- 著者
-
富田 純一
- 出版者
- オペレーションズ・マネジメント&ストラテジー学会
- 雑誌
- オペレーションズ・マネジメント&ストラテジー学会論文誌 (ISSN:18846939)
- 巻号頁・発行日
- vol.3, no.1, pp.91-107, 2012
本稿の目的は,トライアドの情報処理モデルを用いて,生産財開発における提案のあり方を検討することにある.トライアドの情報処理モデルとは,生産財メーカーと消費財メーカーだけでなく消費者を含めた三者間の関係を想定し,設計情報の流れを図式化したものである.生産財開発の場合,顧客である消費財メーカーが専門知識を有し,必要とする生産財のコンセプトやスペックを提示できるケースが多いので,顧客の指示に従えばよいと考えがちである.しかし,時折消費財メーカーが消費者ニーズの翻訳を誤ることがある.この場合,生産財メーカーはどのようなタイミングでどんな内容の提案を行っているのだろうか.本稿では,事例分析に基づいてその提案プロセスを明らかにするとともに,「ダイナミックな評価能力」の重要性を指摘する.この能力は,「生産財メーカーが,製品開発の過程で自社製品が組み込まれる顧客製品の機能要件を,エンドユーザー (消費者)のニーズの視点から評価することで獲得しうる知識・能力であり,再評価の結果,業務範囲の拡大・縮小を柔軟に遂行しうる知識・能力」である.生産財メーカーが提案をより効果的に進めるためには,この能力の蓄積・活用が重要であると考えられる.