著者
愛下 由香里 平賀 真雄
出版者
九州理学療法士・作業療法士合同学会
雑誌
九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 (ISSN:09152032)
巻号頁・発行日
pp.191, 2016 (Released:2016-11-22)

【目的】臨床において、LPH複合体の機能障害は多く経験する。骨盤底筋の収縮が、腹横筋・多裂筋の活動と関連していることが報告されている。しかし、運動に関する報告は多いが、実際に、骨盤周囲筋への徒手的介入が有効であるかどうか検討した報告は少ない。尾骨筋への介入前後における腹横筋に与える影響を検討したものがあるが、骨盤底の評価は行っていない。今回、骨盤底筋である肛門挙筋と、筋連結のある内閉鎖筋リリース介入前後での、股関節角度・骨盤底・腹横筋収縮の変化、多裂筋筋硬度を超音波画像診断装置にて計測し、若干の知見を得たので報告する。【対象と方法】対象は、健常成人男性6名を対象とした。測定については、超音波画像診断装置(TOSHIBA社製Aplio500)を用いた。方法は、予め股関節外旋制限のある下肢を介入下肢とした。内閉鎖筋への介入前の骨盤底・介入下肢側腹横筋・両多裂筋硬度を測定した後、股関節外旋角度を測定した。その後、内閉鎖筋に90秒リリースを行い、両多裂筋硬度測定後、外旋角度・骨盤底・腹横筋の測定を実施した。測定条件については、骨盤底筋は、測定1時間~40分前に500mL飲水し、膀胱に中等量の蓄尿をさせ、尿道孔と恥骨が描出できる断面とし、恥骨尿道孔間距離を安静時と骨盤底筋随意収縮時の変化量を骨盤底挙上量とした。腹横筋は、プローブを臍レベル水平線と腋窩線上の交点から2.5cm内方腹横筋が描出できる断面とし、呼気終末期の筋厚を測定した。多裂筋は、L5レベルで横断像を描出し、その中心部分の筋硬度を測定した。測定値は、介入前後、それぞれ3回ずつ測定しその平均を代表値とした。骨盤底筋と腹横筋は、多裂筋硬度の平均測定値をもとに増加群と低下群と分け、比較検討した。【結果】全例において股関節可動域は改善がみられた。多裂筋筋硬度については、介入側の方が、非介入側と比較し筋硬度が高い傾向にあった。(介入側15.26±8.44kPa非介入側13.46±4.75kPa)また、多裂筋筋硬度が、増加群では、非介入側についても同程度の硬度増加傾向がみられた。低下群においては、介入側と同様に非介入側も硬度が低下するものの低下の度合いに差がみられた。筋硬度については、介入により左右差がほぼない状態となった。(介入側13.01±1.92kPa 非介入側13.88±4.75kPa)骨盤底筋収縮においては、両群ともに挙上改善傾向にあるが、増加群においてわずかに挙上量が多い結果となった。(改善量 増加群5.20±2.15mm 低下群3.00±3.86mm)腹横筋収縮においては、増加群においてわずかに収縮低下傾向、低下群においては収縮改善傾向を認めた。【考察】内閉鎖筋への徒手的介入の即時効果として、股関節可動域改善、多裂筋硬度への変化、骨盤底筋・腹横筋の収縮機能への改善効果の可能性が示唆された。生方らは、慢性腰痛患者における多裂筋筋硬度は、健常者に比べ有意に低下し、腰痛群において疼痛側は非疼痛側に比べ高値を示すと述べている。今回は、健常者において徒手介入による変化がみられ、筋硬度が高い場合には、筋硬度が低下し、低い場合には、硬度があがり促通効果が得られる可能性が示唆された。また、最終的に筋硬度について、左右差がほぼない状態になったことを考慮すると、多裂筋筋硬度が、平均測定値程度であれば、骨盤底筋への収縮について改善が得られる可能性もあり、今後、さらに、LPH複合体の機能改善への徒手的介入の可能性を検討したい。【倫理的配慮,説明と同意】本研究はヘルシンキ宣言に沿ったものであり,対象者には事前に研究の目的と内容を説明し,承諾を得た。
著者
松下 孝太 中村 裕樹 竹内 明禅 永留 篤男 八反丸 健二
出版者
九州理学療法士・作業療法士合同学会
雑誌
九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 (ISSN:09152032)
巻号頁・発行日
pp.93, 2016 (Released:2016-11-22)

【目的】 投球動作において、late cocking(LCK)~acceleration(ACL)に投球時痛が多く、さらにmaximum external rotation(MER)となる時期でストレスが増大すると報告されている。MERは、肩甲骨、胸椎、胸郭など肩複合体として機能する必要性があり、それらの動きを意識して普段のケアを行うことが重要と感じている。今後、「肩甲骨、胸椎、胸郭の投球動作への関連」という医学的観点から選手に指導を行い、ケア意識の向上とMERにおける機能改善を図りたいと考えている。そこで今回、現場での投球時痛の割合とケア意識の実態を把握するための基礎調査を研究目的とした。【方法】 対象は2016年2月時点で某大学野球部に所属していた49名(投手16名、内野手22名、外野手11名、平均年齢19.5±1.5歳)とし、アンケート調査を行った。今回は、49名中有効回答が得られた47名ついて検討した。内容は、調査時の肩・肘痛の有無、投球時痛の生じる時期、重要だと思う時期と気を付けている点(複数回答)、LCK~ACLにおいて重要だと思う部位、普段のケアの重要度とした。【結果】1)投球時痛の有無 18名(38%) 肩10名、肘5名、肩・肘3名2) 投球時痛の生じる時期 LCK~ACL:8名(44%)、LCK:5名(28%) ACL:3名(17%) follow through:2名(11%)3) 重要だと思う時期と気を付けている点 ① LCK~ACL:18名(38%) 肘下がり8名(44%)、体の開き8名(44%)、力み2名(11%) ② early cocking~LCK:13名(27%) 体の開き7名(54%)、壁を作る5名(38%)、テイクバック1名(8%) ③ wind up:11名(23%:全て投手) 軸7名(64%)、重心の位置3名(27%)、力み1名(9%) ④ その他・特になし: 5名(10%)4) LCK~ACLにおいて重要だと思う部位 特になし・分からない:34名(72%)、股:6名(13%)、肩:5人(11%)、肩甲骨:2名(4%)5) ケアの重要度 重要と感じ行っている:24名(51%)、重要だが時間がない:9名(19%)、重要だが面倒くさい:9名(19%)、重要でない:4名(9%)、重要だが、方法が分からない:1名(2%)【考察】 全体の約4割の選手が投球時痛を有していた。うち9割がLCK~ACLの痛みであり、疼痛を有する選手の約6割が「体の開き」や「肘下がり」等、動作面で気を付けていた。しかし、「体の開き」や「肘下がり」にならないようにするためには「どう動かすか」という意識する選手は少なく、LCK~ACLにおいて胸椎や胸郭を意識する選手はいなかった。また、ケアの重要性を感じていても時間がない、面倒くさい、方法が分からない選手が約4割いた。投球動作においては一連のスムーズな並進運動と回転運動が重要であるが、今後「LCK~ACLにおける肩甲骨、胸椎、胸郭の関連」に着眼点を置き、医学的観点から選手へ指導を行うことで、普段のケア意識の向上に繋げたいと考える。そして、現場へケアの方法を浸透させ、MERにおける機能改善を図り、肩複合体として投球動作を遂行することで、MERのメカニカルストレス軽減を目指したい。今後、縦断的な調査を行い、投球時痛に悩む選手の減少に繋げたい。【まとめ】・約4割の選手が投球時痛を有していた・動作面への意識はあるが、機能面への意識が低かった・ケアの重要性は感じているが、実施できていない、方法が分からない選手が約4割いた・今後、MERの機能改善により、投球時のメカニカルストレス軽減に繋げたい【倫理的配慮,説明と同意】本研究は当院倫理委員会より承認を受け実施した(承認番号:1602)。
著者
高下 大地
出版者
九州理学療法士・作業療法士合同学会
雑誌
九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 (ISSN:09152032)
巻号頁・発行日
vol.2016, pp.125, 2016

<p>【目的】</p><p>全国的にも、高次脳機能障害者の自動車運転再開に対しては注目されており、当院でも再開を希望する対象者が多く、方向性に難渋することがあった。そのため、高次脳機能障害者の自動車運転再開に対しての当院でのプロトコール作成に取り組んだので、その過程・成果を発表する。</p><p>【方法】</p><p>文献レビュー・学会への参加を実施した。その内容を踏まえ、自動車運転を取り巻く法律・自動車運転再開に必要な高次脳機能についての勉強会を実施し、知識の共有を行った。当院では、ドライブシュミレーター(以下DS)・実車評価もできる環境もなく、評価用紙・フローチャートの作成までを行い、その後の方向性の検討に役立てる事とした。評価では、基準値を決め、適性あり・境界域・適性なしに分ける事とした。スクリーニング(MMSE・TMTA B・Rey複雑図形・三宅式記銘力検査・FAB)評価から、DRと相談し、適正あり・境界域の方に対しては、精査(CAT・BADS・WMNR・WAISⅢ)を行い、その後の方向性を検討する事とした。実際に運用し、データ収集を開始した。</p><p>【結果】</p><p>運用開始後、適応のある方に関してはスムーズに評価に取り組めるようになり、主治医・リハビリ間(PT・OT・ST)・家族とのコミュニケーション量が増え、方向性についてより具体的な話ができるようになった。それにより、入院早期からGOALを明確にした、リハビリテーション(以下リハビリ)を提供する事が出来るようになった。</p><p>しかし、自動車運転再開の是非に捉われ、高次脳機能評価を実施しての全体像を把握するという視点が疎かになる事があり、話し合いを行い、高次脳機能障害を捉えての全体像を把握する事が第一の目的である事を確認した。急性期では、日に日に状態の変化が大きく変わる事もあり、その上で評価を行い、基準値を基に医師と話し合い行い、医師に判断してもらう事とした。</p><p>方向性に関しては、精査後の境界域の方に対して、一定期間後外来で再評価する事とし、そこで適性があった場合は、外部のDS・実車評価が行える病院へ繋げる事とした。</p><p>【考察】</p><p>評価用紙の作成では全国的にも境界点が曖昧な所があり、実際に運用する中で、基準点の設定に難渋した。そのため、高次脳機能障害者の自動車運転再開に関しての実際の是非の判断に関しては、DRに判断してもらうというスタンスを当院では行った。実際に運用していく中で、早期からの方向性・各職種のアプローチ内容が明確化され、スムーズに次の方向性が検討できるようになったと考える。</p><p>【まとめ】</p><p>高次脳機能障害者の自動車運転再開に関して、実際に、整備を行うことで、評価の必要な対象者に対して、スムーズに早い段階で評価ができるようになり、方向性に関しても主治医と話す事ができるようになった。シュミレーター・実車評価が行える環境にない当院でも、早い段階で評価を行うことで、その後の方向性の明確化ができるようになった。</p><p>【倫理的配慮,説明と同意】</p><p>本研究の計画立案に際し,事前に健和会 大手町病院の倫理審査員会の承認を得た。</p>
著者
堀 大輔 染川 晋作 前田 朗(MD)
出版者
九州理学療法士・作業療法士合同学会
雑誌
九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 (ISSN:09152032)
巻号頁・発行日
vol.2010, pp.21, 2010

【はじめに】<BR>アメリカンフットボールは傷害発生率の高いスポーツであり、これまで多くの傷害報告がある。<BR>我々はメディカルサポートをしている大学アメリカンフットボール部に対して2007年から傷害調査を行い、過去の報告と比較するとハムストリングス肉離れの発生率が高いという特徴的な傾向があることを第31回本学会で報告した。<BR>肉離れのリスクファクタ―として筋力不足や不均衡、筋柔軟性の低下、不適切なウォーミングアップ、ランニングフォーム、神経・筋協調性の欠如、環境条件の不良など多数あげられ、発生原因を断定するのは難しくあらゆる方向から予防することが必要とされている。しかし医療機関に勤務しながら限られた時間の中でチームサポートしている我々にとっては、それを実行することは困難である。<BR>そこで今回、比較的簡便に測定可能かつ客観的に数値化できる筋力測定を行い、測定結果を選手にフィードバックすることで発生予防のための一手段となり得るか検討したので、ここに報告する。<BR>【対象】<BR>2009年、某大学アメリカンフットボール部に所属する2,3,4年生の選手33名、平均身長173.5±5.9cm、平均体重83.2±12.2kg。<BR>【方法】<BR>・2009年2月(シーズン前)、CYBEXを用い60deg/sec・180deg/secにおける膝の伸展・屈曲トルク値を測定しQH比を算出した。<BR>・理想のQH比を60deg/secでは0.58以上、180deg/secでは0.66以上とし、測定結果を選手個々にフィードバックした。<BR>・2009年も継続して傷害調査を行い、2008年におけるハムストリングス肉離れの発生率との比較を行った。<BR>なお、これらはヘルシンキ宣言に則り、チームにおける選手・スタッフに十分に説明し同意を得て行った。<BR>【結果】<BR>・指標とするQH比より低い傾向にあった選手は26人/33人(78.78%)であった。<BR>・ハムストリングス肉離れの発生は 2008年:13件/37人(0.35件/人)→2009年:8件/33人(0.24件/人)、と減少した。<BR>・特に春シーズン(3月、4月、5月、6月)の発生は2008年:8件/37人(0.22件/人)→2009年:2件/33人(0.06件/人)、と減少した。<BR>【考察】<BR>肉離れの発生状況とQH比の関係や、QH比を用いた肉離れの予防の効果についての報告は多く、QH比が低いとハムストリングス肉離れの発生率が高値を示すことがこれまでの統一した見解である。<BR>今回の測定にて、当部においては指標とするQH比より低い傾向にあった選手が多く、測定結果を選手にフィードバックするとともにハムストリングスの選択的強化の必要性を同時にアドバイスできたこと、またそれらを発生率の高い春シーズン前に行うことができたことが、ハムストリングス肉離れの発生率を低下させた要因となったのではないかと示唆される。<BR>今回は、チーム事情で1回のみの測定に終わり、実際にその後QH比に変動があったかは定かではない。また2月に測定したQH比が数ヶ月以降の秋シーズンの肉離れの発症にどれほど関係しているかは不明瞭であるため、今後は測定回数を増やしQH比の推移と発生状況を更に分析する必要性がある。
著者
南里 幻香
出版者
九州理学療法士・作業療法士合同学会
雑誌
九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
巻号頁・発行日
vol.2016, pp.84-84, 2016

<p>【はじめに】</p><p>重症心身障害者の中には、他者との関わりを好んでいても自己表出の仕方が分からず、受身的になっている症例は少なくない。今回、他者との関わりに対し受身的であった症例が作業療法(以下、OT)で行ったミサンガ作りを通して関わりの段階を踏み、積極的に話せるようになった。その経過に考察を加えて報告する。尚、この報告は本人と保護者および当園の倫理委員会の承諾を得ている。</p><p>【症例紹介】</p><p>30代男性(以下、A氏)。診断名は脳性麻痺(痙直型四肢麻痺)、Pelizaeus-Merzbacher 病。横地の分類A3。絵画語彙発達検査の語彙年齢は5歳2か月。脳性麻痺児手指操作能力分類システム(MACS)Ⅲ。脳性麻痺児粗大運動機能分類システム(GMFCS)レベル5。FIM52点、Barthrl Index 35点。当園に入所されており、余暇時間には趣味である折り紙や塗り絵を行うことが多い。</p><p>【作業療法評価】</p><p>他者と関わることを好んでいるが、自発的な関わりはなく、話したい人をみつめていることが多い。自分の思いや考えは明確に持っているものの、他者から話しかけられると応答の仕方に困り、首を傾げることが多い。食事や排泄等の生活場面に必要な介助も、病棟職員(以下、職員)からの声掛けを待つなど受身的である。OTで作製した作品を職員から褒められることがA氏の自信へとつながっており、自ら作品を披露しようとすることもあるが、どのように関わって良いか分からず披露できない。気づいた職員が「上手にできたね。」と声掛けをするとうなずいて応答するのみである。</p><p>【目的】</p><p>A氏が自信を持っている創作活動をコミュニケーションツールとし、職員へ積極的に話しかけることができる。</p><p>【方法・結果】</p><p>〈第Ⅰ期:職員の声掛けに対し、定型文での返答がみられるようになった時期/1~2ヶ月間〉</p><p>創作活動としてミサンガ作りを行った。A氏が困難な動作を補うためにミサンガ台を作製し、OTで台の取り扱いと声掛けへの返答を練習した。ミサンガ作りは余暇時間に職員の多い病棟ホールで行い、職員とのやり取りが行えるようにした。作る様子を見た職員から「上手だね。」と声を掛けられると、「どうも。」と定型文での返答がみられるようになった。</p><p>〈第Ⅱ期:A氏から職員へ定型文で声掛けができるようになった時期/3~4ヶ月間〉</p><p>ミサンガ屋さんを開き、職員より注文を受け付けてプレゼントをした。OTでは定型文で声掛けをする練習した。職員へ「何色の糸がいいですか?」と好みの糸の色を聞き、注文票に糸の色と氏名を記載してもらい、専用の受付ポストに投函してもらうよう伝えることができるようになった。</p><p>〈第Ⅲ期:A氏から職員へ自由に声掛けができるようになった時期/5~8ヶ月間〉</p><p>糸が絡まるなど修正が必要になった場合には、「糸が絡まっちゃったよ~。」と自ら依頼ができるようになった。また、受身的だった生活場面での介助も積極的に職員へ依頼する様子がみられるようになった。</p><p>【考察】</p><p>今回、他者と関わりを持ちたいが関わり方が分からず応答に困っているA氏に対し、積極性向上を目的にOTを行った。その結果、職員と積極的に話すことができるようになった。その要因として、A氏が唯一自信を持てる創作活動をコミュニケーションツールとして生活に組み込めたこと、さらにミサンガ作りを通して段階を踏んだ関わり方の練習を行ったことがA氏の積極性につながったのではないかと考える。今後もより多くの人との関わりを持ち、A氏の生活の幅がさらに広がることを願っている。</p><p>【倫理的配慮,説明と同意】</p><p>この報告について本人と保護者へ十分に説明を行い、承諾を得ている。また、当園の倫理委員会の承諾を得ている。利益相反に関する事項はない。</p>
著者
山下 優希
出版者
九州理学療法士・作業療法士合同学会
雑誌
九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 (ISSN:09152032)
巻号頁・発行日
pp.220, 2016 (Released:2016-11-22)

【目的】音楽にはリラクセーション効果があり,最近では様々な分野に治療の一貫として注目を集めている.スタティックストレッチング(以下ストレッチ)は運動後に行うことにより傷害予防や疲労回復の促進,疼痛の軽減の効果があるとされている.そこで運動後,ストレッチを実施している最中に音楽のリラクセーション効果を同時に取り入れることによりさらなる効果が得られるのではないかと考えた.【対象と研究方法】被験者は運動疾患のない健常な29名(男性13名 女性16名 年齢32±22歳 身長164±15cm 体重60±40kg),測定場所は静寂空間で実施した.曲はモーツァルトの「2台のピアノのためのソナタ二長調(ケッヘル四四八番) 第一楽章」を選定.ストレッチはハムストリングスに対して実施し,痛みを感じない最大伸展位を至適強度とした.運動機器はコンパス コンパクト レッグプレス(以下レッグプレス)を使用した.立位体前屈指床間距離(以下FFD)の測定は距離が遠い方とした.測定の順序は, 膝伸展位股関節屈曲角度(以下SLR),FFDを測定後,レッグプレス 負荷30㎏ 10分を実施.運動後SLR・FFDを測定.運動後に①音楽聴取(2分間)群(以下A) ②ストレッチ(30秒間)群(以下B) ③音楽聴取とストレッチの同時群(以下C)の実施後にSLR・FFDを再測定.効果の影響を考慮して各群の間隔は1週間とした.検定方法は一元配置分散分析と多重比較を使用し,有位水準は5%未満とした.【結果】SLR右下肢はAとC間のSLRが優位に上昇した.(P=0.037263)SLR左下肢はAとC間,BとC間のSLRが優位に上昇した.(P=0.000102)FFDは,各群の平均値は上昇したが,優位な差はみられなかった.【考察】今回の研究においてSLRがAとC間において左右の下肢ともに優位な上昇がみられた.左下肢ではBとC間においてSLRの優位な上昇がみられたが,右下肢ではBとC間においてSLRの優位な上昇はみられなかったものの数値的にはSLRが向上している.このことから音楽聴取とストレッチを同時に実施することで,それらを単独で行った場合に比べてハムストリングスの柔軟性が向上することが示唆された.これは音楽聴取により交感神経の活動が抑制され,副交感神経の活動が活発になりα波が優位になったことで筋緊張の緩和がみられたことが要因と考える.またトマティス理論により周波数が延髄に作用し,副交感神経優位となったことも柔軟性の向上に繋がった要因の一つと考える.FFDにおいて今回優位な差はみられなかった.これは松永らによるストレッチングの長期介入による腰椎骨盤リズムへの作用が今回の即時的な効果では結果に反映されなかった事が原因の一つと考える.しかし,平均値でみるとCが他のA,Bよりも改善はみられており,音楽の効果も影響していると考える.【まとめ】今回の研究では音楽を聴きながらストレッチを実施することで,音楽聴取とストレッチを単独で行った場合に比べて柔軟性が向上することが示唆された.今後もリハビリテーションの中に運動後の疲労回復,障害予防としてストレッチを取り入れていくことは重要であり,そこに音楽を同時に取り入れることでさらなる効果の増大に繋がることが示唆される.本研究の制約としては聴取音楽の統一や,健常者への実施が挙げられる.今後,音楽の種類や疾患等を考慮した更なる研究が必要である.【倫理的配慮,説明と同意】実施に関しては当該施設の倫理委員会に承認を得るとともに,対象者へ目的の説明を行い協力の同意を得た.
著者
徳留 美香 久津輪 真一 福留 里奈 橋口 一英
出版者
九州理学療法士・作業療法士合同学会
雑誌
九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 (ISSN:09152032)
巻号頁・発行日
pp.140, 2016 (Released:2016-11-22)

【はじめに】視野障害を呈した患者の自動車運転再開に対する、一定の評価方法は確立されておらず、積極的な報告も少ない。今回、両眼複視を呈した症例を担当し、神経心理学的検査、視野検査、自動車学校での実車評価を実施し、最終的に自動車運転再開となり職場復帰も果たすことができた。問題点の具体化や的確な助言を行う上で貴重な体験となり、その関わりを考察を踏まえて報告する。なお、本報告について本人に説明し同意を得ている。【症例紹介】20歳代女性。小脳橋角部腫瘍により、腫瘍全摘出手術を行い、右外転神経麻痺(両眼複視)を呈する。職場復帰を目的に当院入院となるが、職場復帰には自動車運転が不可欠である。運転歴10年で無違反、物損事故歴あり。通勤は15分程度だが、通学路を通ることや早朝や深夜に運転を行うこともある。【神経心理学的検査と視野検査】かなひろいテスト91.8%、TrailMakingTest-A42秒、TrailMakingTest-B64秒、コース立方体組み合わせテストIQ119、Rey複雑図形検査模写36点、Rey複雑図形検査再生36点であり、当院で定める自動車運転再開の基準値を満たしていた。道路交通法規則第23条では「一眼の視力が0.3に満たない、若しくは一眼が見えない場合は、他眼の視野が左右150度以上で、視力が0.7以上」となっている。眼科医からは単眼での視野は正常で、右眼に眼帯を使用し左眼のみの単眼であれば運転も可能ではないかとのコメントを得た。しかし、蒲山ら(2009)によると単眼視では両眼視と比較して、先行車との車間距離を速度に応じて適切に保持することができない可能性があるとの報告があり、症例も単眼の視野は保たれているものの、日常生活やリハビリテーション場面で単眼では距離感が掴めず、症例・家族ともに不安を感じていた。単眼での運転が安全なのか、あるいはどのようなリスクがあるのかなど不透明な部分が多く難渋している状況であった。そこで、自動車運転に関する研究会での意見交換、運転と認知機能研究会の藤田佳男氏からの助言を元に実車評価による評価が必要であると判断し、自動車学校での実車評価に至った。【実車評価】実車評価ではブランクがあったものの予測していた危険な運転は見られず、走行速度を落とした安全な運転であった。しかし、右折時に頸部の代償動作で死角を補うこととなり安全確認に遅れが生じたり、疲労も感じている様子であった。症例からは、基本的な運転方法の指導を受けただけでなく、注意点と自己の運転特性を知る経験が出来て良かったとの発言も聞かれた。【考察】法律での基準を満たし、眼科医から運転可能とのコメントを得ていても単眼での運転は視野の制限を生じてしまい、安全確認が遅れることや代償動作を補う運転は疲労を助長しやすく、運転への影響があることがわかった。このような経験は症例に意識的な危険予測、危険回避が可能な速度制限や安全確認がいかに重要かを強く認識させることとなり、本症例に対しての実車評価は意義があるものだったと感じた。今回のように他の医療機関との連携・意見交換や自動車教習指導員の専門的な意見も必要であり、今後は行政などさらに広い範囲で連携したシステム作りが必要であると考える。【倫理的配慮,説明と同意】本研究の計画立案に際し、事前に所属施設(もしくは研究協力施設)の倫理審査員会の承認を得た(承認日平成28年4月7日)。 また研究を実施に際し、対象者に研究について十分な説明を行い、同意を得た。 製薬企業や医療機器メーカーから研究者へ提供される謝金や研究費、株式、サービス等は一切受けておらず、利益相反に関する開示事項はない。
著者
宇都 良大 小野田 哲也 愛下 由香里 田中 梨美子 大重 匡
出版者
九州理学療法士・作業療法士合同学会
雑誌
九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 (ISSN:09152032)
巻号頁・発行日
pp.59, 2016 (Released:2016-11-22)

【はじめに】糖尿病において,末梢神経障害は最も早期に発症する合併症であるが,特に痛みを伴う有痛性糖尿病神経障害は大きな問題となる.その中でも,軽い触覚刺激などで疼痛を生じるアロディニアは,不眠症や抑うつ症状を伴いQOLを低下させ,治療行動へのアドヒアランスも低下する.今回,アロディニアを発症した症例に対して,痛みに考慮しながら療養指導や運動療法を行うことで,QOLの改善と運動療法のアドヒアランスが改善した1例を経験したので報告する.【症例】糖尿病教育入院を経験している2型糖尿病の49歳男性.夜間帯の仕事によって食事と睡眠が極めて不規則となり,体重増加と血糖コントロールが不良となった.また,アロディニアによって,四肢末梢・右顔面や全身にnumerical rating scale(以下NRS):4~8の持続疼痛が生じ,抑うつ状態の進行と睡眠障害が悪化し,就業不能となり再教育入院となった.インスリン強化療法と内服による疼痛コントロールが開始された.発汗で掻痒感が出現すること,低血糖への恐怖から運動に対しての意欲は低く,行動変化ステージは熟考期であった.生活習慣改善と体重コントロール目的でリハビリテーション(以下リハ)依頼となり,抑うつ状態や希死念慮に対しては,臨床心理士のカウンセリングが開始された.【検査所見】身長181.7cm,体重101.5kg,BMI30.7kg/m2,体成分分析(BIOSPACE社,In Body720)において骨格筋量37.7kg,体脂肪量33.7kg.血糖状態は,空腹時血糖200~210mg/dl台,HbA1c(NGSP)8.2%,尿ケトン体陰性.アキレス腱反射-/-,足部振動覚 減弱/減弱,末梢神経障害+,網膜症-,腎症+,自律神経障害+.【経過】介入時,覚醒状態不安定で,動作による眩暈・ふらつきを伴うため臥床時間が延長し,食事摂取量は不安定であった.生活習慣の構築を目的に,食前の覚醒促しと食後1~2時間の運動療法介入を設定した.自己管理ノートに日々の体重と,運動療法前後の血糖値を記録し,低血糖対策の個別指導をした.非運動性熱産生(以下NEAT)の指導を行い,日中の活動量向上を促した.運動療法プログラムは,NRSから有痛症状を訴にくい部位を判断し,股関節周囲のストレッチと体幹のバランス訓練を開始した.介入4日目から下肢筋力訓練を追加実施可能となり,介入12日目に掻痒軽減が図れたタイミングで有酸素運動を開始した.【結果と考察】内服による疼痛コントロールと,インスリン強化療法による糖毒性解除により,空腹時血糖値が90~100mg/dl台と改善したことに伴い,NRS:1~2と疼痛が軽減した.また,眩暈やふらつきが軽減したことで日常生活に支障がなくなり,カウンセリングにより情緒面の安定が図れたことで3週間後退院となった.仕事の関係上,夜型のライフスタイル変更は図れなかったが,食事時間を規則的にすることや昼間の活動量を高めることを約束された.体重97.4kg,骨格筋量37.0kg,体脂肪量30.7kgとなった.筋力訓練やウォーキングを自主訓練として立案・実行するようになり,行動変化ステージは準備期となった.【まとめ】アロディニアは,通常痛みを起こさない非侵害刺激を痛みとして誤認する病態であり,QOLの低下,糖尿病療養に必要なセルフケア行動やアドヒアランスが低下し,運動療法の阻害因子となる.しかし,疼痛コントロールやインスリン治療について十分に把握する事に加えて,病態を理解して疼痛部位の詳細な評価を行い,適切な運動療法の介入を行うことで,アドヒアランスの改善が生じたと考えられる.【倫理的配慮,説明と同意】本研究は当院倫理委員会の承認を得た.対象者には研究内容についての説明と同意を得た上で実施した.
著者
平川 陽
出版者
九州理学療法士・作業療法士合同学会
雑誌
九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 (ISSN:09152032)
巻号頁・発行日
vol.2016, pp.188, 2016

<p>【はじめに】</p><p>複合性局所疼痛症候群(以下CRPS)患者は一般的に運動障害もきたすが、その運動に関連する領域の障害による各種感覚情報統合の不一致が痛みの一因として考えられている。今回、CRPS患者の痛みに感覚情報再構築・不一致改善に向け介入を試みたので報告する。</p><p>【症例紹介】</p><p>80歳代女性。自動車と衝突し転倒し右大腿骨顆上骨折受傷し骨接合術施行。その後自宅退院となるが大腿部を中心とした受傷時からの強い疼痛は持続していた。7ヶ月後、疼痛の増悪認めスクリューの折損による偽関節にて再手術施行。3ヶ月の入院の後、自宅退院し外来にて演者が週2回2ヶ月間リハビリ実施した。</p><p>【評価】</p><p>安静時より大腿遠位部を中心に疼痛を訴え、Visual Analog Scale(以下VAS)にて58mm。熱感や膝関節の腫脹も残存し常に股関節屈曲・内転・内旋、膝関節屈曲させ防御性収縮を認めていた。その位置を正中と認識し下肢の動きを足部で判断していた。また常に痛みが意識され、接触や運動時にはVAS78mmまで増悪した。股・膝関節の運動覚の変質を認め、特に距離の認識が困難で「こんなずれるの?関節が動くイメージがわかない」と視覚確認や左右比較にて大きく誤差を生じていた。関節可動域は膝屈曲80°伸展-30°、筋力も痛みの影響もありMMT3レベルであった。歩行時には膝関節の柔軟性が乏しく外転方向へ振り出し、十分に荷重できず立脚時間が短縮し杖に強く依存していた。常に視線も足元を見ており「下見てないと安定しない、怖い」と足底接地の不安定さと共に触圧覚の変質を認めた。</p><p>【病態解釈】</p><p>受傷時より常に疼痛が持続し疼痛部位の不活動や防御性収縮によりさらに疼痛を生み出すという悪循環に陥っていたものと考える。末梢機構の変質だけでなく中枢機構においても股・膝関節を中心に荷重時には足底も含め適切な身体知覚が困難な状態となり、身体のイメージと実際の知覚や視覚との不一致につながり疼痛が強く持続し慢性化していると考えた。</p><p>【治療仮説及びアプローチ】</p><p>Moseleyらの慢性疼痛が持続する原因として感覚情報間の知覚能力の低下が関係し、知覚能力の改善は疼痛を軽減させることや、Finkらの感覚情報間の不一致が疼痛の慢性化の原因となると述べていることから、適切な身体知覚が可能になることに加え、視覚との整合性の獲得が必要になると考えた。疼痛に注意が向きやすい状態に視覚イメージや健側運動イメージを利用し、身体への注意を促し①股・膝関節の運動方向・距離識別および筋感覚識別②視覚と体性感覚の整合性③下肢運動と足圧の関係性構築に向けた課題を実施した。</p><p>【結果】</p><p>股・膝関節に注意が向きにくかったが運動イメージを利用する事で適切な知覚が出来始め、股・膝関節の関節運動の認識とともに距離認識の改善を認めた。合わせて視覚との一致が図られ、疼痛も軽減し安静時・接触・運動時ともに痛みはVAS12mmまで改善。臥位での姿勢偏位の修正、防御性収縮も消失。関節可動域は膝屈曲100°伸展-5°となり筋力もMMT4まで改善した。歩行時の股・膝関節の柔軟性が改善され、荷重も十分に行え「足がしっかり支える。足元見なくて大丈夫」と記述も変化した。しかし、骨癒合が不十分で荷重時痛もVAS34mmと未だ疼痛や筋力低下も残存している。</p><p>【まとめ】</p><p>CRPSに対する治療として単に感覚情報の再構築や情報間の不一致の解消のみならず患者が知覚できる情報の構築に向けた運動イメージの導入の必要性を感じた。また疼痛の要因には様々な知見が挙げられ、多面的な評価や病態解釈の重要性も認識できた。</p><p>【倫理的配慮,説明と同意】</p><p>本発表はヘルシンキ宣言に則り、患者本人に趣旨を説明し同意を得たものである。</p>
著者
福地 康玄 外間 伸吾 福嶺 紀明
出版者
九州理学療法士・作業療法士合同学会
雑誌
九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 (ISSN:09152032)
巻号頁・発行日
vol.2016, pp.271, 2016

<p>【目的】</p><p>近年、少年野球のメディカルチェック(以下MC)を実施する際に、肘関節の超音波検査が導入されている。早期に上腕骨小頭離断性骨軟骨炎(以下OCD)が発見され、障害予防へと繋がる有効性も報告されている。他県において、超音波による肘検診が積極的に実施されている中、沖縄県においては報告がされていない。そんな中、当院ではH27年度よりMCを実施している。今回の目的は、当院においてMCを実施した少年野球選手の野球肘の現状を知ることである。</p><p>【方法】</p><p>対象は平成27年5月にMCを受けた少年野球選手17名(平均年齢10.6±0.8歳)である。MCは整形外科医師1名、理学療法士2名、助手3名で行った。MC項目は肘関節検診(超音波検診)、肩関節可動域(2nd内旋、2nd外旋)、下肢柔軟性〔股関節内旋、下肢伸展挙上テスト(以下SLR)、踵臀間距離(以下HBD)、指床間距離(以下FFD)〕、野球肩理学所見11項目テスト(以下原テスト)を行った。今回は、原テストのSSDを除く10項目を実施。超音波検査にて、肘に不整がある選手(以下問題あり群)、肘に不整のない選手(以下問題なし群)に分け、各項目を比較検定した。統計学的検定はSASシステムのWilcoxonを用い、有意水準を5%とした。</p><p>【結果】</p><p>超音波検査の問題あり群は10名(59%)、問題なし群は7名(41%)であった。問題あり群では、内側上顆形態異常が7名(41%)、OCDが3名(18%)に認められた。肩関節可動域の2ndIR平均値が44.5±8.2°問題あり群が46.9±8.6°問題なし群が41.1±6.2°、2ndER平均値が121.5±10.0°問題あり群が115.8±7.2°問題なし群が129.7±7.4°であった。下肢柔軟性では、股関節内旋平均値は55.9±11.8、問題あり群が52.5±12.1、問題なし群が60.7±9.4、SLR平均値は77.4±11.4°であり、問題あり群が73.5±12.9°問題なし群が82.9±12.9°であった。HBD平均値は2.4±2.3問題あり群が3.3±2.5、問題なし群が1.1±1.0、FFD平均値は3.2±7.0、問題あり群が1.5±6.1、問題なし群が5.7±7.5であった。原テスト平均値は6.7点であり、問題あり群が6点、問題なし群が7.7点であった。2ndER、原テストの両群で有意差が認められたものの、その他の項目では有意差は認められなかった。</p><p>【考察】</p><p>肘関節の問題あり群において、2ndER、原テストの点数共に問題なし群より低値を示した。吉田らは肩のMCで原テストの得点が低い者に肘の障害を示す例が高率に見られたと報告しており、今回も同様の結果となった。野球肘の発症率は、内側上顆下端障害が約20?40%、OCDが約1?4%と言われている。しかし、今回の結果では内側上顆の形態異常が41%、OCDが17%といずれも高値を示していた。岩瀬らは、上腕骨内側上顆下端障害が投球による動的ストレスが主体であるのに対し、OCDは投球による動的ストレスと内因との両方が関与すると述べている。筋力が未発達であり、発達段階の小学生において、コンディショニング不良が不良投球フォームへ繋がることも、高値を示した原因の一つと考える。少年野球において、イニング制限は設けているものの明確なオフシーズン、球数制限は定められていない。今回のチームでも、週5日(練習時間2?3時間)、球数制限なしという環境であった。年間を通し野球のできる沖縄において、このような環境因子が加わったことも今回の結果に繋がったのではないかと考える。</p><p>【まとめ】</p><p>少年野球選手にMCを実施した結果、野球肘の発症率が高い傾向にあった。MCにおいて超音波検査の有用性を示し、身体所見と照らし合わせることによって野球肘の障害予防につながると考える。</p><p>【倫理的配慮,説明と同意】</p><p>研究実施に際し対象者に研究について十分な説明を行い同意を得た。 </p>
著者
森 里美 伊東 育美 白山 義洋 飯田 真也 二宮 正樹 白石 純一郎 岡崎 哲也
出版者
九州理学療法士・作業療法士合同学会
雑誌
九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 (ISSN:09152032)
巻号頁・発行日
pp.200, 2016 (Released:2016-11-22)

【目的】パーキンソン病は振戦・筋固縮・動作緩慢・姿勢反射障害の症状を呈し、上肢機能では巧緻性動作低下を生ずる場合が多い。しかし、上肢機能におけるリハビリテーション介入効果に関する報告は少ない。今回、パーキンソン病患者を対象とした上肢機能の変化を2~3週間における短期集中リハビリテーション入院前後で比較、検討したので報告する。【方法】対象はパーキンソン病患者21名(男性6名、女性15名、Hoehn&Yahr分類:stageⅠ2名stageⅡ4名stageⅢ12名stageⅣ3名、年齢:71.2±9.2歳、固縮・振戦症状優位側(以下優位側)は右手9名、左手12名)。短期集中リハビリテーション入院では、薬剤調整は行わず、理学療法・作業療法、必要に応じて言語療法を行った。作業療法では関節可動域訓練、筋力増強訓練、巧緻性動作訓練、協調性動作訓練を実施した。上肢機能評価は簡易上肢機能検査(Simple Test for Evaluating Hand Function 以下STEF)を使用した。短期集中リハビリテーション入院前後でのSTEF総得点・各項目所要時間の比較にWilcoxon検定を用いた。有意水準をp<0.05とした。【結果】短期集中リハビリテーション入院前後では優位側・非優位側ともにSTEF総得点に有意な改善がみられた(STEF総得点(平均±標準偏差)優位側:前77.7±18.2点 後83.3±16.8点 非優位側:前80.1±18.0点 後86.6±14.4点)。STEFの各項目別にみると、優位側では大球(項目1)・中球(項目2)・大直方(項目3)・中立方(項目4)・木円板(項目5)・小立方(項目6)・布(項目7)・金円板(項目8)で有意な改善を認めた。非優位側では中球(項目2)・大直方(項目3)・中立方(項目4)・木円板(項目5)・小立方(項目6)・布(項目7)・小球(項目9)・ピン(項目10)で有意な改善を認めた。優位側では小球(項目9)・ピン(項目10)、非優位側では大球(項目1)・金円板(項目8)で有意な改善を認めなかった。【まとめ】当院での短期集中リハビリテーション入院により上肢機能は改善した。優位側では粗大な運動項目は改善したが、巧緻性動作に関しては改善しにくい傾向にあった。【倫理的配慮,説明と同意】本研究の計画立案に際し、事前に所属施設の倫理審査員会の承認を得た(承認番号H25-0965)。また研究を実施に際し、対象者に研究について十分な説明を行い、同意を得た。製薬企業や医療機器メーカーから研究者へ提供される謝金や研究費、株式、サービス等は一切受けておらず、利益相反に関する開示事項はない。
著者
京極 大樹
出版者
九州理学療法士・作業療法士合同学会
雑誌
九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 (ISSN:09152032)
巻号頁・発行日
pp.103, 2016 (Released:2016-11-22)

【目的】地域包括ケア病棟(以下包括病棟)は、平成26年度診療報酬改定に伴い新設され、急性期治療を経過した患者および在宅において療養を行っている患者の受け入れ並びに患者の在宅復帰支援を行う機能を有し、地域包括ケアシステムを支えている病棟である。当院では平成26年6月より亜急性期病棟を転換し、包括病棟運用を開始している。リハビリテーション専門職(以下リハ職)は、平均在院日数の要件がない代わりに60日間の入院期限やリハ対象者へ1日平均2単位以上の疾患別リハの提供が規定されている点に留意して管理・運営していく必要がある。今回は平均単位数と在宅復帰率、患者満足度とリハ職の配置に着目し、約2年における当院包括病棟でのリハ職の取り組みと今後の展望について報告する。【方法】対象は平成26年6月から平成28年3月まで当院包括病棟に入院した患者。リハ職は回復期及び包括病棟に配属されているセラピスト25名(PT13名OT9名ST3名)。専従は規定に準じてそれぞれの病棟に配置している。方法は、平均単位数については包括病棟入院料等のリハ基準に係る届出添付書類に準じ、在宅復帰率は包括病棟の施設基準等に準じて算出している。患者満足度は平成26及び27年度でそれぞれアンケートを実施し、満足度の項目を抽出している。【結果】平均単位数は平成26 年度で2.71、平成27年度で2.58であった。在宅復帰率は平成26 年度で80.2%、平成27年度で86.0%だった。リハ対象率は平成26 年度で69.7%、平成27年度で64.5%であり、回復期リハの単位数に影響はなかったが、業務が煩雑になった月が一部みられた。アンケートからは接遇やリハ内・治療について概ね高い満足度であったが、待ち時間とリハ効果に関する項目は4割程度の満足度であった。【考察】リハ包括という制度の中、リハ職の配置を熟考した結果、回復期病棟と包括病棟勤務のスタッフを混在させ、包括病棟の単位数をできるだけコンパクトに設定しながらも、在院日数のコントロールや在宅復帰率、患者満足度を達成していくといった課題に挑戦した2年であった。包括病棟固定ではなく、回復期病棟と兼務させるといったフレキシブルな人材運用は、病棟管理側からは煩雑な面もみられたが、疾患が限定される回復期病棟と疾患によらない包括病棟を同じスタッフで兼務させることで、多様な患者のリハの経験と期日内での退院調整・指導を日々業務の中心として活動できることは、特に若年層の教育的側面からは有用と考えられる。リハ職兼務にて発生するメリット・デメリット、リスクとベネフィットを見極め、限られたリハ資源を効果的かつ効率的に運用することで、患者満足度と費用対効果のバランスの最適値を今後も模索し、地域包括ケアシステムの一翼として地域に貢献していきたい。【倫理的配慮,説明と同意】研究はヘルシンキ宣言に則り,被験者のインフォームド・コンセントを得て行っている。
著者
東谷 成晃 入船 友紀子 都甲 幹太 中村 智子 辻 泰子
出版者
九州理学療法士・作業療法士合同学会
雑誌
九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.14, 2009

【はじめに】<BR> 60代女性が癌治療の為に入院。ADL改善目的でOT開始するが癌性疼痛の増強及び精神的低下等により生活範囲の拡大がみられず、ベッド上中心の生活となった。この症例に対し作業療法の一環として「千羽鶴作り」の作業活動を提供・支援したことがきっかけとなり、症例の心・身体に変化が見られ、QOL向上に繋げることができたので報告する。<BR>【全体経過】<BR> 10月中旬入院。3病日目:ST開始。 28病日目:OT開始。44病日目:折り紙開始。47病日目:千羽鶴作成開始・自室内環境変更。74病日目:外出。90病日目:千羽鶴完成。101病日目:自宅訪問。105病日目:外泊。116病日目:自宅退院。また入院中に合計59回のradiation(各部位)と合計7回の化学療法実施。<BR>【症例の変化・考察】<BR>第1期:折り紙導入前(介入当初)<BR> 入院当初、元々独歩自立が癌性疼痛によりベッド上生活となり、現病についての話題が大半を占め、自己の出来ないことに目が向くようになっていた。<BR>第2期:折り紙導入時(介入から約2週)<BR> 自室内にて短時間で出来、馴染みある活動として「千羽鶴」作成を開始。広告紙や用紙準備・一日の折る羽数は患者自身で決め、2~3日の完成分毎にOTが飾り付けを行い自室内に飾った。また自室内の環境を座位活動や移動がしやすいように変更した。<BR>第3期:心・身体の変化(介入から約4週)<BR> 「千羽鶴」作成で病態以外に目を向ける時間や、作業を通してスタッフや家族との関わりが増えた。また完成していく「千羽鶴」から満足感・達成感が得られると共に、他者から賞賛を受けた事で自己価値観の向上を認め、「癌治療きついけど千羽鶴が完成したら家に帰れるやろうか。」と発言内容にも変化が見られた。それに加え放射線や化学療法の治療効果もあり心理的苦痛の軽減や安心感が生まれたことで、院内を一人で散歩するなど生活範囲が拡大し徐々に生活習慣を取り戻していった。<BR>第4期:家族の変化(介入から約8週)<BR> 作品を通しての会話が増え、家族が症例の姿や能力を知り得たことで共に喜びや満足感を経験でき、リハビリ以外の時間で院内での散歩や家族・親戚と一緒に外出・外泊するなど外への時間を増やすことが出来た。これらの動きが在宅復帰にも繋がり、「孫を抱っこしたい」という新たな目標を掲げて笑顔で退院となった。<BR>【まとめ】<BR> 今回「千羽鶴」の余暇活動がきっかけとなりQOL向上から機能・能力の回復に繋がっていった。癌患者様へのリハビリには多面的な介入が必要であるが、作業活動を提供・支援することは患者様に目標ある生活を獲得させ、生活全般に変化をもたらす一助になると言える。
著者
原田 洋平
出版者
九州理学療法士・作業療法士合同学会
雑誌
九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
巻号頁・発行日
vol.2009, pp.121, 2009

【はじめに】<BR> 今回、脳血管障害を持ち、対人交流の拒否が強く身体機能訓練を拒否した一人の高齢女性に対して、興味を示した折り紙・お手玉を通じて関係を築き、ナラティブの語りから方針を再検討した。その結果、行動範囲や対人向流の拡大に至り、活動量の拡大に繋がった。訓練拒否から活動を広げていった経過を分析し、考察を加えて報告する。<BR>【事例紹介】<BR> Aさん。80歳代女性。左ラクナ梗塞。家族構成は夫と息子夫婦、孫夫婦、曾孫。職業は夫の農業を手伝いながら兼業主婦。家事全般をこなしながら、勤めに出ている孫夫婦に変わり曾孫の育児を行なっていた。<BR>【経過・結果】<BR> 初期評価時より常に表情は険しく日中臥床傾向であり他患との交流や離床を拒否。OTRが提案したベッドサイドでの身体機能訓練に対し「つまらない。」「リハビリなんて楽しくないと思う。」と拒否を続ける。Aさんの語りにより病棟でお手玉を使用。OTRは初心者であり、OTRに教えてくれるよう頼んだ。次第にAさんはお手玉遊びのコツや練習方法を教えてくれるようになり、指導的役割や、AさんがOTRへ指導をし、指導が上手く行くという成功体験を通じ、Aさんは達成感を得る。しだいにOTRの問いかけに対し、院内生活や過去の生い立ちについて自ら語るようになり、OTRはナラティブと傾聴をおこなっていく。また、他患のベッドサイドにある千羽鶴を指差し、「私も昔は孫と一緒に作ったものよ。」と折り鶴作製を希望した。その語りより、OT方針を再検討し、折り紙を追加した。他患や他患家族に対し「みんなと一緒に食事を取りたいから食堂でご飯を食べたい」等と話すようになる。そして自らOTRや他患へお手玉遊びの指導やおはじきの遊び方、折り紙の折り方を教えるようになりコミュニケーション・交流技能に変化が見られる。<BR>【考察・まとめ】<BR> 「今までは主婦業をこなしていたのに、助けてもらうばかりで何もできなくなった」「手が動かないからだめだ」と個人的原因帰属の低下や役割・自己効力感の低下により居室に閉じこもっていたAさんは、お手玉という作業を通じて、「今までは息子や孫にいろいろなことを教えていた」役割や達成感、「OTRが上手くお手玉できるようになった」成功体験を得ることができた。その結果、OTRとの関係が築かれ、活動への意欲が向上したと思われる。ナラティブと傾聴を基に方針を修正した後、楽しみとなる作業活動の提供によって意欲が引き出され、行動範囲や対人向流の拡大に至り、活動量の拡大ができたと考える。<BR> 今回の症例ではナラティブな関わりを通じてお手玉・折り紙という作業に注目した。このようにナラティブな関わりからセラピストとの関係を構築し、協業することの重要性が示唆された。
著者
後藤 麻希 川崎 桂 遠藤 正英 甲斐 健児 薛 克良 服部 文忠
出版者
九州理学療法士・作業療法士合同学会
雑誌
九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 (ISSN:09152032)
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.174, 2011

【はじめに】<BR> 近年Wii(任天堂社製)を用いたリハビリテーションが注目され検証されている。しかし、集団への影響について検証されているものは少ない。そこで今回、当院の通所リハビリテーション(以下通所リハ)の集団訓練にWiiを導入し、身体機能と出席率に着目して検証したので報告する。<BR>【対象・方法】<BR> 調査期間はX年9月~X年12月、対象はその間、当院通所リハを3ヶ月間継続利用した要支援35名とした。そのうち、Wiiを使用した集団訓練への参加を希望した群(以下ゲーム群)21名(男性:7 女性:14名、平均年齢:73.47±9.6歳)、希望しなかった群(以下非ゲーム群)14名(男性:8 女性:6名、平均年齢:71.78±11.5歳)。Wiiを使用した集団訓練は、プロジェクターを使用し、スクリーンに映し、30分間実施した。Wii 太鼓の達人(バンダイナムコゲームス・ナムコ社製)とWiiスポーツリゾート(居合い斬り・ボウリング)(任天堂社製)のソフトを順に2週間ずつ変更し行った。出席率(%)はWiiを実施した各月の当院通所リハの出席率(利用回数/予定利用回数×100)を調査し、身体機能の検証は実施前、後に握力、膝伸展筋力(ミュータスMA1(アニマ社製)を用いて端坐位にて膝関節90度屈曲位での最大等尺性膝伸展筋力を測定)、10m歩行(時間・歩数)、6分間歩行距離(以下6MD)、ファンクショナルリーチテスト(以下FRT)、Timed up and go Test、長坐位体前屈を行い統計学的分析にt検定を用いた。なお、本研究は被験者に目的、手順を説明し同意を得た。<BR>【結果】<BR> 出席率はゲーム群で実施1ヶ月目:80.45%、2ヶ月目:91.14%、3ヶ月目:88.76%、非ゲーム群は1ヶ月目:75.28%、2ヶ月目:72.34%、3ヶ月目:66.67%であった。身体機能は集団訓練実施前、後において、非ゲーム群のFRTで有意な低下を認めた(p<0.05)。その他の項目では有意差が認められなかったが、ゲーム群では6MD、FRT以外の全ての項目で平均値が向上傾向にあり、非ゲーム群では全ての項目で平均値が低下傾向にあった。<BR>【考察】<BR> 今回の結果より、Wiiを集団で実施した場合、出席率・身体機能の向上へ効果がある事が示唆された。ゲーム群で出席率が向上傾向にあったのは、ひとつに内発的動機付けとしてWii自体の楽しさがある。あわせて、集団で行う事により、他者との交友関係の深まりの中で外発的動機付けが促され、出席率向上へと影響した事が考えられる。また、ゲーム群で身体機能が向上傾向にあったのは、Wii使用による直接的な運動量の増加と出席率向上による運動量の向上が影響した事が考えられる。Wiiは運動への動機付けを促す手段の一つとなりえ、更に集団で行う事により内発的動機付けと外発的動機付を誘発する事が期待できる。
著者
儀間 智子
出版者
九州理学療法士・作業療法士合同学会
雑誌
九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 (ISSN:09152032)
巻号頁・発行日
vol.2010, pp.385, 2010

【はじめに】<BR>今回、対人緊張が高い為関わりが難しく外出に対しても抵抗がある症例に対して、雑誌コーナーの雑誌購入を導入した結果、退院してピアノ教室に通いたいと口に出すようになった。振り返りを行い考察を加えたので報告する。<BR>【症例紹介】<BR>30歳代女性。19歳、人と付き合い難くなり家へ閉じこもる。21歳、薬学に通うが寮生活で対人関係上手くいかず不登校となる。帰沖し復学試みるが、自主退学する。33歳、多量服薬しA病院の5階から飛び降り、興奮状態で当院入院となる。関わり当初、単語での返答多く近くに座ると自ら離れていき関わるのが困難であった。雑誌や化粧品を一人で見て過ごす場面が多く見られた。<BR>【方法と経過】<BR>『雑誌コーナーの雑誌購入』月に1回個別で行い、1.楽しむ体験2.自信の回復を目的とした。OTRから誘い、雑誌を2~3冊程度選んでもらう。〈BR>症例が他患と雑誌や化粧をしているOTRの姿を見る事から始め、同じ机で雑誌を見ながら徐々に会話を図り購入へ誘った。購入初回時には拒否もあった。移動中の車内では、OTRが1~2回話しかけるのみで帰りは笑っている表情が多く見られた。初めは常にOTRの後ろから歩いており、多くの雑誌の中から選ぶ事が出来ず、立ちすくむ場面が見られた。その為、「購入月の前後や読んだ事のある雑誌から選ぶと選びやすいよ」と段階付けを行い読みたい本(漫画)の選択が出来る様になる。その頃と同時期にOTRの前を歩くようになり、買いたい雑誌や漫画の棚に積極的に足を運ぶようになる。また、会計後の雑誌を積極的に持つようになる。<BR>【結果】<BR>OTRに対して、感情を表出したり、「家に帰りたい、ピアノ教室に通い、○○の40番を完成させたい」と話すようになる。<BR>【考察】<BR>今回、対人緊張が高く関わり難い症例に対して、興味がある雑誌を通して個別での雑誌購入を導入した。雑誌購入は、将来に関わる大きな決断ではない事やOTRからの誘いから受容的な参加が可能な状況が参加しやすく、選んだ雑誌に対してOTRに肯定される体験から安心感が生じたと考える。安心感から次第に自分の読みたい雑誌を意思表示出来るようになり買えた満足感や購入した雑誌をホールに来て見る事、女性らしさを意識する本人の楽しみから継続して購入に至っているのではないか。また、他者が手に取り読む姿を見て「この雑誌でよかった」と喜ぶ姿や賞賛される体験が自信に繋がったと考える。今回の雑誌購入は、(1)流行の服や髪形を気にする、(2)自分を変えたいと感じる機会と症例自信から生じる喜びが大きかったと考える。結果として現在では、以前やり残した「家に帰ってピアノ教室に通いたい、曲を完成させたい」という希望をOTRを含め他者へ意思表示する様子が伺えるようになった。今後は、本人の気持ちを引き出していきながら意思を固めていく。活動でもピアノを取り入れていき糸口を見つけていく。
著者
枝村 和也 中島 耕一郎 衛藤 貴郷 田口 あやめ 高木 美帆 徳丸 一昭
出版者
九州理学療法士・作業療法士合同学会
雑誌
九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
巻号頁・発行日
vol.2016, pp.202-202, 2016

<p>【目的】</p><p>術前後の諸因子について自宅退院群と施設退院群の2群間で比較し、転帰先に影響する因子についての抽出・検討を行うことで退院調整の円滑化を図ること。</p><p>【方法】</p><p>平成26年2月から平成27年5月までに退院した大腿骨近位部骨折患者112名中、受傷前在宅であった43名を対象とした。(男性6名 女性37名 平均年齢83.44歳)</p><p>調査項目として術前因子は年齢、家族構成、入院前介護度、受傷前歩行状況とし、術後因子は長谷川式簡易知能評価スケール(以下HDS-R)、移乗の獲得日数、荷重開始1週後の歩行能力とした。これらの調査項目を後方視的に診療録から情報収集を行い、自宅退院群と施設退院群の2群に分け、有意水準5%未満で統計学的処理を行った。</p><p>【結果】</p><p>調査対象患者の自宅退院率は69.8%であった。荷重開始1週後の歩行能力、移乗の獲得日数、HDS-Rにおいて自宅退院群において両群間で有意差が認められた。</p><p>【考察】</p><p>大腿骨近位部骨折は骨粗鬆性骨折の1つであり患者数は、年間15万人以上に達すると報告されており、その多くが70~80歳代の高齢者である。大腿骨近位部骨折を受傷すると日常生活活動(以下ADL)が低下し、介護の必要性が増加する原因となると報告されている。当院でも受傷前と比較してレベル低下を生じ、自宅退院困難となる例も多々経験する。そこで術前後の環境、認知、機能的因子における客観的指標の抽出を後方視的調査に行った。</p><p>自宅退院率は69.8%であり、先行研究と同様の値が示された。転帰先に影響している因子については術後早期の認知・機能的因子が先行研究と同様に影響していることが分かった。菅野らは術後2週以内での歩行獲得(平行棒内または歩行器歩行)の有無は、自宅退院の可否を予測する因子の一つであると報告している。また口石らは術後1週目の時点で移乗能力が自立していれば独居でも自宅退院できる可能性が示唆されたと報告している。HDS-Rにおいては先行研究においても退院先に影響を与える因子として多く報告されている。久保らは認知症がある症例は、ない症例に比べて平行棒歩行訓練の開始が遅れていると報告しており、転帰先だけではなくリハビリテーションの進行度にも影響していると考えられる。以上のことから術後早期の移乗・歩行能力が低い症例、認知症が低下している症例は自宅復帰困難となる可能性が示唆され、術後早期における自宅復帰可否の判断に有用と考えられた。</p><p>【まとめ】</p><p>医療従事者である我々にとって、術後早期から転帰先の予測を可能にし、円滑な退院調整を行う事は重要である。今回の結果のみを用いて早期の転帰先の予測は不十分であると考えるが、今回の結果を一助とし、今後は症例数を増やし家族の介護力や術前後の栄養状態、疼痛などの因子の検討を行うことで、より精度の高い転帰先の予測を可能にするものと考える。</p><p>【倫理的配慮,説明と同意】</p><p>本研究の計画立案に際し、事前に所属施設の倫理審査委員会の承認を得た。また実施に際し、調査対象者には書面による十分な説明を行い、同意を得て行った。</p>
著者
野原 慎二 阪本 留美 山下 陽子 小西 友誠 筒井 宏益 内賀嶋 英明 絹脇 悦生
出版者
九州理学療法士・作業療法士合同学会
雑誌
九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 (ISSN:09152032)
巻号頁・発行日
vol.2004, pp.95, 2004

【目的】<br> 回復期リハビリテーション病棟(以下、回復期リハ病棟)の目的として、いわゆる活動性の向上がある。しかしながら活動性の向上に伴い転倒リスクは上昇する傾向にあり、当院回復期リハ病棟においても、そのリスクマネジメントは重要な課題となった。そこで今回転倒・転落に対する具体的な取り組みを行い、若干の知見を得たので報告する。<br>【方法】<br> 平成15年12月に回復期リハ病棟において転倒・転落対策チーム(以下、対策チーム)を発足し、現在対策として行っている離床センサー・衝撃吸収パンツの使用に加え、以下の取り組みを行った。1)転倒・転落予防新聞、2)転倒・転落啓発ポスター、3)転倒・転落予防パンフレット、4)転倒・転落に関する勉強会の開催、5)ビジュアルボードの設置、6)終礼の開催。取り組み前後の比較検討は、平成15年8月から平成16年4月までの当院回復期リハ病棟の転倒率を用いて行った。統計処理はカイ2乗検定を用い危険率5%未満をもって有意とした。<br>【結果】<br> 転倒率において、取り組み前の平成15年8月は9.75%、9月14.28%、10月8.88%、11月8.69%、12月5.88%であったが、取り組み後の平成16年1月は4.25%、2月4.54%、3月4.65%、4月6.25%であり、取り組み前後の転倒率の低下において有意差は認められなかったが、低下傾向にある事は示唆された。<br>【考察】<br> 病院での転倒転落事故の発生要因として、1)患者側の要因、2)治療者側の要因、3)環境の要因に分けられる。そして実際の転倒・転落事故はこれらの要因が複雑に絡み合い発生する場合がほとんどである。当院回復期リハ病棟においても痴呆を有している患者の転倒・転落対策として離床センサー・衝撃吸収パンツを使用し一定の効果を得ていたが、今回の対策チーム発足にあたって転倒・転落事故状況を分析した結果、理解力が有り、移動・移乗動作が監視から自立レベルの患者においても転倒・転落事故の発生が多く認められ、その原因としては自分の移動・移乗動作能力への過信や介護者への遠慮等が認められた。その為、転倒・転落の危険性の認識を患者自身に促す目的において、予防新聞、啓発ポスター、予防パンフレットを作成した。転倒・転落予防新聞は、対策チームメンバーが持ち回りで作成し、月1回発行している。内容としては転倒・転落に関する話題を患者に分かりやすい言葉を用いて表現する事に気を付け、最終的な完成に至るには対策チーム以外の病棟スタッフの意見も取り入れていくようにしている。転倒・転落啓発ポスターは、トイレでの移乗が介助レベルであるにも関わらず、ナースコールを押さずに自分で移乗しようとして転倒した事例が多く、その対策の1つとして作成した。「ナースコールは座って押しましょう」と簡単に表記し、イラストも取り入れて、便器に座った際に患者がよく見える所に貼り、注意を喚起した。転倒・転落予防パンフレットは、入院生活で転倒・転落を起こしやすい主な原因を簡単な言葉とイラストを用いて説明したもので、対象者としては入院時の転倒・転落アセスメントスコアにおいて危険性が高いと判定された患者に対して配布している。運用手順としては、まず転倒・転落に関する自己チェックをしてもらい、患者とその家族の関心を転倒・転落へと向ける。その後転倒・転落予防パンフレットを配布し注意を促すとともに、先に行った自己チェック用紙は回収し、看護師はケアプランに活用するようにしている。これらの取り組みは当初患者側の要因に対して行ったものであったが、作成をしていく中で病棟スタッフの転倒・転落に関する発言がカンファレンス等で多く見られるようになり、相乗効果として病棟スタッフの転倒・転落に対する意識の向上があったように思われた。この病棟スタッフの意識を更に向上させる目的において、転倒・転落に関する勉強会を開催し、事例検討を行った。また、カンファレンスにおいて報告のあった転倒・転落の危険性の高い患者を病棟スタッフ全員が視覚的にも把握出来るようにビジュアルボードを設置し、報告者が随時変更していく事とした。転倒・転落の発生時間帯では夜間帯も多く、その原因としてスタッフの人数の問題もさる事ながら、夜勤スタッフは日中の患者の状態を詳細に把握する事が困難であり、特にリハスタッフとの情報交換が不充分であった事が考えられた。その為、主に夜勤スタッフに情報伝達を行うという目的で新たに終礼を開催し、病棟スケジュールの1つとして取り入れた。今回の調査において、取り組み前後の著名な転倒率の変化は認められなかった。しかし、先に述べたように、転倒・転落事故に対し積極的に取り組む過程において更なる問題意識をスタッフ全員で持てた事が、今回の最大の変化であると考える。
著者
下田 武良 川﨑 東太 鈴木 あかり 森田 正治 永井 良治 岡 真一郎 中原 雅美 池田 拓郎 髙野 吉朗 金子 秀雄 江口 雅彦 柗田 憲亮
出版者
九州理学療法士・作業療法士合同学会
雑誌
九州理学療法士・作業療法士合同学会誌 (ISSN:09152032)
巻号頁・発行日
vol.2016, pp.132, 2016

<p>【目的】</p><p>本学では2010年より、クリニカル・クラークシップ(以下CCS)での臨床実習を関連施設で開始した。CCSとは従来の「患者担当型・レポート重視型」の指導形態から「見学・模倣・実施」の段階を経て、診療を経験する「診療参加型」の臨床実習である。実地の経験を積むことが臨床実習の役割であり、チェックリストを用いたCCSは経験値向上に有利であるとされている。そこで今回、CCSと従来型臨床実習の各検査測定項目における経験の有無について調査したので報告する。</p><p>【方法】</p><p>対象は、CCS方式である関連施設(急性期2施設、回復期1施設)で臨床実習を終了した37名、従来型方式である外部施設で臨床実習を終了した44名の学生とした。なお、各施設における学生間の学業成績に差はなかった。外部施設の選定基準は、主な対象疾患が中枢神経領域および運動器領域であり、施設区分が急性期もしくは回復期の病院とした。調査期間は2013年10月から2014年8月とし、各期8週間の臨床実習終了後にアンケート方式で調査した。アンケート内容は、臨床実習で検査・測定を行った疾患領域別の人数、および本学が使用しているCCSチェックリストの検査測定技術項目(40項目)の経験の有無とした。アンケート集計結果よりCCS群、従来型臨床実習群の一人当たりの疾患領域別経験人数、各検査測定項目の経験率を比較した。</p><p>【結果】</p><p>一人当たりの疾患領域別の経験人数では、CCS群が中枢神経領域6.5±5.2人、運動器領域7.2±5.4人、呼吸・循環器領域2.0±4.2人、その他0.7±1.6人、合計16.4±12.1人であった。従来型臨床実習群が中枢神経領域2.4±2.5人、運動器領域3.9±6.7人、呼吸・循環器領域1.7±4.6人、その他0.2±0.8人、合計8.2±11.5人であった。各検査測定項目の経験率では、CCS群が平均92.7±10.9%で、上腕周径、MMT(肩甲帯・手関節)を除く全ての項目が80%以上であった。従来型臨床実習群が平均81.6±17.4%で、上肢全般、頸部・体幹のMMT、ROM-t項目ならびに片麻痺機能検査において経験率が80%以下の結果となった。</p><p>【考察】</p><p>今回の調査では、中枢神経領域、運動器領域の検査測定を実施した経験人数に、大きな差がみられた。患者担当型である従来型臨床実習群に対し、診療参加型であるCCS群では、多くの疾患に対し検査測定の実施が可能となる。これらの結果から、各検査測定項目の経験率においても、上肢全般、頸部・体幹のMMT、ROM-t項目や片麻痺機能検査に差がみられたと考えられる。また、チェックリストを用いることで、指導者や学生に経験することの意識が働き、広い範囲で検査測定項目の実施に反映されたと考えられる。</p><p>【まとめ】</p><p>CCSは同じ測定項目であっても複数の患者に対して繰り返し経験でき、技術項目修得の向上が期待される。経験豊富なセラピストが理学療法をスムーズに進められるのも経験値の高さによるものであり、学生も経験を積み重ねることで臨床的感性の向上を期待したい。</p><p>【倫理的配慮,説明と同意】</p><p>本研究はヘルシンキ宣言に基づき、対象者には事前に紙面および口頭にて研究内容を説明し、同意を得たうえで実施した。</p>
著者
安田 知子 溝田 康司 小嶺 衛 仲盛 真史
出版者
九州理学療法士・作業療法士合同学会
雑誌
九州理学療法士・作業療法士合同学会誌
巻号頁・発行日
vol.2007, pp.175, 2007

【はじめに】<BR> 沖縄理学療法士会には、社会局スポーツ推進部があり、その役割として、理学療法士の立場からスポーツ活動を支援することである。本部の活動は広く県民の健康増進や楽しむべきスポーツ活動時のケガの予防とその対応などに寄与する公益事業の一つと位置づけている。<BR> 今回、高知県理学療法士会からの紹介を受け、韓国プロ野球チームの春季キャンプにおけるコンディショニングサポートを行う機会を得たので、若干の考察を加え報告する。<BR>【経緯】<BR> 平成19年2月中旬に高知県理学療法士会事務局より、沖縄県理学療法士会事務局に以下のような依頼があった。<BR> 1月より高知県下にて春季キャンプを行っていた韓国のプロ野球チームSが2月15日より沖縄でオープン戦を含むキャンプを継続することになっている。高知県理学療法士会は、このチームから依頼を受け、1月中旬から2月中旬までの間の2週間、夜間練習後にコンディショニングのサポートを行っており、引き続き沖縄でもできないかという相談を受けたので、対応をお願いしたいということであった。<BR> チームはすでに15日に沖縄入りしており、早急な対応が必要となり、会長の勅命とともにスポーツ推進部担当理事、部長の承諾の基、活動を行うこととなった。<BR>【期間および活動内容】<BR> 平成19年2月15日から3月8日までの沖縄キャンプ期間中に、夜間練習後のコンディショニングの対応が可能であったのは11日であった。内容は、チームトレーナーの指示を受け、主として疲労回復を目的としたマッサージを含む徒手的療法を行った。対応選手数は、延べ38名で、ポジションの内訳は、投手19名、内野手7名、外野手6名、不明6名であった。<BR> サポートに対応した県士会員は、14名であった。終了後アンケートは、14名中10名から回答を得た(回収率71.4%)。その結果、協力者の平均経験年数は2.8年であった。また、全員が活動への興味から協力を希望し、7名が今後も同様な活動があれば積極的に協力したいと答えた。しかし、今回の貢献度としては、不満足であると答えた者が半数の5名いた。さらに言葉が通じないことに対する不安があるとした者が7名、どのように対応したらいいかわからないとした者は4名であった。<BR>【考察】<BR> 沖縄県は、年間を通じた温暖な気候のため各種スポーツの合宿が盛んに行われている。プロ野球について言えば、今年も日本が1軍8球団2軍4球団、韓国は3球団が春季キャンプを行っている。今回のようなプロのスポーツチームのサポートは日ごろの臨床とは異なった技量が要求され、我々も対応に苦慮するところではある。しかし、沖縄県の県外に対する公益性を考えた時、我々も関与できる可能性を示唆したものと考えられる。対応チームが韓国であったことも考慮すれば、国際的な貢献もあるものと考えられ、今後も同様の依頼があれば積極的に協力すべきと考える。