- 著者
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鳩飼 未緒
- 出版者
- 日本映像学会
- 雑誌
- 映像学 (ISSN:02860279)
- 巻号頁・発行日
- vol.96, pp.27-47, 2016
<p>【要旨】</p><p>本稿は日活ロマンポルノの田中登監督作、『実録阿部定』(1975 年)を論じる。異性愛者の男性観客をターゲットに製作され、同時代的にはほぼ男性のみに受容された本作が、想定されていなかった女性観客との親和性を持ち、家父長主義的なジェンダー規範を再考させる転覆的な要素を内包することを説き明かす。背景にあるのは、ロマンポルノに関する既存の言説が男性の手による批評ばかりで学術的見地からの評価が進んでおらず、同時代的にも少数ではあれ存在し、昨今その数を確実に増やしている女性観客の受容の問題が論じられていない現状に対する問題意識である。そこで第1 節ではロマンポルノにおける女性の観客性を考察するうえでの古典的なフェミニスト映画理論の限界を明らかにしつつ、ジェンダーの固定観念を逸脱する表象の豊富さによって、ロマンポルノが異性装のパフォーマンスと呼べるような流動的な観客経験をもたらしうることを論じる。続く第2 節では『実録阿部定』の視聴覚的・物語的要素を仔細に検討し、とりわけヒロイン定の表象が保守的なジェンダー観に背くものであることを確認する。最終的には、第2 節で考察した特徴によって『実録 阿部定』が女性観客に異性装的な観客経験による映画的快楽をもたらすことを示し、さらには女性の主体的な性的快楽の追求を肯定させる仕組みがテクストに内在することを明らかにしたい。</p>