著者
石本 万里子
出版者
一般社団法人 日本がん看護学会
雑誌
日本がん看護学会誌 (ISSN:09146423)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.31-43, 2009

<p><b>要 旨</b></p><p>本研究の目的は,病気になる以前から家族としての歴史を持った終末期がん患者と家族が,死別を意識し苦難が多くても在宅で過ごしながら時間と空間を共有する中で,家族として象徴的な意味づけや価値を持った行動を今の状況に調和させて日常的に行うことによって,相互の関係性を深めたりそれぞれのアイデンティティを確立するといった肯定的な感情や認知をもたらすプロセスであるEnrichmentとして明らかにすることにより,終末期の在宅療養を継続していくための新たな看護の示唆を得ることである.</p><p>訪問看護ステーションから紹介され研究参加に同意を得た家族介護者15名を対象に,半構成的面接によって得たデータを質的帰納的に分析した.</p><p>その結果,患者と家族の歴史や関係性を踏まえて行われる出来事(Enriching event)には,[これまでの日常的な交流から生まれる出来事][今までどおりできなくても二人で取り戻す出来事][終末期になって近づいた二人の出来事][一度きりでも大きな意味をもたらす出来事]の4つのカテゴリーが抽出され,これらの出来事には≪二人の日常に幸福感がもどる≫≪感動や喜びを分かちあう≫≪残された二人の時間を創りかえる≫≪互いの安心感を伝えあう≫≪相手が今は元気でいることを実感する≫≪一緒に生きてきたことを互いに認めあえる≫≪相手の人生に想いを馳せる≫≪二人の時間がよみがえる≫≪相手の自尊心や威厳を再認識する≫といった9つの意味づけが含まれていた.そしてこれらの出来事を繰り返し意図的に行うことで,家族介護者は【なじんできた生活を最期まで保つ】という介護の意味づけを見いだしたり,【二人の絆が強まる】【自分の気持ちを整える】【自分の存在意義を見いだす】といった成果がもたらされていることが明らかになった.</p><p>終末期がん患者との苦悩の多い日々を自宅で過ごす中で,家族介護者が短時間でも豊かな気持ちになることや,肯定的な認知が得られて自分の人生を認められるようになることは,予期的悲嘆や患者の死後の悲嘆の過程に向き合う力になると考えられ,日ごろのかかわりから患者と家族がこれまでの生活の中で大切にしてきたことや人生の意味づけを引き出す看護支援が必要であることが示唆された.</p>

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