著者
小塩 真司 脇田 貴文 岡田 涼 並川 努 茂垣 まどか
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.27, no.4, pp.299-311, 2016 (Released:2018-12-20)
参考文献数
95

自尊感情はこれまでの心理学の歴史の中で非常に多くの研究で取り上げられてきた構成概念のひとつである。近年では,多くの研究知見を統合するメタ分析が注目を集めている。その中でも本稿では,平均値等の統計量をデータが収集された調査年ごとに統合することで,心理学概念の時代的な変化を検討する時間横断的メタ分析に注目する。小塩ほか(2014)は日本で報告されたRosenbergの自尊感情尺度の平均値に対して時間横断的メタ分析を試み,自尊感情の平均値が近年になるほど低下傾向にあることを見出した。また岡田ほか(2014)は,近年になるほど自尊感情の男女差が小さくなる可能性を報告した。本稿ではこれらの研究の背景と研究知見を紹介し,時代変化という要因を考慮に入れたうえで今後どのような研究の方向性が考えられるのかを展望した。具体的には,研究の継続性,検討する指標の多様性,行動指標への注目,関連性の変化への注目,社会状況の変化との照合という観点が提示された。
著者
別府 哲 野村 香代
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.16, no.3, pp.257-264, 2005-12-20 (Released:2017-07-24)
被引用文献数
5

Baron-Cohen et al. (1985)以後, 通常4歳で通過する「誤った信念」課題に, MA(Mental Age) 4歳の自閉症児が通過できないことが多くの研究で追試されてきた。一方, Happe (1995)は, 自閉症児も言語性MAが9歳2か月になると「誤った信念」課題を通過することを示した。本研究は, 自閉症児が「誤った信念」課題を通過して「心の理論」を形成するのは, 遅滞なのか, あるいは質的に違う内容を形成しているのかを検討することを目的とする。「誤った信念」課題であるサリーとアン課題を改変したものを通常通りに回答を求めると共に, なぜそちらを選択したかの言語的理由付けを行わせた。対象者は健常児が3〜6歳60名, WISC-IIIでの言語指数が70以上の高機能自閉症児29名(小学校1〜6年生)である。健常児は, 「誤った信念」課題に誤答するレベル(水準0), それは正答するが言語的理由付けができないレベル(水準1), 課題に正答しかつ言語的理由付けもできるレベル(水準2)の順序で発達的に移行することが明らかにされた。それに対し, 高機能自閉症児は水準0と水準2は存在したが水準1のものが1名もみられなかった。これは, 健常児が言語的理由付けを伴わない直感的な「心の理論」を発達的前提に, その後, 言語的理由付けを伴う「心の理論」を形成するのに対し, 高機能自閉症児は直感的な「心の理論」を欠いたまま言語的理由付けによる「心の理論」を形成するという, 質的な特異性を持つことが示唆された。
著者
砂川 芽吹
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.26, no.2, pp.87-97, 2015 (Released:2017-06-20)
参考文献数
24

自閉症スペクトラム障害(ASD)の女性は,知られている有病率の少なさと,ASDの症状が分かりにくいことから,これまで焦点が当たってこず,見過ごされている可能性がある。本研究では,①ASDの女性を見えにくくする要因は何か,及び,②ASDの女性は診断に至る過程のなかでどのように生きてきたのか,という2つの問いを明らかにするために,大人になって初めてASDの診断を受けた成人女性12名を対象としたインタビューを行い,GTAによって質的に分析した。その結果,【「大人しさ」のベール】,【就労状況のベール】,【家庭のベール】,【精神症状のベール】という,周囲からASDの女性を見えにくくする4つの社会環境的な要因が見いだされた。さらに,これらのベールの下で,ASDの女性が適応の【努力と失敗の繰り返し】から【社会適応のスキルを学習】することもまた,周囲がASDの女性を認識し難くなる要因となっていることが示唆された。一方で,ASDの女性は,診断に至る過程であらゆる失敗経験を〈自分に原因帰属〉しているために,【自尊心の低下】が起きていた。そのため,ASDの女性は表面的な社会スキルによってASDであることが周囲から見えにくくなっているが,自尊心が低く,支援が必要な状態だと考えられた。本研究を通して,ASDの女性が障害を持つことを見えにくくする要因と適応過程を見いだし,ASDの女性におけるアセスメントや支援についての示唆を得た。
著者
川本 哲也 小塩 真司 阿部 晋吾 坪田 祐基 平島 太郎 伊藤 大幸 谷 伊織
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.26, no.2, pp.107-122, 2015 (Released:2017-06-20)
参考文献数
73
被引用文献数
8

本研究の目的は,大規模社会調査のデータを横断的研究の観点から二次分析することによって,ビッグ・ファイブ・パーソナリティ特性に及ぼす年齢と性別の影響を検討することであった。分析対象者は4,588名(男性2,112名,女性2,476名)であり,平均年齢は53.5歳(SD=12.9,23–79歳)であった。分析の対象とされた尺度は,日本語版Ten Item Personality Inventory(TIPI-J;小塩・阿部・カトローニ,2012)であった。年齢と性別,それらの交互作用項を独立変数,ビッグ・ファイブの5つの側面を従属変数とした重回帰分析を行ったところ,次のような結果が得られた。協調性と勤勉性については年齢の線形的な効果が有意であり,年齢に伴って上昇する傾向が見られた。外向性と開放性については性別の効果のみ有意であり,男性よりも女性の外向性が高く,開放性は低かった。神経症傾向については年齢の線形的効果と性別との交互作用が有意であり,若い年齢では男性よりも女性の方が高い得点を示した。
著者
長谷川 真里
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.14, no.3, pp.304-315, 2003

本研究の目的は,なぜ年少者は言論の自出をあまり支持しないのかということを検討することであった。研究1において,小学4年生,6年生,中学2年生,高校2年生,大学生(合計176人)は,言論の自由に対する法による制限の正当性を判断した。加齢と共に,推論の様式は,言論内容のみに注目するものから,言論内容と自由を比較考量する様式へ,あるいは聞き手の自由に注目する様式へと変化し,そのような推論の様式の差が自由を支持する程度と関係した。研究2(小学4年生,6年生,中学2年生,高校生,合計127人)では,加齢に伴い,言論の白山を社会的価値としてとらえ,聴衆への影響を低く見積もり,スピーチの中の行為をそれほど悪くないど考える傾向が示された。そして,このような評価が,自出を支持する程度に関係することが示唆された。そして,スピーチ内容の領域によって,それらは異なって関係していた。
著者
難波 久美子
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.16, no.3, pp.276-285, 2005-12-20 (Released:2017-07-24)
被引用文献数
1

青年期後期の仲間概念を24名の青年への直接面接を通して探索的に検討した。研究1では, 調査協力者に現在の対人関係を表す単語を親密さの順に図示するよう求めた。そして, その単語の書かれた位置と, その単語がどのような関係性の規模であるのかによって対人関係を整理した。また, 各調査協力者に対し, 対人関係を表す単語が並べられた図中に, 仲間と捉える範囲を示すよう求めた。親密さと関係性の規模によって対人関係を整理し, 仲間と捉える範囲を併せて検討したことで, 仲間は親友に次ぐ親しさであること, 互いを認識できる複数の規模での関係であることが明らかとなった。研究2では, 児童期の仲間関係と現在の仲間関係の比較, 友だち・親友と仲間関係の比較によって, 仲間関係の説明を求めた。その結果, 青年期後期の仲間関係は, 児童期や青年期前期・中期の仲間関係とは区別されていた。また, 仲間の説明からは, 研究1と対応する親密さや関係性の規模に関する報告がみられた。さらに対人関係を整理する枠組みとして, 目的・行動の共有が導出された。そこで, 親密さと, 目的・行動の共有という2軸によって, 仲間, 友だち, 親友を布置し, 仲間を他の関係から分離する指標として目的・行動の共有が有効であることを確認した。
著者
安藤 寿康
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.7, no.2, pp.170-179, 1996-12-20 (Released:2017-07-20)

発達心理学では, 家庭環境の影響を示すために, 親の与える家庭環境の指標と子どもの行動指標との相関を用いる。しかしそこには遺伝的影響が関与している可能性がある。本研究では秋田(1992)が行った「子どもの読書行動に及ぼす家庭環境の影響に関する研究」に対して, 行動遺伝学的視点から批判的追試を行った。小学6年生の30組の一卵性双生児ならびに20組の二卵性双生児が, その親とともに読書に関連する家庭環境に関する質問紙に回答した。子どもはさらに読書行動に対する関与度についても評定が求められた。親の認知する家庭環境の諸側面は子の認知するそれと中程度の相関を示した。図書館・本屋に連れて行ったり読み聞かせをするなど, 親が直接に子どもに与える環境を子が認知する仕方には, 遺伝的影響がみられた。また子どもの読書量についても遺伝的影響が示唆された。だが子どもの読書に対する好意度には, 遺伝的影響ではなく, 親の認知する蔵書量が影響を及ぼしていた。
著者
武居 渡 鳥越 隆士
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.12-22, 2000-06-30 (Released:2017-07-20)
被引用文献数
1

本研究は手話言語環境にある聾児の非指示ジェスチャーの特徴について明らかにし, 手話の初語との関連について検討することを目的とした。ろうの両親を持つ聾児2名 (5カ月〜15カ月) のコミュニケーション場面がピデオに収録され, 子どもの手の運動を記述し, 分析した。その結果, 非指示ジェスチヤーに関して以下の4点が明らかになった。第一に, 手がコミュニケーション手段として使用される前に, 非指示ジェスチヤーが出現した。第二に, 非指示ジェスチヤーの多くはシラブルを構成し, リズミカルな繰り返しがみられた。第三に, 非指示ジェスチヤーは, 6カ月前後では「記述の困難な単なる手の動き」として観察されたが, 10カ月前後にはそれが「リズミカルな繰り返し運動」ヘと変化し, 1歳を過ぎると「一見サインのようなジエスチャー」が多く見られ, 発達に伴い質的に変化していった。第四に, 非指示ジェスチャーと初語との間に, 連続性が確認された。これらの結果から, 非指示ジェスチヤーは, 音声哺語の特徴と多くの点で類似していることが明らかになり, 手話言語獲得において, 非指示ジェスチャーが手話の音韻体系を作りあげ, 哺語の役割を果たしていることが考えられた。
著者
阿部 彩
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.23, no.4, pp.362-374, 2012-12-20 (Released:2017-07-28)
被引用文献数
2

日本の子どもの相対的貧困率は16%であり,約6人に1人が相対的貧困状態にあると推計される。しかしながら,この相対的貧困の概念については,研究者らも含め殆ど知られておらず,この数値の意味するところが理解されていないのが現状である。本稿では,子どもの相対的貧困率の現状と動向を把握した上で,「豊かさ」と「貧しさ」という観点から,相対的貧困と絶対的貧困の概念の違いを明らかにする。また,一般市民の貧困の概念が,絶対的貧困や物質社会に反抗する精神論に強く影響されており,それが現代における貧困(相対的貧困)の議論の本質を見えにくくしている点を指摘した。最後に,相対的貧困が,どのようにして子どもの健全な育成を妨げているかについて,一つは相対的貧困にあることが子ども自身の社会的排除を引き起こすリスクが高いこと,二つが,子どもが相対的貧困の状態であるということは,親も相対的貧困状況にあるということであり,貧困が親のストレスを高め,親が子どもと過ごす時間を少なくし,孤立させることにより,厳しい子育て環境に置かれていることを指摘した。「豊かさ」や「貧しさ」は相対的な概念であり,たとえ豊かな社会であっても相対的貧困にあることは大きな悪影響を子どもに及ぼす。
著者
田中 善大 伊藤 大幸 村山 恭朗 野田 航 中島 俊思 浜田 恵 片桐 正敏 髙柳 伸哉 辻井 正次
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.26, no.4, pp.332-343, 2015 (Released:2017-12-20)
参考文献数
26
被引用文献数
2

本研究では,単一市内の全保育所・公立小中学校の児童生徒の保護者を対象に調査を実施し,ASD傾向及びADHD傾向といじめ被害及び加害との関連を検討した。ASSQによってASD傾向を,ADHD-RSによってADHD傾向を測定した。いじめ被害及び加害は,関係的いじめ,言語的いじめ,身体的いじめのそれぞれのいじめについて測定した。保育所年少から中学3年生までの計8396名の幼児児童生徒のデータに対する順序ロジスティック回帰分析の結果,他の独立変数の効果を調整しない場合には,いじめ被害及び加害ともに,いずれのいじめに対してもASD傾向とADHD傾向の効果が示された。これに対して,他の独立変数の効果を調整した場合には,2つの発達障害傾向のいじめに対する影響は異なるものであった。いじめ被害では,全てのいじめでASD傾向の主効果が確認されたが,ADHD傾向の主効果が確認されたのは関係的いじめと言語的いじめのみであり,オッズ比もASD傾向より小さかった。いじめ加害では,全てのいじめでADHD傾向の主効果が確認されたが,ASD傾向ではいずれのいじめにおいても主効果は確認されなかった。これに加えて,学年段階や性別との交互作用についてもASD傾向とADHD傾向で違いが見られた。
著者
永瀬 開 田中 真理
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.26, no.2, pp.123-134, 2015 (Released:2017-06-20)
参考文献数
28

本研究の目的は,自閉症スペクトラム障害(以下ASD)者におけるユーモア体験について,構造的不適合を説明する手がかり(手がかり情報)がユーモア体験にかかわる認知処理に与える影響及び,ユーモア体験の強さに与える影響について検討を行うことであった。ASD者12名,典型発達者20名を対象に手がかり情報のある条件(手がかり有り条件),手がかり情報のない条件(手がかり無し条件)のユーモア刺激を用いて,ユーモア体験の強さに影響を与える「分かりやすさの認知」と「刺激の精緻化」の2つの認知的な処理の特性と「ユーモア体験の強さ」について比較検討を行った。その結果,主に以下の2点が認められた。1)典型発達者は手がかり有り条件において刺激を分かりやすく認知し,刺激の精緻化を多く行い,強いユーモア体験をする一方で,ASD者は手がかり情報についての条件間で差が見られなかった。2)典型発達者において,分かりやすさの認知と刺激の精緻化がユーモア体験の強さに影響を与える一方で,ASD者において刺激の精緻化のみがユーモア体験の強さに影響を与えていた。以上の結果から,典型発達者とASD者とでユーモア体験の強さに影響を与える認知的な処理の内実が異なることが示された。
著者
中谷 奈美子 中谷 素之
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.17, no.2, pp.148-158, 2006-08-20 (Released:2017-07-27)
被引用文献数
1

本研究の目的は,子どもの反抗行動に対する母親の認知と虐待的行為の関係を,特に子どもの悪意や敵意と捉える「被害的認知」に着目して検討することであった。3〜4歳の子どもを持つ一般の母親270名に調査用紙を配布し,207名から協力を得た(回収率76.7%)。調査は,子どもの反抗に対する母親の認知,虐待的行為,さらに,認知を媒介として虐待的行為に影響を及ぼす要因として母親の育児ストレス,自尊感情,親に対する愛着,母親の就労,子どもの性別について測定された。重回帰分析の結果,予測した先行要因→認知的要因(媒介要因)→虐待的行為のプロセスが確認された。すなわち,虐待的行為に影響を及ぼす母親の認知特性は,子どもに対する否定的認知ではなく,母親の自尊感情の低さや育児ストレスの高さからもたらされる被害的認知であることが明らかにされた。また,先行要因として検討した育児ストレスは,認知の歪みをもたらすだけでなく,虐待的行為に直接正の影響を及ぼすこと,親に対する愛着は虐待的行為に負の影響を及ぼすことが明らかになった。以上の結果から,子どもの養育における母親の認知的要因の役割について議論され,児童虐待ハイリスクの母親に対して,認知の歪みや育児ストレスなどを考慮して介入することの重要性が示唆された。
著者
坂本 美紀
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.4, no.2, pp.117-125, 1993-11-10 (Released:2017-07-20)
被引用文献数
1

本研究は, 算数の文章題解決における誤りの原因を調査したものである。研究の目的は, lつの文章題の解決過程を下位過程に分け, 誤りが各過程のどの部分で生じるか, またそれに問題の種類による違いがあるか, という点を検討することである。課題は, 加減乗除のうち2種類を扱う文章題で, 過剰情報および単位変換の要因が操作された。調査対象は小学校4年生であった。実験1では, 問題は5つの下位過程に分けられ, 各過程ともパーソナルコンピュータによって, 教示・問題文・選択肢の提示および児童の反応の記録が行われた。その結果, 単位変換を含む問題では, 単位変換がつまずきの原因になることが多いことがわかった。また, 単位変換を含まない間題でのつまずきの原因は, 問題の状況を理解する過程にあると考えられた。実験2では紙筆検査によって, 過剰情報が, 問題状況を理解する過程での, 解決に必要な数値の選択に与える影響を中心に調べた。実験の結果, 通常問題では演算を選択する下位過程で正答数が減ったが, 過剰問題では問題文中の過剰な情報が数値を選択する下位過程を困難にし, 誤答の原因となっていた。これより, 文章題特有の難しさの原因の多くは問題理解過程にあり, 特に問題文から抽出した必要な数字の関係づけが, つまずきの要因になっていることがわかった。
著者
荒牧 美佐子 無藤 隆
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.19, no.2, pp.87-97, 2008-08-10 (Released:2017-07-27)
被引用文献数
3

本研究の目的は,末就学児を持つ母親の抱く育児への否定的・肯定的感情とその関連要因について明らかにすることである。子どもを首都圏の幼稚園・保育所に通わせる母親に質間紙調査を行い,有効であった733名の回答に基づいて分析を行った。育児への否定的・肯定的感情に関する項目として,住田・中田(1999)の尺度を用い,確認的因子分析を行った結果,育児への「負担感」「育て方/育ちへの不安感」「肯定感」とに分かれることが確認された。そして,各々の関連要因について分析を行った結果,主に以下のことが明らかになった:(1)「負担感」は,末子の年齢が高いほど高く,夫や園の先生・友人らのサポートが多いほど低い。また,幼稚園群の方が保育所群よりも,専業主婦の方が有識者よりも高い傾向が見られる。(2)「育ちへの不安感」は男児を持つ母親で高い傾向にあり,「育て方への不安感」は夫からのサポートが多いほど低い。「育て方/育ちへの不安感]ともに情報サポートが多いほど高い。(3)「肯定感」は,夫や園の先生・友人らのサポートが多いほど高い。以上,「負担感」「育て方/育ちへの不安感」「肯定感」の関連要因は一部重複しつつも,それぞれに違いがあることが確認された。
著者
刑部 育子
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.9, no.1, pp.1-11, 1998
被引用文献数
4

本研究の目的は, 保育園における4歳児の「ちょっと気になる子ども」の長期にわたる集団への参加過程を関係論的に分析したものである。関係論的視点, その中でもとくにLave, &Wenger(1991/1993)による「正統的周辺参加」論では, アイデンティティの形成過程を共同体への十全的参加者となることとする。Lave, & Wengerは, アイデンティティの変化を長期にわたる他者との生きた関係の中で提え, また実践の共同体の徐々なる参加を通した位置として提える。本研究では, 1993年4月から1993年12月までピデオ観察を週一回の割合で行い, 保育者との関わり, 他の子どもとの関わりを通した対象児のアイデンティティの変化を分析し, 記述した。その結果, 「ちょっと気になる子ども」が気にならなくなっていく過程で起きていたことは, その子ども個人の知的能力やスキルの獲得といった変化というよりも, 共同体全体の変容によることが明らかになった。
著者
岡田 努
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.4, no.2, pp.162-170, 1993-11-10 (Released:2017-07-20)
被引用文献数
3

従来青年期の特質として記述されてきたものとは異なり, 現代青年は, 内省の乏しさ, 友人関係の深まりの回避といった特徴を示していると考えられる。こうした特徴は, 新しい対人恐怖症の型として注日される「ふれ合い恐怖」の特徴とも共通すると考えられる。本研究は, 「ふれ合い恐怖」の一般健常青年における現れ方 (ふれ合い恐怖的心性) を, 内省, 友人関係の持ち方, 自己評価間の関連から考察した。内省尺度・友人関係の深さに関する尺度を変量としたケースのクラスタ分析の結果, 3つの大きなクラスタが得られた。第lクラスタは内省に乏しく友人との関係を拒否する傾向が高く, 「ふれ合い恐怖的心性」を持つ群と考えられる。第2クラスタは内省, 対人恐怖傾向が高く自己評価が低い, 従来の青年期について記述されてきたものと合致する群であると考えられる。第3クラスタは自分自身について深く考えず友人関係に対しても躁的な態度を示し, 第1クラスタとは別に, 現代青年の特徴を示す群と考えられる。この群は自己評価が高く, 対人恐怖傾向については, 対人関係尺度の「他者との関係における白己意識」下位尺度得点以外は低かった。これらのことから, 現代の青年の特徴として, 自分自身への関心からも対人関係からも退却してしまう「ふれ合い恐怖的心性」を示す青年と, 表面的な楽しさを求めながらも他者からの視線に気を遣っている群が現れている一方, 従来の青年像と合致する青年も一定の割合存在することが見いだされた。
著者
仲村 照子
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.5, no.1, pp.61-71, 1994-06-30 (Released:2017-07-20)
被引用文献数
2

この研究の目的は子どもの死の概念の発達を調べるものである。3歳から13歳までの男女205名の子どもたちに個別に面接し, 死に関する9の質問に答えてもらった。結果は, 幼児期の子どもは大人がもつような死の意味とは違ったものとして理解している。生と死は未分化であり, 現実と非現実の死の区別がなされておらず, その子ども独自の自由な死の概念を形成していると思われる。そして自分は死なないと思っている。児童期あたりから死の現実的意味である普遍性, 体の機能の停止, 非可逆性を理解するようになる。彼らは誰でもいつかは死ぬし, 死によって体の機能は停止するし, 再び生き返ることは出来ないことを理解する。これらの自覚から死は自分にも起こり得ると考えるようになり, それはやがて死後の世界ヘの想像, 願望, 希望が膨らみはじめると思われる。特に年齢が高くなるにつれて人間は死んだらまた生まれかわるという「生まれかわり思想」の増加が目立った。全年齢を通して変化のないものは死はいやな感じであるという感情であった。
著者
富田 昌平 野山 佳那美
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.25, no.3, pp.291-301, 2014 (Released:2016-09-20)
参考文献数
32
被引用文献数
1

人間はしばしば怖いものを「怖い」と知りながらもあえて見ようとする。本研究では,怖いもの見たさの心理を,虚構と現実の区別を認識したうえで,安全な距離から怖いものと向き合い,「現実ではない」「でも,もしかしたら」と現実性の揺らぎを楽しむ遊びとして定義し,幼児期の発達においては,虚構と現実の区別の認識が獲得されるに従って,怖いものをあえて見ようとする行動をよく行うようになるのではないかとの仮説に基づき実験を行った。具体的には,保育園年少児20名,年中児33名,年長児39名に対して,動物またはお化けが描かれた「怖い」カードと「怖くない」カードを伏せた状態で提示し,どちらか1枚だけ見ることができるとしたら,どちらを見たいかを尋ねる課題(怖いカード選択課題)を行った。また,見かけ/本当の区別課題,想像/現実の区別課題も併せて行い,関連性について検討した。研究の結果,怖くないカードよりも怖いカードを見ようとする行動は加齢に伴い増加し,そうした行動は特に年長児において想像/現実の区別の認識と関連があることが示された。また,男児は女児よりも怖いものを好む傾向があることが示された。
著者
渡部 雅之 高松 みどり
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.25, no.2, pp.111-120, 2014 (Released:2016-06-20)
参考文献数
45

空間的視点取得は,他視点への仮想的な自己身体の移動と,それ以外に必要とされる認知的情報処理の2つの過程から構成される。多くの先行研究では,これらの過程を適切に分離できておらず,使用された実験課題によって互いに矛盾する結果が得られることも多かった。特に,空間的視点取得の本質と目される仮想的身体移動がどのように発達するのかについては,今日でも十分には解明されていない。本研究では,両過程を分離して捉えるために,反応時間と視点の移動距離との間に成立する一次関数関係を利用した手法を考案した。さらに,子ども達にも容易に理解できるように,この手法を組み込んだビデオゲーム形式の課題を作成した。3–4歳群,5歳群,6歳群,13歳群,21歳群の各群20名ずつ,合計100名が課題を行った。仮想的身体移動過程もしくはそれ以外の認知的情報処理過程のみを意味する各1種類の指標と,両過程を含む従来型の反応時間と正答数との,合計4種類の指標が分析に用いられた。その結果,仮想的身体移動に関わる能力が思春期以降に発達すること,それ以外の認知的情報処理に関わる能力は児童期後期から思春期頃に大きく伸張することが示された。これらを踏まえて,仮想的身体移動の発達研究の重要性を,身体性や実行機能の観点から考察した。
著者
滝吉 美知香 田中 真理
出版者
一般社団法人 日本発達心理学会
雑誌
発達心理学研究 (ISSN:09159029)
巻号頁・発行日
vol.22, no.3, pp.215-227, 2011-09-20 (Released:2017-07-27)
被引用文献数
2

本研究は,思春期・青年期における広汎性発達障害(以下,PDD)者が自己をどのように理解しているのかを明らかにすることを目的とする。22名のPDD者と880名の定型発達者を対象に,自己理解質問(Damon & Hart,1988)を実施し,得られた回答を自己理解分類モデル(SUMPP)に基づき,領域,対人性タイプ,肯否の3つの側面において分類した。その結果,(1)PDD者は,他者との相互的な関係を通して自己を否定的に理解し,他者の存在や影響を全く考慮せずに自己を肯定的に理解する傾向にあること,(2)PDD者は,「行動スタイル」の領域における自己理解が多く,その中でも障害特性としてのこだわりに関連する「注意関心」の領域がPDD者にとって自己評価を高く保つために重要な領域であること,(3)PDD者は,自己から他者あるいは他者から自己へのどちらか一方向的な関係のなかで自己を理解することが多く,Wing(1997/1998)の提唱する受動群や積極奇異群との関連が示唆されること,(4)社会的な情勢や事件への言及がPDD者の自己理解において重要である場合があることなどが明らかにされた。