著者
江藤 優子
出版者
九州理学療法士・作業療法士合同学会
雑誌
九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 (ISSN:09152032)
巻号頁・発行日
vol.2016, pp.277, 2016

<p>【はじめに】</p><p>臨床現場では、主疾患とは別に認知機能面の低下や認知症を有した患者が多くみられる。高齢者が増加する中で、当院では簡便な認知機能の判定評価としてHDS-Rを使用している。今回は、HDS-Rを使用し軽度~中等度の認知症状を認める患者に対し、「日記をつける」という活動を通して、その効果を検討する。</p><p>【目的】</p><p>症例は、胸椎圧迫骨折で入院した80代の女性。入院前は独居生活であり、退院後も独居生活を送ることを本人・家族ともに希望されていた。しかし、長期入院による認知機能の低下とADLの低下が危惧された。そこで、本人のなじみの活動である日記を活用し、現実見当識を促し認知機能の賦活を図ることにした。</p><p>【方法】</p><p>作業療法介入2日目に日記を開始。日曜日を除く6日間のリハビリ時に日記を記入するが、記入する量に制限は設けない。内容に関しては、必ず日付・曜日を記入すること以外は症例の意思に任せ、助言は最小限にとどめる。作業療法士・理学療法士が傍に寄り添い、症例のペースで記入してもらう。日曜日やリハビリ時間外の記入は、症例に任せる。記入後は内容について症例と共に読み返しを行い、感想を伝えたりその時の気持ちを聞く作業を行う。実施期間は、4月22日から7月9日までの11週と1日。</p><p>【結果】</p><p>HDS-R:4月21日16点、6月2日26点、7月7日21点。日記を開始した直後は、自発的な取り組みはみられていなかったが、2週間後には自発的に記入しようとする様子がみられ、8週間後には自発的な記入が定着した。また、日時や職員の名前を確認するために、日記を想起の手掛かりとして自ら利用することができるようになった。内容については、開始当初は自分の気持ちを書くことは少なかったが、徐々に気持ちを表出した内容がみられるようになった。</p><p>【考察】</p><p>リハビリ開始当初は、HDS-R16点と認知機能の低下がみられた。認知機能面へのアプローチとして、自宅でも行っていた「日記を書く」作業をリハビリとして導入した。導入から6週間後には、HDS-R26点と10点の向上がみられた。しかし、退院目前に体調を崩し臥床傾向に陥り、日記を開くも日付のみの記入や内容量の減少がみられた。しかし、ADL面での低下はなく、FIMの点数に大きな変化はみられなかった。その直後のHDS-Rは、21点とカットオフ値となった。</p><p>「日記を書く」という作業だけではなく、記入した内容に対してフィードバックを行うことが症例にとって「意味のある活動」を行っている実感に繋がり、脳活動の賦活に影響を及ぼしたのではないかと考える。よって、フィードバックを十分に行えなかったことがHDS-R 5点減点に繋がった可能性も考えられた。</p><p>入院当初は臥床傾向で自発的な言動が少なく、不活発な状態であった。身体機能面のアプローチと併用し、日記を導入したことで、症例の自発性を引き出し認知機能の改善に繋げることができた。脳活動の賦活に日記が有用であることは広く知られているが、その内容に対してフィードバックを行う作業が、より脳活動を促進する可能性があることが示唆された。</p><p>【まとめ】</p><p>認知機能の低下を認めた高齢者に、なじみの活動であった日記を導入し認知機能の賦活を図った。現実見当識訓練のひとつとして日記をつけることは、記憶・認知機能・見当識を高めるために有用であると思われる。</p><p>【倫理的配慮,説明と同意】</p><p>症例・家族に対し同意文書に基づく説明を行い、症例報告に参加・発表することの同意を得ている。</p>

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