著者
三浦 保範 高木 亜沙子
出版者
宝石学会(日本)
雑誌
宝石学会(日本)講演会要旨
巻号頁・発行日
vol.26, pp.12-12, 2004

1.はじめに:ラブラドライト斜長石は、離溶ラメラ組織の光の干渉により様々な色を示して、ラブラドレッセンスといわれて宝石鉱物として広く知られている(Miura et al., 1975)。そのラメラ組織を示す斜長石の形成は、地球外の試料の研究が進むにつれて、ある問題点が浮上してきた。これまで市場に出回っているイリデッセンスを示すラブラドライト斜長石ラメラ組織の形成は、高温マグマからの均一溶液からの固体状態の離溶反応(スピノーダル分解)で理解されている。問題点は、a)高温マグマが関係した古期岩石は広く分布するがラメラ組織を示す斜長石鉱物の産出が限られている、b)マグマからの直接固体晶出であるが不均質な組織をしている、c)その不均質さが宝石のカット面などの作成に影響している、d)鉄の鉱物が組織内を広く充填している、d)月は高温マグマが形成初期に関与したが衝突で形成された古い月の試料(30億~45億年前の形成)にはラブラドライト斜長石が形成されていない、e)大気がありかって海水のあった火星の石からは探査機画像には発見されていないが、火星起源の隕石からは衝突ガラス(マスケリナイト)が発見されている。これらの問題点を、対比的に解明する糸口を筆者らが考察してみる。<BR> 2.地球上の試料の産出場所の特徴:地球上でイリデッセンスを示すラブラドライト斜長石は、一定の古期岩石の分布する地域(カナダが有名な産地、最近はマダガスカル産・フィンランド産、赤色透明の試料のある米国産など)に産出している。カナダとマダカスカルは、20億から30億年前の岩石から産出している。ほとんどのラブラドライト斜長石でラメラ組織を示すものは、鉄に含む暗黒色の岩石が多い。この岩石の特徴(古期岩石中・黒色・組織の不均質さなど)が問題点を解明する糸口になっている。これまで、これらの岩石の特徴は大陸地殻として形成された後に岩石が地殻変動を受けたためだけであると考えられていた。<BR> 3.対比試料の特徴:古い記憶は地球では消失しているので、地球外の月か火星・隕石で対比してみる。アポロ月面・月隕石試料は灰長石鉱物が多く、中間型斜長石組成の鉱物が形成されていない。月面形成後衝突以外にマグマ火成活動が続かず、ラブラドライト斜長石は産出していないと考えられる。火星には、火星起源隕石中にマスケリナイト(中間型斜長石鉱物)といわれる衝突で不均質にガラス化している斜長石があるが、ラメラ構造は火星の隕石からは発見されていない。火星隕石は2回以上の衝突で形成されて地球に飛来し高温状態での持続時間が短いため、ラメラ組織が形成されなかったと考えられる。しかし、破砕斜長石が高温状態での持続時間が長い今場所(火山構造のオリンポス火山など)周辺に、中間型斜長石鉱物が既存していればラメラ組織が形成されている可能性がある。小惑星起源の隕石中には、衝突分裂・破壊の後高温状態で長い保存される場所がないので、ラメラ組織が形成されていない。<BR> 4.新しい解釈:これら問題点を説明する考えとして、ラメラ組織を持つラブラドライト斜長石の形成を衝突形成岩石の高温マグマ状態からの形成と考える。最初に巨大衝突で地球が破壊されて高地と海の地形が形成されているので衝突に関係して形成されている。また、古期の大陸を復元すると大陸の分裂割れ目に相当する場所と同心円状の大陸地殻地域にラメラ組織を持つラブラドライト斜長石が多く産出するので、衝突形成後地下の高温マグマが発生して長く持続できる場所で既存組織からスピノーダル固体分解反応が進んだと考えられる。<BR> 5.まとめ:次のようにまとめられる。地球が形成された後、十数億年から二十数億年の間に中間型斜長石組成の衝突破砕ガラス形成記録が消失して固体晶出後ラメラ組織が形成されたと考えられる。破砕時の既存の組織がそのまま保存されているので、均質な岩石ではなく、衝突時にできた不均質な破砕組織となったと考えられる。高温のため既存の衝突組織は消失しているが、鉄などの鉱物が再結晶して多く含まれているのが形成を示す特徴である。したがって、市場の宝石試料に不均質な組織が多い。火星には、破砕斜長石が高温状態での持続できる場所周辺に、中間型斜長石鉱物ラメラ組織が形成されている可能性がある。<BR> 最後に、この議論には、米国でのラメラ組織の研究者Dr.G.Nordにも昨年と今年に渡米中に参加して頂き関連データの確認ができたので付記する。

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