著者
飯田 清昭
出版者
JAPAN TECHNICAL ASSOCIATION OF THE PULP AND PAPER INDUSTRY
雑誌
紙パ技協誌 (ISSN:0022815X)
巻号頁・発行日
vol.69, no.8, pp.854-863, 2015
被引用文献数
1

紙には2000年の歴史がある。人々がその価値を認めて,2000年間使い続けてきたのである。一方では,使ってもらえるように2000年間に亘り技術開発を続けてきた。個々の技術開発は,その当時の社会の経済・文化と大きくかかわっていた。<br>歴史的に,紙の使用量は社会の豊かさ(例えばGDP)と強い相関があった。社会が安定し,豊かになると紙の需要が増し,それを満たす技術開発が生まれてきた。蔡倫による紙の発明は後漢の発展期であり,竹パルプの開発は唐・北宋の中国文明の爛熟期であった。イタリアはルネッサンスの発展期にゼラチン処理の書籍用紙を開発,オランダは17世紀の最盛期にHollander beaterで動力革命を演出,イギリスは産業革命の先頭に立っていた19世紀に抄紙機を開発した。<br>これらの技術開発でコストが下がった紙は印刷技術の発展を促し,多種の印刷物が社会に出回ることになった。日本では,江戸時代に和紙の特性と木版印刷を組み合わせ,いろいろの印刷物が出版された。さらに紙は日常生活で,素材としても種々に利用された。<br>紙は,世界の広域国家(中国王朝や中央アジアで栄えた大帝国)において,統治の伝達の手段として重要な役割を果たしてきた。一方,ヨーロッパでは活字印刷を発展させ,生産性を上げた紙とコストを下げた活字印刷が組み合わさって,印刷物が広く社会に普及・利用された。その規模は日本をはるかに凌ぐもので,ルネッサンス,宗教改革,啓蒙主義,産業革命と続く社会の変革を引き起こした。<br>Kremerが100年前に述べたように,紙に記すことで可能になった知的活動の開花が新しい文明の時代を生み出した(Blossom of mental activity made possible by paper started a new era of civilization.)。

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