- 著者
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栄久庵 祥二
- 出版者
- 日本デザイン学会
- 雑誌
- 日本デザイン学会研究発表大会概要集
- 巻号頁・発行日
- vol.53, pp.51, 2006
道具は'動かせる''動かせない'の違いに対応し、対人コミュニケーションに関し二つの効果を持っていると考えられる。一つは'ソシオペタル'(人どうしを結びつける)な役割を果たす'動かない'、設備系の道具であり、他は'ソシオフューガル'(人どうしを引き離す)な効果を有する'動く'道具、即ち、動具である。前者の例として炬燵や火鉢など日本の伝統的な暖房道具は家庭内で'ソシオペタル'な役割を果たしていた。井戸はいわゆる井戸端会議の開催場所であった。一方、今日、設備としての'動かない'道具は、ポータブル化など動具へと変化し、しかも、個人使用化が顕著である。固定電話から携帯電話への大幅な移行はその代表例である。設備としての道具では共用されることが多く、そのことを通じ対人コミュニケーションを促したが、動具は豊かな社会の到来と共に一人に一台の個人所有或いは使用を促進し、結果的にソシオフューガルが効果を生んできた。本研究では、設備系の道具のソシオペタルな効果が生むコミュニケーションの二段の流れに注目すると同時に、拡大するソシオフューガル効果が一方でソシオペタルな人間同士の集合を促しているのではないか、それを可能にする設備と空間への社会的ニーズを生み出しているのではないか、との緩やかな仮説を想定した。