著者
佐藤 眞一
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.24, no.4, pp.495-503, 2013

従来,老年心理学には2つの立場があるといわれてきた。すなわち,心理学において老化を含む人の発達的変化を扱う生涯発達心理学の立場と,加齢に伴う諸問題を解決するための学際的研究分野である老年学における心理学の立場である。この両者の立場を踏まえた上で,本論文では,まず,認知症に関する心理学的アプローチとして認知神経心理学的アプローチ,臨床心理学的アプローチ,および発達心理学的アプローチの3 つを挙げ,それぞれの研究内容について検討した。次いで,筆者らの研究グループがこれまでに行ってきた認知症にかかわる基礎と応用の研究を例として,情景画課題における視空間情報処理に関する視空間認知の研究,社会的認知機能としての他者感情の理解と認知の硬さの関連性,介護者の認知機能判断の誤りを背景とするコミュニケーションの研究,記憶の誤りとメタ記憶を研究の題材とした記憶愁訴の研究,および介護の臨床実践としてのパーソナルケア法に関する実践的研究について解説した。最後に,臨床知がもたらす新たなる基礎研究の例として,認知症の前駆症状であるMCI(軽度認知障害)における家族間コミュニケーション研究に関する課題を示した。

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