な着色)の原材に利用されているこという確かな情報が得られた。 採集した両産地のアンデシン試料と中国国内で銅による拡散処理が施されたことが確実な赤色アンデシンを比較してみると、それらの宝石学的特性値や化学組成値はほとんど同じであり、斜長石の一種であるラブラドライトとアンデシン組成境界付近に分布するCaを富んだアンデシンであることが分かった。しかし、内部組織の観察では、チベット産赤色アンデシンと拡散処理した赤色アンデシンに明瞭な差異がなく、両者の識別は非常に困難である。また、LA-ICP-MS法で分析した微量元素であるBa/SrとBa/Liによる化学フィンガープリントから、多くのチベット産天然試料は拡散処理試料と異なる分布領域を示すが、一部に重複が見られ、完全な識別法の確立は今後の重要な課題として残されている。本研究では、熱ルミネセンス分析法を用いて、試料からの発光量を測定し、天然と処理したアンデシンの区別を試みた。 主に鉱物の周囲に分布する放射性元素起源の放射線(α線,β線,γ線)によって、結晶中の電子が励起される。この電子が格子欠陥等からなる捕獲中心に捕らえられた場合、これを捕獲電子と呼ぶ。この様な結晶を加熱した場合、格子の熱振動によって捕獲電子は再度伝導帯に励起され、結晶中を移動した後、発光中心の正孔と再結合する。この際に発光する光を熱ルミネッセンス(Thermoluminescence : TL)という。 鉱物がある程度の期間(環境中の線量に依存するが、およそ数千年、またはそれ以上)天然の環境におかれている場合、自然放射線により鉱物中に捕獲電子が蓄積され、加熱により熱ルミネッセンス(natural TL)が観測される。一方で、天然から採集した鉱物に人為的な加熱を加えた場合(およそ500℃前後で数分程度)、捕獲電子は正孔と再結合するために熱ルミネッセンスは観測されなくなる。 今回の研究に、チベット産天然赤色試料7点、内モンゴル産天然淡黄色試料2点、中国から提供されたCuによる拡散加熱処理試料3点、GIAによるCu拡散加熱実験試料1点を分析の対象とした。岡山理科大学理学部に設置された熱ルミネッセンス測定装置(浜松ホトニクス製光電子増倍管R762,フィルター:Corning 4-69,Corning 7-59)を使用した。試料の一部を粉末にし、加熱試料板に載せ、常温から450°までの熱ルミネッセンスのグロー曲線を測定した。 分析の結果、チベット産と内モンゴル産アンデシン試料に、300~450℃の間に極大な発光ピークを示した。Cuによる拡散加熱処理の試料には、このような強い発光強度がなく、弱いかまたは発光しないグロー曲線が確認できた。この減少することに着目すれば人為的に加熱の有無を判断することができると推定される。しかし、加熱処理をしたにも関わらず発光するのはこの発光が自然放射線の照射によって生じた発光ではなく、酸素等の吸着による発光である可能性がある。今後、測定波長領域を広げたり、人工的に放射線を照射したりして、天然及び拡散処理アンデシンの識別に対する熱ルミネッセンス法の有効性について更に検証していく予定である。
著者
江森 健太郎 北脇 裕士
出版者
宝石学会(日本)
雑誌
宝石学会(日本)講演会要旨
巻号頁・発行日
vol.38, 2016

判別分析は事前に与えられているデータが異 なるグループに分かれる場合、新しいデータ が得られた際に、どちらのグループに入るの かを判別するための基準を得るための正規分 布を前提とした分類の手法である。応用範囲は幅広く、病気の診断、スパムメールフィルター等にも応用されている。宝石分野では、ルビー、サファイア、パライバトルマリンの産地鑑別、HPHT 処理の看破(Blodgett et al, 2011)や ネフライトの産地鑑別(Luo et al, 2015)といった 研究例がある。 <br>本研究では、LA-ICP-MS によるアメシストの 微量元素分析データを用いた判別分析を行い、天然・合成の鑑別の可能性について検討 を行った。 <br>アメシストの天然・合成を鑑別する手法としては、内包物およびカラー・ゾーニングの観察、 双晶の有無、赤外分光分析等が伝統的に利用されてきたが、今なお判別の困難な合成石 の流通が多く、より精度の高い鑑別法の確立 が求められている。 <br>宝石鉱物は天然の場合、母岩や産出状況と いった地質的な環境情報を保持するのに対し、合成宝石はその製造方法に関する微量元素 に特徴を持っている。そのため、高精度の微 量元素の分析とデータ解析は宝石の天然・合 成の鑑別にきわめて有効である。<br>分析に用いた試料は、天然アメシストとして、ザンビア、ブラジル、ニュージーランド、日本産を含む計 50 個と、合成アメシストとして 49 個である。 LA-ICP-MS 装置はレーザーアブ レーション装置として NEW WAVE UP-213、 ICP-MS装置としてAgilent 7500aを使用した。 分析の結果、<sup>7</sup>Li, <sup>9</sup>Be, <sup>11</sup>B, <sup>23</sup>Na, <sup>27</sup>Al, <sup>39</sup>K, <sup>45</sup>Sc, <sup>47</sup>Ti, <sup>66</sup>Zn, <sup>69</sup>Ga, <sup>72</sup>Ge, <sup>90</sup>Zr and <sup>208</sup>Pb を用いた判別分析は天然、合成アメシストの鑑別によい指標となることがわかった。 <br>また、天然・合成の鑑別とは異なるが、ザン ビア産とブラジル産のエメラルドに対し、同じ 元素の組み合わせで判別分析を用いたところ、両者を明確に区別することができた。 <br>宝石鉱物は産地や製法を反映した複数の 微量元素を含む。判別分析はそれら複数の 微量元素濃度を一度に取り扱うことができる手法であり、今後も宝石分野でも様々な応用が 期待できる。
著者
渥美 郁男 西村 文子
出版者
宝石学会(日本)
雑誌
宝石学会(日本)講演会要旨
巻号頁・発行日
vol.35, 2013

トラピッチェ(Trapiche)とはスペイン語でサトウキビの搾り機の意味である.その歯車に似た6方向に広がる放射状結晶の呼称に用いられ,トラピッチェ・エメラルドが特に有名である.しかし近年,ミネラルショーなどで「トラピッチェ」と呼ばれる3方向に放射状模様を示す薄片状のダイヤモンドが販売されており話題を呼んでいる.ダイヤモンドは等軸晶系に,エメラルドは六方晶系に属すことが知られており,その結晶系の違いから明らかに外観や構造が異なる.これらのことからダイヤモンドがトラピッチェと呼ばれることの是非についても議論を呼ぶところである.今回はこれらの模様が見られるダイヤモンドについて拡大検査や幾つかの分析を行ったので簡略に報告する.また最近観察された珍しいダイヤモンドについても言及する.
著者
三浦 保範 高木 亜沙子
出版者
宝石学会(日本)
雑誌
宝石学会(日本)講演会要旨
巻号頁・発行日
vol.26, pp.12-12, 2004

1.はじめに:ラブラドライト斜長石は、離溶ラメラ組織の光の干渉により様々な色を示して、ラブラドレッセンスといわれて宝石鉱物として広く知られている(Miura et al., 1975)。そのラメラ組織を示す斜長石の形成は、地球外の試料の研究が進むにつれて、ある問題点が浮上してきた。これまで市場に出回っているイリデッセンスを示すラブラドライト斜長石ラメラ組織の形成は、高温マグマからの均一溶液からの固体状態の離溶反応(スピノーダル分解)で理解されている。問題点は、a)高温マグマが関係した古期岩石は広く分布するがラメラ組織を示す斜長石鉱物の産出が限られている、b)マグマからの直接固体晶出であるが不均質な組織をしている、c)その不均質さが宝石のカット面などの作成に影響している、d)鉄の鉱物が組織内を広く充填している、d)月は高温マグマが形成初期に関与したが衝突で形成された古い月の試料(30億~45億年前の形成)にはラブラドライト斜長石が形成されていない、e)大気がありかって海水のあった火星の石からは探査機画像には発見されていないが、火星起源の隕石からは衝突ガラス(マスケリナイト)が発見されている。これらの問題点を、対比的に解明する糸口を筆者らが考察してみる。<BR> 2.地球上の試料の産出場所の特徴:地球上でイリデッセンスを示すラブラドライト斜長石は、一定の古期岩石の分布する地域(カナダが有名な産地、最近はマダガスカル産・フィンランド産、赤色透明の試料のある米国産など)に産出している。カナダとマダカスカルは、20億から30億年前の岩石から産出している。ほとんどのラブラドライト斜長石でラメラ組織を示すものは、鉄に含む暗黒色の岩石が多い。この岩石の特徴(古期岩石中・黒色・組織の不均質さなど)が問題点を解明する糸口になっている。これまで、これらの岩石の特徴は大陸地殻として形成された後に岩石が地殻変動を受けたためだけであると考えられていた。<BR> 3.対比試料の特徴:古い記憶は地球では消失しているので、地球外の月か火星・隕石で対比してみる。アポロ月面・月隕石試料は灰長石鉱物が多く、中間型斜長石組成の鉱物が形成されていない。月面形成後衝突以外にマグマ火成活動が続かず、ラブラドライト斜長石は産出していないと考えられる。火星には、火星起源隕石中にマスケリナイト(中間型斜長石鉱物)といわれる衝突で不均質にガラス化している斜長石があるが、ラメラ構造は火星の隕石からは発見されていない。火星隕石は2回以上の衝突で形成されて地球に飛来し高温状態での持続時間が短いため、ラメラ組織が形成されなかったと考えられる。しかし、破砕斜長石が高温状態での持続時間が長い今場所(火山構造のオリンポス火山など)周辺に、中間型斜長石鉱物が既存していればラメラ組織が形成されている可能性がある。小惑星起源の隕石中には、衝突分裂・破壊の後高温状態で長い保存される場所がないので、ラメラ組織が形成されていない。<BR> 4.新しい解釈:これら問題点を説明する考えとして、ラメラ組織を持つラブラドライト斜長石の形成を衝突形成岩石の高温マグマ状態からの形成と考える。最初に巨大衝突で地球が破壊されて高地と海の地形が形成されているので衝突に関係して形成されている。また、古期の大陸を復元すると大陸の分裂割れ目に相当する場所と同心円状の大陸地殻地域にラメラ組織を持つラブラドライト斜長石が多く産出するので、衝突形成後地下の高温マグマが発生して長く持続できる場所で既存組織からスピノーダル固体分解反応が進んだと考えられる。<BR> 5.まとめ:次のようにまとめられる。地球が形成された後、十数億年から二十数億年の間に中間型斜長石組成の衝突破砕ガラス形成記録が消失して固体晶出後ラメラ組織が形成されたと考えられる。破砕時の既存の組織がそのまま保存されているので、均質な岩石ではなく、衝突時にできた不均質な破砕組織となったと考えられる。高温のため既存の衝突組織は消失しているが、鉄などの鉱物が再結晶して多く含まれているのが形成を示す特徴である。したがって、市場の宝石試料に不均質な組織が多い。火星には、破砕斜長石が高温状態での持続できる場所周辺に、中間型斜長石鉱物ラメラ組織が形成されている可能性がある。<BR> 最後に、この議論には、米国でのラメラ組織の研究者Dr.G.Nordにも昨年と今年に渡米中に参加して頂き関連データの確認ができたので付記する。
著者
南條 沙也香 矢崎 純子 松田 泰典 小松 博
出版者
宝石学会(日本)
巻号頁・発行日
pp.26-26, 2017 (Released:2017-06-30)

真珠は、主に炭酸カルシウムとタンパク質からなる多層薄膜構造である。文化財において古墳から出土した真珠は白濁化しており、タンパク質が分解などにより大部分が消失した結果との報告がある(1987 年、「鳥浜貝塚」調査報告)。このことはタンパク質が保存環境により変質する場合があることを示し、タンパク質シートが真珠の結晶層の維持に重要な役割を果たしていると考えられる。現在流通している真珠は加工されているものが多く、その工程の中に行われる溶液に浸漬、加熱乾燥などで真珠層内部の有機物を多く含む稜柱層などの脆弱な箇所から、層われ、ヒビ、剥離などの劣化が起こる場合もある。さらにこれらの劣化現象は保管時の温湿度変化などでさらに顕在化する。これらの真珠の欠陥は真珠の品質に大きく関係しているため、流通の際には注意する必要がある。今回はこれらの劣化現象のうち加工キズの劣化現象について、見え方、構造、原因などで体系化することを目的とした。特に加工キズの中のひびについて断面の構造を観察し、その成因について考察した。また、温度サイクルによる加速実験を行い、どのように顕在化するかを検証した。
著者
上根 学 チャンドラー ラビ 古屋 正貴 畠 健一
出版者
宝石学会(日本)
雑誌
宝石学会(日本)講演会要旨
巻号頁・発行日
vol.36, 2014

英国のウイリアム王子からケイト妃に贈られた婚約指輪は,ブルー・サファイアである.ウイリアム王子の母であり,世紀のロイヤリティ・ウエディングといわれたダイアナ妃の左手に輝いていたものと同じブルー・サファイアである.このブルー・サファイアはスリランカのラトゥナプラ産であり,ラトゥナプラの宝石商からかつてエリザベス女王に献上されたものであった.2011年.スリランカのカタラガマで良質でしかも大粒のブルー・サファイアが産出されたことは記憶に新しい.今回,スリランカにおける良質なブルー・サファイアを産出する代表的な4つの鉱山,サバラガムワ県のラトゥナプラ,パルマドゥッラ,そしてウーバ県のオッカンベディア,新鉱区であるカタラガマを現地調査した.<br>各地区の鉱山数は現在,ラトゥナプラで約3000箇所,パルマドゥッラで約300箇所,オッカンベディアで50~60箇所,そして新鉱区となったカタラガマは10~20箇所で採掘されている.サンプル石の産地確認を徹底するために各鉱区の鉱山から直接原石を入手し,研磨,インクルージョン観察を試みた.更にFTIRにより,Fe,Ti,Ga,Crの成分分析,蛍光X分析を試みた.今回の現地調査の目的は,加熱処理,Be加熱処理が横行する中,確かなサンプル検査石を入手すること,そして各鉱区の品質をジェム・クオリティー,ジュエリー&bull;クオリティー,アクセサリー・クオリティーの3段階に分けそれぞれ3クオリティーのブルー・サファイアの出現率を調査することにあった.宝石の価格相場は,宝石の品質を評価し,その品質の出現率と需要できまる.今回,スリランカ産ブルー・サファイアの新鉱山を含む4鉱区を調査実施したので,その原産地状況を報告する.
著者
志田 淳子 北脇 裕士 アブドレイム アヒマディジャン
出版者
宝石学会(日本)
雑誌
宝石学会誌 (ISSN:03855090)
巻号頁・発行日
vol.24, no.1, pp.13-23, 2004
参考文献数
8
被引用文献数
1

In the latter half of 2001, sapphire showing intense orange-pink hue came out in the jewellery market. It was expected that the colour was induced by the so-called "surface diffusion" at first because of its curious colour distribution. In order to make the origin of the colour, we have investigated morphology of sapphire using laser tomography and SEM, analysis of elements by EDRXF, SIMS, LA-ICP, XPS and so on, and confirmed that the sapphires contains Be diffused from external source such as chrysoberyl with heat treatment.
著者
古屋 正貴
出版者
宝石学会(日本)
雑誌
宝石学会(日本)講演会要旨
巻号頁・発行日
vol.36, 2014

宝石における変色性は宝石鑑別団体協議会の定義のように,自然光で緑&sim;青緑色,電灯光(A光源)で赤&sim;紫赤色に変化するものが一般的であるが,それ以外にも色が変わったり,変わって見える宝石がある.昨今宝石のさまざまな特性が注目される中でこれまでの変色性とは異なる色の変化を示すものについていくつか紹介したい.<br>光の当たることで色が変わって見える宝石がある.パキスタンの石全体に微少インクルージョンを含むピンクサファイアは,白い光を受けるとその微小インクルージョンが光を散乱して,青色を帯びる.これは青いシラーの出るムーンストーンと同じでレイリー散乱によるものである.また,この効果はスリランカ産のピンクサファイアやタジキスタン産のルビーでも見られる.<br>似たように光が当たることで色が変わって見える効果はアンデシンでも見られる.緑のアンデシンでは同じファイバー光を当てても,石を透過すると緑色で,石に反射すると橙赤色になる.透過法と反射法で紫外-可視分光を測定すると図1(PDFのFigure.1を参照)のようになる.その仕組みとしては内包される微小な銅片に光が反射すると橙赤色に発色し,透過光では微小な影として色に影響を与えないものと考えられる.<br>また,近年見られるスキャポライトは,極めて明瞭なテンブレッセンスを示す.この石のテネブレッセンスは,無色だったものが10秒ほどの短波紫外線照射で,鮮やかな帯紫青色に変わる.(PDFのFigure.2を参照)また,この帯紫青色は強い可視光を当てると数秒で元に戻るという可逆性もある.<br>このように色が変わったり,変わって見える宝石はいろいろあり,それが宝石の特徴となっている.