- 著者
-
佐藤 雪菜
高木 幸子
- 出版者
- 日本家庭科教育学会
- 雑誌
- 日本家庭科教育学会大会・例会・セミナー研究発表要旨集
- 巻号頁・発行日
- vol.58, 2015
<b>〔目的〕</b> <br> 小学校家庭科における製作学習では、製作経験が少ない児童に対して限られた時間の中で指導することが求められており、結果として作品を完成させることに重きが置かれやすい現状がある。筆者は、2013年度に児童が考えながら取り組むことを目的とする製作学習を行ったが、活動の質を高めるためには、児童一人一人の進め方などの違いに対応できる学習環境を整えることの必要性が課題となった。そこで、本報告では、製作活動の進め方や進度、支援教材の活用の仕方に、児童の製作活動への取り組みの傾向(学習スタイル)や教材提示のタイミングがどのように影響しているのかを検討することを目的とする。 <br> <b>〔方法〕<br></b> 2014年11月~12月に新潟市内の小学校第6学年2学級(A組:男子17名 女子18名、B組:男子18名 女子18名)を対象に題材名「作ろう!オリジナル袋」とした授業実践を行った(A組8時間,B組6時間)。実践前には(1)児童の特性を捉えるためのアンケートを行い、結果を因子分析法によって分析し学習スタイルを整理した。実践後に(2)製作進度や進め方・支援教材の活用の仕方等の観点について、学習スタイル別の特徴をワークシートや製作物・事後アンケート等を用いて検討した。また、教師の働きかけとして(3)支援教材(動画・作り方ブック)の提示方法の違いによる児童への影響を、2学級の比較を通して考察した。 <br> <b>〔結果〕</b> <br>(1)事前アンケートは、滝聞・坂本ら(1991)が作成した認知的熟慮性‐衝動性尺度の項目<sup>1)</sup>、学習スタイルに着目した製作学習の開発を行った中沢ら(2010)の調査票<sup>2)</sup>などを参考に構成した。因子分析法を用いて分析し、児童の学習スタイルを〔熟慮/衝動型〕,〔能動/受動型〕として整理した。<br> (2)〔熟慮/衝動型〕の視点から比較して違いが確認されたのは、製作の進め方であった。衝動型の児童は製作初期から一定の速さで製作を進めていたのに対し、熟慮型の児童は製作初期よりも後半に製作の速さが高まる傾向が見られた。また、作品完成までの時間を比べると、能動型の児童の方が受動型の児童よりも早く製作を終えていた。これら2つの学習スタイルを組み合わせて考えると、熟慮かつ能動型に含まれる児童が早く製作を終え、熟慮かつ受動型に含まれる児童が完成までに時間がかかっていることがわかった。児童が使用した支援教材の種類を比較すると、使い方では〔熟慮/衝動型〕において違いが確認された。衝動型よりも熟慮型の児童の方が、動画を利用して製作を行っていることが伺えた。また、全過程を通して支援教材を用いず友達や先生に聞いて進めていたのは、衝動かつ能動型の児童にのみ見られた。支援教材の分かりやすさについては、学習スタイル別による有意差は見られなかった。 <br>(3)支援教材の提示方法に関して、毎時間の製作開始前に作り方ブックと動画を提示した学級の児童の方が、他の学級の児童よりも作り方ブックを分かりやすいと感じていた。 <br> 以上、学習スタイルの違いを捉えることで、製作学習の進め方や進度に影響していることが確認できた。多様な児童の製作活動を充実させ一人一人の学習を保障するためには、これらの違いを参考にした学習支援環境づくりを行うことができるのではないかと考える。今後、学習支援環境を構成し、その効果を確かめることが課題である。 <br>1)瀧聞一・坂本章,(1991),「認知的熟慮性-衝動性尺度の作成―信頼性と妥当性の検討―」,日本グループダイナミックス学会第39回大会発表論文集,39-40 2)中沢公美他,(2011),「小学校家庭科における製作学習の開発と実践-学習スタイルに着目したマスク製作-」,教材学研究(22),137-144