著者
鈴木 久美 大畑 美里 林 直子 府川 晃子 大坂 和可子 池口 佳子 小松 浩子
出版者
一般社団法人 日本がん看護学会
雑誌
日本がん看護学会誌 (ISSN:09146423)
巻号頁・発行日
vol.32, pp.32_suzuki_20171120, 2018-01-01 (Released:2018-02-09)
参考文献数
23

要 旨 目的:本研究の目的は,乳がんおよび乳房自己検診,マンモグラフィ検診に対する健康信念を高めて行動変容を促進するために,乳がん早期発見のための乳房セルフケアを促す教育プログラムを実施し,その効果を明らかにすることとした.方法:対照群を置かない前後比較の介入研究デザインを用いた.20 歳以上で乳がん既往のない女性42 名を対象に,教育プログラムを乳がん体験者と協働のもと実施した.介入効果の検討は,定期的乳房自己検診およびマンモグラフィ検診の実施状況,日本版Champion Health Belief Model Scale(CHBMS)を用いて,介入前後で評価した.結果:対象は,平均年齢50.6 歳(SD=11.5)で,有職者が59.5%,乳腺疾患のある者が16.7%だった.定期的乳房自己検診実施率は,介入前21.4%に比べ介入後1 年で54.8%(χ2 値=9.389, p=0.002,効果量w=0.602)と有意に高かった.マンモグラフィ検診受診率でも,介入前23.8%に比べ介入後1 年で47.6%(χ2 値=8.100, p=0.004,効果量w=0.569)と有意に高かった.日本版CHBMS の「乳房自己検診の自己効力感」は,介入前後で有意差が認められ(F 値=34.080, p<0.001,効果量f=0.586),介入前よりも介入後1 カ月,6 カ月,1 年で得点が有意に高かった.また,90%以上の者が,プログラムを満足かつ有用と評価し,内容や方法も適切であると回答した.結論:本プログラムは,対象者の「乳房自己検診の自己効力感」を高め,乳房自己検診,マンモグラフィ検診への動機づけを強化し,定期的乳房自己検診実施率およびマンモグラフィ検診受診率を高める効果があることが示された.
著者
平 典子
出版者
一般社団法人 日本がん看護学会
雑誌
日本がん看護学会誌 (ISSN:09146423)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.40-47, 2007 (Released:2017-02-01)
参考文献数
18

要 旨本研究では,終末期がん患者を看取る家族が活用する折り合い方法を明らかにした.折り合いを「患者の避けられない死に直面した家族が,葛藤を解決するために活用する対処」と定義した.対象者は,緩和ケア病棟あるいは一般病棟で看病する家族19人であった.半構成的面接および参加観察法によってデータ収集し,Krippendorffの内容分析法でデータ分析を行った.結果,家族が活用する折り合い方法として,《納得のための吟味》《受け入れやすさへの転換》《面倒を避ける算段》《負担の分散》《不一致を埋める接近》《あきらめの作業》《添い方を変える》が明らかとなった.これらの方法は,看取りにおける葛藤を解決するために活用されており,状況や自分の行動を受け入れる,面倒や負担から自分を守る,可能な添い方を試みるという機能を発揮すると考えられた.
著者
齊藤 真江 林 克己
出版者
一般社団法人 日本がん看護学会
雑誌
日本がん看護学会誌 (ISSN:09146423)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.14-23, 2015 (Released:2016-11-25)
参考文献数
12

要 旨本研究の目的は,頭頸部の放射線治療で頻度の高い急性有害事象である放射線皮膚炎に対する,保湿クリーム(リモイス®バリア)の効果を明らかにし,看護支援に役立てることである.方法は,2011年1月~ 2013年9月に頭頸部に放射線治療を実施し(気管孔のある患者,および頸部全体が照射野に入らない喉頭がん以外の症例を除く),研究の同意が得られた患者33名を対象とした.封筒法(封筒に入れた複数のカードの中から患者自身が選択する方法)により保湿クリーム使用群と未使用群に分けた.保湿クリームは治療後と眠前に撫でるように塗布することを患者に指導し,照射時に自覚症状と他覚症状を観察した.皮膚障害の程度は,「症状なし」を「0」,「症状あり」を段階的に「1~6」に点数化し,照射ごとに加算した.さらに,保湿クリーム使用群16名と未使用群17名の皮膚障害の程度を比較し,統計的に分析した.その結果,保湿クリーム使用群は自覚症状,他覚症状ともに出現頻度が低く,出現時期が遅かった.また,両群の線量が進むごとに加算した皮膚障害の程度の点数を照射線量ごとに検定を行った結果,60Gy以上で有意差があった.さらに,保湿クリーム使用による皮膚炎の悪化は認めなかったことにより,放射線皮膚炎に対して保湿クリームは有効であることが分かった.保湿クリームは,放射線皮膚炎の進行を抑制する効果があり,皮膚炎による苦痛の軽減につながった.
著者
玉井 なおみ 神里 みどり
出版者
一般社団法人 日本がん看護学会
雑誌
日本がん看護学会誌 (ISSN:09146423)
巻号頁・発行日
vol.29, no.3, pp.40-50, 2015

要 旨 本研究の目的は,乳がん体験者が運動を生活の中に取り入れていくプロセスを明らかにすることである.外来通院中で運動をしていない乳がん体験者24 名に対し,6 カ月間の運動支援と運動の実施状況や運動を継続する認識について,半構成的面接を平均11.4 回実施した.主たる支援は,乳がんの再発や副作用に対する運動の予防効果の情報提供,電話支援1回/週/2 カ月,歩数計の配布,運動日記を用いた振り返りである.さらに,調査開始時に運動を継続している乳がん体験者15 名には,運動の影響要素や運動継続の認識について半構成的面接を行った.面接内容は,逐語録を作成して質的帰納的に分析した.結果,乳がん体験者が運動を生活に取り入れていく意識と行動の変化には,「知識獲得後移行型」「自信獲得後移行型」「非移行型」の3 つの運動行動パターンがあった.まず1 つ目に,乳がんの再発や副作用に対する運動の予防効果の情報提供だけで運動を生活に取り入れ継続するという信念(以下,運動信念)に移行できる「知識獲得後移行型」,2 つ目は徐々に自信を獲得し運動信念に移行できる「自信獲得後移行型」,3 つ目は運動の予防効果を知っても再発の不安などで運動に思考が向かず,運動信念へ移行できない「非移行型」である.運動を継続するには乳がん体験者が生活の中で歩く方法を自ら見出し,運動を継続するという信念をもつことが重要であった.運動支援として,乳がん体験者が生活に取り入れる運動行動パターンに応じた個別的な支援をすることが重要である.
著者
福井 里美 広瀬 寛子 米村 法子 坂元 敦子 新井 敏子 三浦 里織
出版者
一般社団法人 日本がん看護学会
雑誌
日本がん看護学会誌 (ISSN:09146423)
巻号頁・発行日
vol.37, pp.37_60_fukui, 2023-04-05 (Released:2023-04-05)
参考文献数
25

目的:本研究の目的はがん終末期ケアに携わる看護師が経験するやりがい感の実態調査の過程で作成された尺度の信頼性と妥当性を検討することである.方法:先行研究および第1調査の実態調査データから5因子37項目の「がん終末期看護のやりがい感尺度(SMEEN)」を作成し,170施設のがん診療連携拠点病院の看護師1,304名の自記式質問紙調査のデータを用いて検討した.結果:因子分析により【ともに居るケアの意味と役割の実感】【さまざまな人生観に触れる学びと感動】【患者家族と医療チームの一体感】【苦痛軽減へ貢献した実感】【その人をより理解するケアの追求】の5因子構造が同定された.尺度全体のCronbach’s αは0.95であり,各下位領域も 0.80~0.92と十分な内的一貫性が示された.Multitrait Scaling分析の結果,構成概念妥当性が認められ,また終末期看護に携わる看護師の満足度尺度およびPOMS短縮版の活気との正相関が認められた.さらに既知集団では,緩和ケア病棟経験者および緩和ケアチームの経験者の得点が有意に高かった.考察:SMEEN37項目版が十分な信頼性と妥当性を有することが確認された.本尺度の活用により,終末期看護経験における肯定的側面に着目した実態把握や教育支援の評価が可能と考えられた.
著者
佐藤 由紀子 山﨑 智子 内堀 真弓 大木 正隆 本田 彰子
出版者
一般社団法人 日本がん看護学会
雑誌
日本がん看護学会誌 (ISSN:09146423)
巻号頁・発行日
vol.25, no.1, pp.5-13, 2011 (Released:2016-12-27)
参考文献数
20
被引用文献数
3

要 旨本研究の目的は,神経膠腫の外科的治療後に高次脳機能障害を有した患者の生活の再編成の体験構造を明らかにすることである.初発の神経膠腫の手術後,外来通院中で,みずからの経験を語れる計10名の患者を対象に個別面接調査を行った.生活の再編成を構造的にとらえるため,現象学的アプローチの方法論を基に,A Giorgiの記述的現象学的方法を参考にし分析した.分析の結果,16の構成要素が得られ,さらに「高次脳機能障害の受け止めと対応」といった視点で4テーマが明らかとなった.生活の再編成の構造は,〈高次脳機能障害を伴う行為により生じた異和感〉を意識し,〈障害を目の当たりにした感情の揺さぶられ〉をともないながら現状を受け止め,さらに,自分なりの〈障害を持っても生きられる術の探究〉により新たな生活のしかたを見出し,これから先のことを現実的に考えだすことによって〈垣間見える将来〉に至るということであった.神経膠腫の患者は,退院後,特に他者との交流において異和感を感じるが,高次脳機能障害を有したことで,その異和感をすぐに疾患や障害と関連づけて思考することに時間を要し,そのために生活の再編成に難渋するという特徴があった.また,常に再発の不安もいだいており,障害と併せて将来を不確かにしていた.患者が社会の中で孤立せず,主体性ある人生を送るためには,看護師が患者の社会的な人間関係へ一歩踏み込んで人々に理解と支援を働きかける必要がある.
著者
岡田 弘美 富岡 晶子 小濵 京子 山内 栄子 岩瀬 貴美子 丸 光惠
出版者
一般社団法人 日本がん看護学会
雑誌
日本がん看護学会誌 (ISSN:09146423)
巻号頁・発行日
vol.37, pp.37_25_okada, 2023-01-31 (Released:2023-01-31)
参考文献数
22

目的:本研究の目的は看護師が認識するAYA世代のがん患者の困難事例の年齢層別特徴と,困難事例に対する看護の質を向上させるために必要であったことを明らかにすることである.方法:小児がんを含む,がん診療連携拠点病院の看護師で,15〜39歳の患者の治療/継続観察を行っている部署に所属しており,調査時点において部署に所属してから1年以上経過している者を対象に質問紙調査を行った.結果:有効回答1,627名を分析対象とした。看護師が認識する困難事例の困難の内容は,15~19歳では,「予後不良の告知」「患者の意思決定」「教育の継続」,20~24歳では,「治療拒否・脱落」「就労支援」,25〜39歳では,「家族関係・家族の問題」が多かった.考察:本研究結果より,看護師は年齢層ごとに異なる困難をかかえている可能性が示唆された.特にターミナル期には,親の意向が優先される可能性が高く,思春期のがん患者が望むターミナル期を送れないケースがある.親の心理的問題が関連している可能性があり,AYA世代のターミナルケアの前提条件として,親への心理的支援を強化する必要がある.
著者
川村 三希子
出版者
一般社団法人 日本がん看護学会
雑誌
日本がん看護学会誌 (ISSN:09146423)
巻号頁・発行日
vol.19, no.1, pp.13-21, 2005 (Released:2017-02-01)
参考文献数
10
被引用文献数
3

要 旨本研究の目的は,長期生存を続けるがんサバイバーは,どのように生きる意味を見いだしているのか,そのプロセスを明らかにすることである.生きる意味を見いだすことは,スピリチュアルなニーズの一部として位置づけた.研究方法はグラウンデッド・セオリー・アプローチ法を用いた.対象者は,病名を知っているがん患者7名であった.データの収集は,半構成的面接と参加観察を行った.分析の結果,生きる意味を見いだすプロセスは,がんの罹患によって《生きられる時間に対する認識》が変化し,それに沿って《自分の存在価値の模索》が繰り返し行われるプロセスであった.《自分の存在価値の模索》のプロセスには〈存在価値の模索動因の段階〉〈存在価値を試す段階〉〈存在価値を確かめる段階〉という3つの段階があった.さまざまな現実に直面する中で《自分の存在価値の模索》は繰り返し行われていた.がんサバイバーは,がんという病いによって,生きられる時間が不確かになり,自分自身の存在価値も揺さぶられた.その中で,自己の内面に向き合いながら,新たな自分の存在価値を模索し,自分の存在価値を人とのつながりを通して確かめられた時,生きる意味を見いだしていた.がんの生存率が向上し今後ますます生存期間の長期化が予想される.長期間にわたりがんを抱えながら生活するがんサバイバーを継続的に支援していくことの重要性が示唆された.
著者
三浦 美奈子 井上 智子
出版者
一般社団法人 日本がん看護学会
雑誌
日本がん看護学会誌 (ISSN:09146423)
巻号頁・発行日
vol.21, no.2, pp.14-22, 2007 (Released:2017-02-01)
参考文献数
14
被引用文献数
1

要 旨本研究の目的は,食道がんに罹患し3領域リンパ節郭清を伴う食道切除再建術を受けた患者が,手術後の経口摂取開始時から退院後早期までの時期に直面する食の再獲得の困難を明らかにし,その過程を支えるために必要な看護支援について検討することである.胸部食道がんにより右開胸開腹胸部食道切除胸壁前胃管再建術を受け,経口摂取が開始された患者9名を対象とした.面接と参加観察によりデータを収集し,得られたデータを質的帰納的に分析した.分析の結果,食道がん術後患者の食の再獲得の困難を表すカテゴリーとして,【食べるまでに非常な労力を要する】【嚥下・消化・吸収のすべてに苦労する】【不快な症状の予測・対策・対応ができない】【不快な症状により生活に影響が生じる】【食べたいのに食べられない】など,9つが導き出された.そして,食の再獲得の困難の構造は,〔食の構え〕〔不快な症状の出現と予測の困難さ〕〔食がもたらす生活基盤の混乱〕〔食の喜びの喪失〕の4つの部分から構成された.これらのことから,食の再獲得を促すための看護支援として,症状アセスメントに基づいた看護ケア,自分らしい食の構築,新たな楽しみの獲得と人生の創造に向けたかかわりが重要であることが示唆された.
著者
日下 裕子 中村 康香 跡上 富美 吉沢 豊予子
出版者
一般社団法人 日本がん看護学会
雑誌
日本がん看護学会誌 (ISSN:09146423)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.5-13, 2015 (Released:2016-11-25)
参考文献数
22
被引用文献数
1

要 旨目的:続発性リンパ浮腫は,リンパ節郭清を伴う婦人科がん手術によって引き起こされる後遺症であり,これを予防する予防教育が注目されている.本研究は予防教育で,リンパ浮腫の発症を予防するには生涯を通じてセルフケア継続が必要と説明されたとき,どのような思いを抱くのかを明らかにする.方法:婦人科がん手術後に実施するリンパ浮腫予防教室受講後に同意を得られた研究協力者に半構造化面接法を行い,質的帰納的に分析を行った.結果:研究協力者は30歳代から60歳代の女性15名であった.面接内容から,最終的に【終わりのないセルフケアは重荷】【セルフケアと継続性の不確かさ】【セルフケアは必要と自分に言い聞かす】【具体的にやらなきゃいけないセルフケア】という4つのカテゴリを抽出した.考察および結論:【終わりのないセルフケアは重荷】【セルフケアと継続性の不確かさ】の2つのカテゴリは自覚症状がないままに続くケアの重荷という予後の不確かさと確証のないケアと自身の継続性につながる医療の不確かさという認知であった.これらの不確かさの評価が【セルフケアは必要と自分に言い聞かす】【具体的にやらなきゃいけないセルフケア】というこれから行う具体的なセルフケアへと思考を発展させていく思いとなっていた.このことは,医療者がリンパ浮腫未発症者のセルフケアへの思考の喚起と実践につながる支援法の開発を示唆するものである.
著者
長久 栄子
出版者
一般社団法人 日本がん看護学会
雑誌
日本がん看護学会誌 (ISSN:09146423)
巻号頁・発行日
vol.34, pp.34_155_nagahisa, 2020-11-19 (Released:2020-11-19)
参考文献数
27

本研究の目的は,せん妄患者とのコミュニケーションを阻害する要因を明らかにすることにより,看護の力によるせん妄ケアを探求することにある.せん妄患者への応対場面の看護記録を看護師と患者の体験の記述として,記述現象学による分析を行い,その体験の意味を明らかにした.せん妄ケアに難渋した看護師の意識は安全管理責任に媒介され,せん妄症状とその対処に意識が向けられ,その結果,せん妄患者が“もの”として現れていた.せん妄症状に対処しようとすることは,患者その“人”ではなく,症状や言動を管理しようとすることであり,これらがせん妄患者とのコミュニケーションを阻害する要因であった.一方,看護師がせん妄患者の苦しみに意識を向け,その語りを促すというケアを実践することにより患者は落ち着き,その結果,薬を使わずに眠ることができた.せん妄患者の体験は,時間や場所,他者も自己の存在も不明になるという苦しみの体験であり,看護師が患者の苦しみに意識を向け,その語りを促し聴くことが,せん妄状態にある患者にとって安心と落ち着きを取り戻すケアとなった.がん医療の現場において,予測や予防,薬剤投与や身体抑制ではない「看護の力」によるせん妄ケアが示唆された.
著者
横田 美智子 秋元 典子
出版者
一般社団法人 日本がん看護学会
雑誌
日本がん看護学会誌 (ISSN:09146423)
巻号頁・発行日
vol.22, no.1, pp.98-107, 2008

<p><b>要 旨</b></p><p>本研究の目的は在宅で終末期がん患者を介護した家族の体験を明らかにすることである.対象は訪問看護を受けながら終末期がん患者を在宅介護した家族員(遺族)15名(13家族)で,半構造化面接を実施し,面接内容を逐語訳し質的帰納的に分析した.分析の結果,在宅で終末期がん患者を介護した家族の体験は【無力さを感じる】【医療・保険制度に不満と怒りを感じる】【介護者自身の心身の安定を求める】【介護の主体者であることを自負する】【専門職者とのつながりを支えに頑張る】【患者に死期が迫りつつあることを意識し苦悩する】【介護に奮闘する】【患者の状況に気持ちがゆれる】【在宅介護の良さも困難さも実感する】【介護の力を高める】【家族成員間のつながりを再認識する】【新しい家族の姿を模索する】の12に集約された.明らかにされた12の体験には,以下の4つの特徴があることがわかった.すなわち"患者の死の過程に向き合い苦悩しながら生存と安楽を願う","介護を担う重責を感じ学習し介護の力をつけていく","医療職者との密接なつながりと専門職者間の連携を支えとし在宅介護を継続する","在宅介護がもたらす家族関係の変化と新たな家族の課題に対処する".考察を通じて,家族が主体的にがん患者の介護を学ぶ力をもち,家族の新しい課題に対処しようとしていることが示唆された.</p>
著者
石本 万里子
出版者
一般社団法人 日本がん看護学会
雑誌
日本がん看護学会誌 (ISSN:09146423)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.31-43, 2009

<p><b>要 旨</b></p><p>本研究の目的は,病気になる以前から家族としての歴史を持った終末期がん患者と家族が,死別を意識し苦難が多くても在宅で過ごしながら時間と空間を共有する中で,家族として象徴的な意味づけや価値を持った行動を今の状況に調和させて日常的に行うことによって,相互の関係性を深めたりそれぞれのアイデンティティを確立するといった肯定的な感情や認知をもたらすプロセスであるEnrichmentとして明らかにすることにより,終末期の在宅療養を継続していくための新たな看護の示唆を得ることである.</p><p>訪問看護ステーションから紹介され研究参加に同意を得た家族介護者15名を対象に,半構成的面接によって得たデータを質的帰納的に分析した.</p><p>その結果,患者と家族の歴史や関係性を踏まえて行われる出来事(Enriching event)には,[これまでの日常的な交流から生まれる出来事][今までどおりできなくても二人で取り戻す出来事][終末期になって近づいた二人の出来事][一度きりでも大きな意味をもたらす出来事]の4つのカテゴリーが抽出され,これらの出来事には≪二人の日常に幸福感がもどる≫≪感動や喜びを分かちあう≫≪残された二人の時間を創りかえる≫≪互いの安心感を伝えあう≫≪相手が今は元気でいることを実感する≫≪一緒に生きてきたことを互いに認めあえる≫≪相手の人生に想いを馳せる≫≪二人の時間がよみがえる≫≪相手の自尊心や威厳を再認識する≫といった9つの意味づけが含まれていた.そしてこれらの出来事を繰り返し意図的に行うことで,家族介護者は【なじんできた生活を最期まで保つ】という介護の意味づけを見いだしたり,【二人の絆が強まる】【自分の気持ちを整える】【自分の存在意義を見いだす】といった成果がもたらされていることが明らかになった.</p><p>終末期がん患者との苦悩の多い日々を自宅で過ごす中で,家族介護者が短時間でも豊かな気持ちになることや,肯定的な認知が得られて自分の人生を認められるようになることは,予期的悲嘆や患者の死後の悲嘆の過程に向き合う力になると考えられ,日ごろのかかわりから患者と家族がこれまでの生活の中で大切にしてきたことや人生の意味づけを引き出す看護支援が必要であることが示唆された.</p>
著者
水野 道代
出版者
一般社団法人 日本がん看護学会
雑誌
日本がん看護学会誌 (ISSN:09146423)
巻号頁・発行日
vol.17, no.1, pp.15-24, 2003 (Released:2017-02-27)
参考文献数
14

要 旨本研究は,長期療養を続ける造血器がん患者が希望を維持していく際に用いる状況解釈のプロセスとその方法を帰納的に明らかにしたものである.大学病院に入院中の造血器がん患者7名に,3ヵ月間で延べ41回の面接調査を行い,その逐語録の内容をエスノグラフィーの手法を用いて分析した.造血器がん患者が長期にわたる療養生活のなかで希望を維持していくプロセスには,1)先のことが考えられない段階,2)退院後の生活を望む段階,3)現在の状態に慣れる段階,4)ただ良くなりたい段階という4つの段階があった.各段階は,時間の経過というよりも,患者が①具体的目標や②死や③治癒の可能性をどのようにとらえているか,あるいは,患者の④病気と付き合っていく方法がどのような状況にあるかによって,その特徴を示すことができた.つまり各段階にはその段階に応じた状況解釈の特徴があり,彼らの希望はその解釈の方法に大きな影響を受けていた.そして“治療を終えないとどうにもならない”という気付きが各段階から段階への移行を左右した.また,彼らは長期療養生活を続ける過程で,病気と付き合っていく方法を身につけていた.具体的な目標をあえて持とうとせず,死を身近に感じながらも,医療の可能性を深く信じていたのもその一つであった.このような患者の態度を看護師が支持することも,彼らが身に付けた対処能力を侵さないようにするためには必要であることが本研究結果から示唆された.
著者
黒澤 やよい 田邉 美佐子 神田 清子
出版者
一般社団法人 日本がん看護学会
雑誌
日本がん看護学会誌 (ISSN:09146423)
巻号頁・発行日
vol.24, no.1, pp.3-12, 2010 (Released:2017-01-13)
参考文献数
21
被引用文献数
2

要 旨本研究の目的は,子宮全摘出術を受けたがん患者が術後,いかに性的自己価値の認識を行い配偶者との関係を再構築してきたのか,辿ってきた心理的プロセスを明らかにし看護支援の検討を行うことである.半構成的面接法により対象者9名からデータ収集を行い,修正版グランデッド・セオリー・アプローチ(M-GTA)を参考に質的帰納的分析を行った.子宮全摘出術を受けたがん患者は,【性的関係性の構築体験】と【配偶者との親密性の強化体験】を関連させ,配偶者との関係性を再構築している.【性的関係性の構築体験】においては〔性的自己価値観の動揺〕と〔性的自己価値喪失感の克服〕を体験している.動揺体験では,<性的自己価値の喪失感>,<性的変化の現状認識>,<性交による創部刺激への不安>,<性の情報取得へのためらい>,<配偶者の性的欲求の尊重>,<性交許可で自覚するジレンマ>を生じている.克服体験では,自己価値を再認識する過程において,性生活の実施を巡り3通りの体験があった.1つ目は,性交を避けては通れない大切なことと捉え<性交時の苦痛軽減への努力>を行い<性的自己価値の再認識>を持つ経験,2つ目は,性交があってもなくても関係は変わらないと<性的価値にとらわれない自己価値の再認識>を持つ体験,3つ目は性交を持つ気になれず<性生活回避への自責>から,<性生活を持たないことへの苦渋の意味づけ>を行い,<性的価値にとらわれない自己価値の再認識>に至る体験である.【配偶者との親密性の強化体験】においては,〔配偶者の理解と支え〕を受けると同時に,自身も〔配偶者への気遣い〕を行い,連帯感を深めている.看護支援においては,子宮摘出術を受けるがん患者が術後に経験する心理的背景を理解し,配偶者との関係が円滑に再構築できるようシステムを整え,情報の提供と心理的支援を行う重要性が示唆された.
著者
新貝 夫弥子 横内 光子 国府 浩子
出版者
一般社団法人 日本がん看護学会
雑誌
日本がん看護学会誌 (ISSN:09146423)
巻号頁・発行日
vol.22, no.1, pp.43-54, 2008 (Released:2017-01-19)
参考文献数
12

要 旨本研究は,乳がんの術前化学療法を受ける患者の栄養状態の変化を明らかにすることを目的とした.2004~2007年に初回術前化学療法を受けた乳がん患者50名を対象とし,診療記録の栄養指標となるデータについて統計的に分析した.全対象者の平均年齢は48.7(SD±9.0)歳で,DOC療法―FEC療法の順に治療を受けたレジメンⅠ群が31名(62%),FEC療法―DOC療法の順に治療を受けたレジメンⅡ群は19名(38%)であった.分析の結果,対象者全体で化学療法後のBMIは有意に増加していた.2元配置の分散分析では,体重,血清アルブミン,血清総蛋白では交互作用が認められ,レジメンによってこれらの変化のパターンが異なることが示された.レジメンⅠ,Ⅱ群いずれも前半化学療法後に,血清総蛋白と血清アルブミン値の有意な低下が認められたが,レジメンⅠ群では後半化学療法後にいずれも有意な増加があり,改善傾向がみられた.レジメンⅡ群では,後半化学療法後にも血清アルブミンと血清総蛋白の有意な低下と体重の有意な増加が認められており,浮腫や体液貯留による体重増加の可能性が考えられた.血清総コレステロールは,化学療法前後で両群とも有意な上昇が認められた.以上から,従来の症状と食事量の減少に対する指導のみならず,過剰な食事摂取の予防や,浮腫の助長を予防する食事や生活の注意を含めた指導の必要性が示唆された.